表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

9件目 このよろず屋に様々な秋がやってきた件 10/11


 仁と翔がキャッチボールをしている頃、瞳は真依と朱莉沙と共に話を弾ませていた。

 各々が椅子に座りながら、お互いの事を話し合う。


「――ってことがあって、仲良くなれたんですよ~」

「協働作業で……何か良いですね」

「そうなんです!優しくてユーモアもあって…うえちゃん先輩は本当に素敵な先輩なんですよ~」

「ちょっ照れるやん…そんなことないて」


 真依は照れるような仕草をしながら、朱莉沙の方へ笑顔を向けた。


 仲の良い姉妹のような先輩後輩関係。

 それを隣で眺めていた瞳は、若干の羨ましさを感じてしまう。


「そんなことありますよぉ。だって私、学生時代から知り合いたかったなぁって思ってたんですから」

「ほんまぁ?でもウチ、高校の時は結構堅物やったんよ?」

「えっ!?そうなんですか?初めて知りました」


 三人の会話は、仕事の話題から学生の頃の話題へと切り替わっていった。

 真依の学生時代に興味津々な様子を見せる朱莉沙の傍ら、瞳もその話題に耳を傾けようとする。


「上賀さんを見ていると…私にはちょっと想像できませんけど…」

「本当にそうだよね~。うえちゃん先輩の学生時代ってどんな感じだったんですか~?」

「う~ん…どうやったかなぁ……ウチの高校生の頃は…………」


 真依は少しだけ顔を上げ、遠くの空を眺めた。

 そして自分自身の学生時代―――在りし日々の情景を思い起こしていく。


 模範的な良い生徒になろうと、勉学やスポーツに励み、所作や礼節に気を付けていたあの頃。

 自分の”正義”と”信念”を抱きながら、勇往邁進(ゆうおうまいしん)していたあの頃。

 そして窮屈さを感じながらも、良い子の仮面を被り続けていたあの頃を。


「…ただ単純にいい子ちゃんしてたかなぁ。勉強頑張って…スポーツ頑張って…ほんで………ん?」


 普段通りの表情で話していた真依の表情が、僅かに歪んだ。

 頭の中で思い浮かべていた情景に、仁と翔が登場してきた為だ。

 当時の自分とは正反対の二人。

 そんな二人に世話を焼き続けた記憶の数々が、次々と呼び起こされていってしまう。


 2時間目の授業中に早弁をする仁。

 女子のスカートをスライディングで覗こうとする翔。

 掃除の時間に箒で打ち合いを始める仁と翔。


 風紀委員としての責務から注意する自分。

 注意中に終始しかめっ面を見せてくる二人。

 そして最終的に自分を挑発し、逃亡を図る仁と翔の姿が思い起こされた。


 徐々に良い子の仮面が剥がれ落ちていったあの時。

 やがてカチンときて二人を追いかけまわし―――最後は一緒になって先生に怒られた…という事もあった。


「…仁と翔の世話ばっか焼いてた気がするぅ…」

「そ、その頃から仲が良かったんですね…」

「どぉなんやろぉ…」

「えっとぉ…良い思い出では…?」

「あの頃が一番…あかん気がしてきたわぁ…」


 目を細め、渋い顔で遠くを見つめ続ける真依。

 その姿に朱莉沙と瞳は苦笑いを浮かべていた。


「あはは…それも運命の巡り合わせなんですかね?」

「それなぁ…。多分キッカケは高1の終わりに…仁がウチを助けてくれたからやわぁ…」

「えっ!?助けてくれた…ですか?」

「うん。ウチ態度の悪い男女数人に囲まれたことがあってな?その時、守ってくれたんよ」


 真依は瞳の問いかけに答えた後、少しだけその時の事を思い返した。


 少し肌寒い日。人気のない校内の一画。

 リーダー格の男に校舎の壁へ押し付けられ、脅されていた時の光景が脳裏に浮かぶ。


 当時の自分の思考では、”正しい事をしている筈なのに何故?”という疑問があった。

 理不尽な力の前に悔しさを噛み締め、少しずつ涙が溢れていった。


 諦めに似た気持ちを抱いていたその時―――仁が近くを通りがかった。


「ほんで…何故かウチを助けた後は何食わぬ顔で歩いて行きよった」

「仁…そんな事もあったんだ…」


 真依の話を聞く瞳は、少しだけ嬉しさを感じていた。

 同じ様な事が過去にあった……その時の事を同時に思い出したからだ。


「因みに後日、ちゃんとお礼する為に別クラスへ会いに行ったんよ。助けてくれた時何も言えんかったしなぁ。それと、ついでに助けてくれた理由も聞いてみた。……何で助けてくれたか気になるやろ?」

