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9件目 このよろず屋に様々な秋がやってきた件 2/11


 時刻は正午。

 お昼時になった。


 午前中に焼きイモを食べた為、腹持ちはいい。

 なので今は軽いティータイムの準備をすることにした。


「お嬢、紅茶とクロワッサン置いとくぞ。茜は緑茶だったよな」

「うん。ありがと」

「もう午後ですかぁ……時間の経過が早く感じますぅ」

「確かにそうね。午前中は焼きイモをしちゃったし…午後は頑張らなくちゃ」

「でしたら休憩を早めに切り上げますかぁ?」

「ううん。休憩くらいはゆっくりしましょう。こういうひと時は大切にしたいし」


 休憩時間は普段通り。だが午後からは本格的に仕事をする必要がある。

 午前中仕事をしなかった分も頑張る必要があるが、俺はそこまで心配する必要はないと思っている。


 何故なら、今日はなんとかなるレベルの仕事量しかない。

 しかも茜が手伝いに来てくれているので負荷的にも全く問題ない。

 多分午後4時までには終われるだろう。余裕余裕。余裕の余裕だ。


 だから今日は楽しく焼きイモをしても許される。

 だから今日はゆっくりお茶をしても許される。

 だから今日はいつもより心に余裕が持てる。

 仕事が少ないって素晴らしいね。

 毎日こうだといいよな。


 今日……日曜だけどな?


「ところで茜。この前の花音の運動会……写真と動画があるんだけど見たい?」


 お嬢は一口紅茶を飲むと、茜に話しかけた。

 茜が来れなかった花音の学校行事―――運動会の話をし始める。


「えっ!?見れるんですか!?見たいですぅ!見させてくださいぃ!」

「いいわよ。ちょっと待ってね」


 温かいお茶をゆっくりとすすっていた茜が即座に反応した。

 持っていた湯呑をおき、お嬢の方へと少しずつ詰め寄る。

 そして反応を見たお嬢はスマートな携帯をポケットから取り出し、画面を茜の方に向けた。

 撮った写真や取り込んだ動画を見せているのだろう。茜の反応を見るとなんとなくわかる。


「……この写真なんかどう?かわいいでしょ?」

「わぁ!花音ちゃんの頬張った姿がぁ。口周りにクリームついてますねぇ」


 お?パン食い競争の時のやつか。

 あの時の花音は最高の走りとジャンプをしていたな。クリームパンの食い方は最低だったけど。


「じゃあ次はこれ。芽衣ちゃんの障害物競争」

「はわぁ……必死に縄をくぐって……困り顔がまた……」


 ほぅ、障害物競争か。

 芽衣ちゃんが必死に障害を乗り越えていた時のやつだな。

 運動が苦手そうな印象だったけどそんなことはなく、そこそこ活躍してたよな。


「そしてこれは……まぁ、おまけね」

「花音ちゃんと芽衣ちゃんが……仁さんを連行してますねぇ……」


 あぁ、借り物競争ね。花音と芽衣ちゃんが……っておい!

 それ”逆”幼女連行画像じゃねぇか!そんなの見せんな恥ずかしいッ!


「おいお嬢やめろ。俺の羞恥画像を見せてんじゃねぇ」

「えぇ?そうは思わないけど……ダメなの?」


「幼女二人に振り回されてんだぞ」

「仁は変な所に拘るわね」


「お嬢がそれ言うか…」


 お嬢は引き続き茜に色々と見せ始めた。

 そして、その後も運動会の話をメインに、他愛無い話が続いていく。


 直近でイベントがあったからかも知れないが、最近は何かと会話のネタが多くなってきた気がする。

 休憩時間の会話としては充実した内容だ。……悪くない。


「―――ハイ終わり。こんな感じだったわ」

「ごちそうさまでしたぁ。素晴らしかったですぅ」


 茜は運動会に行きたかったようだから、今回の報告は良いものになっただろう。

 先程”素晴らしかった”とも言っていたし、どうやら満足したようだ。


 ……ん?ごちそうさま?食べ終わった?


「でも……やっぱりちょっと不足気味ですかねぇ」

「ん?パンだけじゃ足りなかったか?何か追加で食うか?」


「あっ大丈夫ですぅ。花音ちゃん成分が不足気味なだけなのでぇ」

「何だよ”花音ちゃん成分”って………花音と一緒にいられなくて悔しかったってことか?」


「はいぃそうです。だから今日来たらその分愛でちゃいます!」

「そ、そうか。……存分に愛でてやれよ……」


 どうやらお嬢から”今日は預かる”ということを聞いているらしい。

 言葉と表情から気迫が伝わってくる。最近絡むことが少なかった為だろう。………欲求不満か?



