9件目 このよろず屋に様々な秋がやってきた件 8/11
「はい、どーぞ。食べてくださいね~」
猪江さんがテーブルの方へと歩いてきた。
手に持っていた皿がテーブルに置かれる。
軽く炙られたお肉様が盛られている一皿だ。
それは例えるなら光り輝く宝石の山……サイドに添えられた野菜達も何だか輝いて見えてくる。
俺と翔は急遽お肉の下ごしらえを済ませ、その皿の方へと寄っていく。
そして自分の箸を持ち、お肉様を優しくはさんだ。
滴る肉汁と立ち昇る香り。
俺はその光景と香りに魅了されたまま、”一口サイズの宝石”を口に近づける。
そしてこの滅多に起こりえない出会いに感謝し、ゆっくりとお口の中へと迎え入れた。
「うッ!?…う゛ん゛め゛ぇぇッ!!!」
「んな゛…何やこれぇ!!ホンマに同じ食べ物なんかッ!?」
「これぇ…ほんま凄いわぁ…。お口の中でとろけてくぅ…」
口に含んだ瞬間、俺は反射的に感動を言葉で表現した。
翔は震えながら挙動不審な行動を見せ、真依は表情を蕩けさせている。
三者三様の表現で、この熟成肉のおいしさをアピールした。
「凄く美味しい…。こんなに美味しいお肉久しぶり」
「植野さんも満足した?よかった…喜んでもらえて」
ミディアムに焼かれた熟成肉が皿の上からどんどん消えていく。
各々が3口程食べる―――すると皿の上は空っぽになった。
「はぁ…もうなくなってしまったなぁ……」
「せやな…儚い夢のようやったで…」
「バーベキュー…楽しかったな…」
「せやな……ってちゃうやろ!まだまだこれからや!!」
心が既に満足してしまった為だろう。
紅葉をぼんやりと眺めながら語った俺の言葉に対し、翔が全力で突っ込んできた。
俺はそのツッコミで我に返る。
頭の中で流れていたエンドロールが中断された。
「ハッ!?そ、そうだった!!下処理した肉も俺の持ってきた肉も残ってる!!」
「せやで!ここからは例年通りのバーベキューやけどな」
「なぁ、次はあんたらだけで焼いとってな。ウチらはさっき焼いた野菜を摘まんでお話ししとるから」
「あぁ了解だ。任せとけ」
焼き担当を交替し、今度は俺と翔がお肉等を焼き始める。
そしてその間、女性陣はテーブルで談笑を開始した。
真依の明るさや猪江さんの人柄の良さも手伝ってか、お嬢の表情に笑顔が見えてくる。
大分この雰囲気に慣れてきたようだ。
テーブルでの会話……それがだんだん姦しいものになっていくのが聞こえる。
「あっちは何だか盛り上がってるな。楽しそうだ」
「何や?盛り上がりたいんか?ワイがとっておきのエロトークでもしたろか?」
「今はいらねぇよ…っと。その肉……下ごしらえの効果はありそうか?」
「ん~多分やけどな。かなりマシにはなっとると思うで」
自分達の用意したステーキ肉。
先程の熟成肉と比べるとレベルが数段落ちる代物だ。
だがそれでも肉は肉……焼くとだんだん良い香りが漂ってきた。
俺と翔の手間暇もあってか、良い感じの仕上がりになりそうだ。
「もう良さそうやな」
「なら全部盛り付けて持ってくぞ」
俺は大きな皿を一つ手に取った。
皿に焼きそばを敷き詰め、その上に肉を高く盛る。
そして空いたスペースにはパプリカや玉ねぎを添えた。
周りに彩り野菜を添えることで、見栄えにも拘った一皿が完成した。
「お待たせしました…お嬢様方。本日のメインをお持ち致しました」
俺は盛り付けが終わった皿を優雅にテーブルの方へと持っていく。
そしてお嬢達の楽しそうな会話の輪に、冗談を言いながら割って入っていった。
「ぷふっ…何カッコつけて現れとるん?変な顔で笑わさんといてッ」
「…顔は関係ねぇだろ。ほらコレ…焼けたぞ」
真依には俺の紳士的な顔を笑われてしまった。
だが、渾身の一皿をテーブルに出すと、注目はそちらに集まっていった。
「えっすご!普通に美味しそうやん。盛り付けもセンスあるなぁ」
「なんだよ…嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
真依に褒められてご満悦となった俺は、お嬢達の小皿へとお肉を取り分けていった。
