9件目 このよろず屋に様々な秋がやってきた件 5/11
俺は鍋を用意した後、自分が鍋に入れる具材を冷蔵庫から選別した。
お肉と野菜を一口大に切り、深めのお皿に盛ったら準備完了だ。
俺はひと通りの準備を終わらせ、リビングに寝転がる。
そしてのんびりとTVを見て皆が集まってくるのを待つことにした。
TVを見始めて数分後―――お嬢達が帰ってきた。
手にはたくさんの食材。白菜やネギがチラっと見える。
お嬢達は買い物袋を持って台所へと向かい、自分達の入れる食材を順番に切り始めた。
俺は何を入れるかは見ないようにする為、気にせずTVを見続ける。
だが何かを洗う音や何かを切る音、”これも入れるです”とか”これおいしいやつなの”とか色々な声が後ろから聞こえてくるので気になってしょうがない。
やがて、お嬢達の食材準備が完了した。
時間は丁度18時。凛花と綾里も合流してきた。
その手には小さな入れ物を持っている。恐らく自分の入れたい食材が入っているのだろう。
「お嬢。準備はできたか?」
「うん、そろそろ始めましょうか」
俺は台所に向かい、用意した大きな鍋に和風ベースの鍋の素を2パック分入れた。
鰹と昆布の良い香りが鼻をくすぐる。黄金色に澄んだ出汁がとても素晴らしい。
―――どんッ
俺はリビングのテーブルに置いたコンロに大きな鍋を乗せた。
そして皆がカーペットに座ったのを確認し、部屋の灯りを少しずつ暗く設定していく。
「これで準備は完了だ。鍋のベースは鰹と昆布出汁が効いた和風でいくぞ。俺の大好きな味だ」
俺はガスコンロに火をつけた。
手元の食材がなんとなく分かる程度に、青い火の光が辺りを照らす。
各々は用意した食材を持っている。
布を被せたりして隠している上、部屋が暗くてよく分からない。
一般的な鍋とは違う暗い部屋での鍋パーティー。
闇鍋未経験者が多い為、色々と面白い反応が見れるだろう。
さてと、そろそろ闇鍋を始めるとするか。
まずは慣れさせるために一巡させるとしよう。
鍋に食材を入れる一番手は勿論俺。
俺と茜は闇鍋経験者である為、この鍋料理の食べ方を貴族達に示さねばならん立ち位置だ。
「じゃあ俺から時計回りで順番に入れていくってことでいいな?俺の次は茜。その次は花音だぞ?」
「わかりましたぁ」
「いいです!」
「楽しみだね~」
各々から準備万端といった返事が返ってきた。
とても楽しみにしているこの雰囲気……やはり鍋というものは良いものだ。
「よし!まずは俺からだな!これを入れるぞ!」
―――ちゃぽん
俺が入れたもの…それは豚肉だ。
闇鍋だろうがなんだろうが、これがなければ始まらない!
「何ですかねぇ?」
「何を入れたか気になるです」
そうだろそうだろ?これが醍醐味の一つなんだよ。
皆もどんどん好きな食材を入れていけよ~。
「じゃあ私は…みんな大好きなアレですよぉ」
―――ぼちゃん
ん?みんな大好き?何だよそれ?
やってみて実感するが…なかなか気になるじゃねぇか。
音からしたら大きめの…入れたのは野菜?いや、お肉か?
やっべぇ…わっかんねぇ!でも、だんだんワクワクしてきたぞ!!
「この調子でどんどん入れていきましょうぅ」
「はいなのー」
「分かったわ!」
「じゃあ次はわたしです!わたしはましゅまろを入れるですー」
―――ポスポスポス
「――ッ!?」
鍋の中は暗くてよく見えない。
だが、今マシュマロとか言う不吉な単語が聞こえてきた。
何故マシュマロ?
何故お菓子?
つか何故入れるものを今言った?
その言葉が嘘だと信じたい。
ゲテモノ混入アピールマジやめろ。
「おい花音…何でマシュマロ入れてんだよ?」
「好きだからです。仁はましゅまろ嫌いです?」
「好きだよ。でも今は他の食材にしろ」
「切った長ネギがあるです。入れるです?」
「おっいいじゃねぇか。それを入れろよ」
―――ボチャン
よしよし…マシュマロは予想外だったが、長ネギなら問題ない。
これで軌道修正は完了だ。鍋であればマシュマロ程度…軽く許容してくれるだろう。
さぁ、ここからだ!
