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8件目 このよろず屋は幼女とのふれあいを大切にしている件 7/7


 各種目が順番に行われていき、遂に最終種目である学年代表リレーを残すのみとなった。

 現在、僅差で白組がリードしている。

 これは借りもの競争で芽衣が活躍したことが要因の一つになるだろう。


 だが、運動会の目玉競技である学年代表リレーは点数が高い。

 なのでまだ赤組も逆転可能な大接戦となっている。



「"次は最終種目―――学年代表リレーを開始します"」



 遂に最終種目の開始アナウンスが流れた。


 花音は真剣な表情を浮かべ、リレーの集合場所へと向かおうとする。

 そこに普段のゲス顔は一切浮かんでいない。 


「それじゃ、行ってくるです!」

「花音、気合い入れて行きなさい」

「花音、頑張れよ」


 俺とお嬢が激励した後、花音は何も言わずに集合場所へと向かっていく。

 ただ、その両拳は固められており、若干の緊張が感じられた。



 最後の種目―――学年代表リレー。

 1年生から3年生の代表者がバトンを渡すリレーと、4年生から6年生の代表者がバトンを渡すリレーの2種類。

 男女別々で走る為、合計4回のリレーとなる。


 順番は低学年女子、低学年男子、高学年女子、高学年男子の順。

 一度のリレーで各学年の代表が4名ずつ。赤組2名と白組2名が走る。


 花音は低学年女子の3番手。赤組アンカーの一人だ。

 そしてもう一人の赤組アンカーと白組アンカーの二人も花音の横に並んでいる。



―――パーン



 空砲が鳴り響くと同時に最後の種目が始まった。1年生の代表4名が一斉に走り始める。

 花音の出番までは、まだ時間がありそうだ。1年生と2年生が一周半ずつトラックを走ってくるまでに、走る準備を始めている。


「……ねぇ仁。…この運動会に来れて良かったと思わない?」

「ん?まぁそうだな。……つかお嬢、いきなりどうした?」


 お嬢が走る順番を待つ花音の姿を見つめたまま、俺の方に語り掛けてきた。

 その()は花音を見守るかのように―――とても優しい眼差しをしている。


「ふと思ったの。真剣に取り組む花音を見て……なんだか成長したなぁって」

「成長した?花音がか?それは俺にはよく分からんが……」


「仁にはそうかもしれないわね。でも…私の場合は違う。花音がもっと小さな頃から、私は一緒にいたんだから」

「そういえば、そうだったな」


「意地っ張りで、泣き虫で、甘えん坊な花音が成長して…」

「今と大して変わらねぇじゃねぇか」


「ふふっ…そうかも。でも確かに成長してる。今なら花音のお父様の"気持ち"が少し分かる気がするわ。この不思議な気持ちは……花音の成長を嬉しく感じているのかも」

「…嬉しいんだったらいいじゃねぇか。…大事だろ?そういう気持ちも」


 周りの親が我が子の成長を見守るように―――お嬢も花音の成長を見守ってきたわけだ。


 そして今日、運動会にきて……必死に頑張る花音の”成長した姿”をまじまじと見ることができた。

 だから少しだけ感傷に浸っているのだろう。


 お嬢の感じているその気持ち……俺も多少なら分からなくもない。


「……さて、ちょっとしんみりした話をしちゃったけど…もうすぐ花音が走るわ!しっかり応援するわよ!」

「あっ……お、おう!!」


 アンカー前の走者―――2年生代表が、残りトラック半周まできた。

 花音のチームは現在三位。だが、一位、二位、そして四位ですら、あまり距離が開いてない。

 白熱した良い勝負になっている。


―――パシンッ


 そして、花音にバトンが渡された。

 他の同学年アンカー達ともタイム差がほぼない接戦状態だ。


「いけぇー!かのんーーーッ!!」


 お嬢が大きな声をあげ、花音に声援を送る。

 真剣な表情で必死に走る花音に、聞こえるぐらいの大きな声援(エール)だ。


「あいつ……めっちゃ真剣な表情で走ってるな。普段のイメージとかけ離れてるぞ…」

「代表リレーなんだから当たり前でしょ。それに花音って結構負けず嫌いなんだから」

「あぁ、間違いない。あれは絶対、本気の本気だ」


 お嬢は俺と他愛無いやりとりをした後、またすぐに花音の応援を再開する。


 状況はアンカー同士のデッドヒート。

 花音は順位を一つあげ、一位の女の子の後ろにつけて最終コーナーを曲がっていく。


 そして最後のカーブ。

 花音の前を走る白組の女の子が少し外側へと広がった瞬間―――花音は内側から体を捻じ込んでいった。

 