取り分けが一旦終わったら、俺も盛られた肉を自分の皿に移し立ち食いしていく。
俺の腹は猪江さんが持ってきたお肉様だけでは当然満たされていない。
なのでこの場でエネルギーチャージ。焼き担当は暫く翔におまかせだ。
「でも…やはり比べるとこう……なんか肉に刺激が足りないな」
「味が薄かったん?何かかけるぅ?」
「そうだな……辛めのタレって持ってきてないか?」
「あ~…確かあったとおもう~。それウチがかけたげよか?」
「なら頼むわ。かけといてくれ」
俺は真依にお肉の入った皿を手渡した。
真依はその皿を受け取ると、調味料入れから一つの瓶を手に取った。
その瓶のキャップを開栓し、俺の皿に入れようとする。
「仁は辛いもん好きやもんな。だからか知らんけど、翔が仁の為にコレを仕入れてきたらしいんよ」
「あいつがわざわざ?今かけようとしているやつをか?」
「うん、そうやよ。ラベルはもう剥がされとるけど、確かコレ"ブラックデス焼肉のたれ"って書いてあった」
「――ちょッ!!」
そのタレ!俺知ってんだけど!!
―――ブラックデス焼肉のたれ。
それは唐辛子の中でもエリートクラスに辛い種類のものを使って作られる狂気の焼肉ダレ。
辛党が唸るレベルの辛みを濃縮し、甘辛いタレと融合したものである。
色合いは若干赤めの黒……他のタレとあまり変わらない。
匂いは甘辛い刺激臭……でも鼻を近づけないと分からない。
だがそれを食べたらどうなるか……それは想像に難くない。
「おいちょっと待て!」
――シュッ
俺は反射的に手を伸ばし、タレを入れる行為を止めようとした。
「やぁん!?ちょっとぉッ」
――どぽぉぁ…
だが手と手がぶつかり、大量のタレが俺の皿に放たれた。
お肉の漬けが完成した。
「あぁっ!もぉ…なんで手ぇだしたん?ちょっとだけかけるつもりやったのに……」
反射的な介入に驚いた真依。
顔を若干しかめ、俺の方に視線をぶつけてくる。
「いや…つい反射的に手が…わりぃ…」
「まぁええよ。それよりも…ちょっと辛そうな感じになってしもたけど……はい、仁のお肉」
「…お、おう…」
俺の皿に波打つ赤黒いタレ。
ぱっと見は分からないが、辛いタレという領域を超えている液体だ。
俺は指に少しタレをつけ、舐めてみる。
すると口の中が悲鳴を上げてきた。……まともに食べたら口内大炎上クラスだ。
こんなものを全部食うとか正気の沙汰じゃない。
正直どうにかして自然に還したい。
だが食べ物を粗末にすることには罪悪感がある。
この問題……一体どうしたらいい……。
俺はぼんやりと何かを考えながら、何となくコンロの方へと歩き出した。
網の上で野菜、肉、焼きそばなどを焼いている翔。
俺は翔の肩をポンポンと軽く叩き、笑顔で労いの言葉をかけた。
「焼き担当お疲れさん。…ほら翔。肉にタレをつけといたぞ」
「お、気がきくやんけ。丁度タレがなくて困っとった所や」
「そうか、それは丁度良かった。この肉も美味しかったぞ」
「ほーん。ほな、早速頂くわー」
俺は顔色一つ変えず、翔にお皿を手渡した。
お腹の減った翔は追加の肉を焼きながら、タレの付いたお肉を頬張っていく。
さらば翔……お前のタレだ……。お前の胃袋に還しておこう。
俺は踵を返し、翔に背中を向けて歩き出した。
背中から聞こえる絶叫。唸り声のような何かが聞こえてくる。
激辛お肉処理問題―――解決。
そして翔は、暫く水を飲み続けていた。
◇◇
それからも楽しいバーベキューが続いていく。
焼き担当不在の網の上。お肉や野菜、焼きそばなどが食べごろになった。
俺は焼けた食材達をお皿に盛りつけ、お嬢達の座るテーブルまで運んだ。
そして一緒に雑談をしながら食べていると、お腹がそこそこ満たされはじめた事を感じてきた。
「皆、お腹はどうだ?まだ空いてるか?もし空いてるなら追加で焼くが…」
「そうやねぇ…まだいけるけど、お腹はええ感じやよ」
「あっ私もです。十分食べられましたー」
「私も。また皆が食べる時でいいわね」
どうやら3人とも空腹が大分落ち着いてきたようだ。
これ以上焼いても食べない可能性も出てきた為、一旦食材の追加はストップすることにした。