どんな鍋になるのか…今から楽しみだぜッ!
「次はわたしの番なの?」
「そうだぞ。芽衣ちゃんの番だ」
花音の番は終わった。
次は芽衣ちゃん、その次に綾里、そしてお嬢、最後に凛花の順だ。
さて…各々が鍋に入れたい好きな物か。
皆一体何を鍋に入れたいんだろうな?
「わーい!なら”おいしいもの”を入れるの~」
「おぉ!良いなソレ。何かは知らないけど入れろ入れろ」
おいしいもの―――それは一体何だろう?
豚肉?白菜?椎茸?芽衣ちゃんは何が好きなのかな?
「仁ちゃんのクッキーなの」
―――ポチャン
あっはっは!俺のクッキーかー!そうかそうかぁ…何入れてんだよぉ……。
確かに好きなものを入れろとは言ったけどよぉ…その選択肢はありえねぇだろうがよぉ…。
「ならわたしも入れるです」
―――ポチャン
うぉッ!?このクソ幼女ッ!
お前ッ何便乗して入れてんだよッ!!
「次は僕の番ですね。プロテイン追加で」
―――ザバァァス
タンパク質in鍋ッ!?
テメェも何してくれてんだよッ!!
「入れるならやっぱりカレールーでしょ」
―――ボチャン
う゛ぁ゛ぁぁッ!!お嬢ォォッ!!
味から変えてんじゃねぇよォォォッッ!!!
「好きな物入れましたけど…これでいいのでしょうか?」
「いいんじゃない?だんだん良い香りもしてきたし」
ぐぅ…うぐぅぁぁァッッ!!何が良い香りじゃぁぁッッ!!
この貴族共は何考えてんだよォッ!!鍋って料理が分かってねぇのかよォォッ!!
クソがッ!コイツらにやらせたのは間違いだったかもしれん!!確かに"自分の好きな食べ物を入れる鍋"って簡単な説明しかしてなかったかもしれないけどッ!こういう事じゃねぇよ!!具材を入れろよ!!
つか、もう絶対ヤバくなってきてるよこの鍋!俺の想定を既に超えてきちゃってるよ!!
「どうしたの仁?さっきから唸って」
唸らせてんのはテメェだぞお嬢!!
「あっ!もしかして…カレーの香りに我慢が出来なくなったのね」
ちげぇよッ!
「間違いないです!喉をゴロゴロならしている猫さんと一緒です~」
テキトーな事抜かしてんじゃねぇぞッ!!
「多分言いたいことがあるんだね。何となく分かるよ……”味”でしょ?」
「――ッ!!」
皆で楽しむ…暖かく団欒とした"美味しい"鍋パーティ。
理想から大きく乖離し始めた現状に、頭を抱えながら唸りをあげていた。
だが…俺に向けられた凛花の一言。
蓄積された想いの衝動がだんだんと鎮まっていく。
今の苦悩に対し多少でも理解を示してくれたことにより、俺は若干の冷静さを取り戻すことができた。
「…凛花。どうやらお前は俺の理解者だったようだな」
「そう言われちゃうと仕方がないね。ボクが少しだけ管理してあげよう」
いやもう管理どうこうの領域を超えてるだろ…。
貴族共の管理からしっかりやれ―――
―――って…まて…。
今…”管理する”って言ったよな?それはまだ何かしらの秘策があるってことなのか?
そういえば凛花の順番はまだ来ていない…。奴はまだ…食材を入れていない!
そ、そうだ!まだ希望は残されていた!!
頼むぞ凛花!もうこの鍋を救えるのは…お前しかいない!!
「凛花よ…お前はこの鍋に対して何をどう管理するっていうんだ?」
「ふふっ…簡単だよ。その全てを調和させてしまえばいいのさ!…ね?瞳たん?」
な、何だと…!?
今…全てを調和させると言ったのか!?
この混沌と化した鍋の世界をどうやって調和させるって言うんだよ?
お前はこの混沌世界を一変させる程の…ワールドアイテムを持ってきたとでもいうのかッ!!