――ピンポーン



「あっ……誰か来た」

「――ッ!私が案内してきますねぇ」


 茜がすぐさま席を立ち、玄関の方へと歩いていく。

 そして次の瞬間、花音と手をつないで歩いてくる茜の姿が目に映った。


 ………何でここで手をつなぐ必要がある。

 お前……意外と手がはえぇな。


「んむ゛?瞳お姉ちゃん……甘い匂いがするです」

「クロワッサンを温めて食べたからかもね。換気扇つけなきゃ」

「その匂いとは別の……香ばしい匂いもするです」

「別の?……焼きイモの香りかしら?」

「あっ!それです!」


 おぅ……もう焼きイモの香りを嗅ぎつけてきやがった…。

 流石だな…この暇人幼女。


 来て早々おやつを与えるのもどうかと思うが………仕方がない。出してやるか。


 花音用に取っておいた焼きイモ―――それはもう冷めてしまっていた。

 でもオーブンか電子レンジで温めれば、美味しく堪能できるだろう。


「ほら、一応お前の分も取っておいたぞ。食いたきゃ温めて食え」

「―――ッ!食べるです!温めるです」


 俺はお皿にサツマイモを2つ乗せ、ラップをかけて花音に渡した。

 お皿を受け取った花音は、電子レンジまでテクテクと歩き持っていく。


―――ピッピッ

―――ブーン

―――チンッ


「仁、茜。花音が食べ終わったら仕事を始めるわよ」


 お嬢が椅子から立ち上がり俺と茜に声をかけてきた。

 俺と茜がその問いかけに頷くとお嬢は自室の方へと歩いていく。


「あっ瞳お姉ちゃん。あっちで食べていいです?」

「いいけど、カーペットは汚しちゃダメよ」

「はーい!」


 リビングに敷かれた柔らかなカーペット。そこにポスンと座った花音。

 中心に置かれた小さめの机にお皿を置き、ラップを外してから焼きイモを食べ始める。 


―――もしゃもしゃ


「花音ちゃん……食べる姿も可愛いですぅ~」


 適度に温められたサツマイモをハムスターの如くパクつく花音。

 その可愛らしい姿に吸い寄せられるように茜が近づいていく。


 花音の横にボスンと座り、寄り添う形で愛ではじめた。


「茜もこれ食べたいです?」

「私は大丈夫ですよぉ?花音ちゃんだけで十分ですぅ」

「……?そうです?」


 茜の可愛がりが始まった。これは花音がサツマイモを食べ続ける間は続くだろう。

 はたから見てると仲睦まじい姉妹の様な光景。眺めていて微笑ましい。悪くないが………ん?ボスン?


―――ぷよん


 ふと俺の目に映ったのは―――茜の胸と腹だった。

 例えるならA4等級。なかなか良い肉付きだ。

 だが今日は何故か違和感を感じる。いつものポッチャリ―――ぽっちゃり?


 俺は暫く茜を観察し続ける。

 すると茜がカーペットで体勢を変え、座り直した。

 だらけるようなアヒル座り。その瞬間、胸とお腹が揺れたような気がした。


 自ずと俺の視線がそちらに引き寄せられる。

 これは抗えぬ男の(さが)………いやいやまてまて。そうじゃない。


 やはり茜のやつ……全体的に少し丸くなってきたような気がするぞ……。


 食欲の秋とも言うし……食い過ぎて太ってきたか?

 でもモコっとした可愛らしい服を着ているし……目の錯覚の可能性もあるが…。


 未だ花音とイチャイチャしている茜に対し、俺は意を決して声をかけることにした。


「なぁ茜……」

「はいぃ?何ですかぁ?」

「さっき芋もパクパク食べてたけど、最近よく食べるのか?」

「よく食べちゃいますねぇ…。でも何故それを――」

「いやお前……なんかお腹が……」

「――ッ!?」


 一瞬ビクッとする茜。沈黙の時間が流れた。

 だがすぐに何事も無かったかのような振る舞いを見せ、笑顔で花音の頭を撫で始める。


 俺の言葉に反応した後―――”受け入れたくない現実”を逃避するかのような態度を見せていた。


 これはますます怪しくなってきた…。

 もしかしたら絶賛増量中かもしれん…。


 ここは専門の調査員を派遣するべき時か。

 そして適任者はこの地に一人いる。

 今、茜の健康が揺らぎかけている。

 それを救えるのは……キミしかいない!