俺の腹はまだ5分目だ。なのでまだまだ食べられる。
だが今はゆっくりと食べていくことにしようと思っている。その方が長くこの空気を楽しめるからだ。
「そうか。なら今の余ってる分はとりあえず皿に―――」
「仁ワレェ!さっきは何しよるんや!」
翔が水飲み場から戻ってきた。
どうやら口の中が回復したようだ。
「お、翔か。お前が俺に"オススメしたいタレ"ってやつは…大層美味かったようだな?」
「ぬ!?ぬぐぐ…何故それを知っとるんや」
「さてな?まぁ今はそれよりも…この余っている分を俺達で食べておかないか?」
俺は一枚の皿を手に取って翔に見せる。
中には野菜やお肉、焼きそばの残りを全て入れたものだ。
「ワイは水で腹一杯なんやけど。仁のせいでな?」
「自業自得だろ。隙を見て俺に使おうとしてたくせに」
「…ッ…いやいやちゃうで?罰ゲーム用で持ってきただけや」
「相変わらず胡散臭い顔だな。それホントかよ?」
翔はとても胡散臭い笑顔で俺に取り繕ってきた。
俺の油断を誘い、激辛ダレ混入事件を起こそうとした犯人の顏だ。
だがしかし…前例としてロシアンルーレット系の遊びで辛い物を食わされたことがある。
なのでその言葉を”完全に嘘である”とは断定できなかった。
「ほ、ほんまや!対決方法もさっき考えてたんや!」
翔はそう言うと自分の荷物入れの中を漁り出す。
そして中から何かを取り出すと俺の方へと向き直った。
翔の手に持っていたモノ―――それは2つの万歩計だった。
「それで一体何をするつもりだ?」
「これを腰につけたまま30秒動きまくる。ほんで数値が高い方が勝ち…でどや!」
「今回は地味な勝負を持って来たな…」
「バラエティー豊かでええやろ?社会人たるもの…色んな余興スキルが必要やからな」
翔は笑いながら準備を始めていった。
俺に万歩計を一つ渡した後、自分の腰にそれをつける。
相変わらず色々な事を思いつく翔。
ある意味才能なのではないかと思うことがある。
でも、その余興スキルとやらは…一体何なのだろうか?社会のどこで必要とされるものなのかは全く分からない。
「仁が勝ったらその余りをワイが全部食べたる」
「それはいいが……もし俺が負けたらどうなるんだ?」
「仁が全部食べるんやで。ほんで勿論…激辛や!」
翔はそう言い切ると、余り物の入った皿に激辛ダレをかけていった。
野菜やお肉の間を激辛ダレが少しずつ浸透していく。
「もう後には引けんで?…さぁ…勝負や仁!」
「あまり乗り気じゃないが……一回だけなら付き合ってやろう」
「ツンデレ発言乙やな。安心せぇ…この一回で勝負はつく!」
お互いに準備ができたタイミングで、翔がお嬢達の誰かに声をかけた。
するとお嬢が翔の言葉に反応し、手持ちのスマートな携帯をタイマー代わりにセットした。
「お嬢がタイマー係か」
「頼んだで瞳ちゃん」
「あっはい。……準備できました」
勝負の時間―――僅か30秒。
俺は翔と対面で向かい合う。
真依は頬杖をつきながら気楽に観戦。
猪江さんは多少ソワソワしているが、楽しそうな表情を見せていた。
「よーい………どん!」
「ウ゛ォルゥアァァァッッ!!!」
「セェイ゛ィヤァァァッッ!!!」
―――ドドドドドドドドッ
「「オ゛ォオォォッッ!!!」」
お嬢の発したスタートの合図と共に、俺は全力で地面を足蹴した。
今までしたことがない程の…過去最高の高速足踏み。
体調は万全。腹の具合も悪くない。本日のパフォーマンスは好調そのものだ。
しかし…対面の翔を見てみると、そちらもかなりのスピードで足踏みをしていた。
俺と同程度…もしくはそれ以上のスピードで地面が踏み固められていく。
翔の身体能力が高いこと…それは昔から知っている。
なので俺に油断は一切ない……いや、してはならない事が分かっている。だが―――
八の字の眉毛と見開いた目。
"お"と発音するような口の形。
翔が見せる必死の形相に………正直、吹き出しそうになる。
しかし…ここで笑ったら負けるかもしれん。
もし負けたら口の中が大惨事……だから耐えろ!…笑いを…堪えろ!