「おい待て凛花…お前は一体何を持ってきた!?この鍋は今、暗黒に包まれた混沌の世界。この世界を救える”聖女様”に……お前はなれるっていうのかよ?」
「ボクが持ってきたのは一般的な食材だけさ。だからボクでは聖女になんてなりえない」
「なら何故……って…まさか!?」
「そう!なるのは瞳たんだ!そして…瞳たんは既に理解しているようだね」
「ふふん!当たり前じゃない!…仁!あんたの言う聖女様の登場よ!アンタが望む世界の調和を…この私がしてあげるわ!」
「お嬢がかよ!?」
―――ボチャボチャボチャ
「………は?」
「カレールーのブロックは一つじゃないわ!味が薄そうって話ならもうちょっと入れてしまえばいいのよ!うん!美味しそうな香りがしてきたわ!これで味は完璧ね!!」
「…………。」
テッメェ゛ェッッ!!何してくれとんじゃァァァッッッ!!!!
調和させるんじゃなかったのかよッ!!
この鍋世界は調和されるんじゃなかったのかよッ!!
全然救済されてねぇじゃねぇかッ!!
何ウッキウキで自分色に染め上げてんだよこのクソ聖女ォッ!!
カレーで世界再構築しやがってェッ!!
元の世界はどうなったんだよッ!!?
俺の世界(鰹と昆布ダシ)を返せよォォォッッ!!!
「目を丸くして固まっちゃったわね。あんなに身をのりだして……いやしんぼうさん」
「ふふっ……流石瞳たん」
「今日はカレー鍋です!」
「いえ、”プロテイン”カレー鍋です!」
何がプロテinカレー鍋じゃぁァッ!!
ふざけやがってッ!この貴族どもォォッッ!!!
その後も貴族共は楽しそうに食材を投下し続けていった。
そこに俺の描いた理想郷はもうない。もうこの世界は救えない。
あ゛あぁ…あぁ…もうダメだ…死んだよ…。
死んだ…死んだ…この鍋死んだ。
誰か蘇生アイテム持ってないの?
どこの神殿に行けば復活されられるの?
ねぇ誰か…この鍋はもう……助からないのですか?
「仁さん……」
「――ハッ!?」
俺は一体…ッ茜!?
まさかお前は…お前だけは…俺の気持ちを察してくれているというのか?
「あのぉ…大丈夫ですかぁ?」
「もうお前だけだよ…。俺の気持ちを分かってくれる奴は…」
「鍋が予想に反して次々と変質していって…心中穏やかじゃない感じですねぇ…」
「そ、そう!そうなんだよ!!やはり分かっていてくれたか!…この薄暗い中でも俺の表情が…気持ちが伝わってしまったんだな」
「はい…。だんだんと仁さんの心中が読めてきましたぁ」
「お…お゛おぉ……」
この場で俺の良き理解者は…どうやらコイツだけだったようだ…。
ありがとう茜…それだけで俺は救われた。
つかこのメンバー…ボケ担当が多すぎじゃない?
ツッコミ担当が俺だけとか…バランス悪すぎだろ…。
「茜も俺と同じ気持ちなのか?そこの貴族共にツッコミを入れてもいいぞ?…俺は心の中だけど」
「あ、いえいえ…私は成り行き派なので…特には…」
「そうか…よくこの惨状を我慢できるな?」
「う~ん…そうですねぇ…。一つだけ言えることがありますからねぇ」
「お、何だよ?何かの秘訣か?何かの考え方か?」
「あ、はいぃ。そうかもしれません」
「何だよ。教えろよ」
「だって―――」
「―――これ、闇鍋ですからぁ」
「……ッ!あぁ…納得した…」
闇の中でやる鍋ってだけでなく、何が入っているか分からないから闇鍋だ。
各々が自分で好きな食材を用意し、入れて、そして作られていく共同創作料理である。
食材を何故か言いながら入れているから俺は心の中で突っ込まざるを得ないことになったのだ。
言わなければ何も起きない……はずである。それだけだ。
俺は目の前で繰り広げられているであろう理解しがたい惨状に、すっかり原点を忘れてしまっていたようだ。
「あれ?でも茜さぁ…」
「はいぃ?」
「コレ提案したの…お前だよな?」
「――ビクッ」
「この惨状…お前どう思う?」
「ど、どうってぇ…?」
「明らかに有罪だよな?」
「な、何をおっしゃっているんですかねぇ…楽しいじゃないですかぁ…」
俺は隣にいる茜の方に顔をズイッと近づける。すると普段と変わらないニッコリとした笑顔が俺の方に向けられていた。
でもどこかぎこちない気がする。取り繕った笑顔に見えてくる。
いや待て俺…。俺の唯一の味方である茜に…一体何を考えているんだ…。
ちょっと心が疲れているのかな…少し気持ちを落ち着かせよう。
俺は気持ちを落ち着かせながら鍋の方に視線を向ける。
暗くて鍋の中はよく見えない。だが…確実に何かが起きているだろう。
この共同創作料理のいく末には…一体どんな未来が待ち受けているのだろうか?