「…花音」

「…何です?」


 俺は焼きイモを食べ終えてご満悦な花音に声をかけた。

 俺のお眼鏡にかなう専門の調査員―――花音のつぶらな瞳がこちらに向いた。


―――チラッ


 花音と視線を合わせた後、俺は茜のお腹に視線を向けた。

 その視線につられるように花音もその方向に顔を向ける。


「……!!」


 そして花音は表情を変えた。

 目を見開いて”分かったよ”と俺に伝えてくる。……どうやら俺の意図を察したようだ。


――コクッ

――こくん


 お互いがお互いの目を見て頷く。

 花音とのアイコンタクトが完了した。


「……やれ」


――シュバッ


「ぃにや゛ぁ゛!?」


 花音の右手が茜のお腹へ、一直線に伸びた。

 もこっとした服ごと腹のお肉が掴まれる。

 茜は反射的に身をよじり、花音の魔の手から逃れようとした。


 その間―――僅か2秒。


「……判別は?」

「終わったです」


 両手で揉むような仕草をしながら、満足げに返答する。

 どうやら中々良い感触だったようだ。………俺がやったら社会的に死ぬな。 


「どうかね?」

「掴み心地が前より良くなってるです」

「…ぅぐっ!」


 茜が少し唸った。そして目を逸らしながら難しい顔を見せる。

 ”受け入れたくない現実”を突きつけられた時の顏。どうやら本人は自覚しているらしい。


「ほぅ………太ったか」

「じ、仁さん……もうちょっと言い方を…」


 現実を突きつける為、心を鬼にしてストレートに言ってやった。

 だが当の本人からは”言い方を変えろ”と注意されてしまった。

 どうやら”太った”という言い方では不服らしい。…………仕方のない奴だ。


「今までのプロポーションを超えてきたか」

「それじゃ嫌味にしか聞こえませんよぉ…」


「随分とたくわえたじゃねぇか」

「貯蓄みたいに言わないでくださいぃ」


「……ふっくら炊けたな?」

「お米じゃないですぅ!」


 言い方を色々変えてみたがあまりお好みの言い回しではなかったらしい。

 茜が少しふくれながら反論してきた。


 因みにお前は米じゃない。どちらかと言うともち米だ。

 今はまだ張りが出てきた程度かもしれない。だがそのうち3段鏡餅にならないか心配になるぞ。


「まぁ、安心できない状況にはなってきたが………ある意味安心感はでてきたな」

「何ですか…その安心感って…」


「そうだな…それはまるで文鎮の様な…」

「もう!ちょっとふくよかになってきただけですぅ!」


 ちょっとふくよかになってきた……か。

 でも一度境界を超えたらもう戻れなくなるぞ?

 茜も体型で悩むぐらいなら鍛えればいいのに。現実を見ろ。いや……腹を見ろ!


「茜?どうしたの?変な声も聞こえたけど…」


 自室で何かをしていたお嬢が出てきた。

 茜の叫びにより、自室から呼び寄せられてしまったようだ。


「仁さんにいじめられましたぁ……」

「…ふぅーん…そう…」


「ちょッ!?こっち睨むなよ!軽い冗談を交えつつ現実を教えてやっていただけでッ!」

「現実?」


「あぁ、茜の腹回りの話だ」

「腹周り……そう言うこと」


 お嬢が茜の方を見る。だが茜はお嬢の方を見られない。

 どうやらお嬢も理解したようだ。茜が少しずつ太り始めてしまったことを。


「確かに少しだけふくよかになったように見えなくもないけど…茜はそれを気にしてるの?」

「あぅ……実は……そうなんですぅ…」

「茜は茜の考えがあるんでしょうけど……今はどうしたいと考えてるの?」

「痩せたいですぅ。けどぉ……最近食欲がぁ……」

「食欲の秋だしな」

「そうなんですよねぇ…どうしたら痩せられるのでしょうかぁ…」


 どうやら茜は本気で悩んでいるようだ。痩せたいけど食べたい……そんな所だろう。

 そして葛藤した結果、食欲に負けてしまっているようだ。……多分自制心が足りないな。


「なら俺が痩せる方法を教えてやろう」

「えっ!?ほ、本当ですかぁ!?」

「クククッ…俺の体を見て嘘とは思わんだろ?」

「そ、そうですよね!是非…お願いしますぅ!」


 どうすれば痩せられるか……その答えをチラつかせてやると茜が飛びついてきた。

 普通に筋トレして運動すれば痩せられるだろうが……茜の様子を見る限りでは簡単ではなさそうだ。

 少しお尻を叩いてあげないと動かないかもしれん。


「話はまとまった?」

「そうだな。後で色々試してみるか」

「じゃあそろそろ仕事を始めるわよ。いい?」

「あっ!はいぃ」

「了解だ」


 お嬢の指揮の下、俺と茜は書類処理から始めていく。

 そして俺達は午後の仕事に従事していった。


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