「ストップ!!」
―――ピタッ
お嬢の声に反応し、俺と翔は同時に止まった。
お互いに静止したまま息を整えていき、不敵な笑みで笑い合った。
その間に、お嬢と真依が俺と翔の万歩計を確認していき、お互いに数を教えあった。……どうやら結果が出たようだ。
「勝負の結果は……同カウントで引き分けでした」
「は?…同カウントだと…?」
「んな゛ッ…そんなことあるんかい!」
高パフォーマンスを見せた俺の足踏み。
心の中では多分勝った…と思っていた。
だが、終わってみるとまさかの同カウント。
しかもあと一歩……本当にあと一歩で勝ち負けが分かれる所だったとは…。
「…やるじゃねぇか翔……少し焦ったぜ…」
「それはワイも一緒や。…仁も…中々やるやないか…」
―――ガシッ
俺は翔と手を握り合った。
お互いの健闘を讃え合い、友情の固い握手を交わしていく。
心の中では、映画さながらのクライマックスワンシーン。
もうすぐここにいる全俺が、感動のスタンディングオベーションを始めるだろう。
しかし、この結末により、1つの課題が残ってしまった。
誰が激辛の一皿を食べるかって課題だ。
「さてと、勝負は一回だけって約束だったからな。…俺はこれで逃げるからな」
「ッ!?な、なんやて!?」
健闘を讃えあったからといって激辛食材を手伝う気にはならない。それとこれとは話は別…ここでドロップアウトするとしよう。
これ以上、リターンの無いリスクを取るのは頂けない。リスクヘッジは重要だからな。
「ほ…他に誰か…食べたいやつおらんのか?」
翔が皿を指さして辺りを見回し始めた。
だがそこには、首を縦に振るものは存在しなかった。
「それは翔が食べればええやん。自分で辛くしたんやし。食べ物を粗末にしたらあかんよ?」
「ワイに全部食わせる気なんか!?せやったら真依も何かワイと勝負せぇ!」
「何でぇ?嫌やわぁ」
「ほぉーん。ワイはちょっと前に”誰かさん”のせいでガッツリ辛いもん食わされたんやけどなぁ?勝手に開けられたタレで食わされたんやけどなぁ?のぉ?罪悪感とかないんかのぉ?のぉ?」
翔が眉毛を八の字にしながら真依の方に詰め寄っていった。
半分は俺のせいでもあるが、真依の小さな失態を盾に完全に煽りにいっている。
「…そこまでいいはるなら……さっきの勝負で相手したるわぁ!」
「よっしゃ!ええでぇ!えらい乗り気になったやないか!」
「多分余裕で勝てそうやし。はよ勝って黙らせたる」
「ほぉー。ええ度胸やないか。言っとくがワイはな?まだまだ全然疲れとらへんで?」
「そんな情報不要やわ。ウチに負けたら文句垂れずに食べるんやよ?」
翔と真依の間で火花が散った。
激辛の一皿をお互いが食べさせようとしている。
そして視線をぶつけたまま、各々が勝負位置につく。
お嬢も先程と同様、タイマーをセットし終えたようだ。
「うえちゃん先輩…大丈夫ですか?」
「多分負けへんよ。安心して見とってな」
「その涼しげな表情……いつまで保つか見ものやな。プククっ!」
「笑っとる余裕あるん?アンタに激辛食わせたるから……覚悟しぃや?」
「それでは…よーい……どん!」
お嬢の掛け声と共に、翔と真依の真剣勝負が始まった。
「覚悟するのはそっちやでぇぇ!!」
―――ドドドドドドドッ
やはり翔のやつ!とんでもねぇ足踏みしてやがる!!