そして俺は徐々に混沌と化す鍋の世界を信じ、味の調和を祈り続けた。
◇◇
全ての食材を入れた後、鍋を一煮立ちさせてからみんなで食べ始める。
待ち望んだ"楽しい鍋"の完成だ。だが鍋から漂うこの香り…それは紛れもなくカレーそのものだった。
俺は鍋から具材を取り、自分の取り皿に入れる。
感触的には鶏肉だと思われるコレ。とりあえず食べてみることにした。
「――ん゛ぉッ!?」
う゛おぉぉッ!か、カレーの力が半端ねぇッ!
煮込まれて濃厚になったカレーの衣が具材の周りを包んでいた。
とんでもないカレーの暴力が口の中に広がっていく。和風出汁×鶏肉という黄金コンビを完全に塗り替えている。
「あっ僕のは豚肉ですね!カレーとマッチしていておいしいですよ」
お?綾里はどうやら豚肉を取ったようだな。
恐らくそれは俺が入れた食材だ。
必要な食材を必要な分だけ……鍋奉行顔負けの名采配をした気がする。
「ボクのは長ネギかな?これもカレー味でおいしいよ」
凛花はカレー味の長ネギか。でも味は"これも"じゃねぇ…全てカレー味だ。
つかこれカレー鍋か?もうカレーだよな?ご飯のないカレーだよな?
「これクッキーの味です…んむ゛ぅ…ちょっと合わなかったです…」
花音はクッキーか。自業自得…因果応報だ。そんなもんテキトーに入れるからそうなる。次までにはちゃんと覚えて理解しておけよ?カレーとクッキーは鍋に入れるな…ってな。
ひと通り順番に食べた後は、みんなで自由にカレー鍋をつついていく。俺は鶏肉、白菜、椎茸、クッキーなどを取った為、それらを順番に食べていった。
「ん?……あれ?なんもねぇ」
やがて、鍋から具材を取ろうとしても取れなくなっていった。鍋の中で箸を一周させても当たる感触がない。恐らくほぼ食べ終えたようだ。
「もう具材が無さそうだね。そろそろ電気をつけようか」
―――カチッ
凛花がよろず屋の電気をつけた。
暗い部屋が一気に明るくなる。
一瞬の眩しさ…だが徐々に目が慣れてきた。
「やっぱりもうなさそうだね。これで終わりかな?」
「そうね。でももうお腹は良い感じだし、楽しめたから良かったわ」
「美味しかったですねぇ」
「おいしかったのー」
「良い鍋でした。またやってみたいですね」
「仁!また鍋をやりたいです!」
今回の鍋に対して各々が満足そうに言葉を連ねていく。俺の理想から比較すると散々な鍋だったが、思い返してみると中々楽しいひと時だった。
それに、カレーと合う具材に関しては思ったほど不味くなく、寧ろ結構美味かった。
ある意味この鍋は調和されていたと言わざるを得ない。…圧倒的なカレーの力によってな。
「……本格的な冬が来たらな」
だがこれじゃない……これはない。
楽しくもあったが、お前らとやる闇鍋は危険だということが分かったからな…。
そして、本日の鍋パーティーが終わりを迎えた。
時刻は夜の9時頃。各々の帰宅する時間だ。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか。ご馳走さまー!」
「それではまた。今日はご馳走様でした」
「ご馳走様でしたぁ。また来週来ますねぇ」
「楽しかったです!また来るですー!」
「わたしも楽しかったのー!またなのー!」
「じゃあねみんな!気をつけて帰ってね」
「また来いよ」
各々が順番に帰路へとついていく。
そして俺とお嬢以外が皆帰宅し、よろず屋は静かになった。
食器は"俺が片付けておく"と伝えているのでそのまま置いてある。鍋なのでさほど量はない。台所に使った食器を運んでテーブルの上を拭いたらもう片付いた。
「さて、食器と鍋を洗うとするか」