「あっ!確かにそうですよね~」


「そしたらな?”いじめは良くないからだろ?”って真顔で言ったんよ…。その時、この人凄いわぁって思ったわ」

「それは凄いです…。但野さんって素敵な方だったんですね~」


「しかも、男の子を3人殴り倒したから数日間謹慎処分されとったのに…全然動じとらんかったんよ」

「ええ゛ぇ!?それも凄い……でもちょっと可哀想ですね…」


「そうなんよ…。先生にどんだけ話しても”殴った方が悪い”の一点張りやったもん…過程を考えたらウチが悪いのに…」

「うえちゃん先輩の行動も…私は正しいと思いますけどね…」


 少しだけ暗い声になった真依に対し、朱莉沙はフォローを入れていった。

 だがその言葉を聞いた真依は、首を横に振って応えるのだった。


「そんでも空気読めんかったウチも悪い。だから罪滅ぼしやないけど…クラスが一緒になった2年生の時に仁をちょっと意識してたんよ。…どんな人何やろって気になったしな?」

「でもその話からすると良い人だったんですよね?」


「そう思うやろ?でも観察していくとな?早弁するわ、授業は寝るわ、チャンバラするわ……」

「あ…それは……」


「良くない事ばっかやっとるやん!…って、心の中でツッコんだわ」

「確かに良くないですね…」


「だからウチは不良のレッテルを貼ったった。でもだからこそ、ウチが更生させたるって思ってたんよ……けど……」

「?…けど…?」


「いつの間にか一緒にワイワイするようになっとった!」

「何かちょっとドラマチックな感じですね~」


「えっどこが?色々大変やっただけやよ」


 真依の口調は呆れたような言い方だった。

 だがその表情には笑顔が見え隠れし、とても楽しそうに語るのだった。


「今考えると自分の”正しい”を周りに押し付けてただけなんやけどね。これが”堅物やった”ってこと」

「でもそれはやっぱり……うえちゃん先輩の行動が正しいと思いますよ?」

「ありがとな…でも、ウチの考えと他の人の考えはそれぞれ違う。…当たり前の事なんやけどね?」


 少しだけ火照った両方の頬。

 若干照れた表情を見せながら、真依は昔話を締めていく。


 当時の自分が見えていなかったもの―――それを今は見ることができている。

 昔よりも視野は広がった…だけど決して慢心はしないと真依は心に誓っている。

 それがあの時からの数年間で、学んできたことの一つだからである。



 今回話した内容は真依にとって少し恥ずかしい話だ。普段ならここまで話すことはまずありえない。

 だが"今回は"あえて口にする事で、若き日にあった"大切な心の持ちよう"を少しばかり取り戻そうとしたのであった。


 ……ただ一つ誤算があるとすれば、ほろ酔い気分で感傷に浸り、饒舌になってしまった事だろう。


「それにしても、あの時の仁は”もう俺は勝組だから”って感じやったね。……結果はお察しやったけど」

「それが”やりたい放題”と”精神的余裕”を生んでいたのでしょうかね?」

「そうかもしれんなぁ。でも…そんな自由で正直な仁に憧れとった。勿論、翔も…あれで結構いいとこあるの知っとるし…今は皆”大切な仲間”なんよねぇ…」


 真依は酔った表情ながらも、真っ直ぐな()で空を眺めた。

 朱莉沙と瞳は真依の言葉を聞き、その言葉が嘘偽りのない思い(もの)であることを感じ取っていく。


「あっ…これ本人には言ったらあかんよ?何か恥ずかしぃし」

「うえちゃん先輩って、但野さん達の事が好きなんですね」

「うん好きやよ。仁も翔も」

「なら、どっちかには……」

「朱莉沙…ストップ」


 朱莉沙が口にしようとした言葉に、真依は言葉と人差し指で待ったをかけた。

 その様子に朱莉沙は目を丸くし…やがてゆっくりと口を閉じていく。


 そして一瞬の静寂の後、真依は口を再度開き、自分の中の思いを口にする。


「ウチにとってはそんな関係なくてもな?変わらないこの関係が好きで、変わらない二人が好きで……今が1番好きなんよ」


 そこには自然な笑みが浮かんでいた。


 屈託のない真依の微笑み。

 それを見た瞳は、ふと心に思うことがあった。


 仁と茜……二人と今後もどのような関係でありたいのかということだ。

 今の繋がりが"仕事上"だけでしかないかもしれないからだ。


 とりあえず茜は"友達"と言ってくれたことを覚えている―――だから少しだけ安心している。

 じゃあ仁は?どうなのだろう?仕事上の繋がりだけしかないかもしれない。


 ……瞳は次第にそう考えてしまう。


「…私は…どうしたいんだろう…」


 煩慮(はんりょ)する心の声が微かに零れた。

 そしてその声は誰の耳にも届くことなく、涼やかな風の中に消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