「やった!一位になったわ!」


 花音が若干前に躍り出る。お嬢もテンションを上げていく。

 あとはゴールまでの直線だけだ。


 これで一位。

 かと思われたが―――


――パーン―――パンパーンッ


 ―――ゴール手前で、花音は僅かに抜かされた。

 四位から二位まで上がってきた白組の女の子が、花音すらも抜かして一位をもぎ取っていった。


「…はぁ……はぁ……ぅぐぅぅッーー」


 結局花音は二位でゴールし、疲れ切った顔で脱力する。

 そして悔しそうに歯を食いしばり、先を走る白組の女子児童を眺めていた。


 一位にほんの1歩…届かなかった。

 その現実を噛みしめながら、順位の付いた旗の元へととぼとぼと歩いて行く。


 花音の足は速かった。

 だがそれよりも速い娘が花音を抜かしていった。

 その差は才能なのか、努力なのか、将又成長度合いの差によるものかは分からない。

 だが世の中、上には上がいるものだ。……これは仕方がない。


 その後も学年代表リレーは順番に行われていった。

 そして白組が僅差で勝利し―――――小学校の運動会は終わりを迎えた。




◇◇




 閉会式が終わった後、俺とお嬢は花音と合流し帰路につこうとしていた。

 花音の家まで送ってから、よろず屋に帰る予定だ。


「花音ちゃーん」

「あ……芽衣です…」


 校門を出ようとした時、前から芽衣がこっちに駆け寄ってきた。

 いつも通りの屈託のない笑顔で花音に話しかけてくる。


「今日の運動会楽しかったの!花音ちゃんはどうだったの?」

「楽しかったです……でも……」


「あれ?どうしたの?さっきから俯いて…」

「…何だかちょっと…モヤモヤするです……」 


 芽衣やお嬢の問いかけに、花音はあまり良い返事をしなかった。

 何か不満を残しているような様子を見せている。


「赤組が負けちゃったから落ち込んでる?」

「……そうです。あとちょっとだったのに……これは反省ものです。特に最後のリレー。1年生のスタートがちょっと遅れてたです。それにあの白組のアンカーは線を踏んで―――」