俺は台所に運んだ鍋を洗い始めた。
汚れを軽く洗い流し、周りに残った汚れをスポンジで擦り少しずつ取りはじめる。
お嬢もどうやら手伝ってくれるようで、俺の隣で取り皿を洗い始めてくれた。
7、8枚のお皿が洗われていく音が聞こえる。そしてお嬢の鼻歌も何故か少しだけ聞こえてくる。
「……お嬢、何か機嫌が良さそうだな?」
「そう見える?その通りよ」
「大好きなカレーでお腹が膨れたからか?」
「それもあるけど、楽しいからよ。こんなに楽しい日々が過ごせるなんて、半年前は思ってもいなかったから」
「そうか。良かったじゃねぇか」
「うん。良い思い出がまた一つできたわ」
良い思い出がまた一つ…ね。
そう言われるとやった甲斐もあったかな?って少しだけ思えてくる。
「そりゃ良かったな」
「うん!今日はありがとね、仁」
「…ッ!お嬢…」
とても優しい笑顔がそこにはあった。
お嬢からのお礼。そして優しいこの笑顔。
それだけで俺は…不思議と幸せな気分になってくる。
――ブーッブーッ
「ん?」
「仁の携帯が鳴ってるわね」
洗い物を終えたタイミングで俺の携帯が振動した。どうやらメールが入ってきたようだ。
俺は手を拭いて携帯を開く。そしてメールの文面に目を通していった。
メールの送り主は地元の友人。
件名はバーベキューの日程についてだった。
日時は来週日曜日、昼前の11時頃。
場所は紅葉が美しい地元民お約束の地。
昔からの家族間での交流をしていた時から使っている紅葉狩りの穴場の場所だ。
来週の日曜日…行きたいのは山々だが…さて…。
このブラックなよろず屋さんは休みを取れるかは不明だ。この前は"休みたければ休んでもいい"とお嬢が言っていたが、大体その時の裁量で決まるから怪しいと思われる。
でもとりあえず聞いてみなければ始まらない。ダメ元だが可能性はまだ残されているからだ。
「なぁお嬢……」
「どうしたの?神妙な顔して?」
「来週の日曜日に休みを取ってもいいか?」
「休み?いいわよ」
お嬢に休んでいいか聞いてみると、意外と簡単に休みを取れた。
予想外の結果だった。いや、有難いことだが。
でも休みを取れるのはいいが、お嬢がスケジュールを調整するそぶりがなかった。本当に大丈夫なのだろうか?少し心配になってしまう。
「えっ?本当にいいのか?」
「いいわよ。来週の日曜日でしょ?」
「日曜日の仕事…キツくならないか?」
「休ませてあげるって言ってるのに…変な仁ね。日曜日の予定は何もないから安心していいわよ。良いのかはわからないけどよろず屋自体休みでもいいかなって思ってる」
本当に意外な返答だった。
でも休みを頂けるとは…言ってみるもんだな。
「でも…日曜日に休みたい理由だけ聞かせてくれる?特にないなら"ない"でもいいけど」
「理由は俺の地元でバーベキューをするからだ」
「バーベキュー?仁の地元で?」
「あぁ。俺の地元には良い紅葉狩りの穴場があってな?バーベキューをしながらそれを楽しもうってわけだ。辺り一面のもみじとイチョウ…これが凄く良い景色なんだよ!」
「そんなに凄いんだ!それは私も見てみたいわ」
「ッ!」
お嬢から"私も見てみたい"という言葉が聞こえた時、俺の頭に一つの考えがよぎった。
"良い思い出が一つできた"ではなく、"もう一つ良い思い出を作ってあげられるかもしれない"という考えだった。
そう考えていると、俺は口を無意識の内に開いていた。
そしてお嬢に俺の本心を…言葉に変えて伝えていた。
「お嬢…だったら…」
「…?」
「だったら俺と一緒に……紅葉狩りへ行かないか?」
その日俺は、お嬢を地元の紅葉狩りに誘ったのだった。