流石にこれは真依もヤバいんじゃ……って…えッ!?まさか!?ま、まじかよ!?
翔が全力で足踏みをする一方、真依は腰だけを横に振っていた。
慣れているかのような軽快な動き。
どこかの民族舞踊でもしているかのような優雅で美しい腰振りだった。
ま、真依のやつ……腰だけ振ってやがるのか!?まさか…そんな手があったとは!?
確かにあの方法なら無駄に足踏みする必要がない。
そして足踏みよりも、カウントが上がっていく気がしなくもない。
でも見た目ほど簡単にできるような芸当ではなさそうだ。
多分昔習っていたダンスの成果……っと…いかんいかん……一体何を分析しているんだ。
俺は真面目君か?この勝負はたったの30秒だぞ。
今は余計な事を考えるよりも……あの素晴らしい腰振りダンスを"拝まねばならんTIME"だろうがッ!
あのスカートの揺れ加減……実に良い!
引き立つ女性特有の曲線美……とても素晴らしい!
「ストップ!」
じっくりと観察を開始した直後、お嬢が終了の合図をしてしまった。
翔と真依が同時に止まる。
俺のお楽しみタイムも同時に終わる。
そして表情が真顔に戻る。……おっと、勝負の行方を見届けねばならぬ!――キリッ!
お嬢と猪江さんが翔と真依の万歩計を確認した。
そして出された勝負の結果は――
「上賀さんの勝ちでした」
「んなッ!?わ、ワイが……負けた…やと…?」
「ほらウチの勝ち!やった!」
「ぜ、全力やったのに…何でや…」
「腰振るだけでええのに。…お腹少しキツなったけど…」
翔は目を丸くしてどこか遠くを見始めた。
一方、真依は勝者の笑みを浮かべていた。
「ねぇ仁、仁もだけど…あんたの友達って罰ゲームが好きなの?」
「ん?」
勝負を見届けたお嬢が俺の方に近寄り、問いかけてきた。
凛花クラスにノリのいい奴ら。そいつらが目の前で罰ゲーム勝負を繰り広げているのだ。
お嬢がそう思うのも無理はない。
「好きかどうかはよく分からん。俺が好きかどうかも…どうだろうな?」
俺の罰ゲームに対する抵抗はそこまでない。
そこはこいつらの影響が少なからずあるだろう。
これは関わってきた環境の問題かもしれない。……勿論、悪い環境ってわけではない。
「さ、翔?罰ゲームの時間やよ?」
ニッコリとした笑顔で翔に話しかける真依。
翔に対する罰ゲーム執行が今、始まろうとしていた。
激辛ダレの浸透した超過激な一皿。
真依がその一皿を手に持ち、翔の前まで歩いて持っていく。
「はい、アンタの分やよ?はよ食べて?」
「ま、まじかいな…」
赤黒いタレが滴る一皿を受け取り、暫く硬直してしまう翔。
アレが超辛い代物である事を分かっていると、どこからか涎が溢れてくる。
「う、…ぐぅぅ……ウォォォッッ!!!」
おぉ!掻き込んだ!一気に掻き込んだ!!
あの超辛いタレを…あの赤黒い肉達を!漢だ!
「ぐふぅ…ッファッ!?…ふぁあ゛ぁ゛ぁぁッ!!!」
必死の形相を見せ、その場から駆け出していく翔。
遠くにある水飲み場の一角を占領し、ひたすら水分を補給し始めた。
――あれ?それにしても……。
何だか……既視感のある光景だな?
前にこんな事があったような…?…あれ?俺の気のせいか?…あれ?
翔の様子に、心の奥底で何かが引っかかった。
どこか他人事とは思えない翔の状況に……俺は少しだけ祈りを捧げた。