「花音。あまりそういう事は言ってはダメよ?」


 花音が胸にあったモヤモヤとしたもの―――運動会の不満を漏らそうとする。

 勝負にギリギリ勝てなかった悔しさ。

 自分の思い通りにいかなかったことへの不満。

 言いたい事は沢山ある――――そんな思いが感じられた。


 だが、お嬢はそんな花音の愚痴を優しく止めた。

 花音の頭を優しく撫で、少しずつなだめていく。


「で、でも…それはホントの事です。だから―――」

「花音ちゃん……ごめんなの…」

「――ッ!?…なんで芽衣が謝るです?」


 突如、芽衣が花音に謝った。

 そして申し訳なさそうな表情で俯いている。


 花音にとっては思ってもいなかったであろう謝罪。

 少しだけ驚くような表情を見せた。


「だって……わたしが借り物競争で勝たなければ、花音ちゃんの赤組が勝ってたの…」

「――ッ!?そ、そんなこと言ってないです!」


 芽衣の言葉を全力で否定する花音。

 予想していなかったであろう展開に慌てている。


 流石に……芽衣のせいにして当たる事はなかったか。……当たり前のことではあるが。


「でもホントの事なの……。わたしが―――」

「も、もういいです!もう大丈夫です!」


「花音ちゃん……」


「来年!わたしは芽衣と一緒の組になって!それで勝てれば、もういいです!」

「――ッ!」


 花音は照れの混ざったようなムスッとした表情で、”その言葉(ほんね)”を口にした。

 芽衣の表情が暗いものから驚きに変わり、目を丸くしたまま固まっている。


「な…なんです?」

「わ、わたしも!わたしも来年そうなりたいの!!」

「な、ならいいです……。今日は疲れたからもう帰るです」


 花音はもう、不満そうな態度を見せてはいなかった。

 恐らく芽衣とのやりとりで溜飲が下がったのだろう。

 お互いがお互いに良い影響を与え合える仲……そんな関係はとても大切なものだ。


「じゃあ、わたしはもう行くの。お父さんとお母さんをずっと待たせちゃってるの」


 校門の方を見てみると、芽衣のご両親らしき姿があった。

 ”ちょっと待ってて”とでも伝えたのだろう。遠くから優しい眼差しで芽衣の事を見守っている。


「おう、それじゃまたな」

「またね、芽衣ちゃん」

「また来週です」

「うん!またなの!」



 芽衣は別れの言葉を残した後、両親の元まで走っていく。

 そして校門前で合流し、手をつないで帰っていった。





「……いっちまったな」

「そうね。……花音はもう吹っ切れた?」

「うん。でもホントはまだ悔しいです。…どうすればこの気持ちをすぐに消せるです?」


 花音はまだ少し困った表情でお嬢を見上げ、質問した。

 心に残るモヤモヤしたものを早く消してしまいたいが、その処理方法が分からないようである。


「難しいわね……。別の事を考えたり、好きなことをしたりして忘れることかしら?…でも、あとは慣れていくしかないかもしれないわね」


 見ていて思うが、花音はかなり優秀だ。同年代で勝負に負けることは少ないだろう。

 ましてや全力で勝ちに拘った勝負。それに負けた時の”悔しさ”と”劣等感”、どうしようもない”理不尽”に対するやりきれなさは、あまり経験した事がないと思われる。


 今の俺でさえ……どうしようもない気持ちが胸にあった時、どのように向かい合っていけるのだろうか?


「瞳お姉ちゃんもよくこういう気持ちになったりするのです?」


 お嬢の目を真っ直ぐに見つめ返しながら、花音がお嬢に質問をした。

 ”自分と同じ気持ち”に何度もなったことがあるのか。それが気になっている様子だ。


 そして恐らく、お嬢の回答を参考にしようとしている―――そんな気がしないでもない。


「あるわよ?それもたくさん。しかも花音と同じようによく愚痴をこぼしているわ」

「あ!ならわたしと同じです!瞳お姉ちゃんも一緒です!」


「でもね花音。本当はあまり良くはないの。私の思う理想は、悔しさを自分の中で受け止めて己の糧に変えていく事よ?それができればいいなって……いつも思っているの。…立派な大人になる上でね?」

「……りっぱな…おとな…」


「簡単ではないと思うけど……花音も大人なら出来るわよね?」

「――ッ!うん、出来るです!わたしはもう大人です!」


 勝ちにこだわりすぎると、負けた時のショックも大きい。

 だからといって適度がいいとは思わない。


 花音は内心、負けず嫌いな一面を持っている。

 自分が精一杯良い結果を出したのにもかかわらず、他人の結果次第で負けてしまうという事。

 確かに人のせいにしたい気持ちもあるだろう。


 でも最後は、協力したこと、健闘し合ったことを認めあい、楽しく笑ってほしいと思う。

 俺の綺麗ごとなのかも知れないが、多分それが理想ではないだろうか。



 それにしても……花音の負けず嫌いなところはお嬢にそっくりだなぁ。

 お嬢を見てそうなったのかは………俺には分からないけどな。



 花音に笑顔が戻ったところで、俺達は小学校を後にした。

 そして花音を家まで送り届けた後、よろず屋の方へと帰っていった。





◇◇





 よろず屋の玄関前。

 自転車を倉庫へ入れ終わった時、お嬢が俺に話しかけてきた。


「たまにはこういう日常も悪くないわね」

「あぁ……でも、こう騒がしい日があると、よろず屋もなんだか寂しく感じるよ」


 たまにはこういうふれあいも悪くない……でも少しだけ寂しさを感じてしまう。

 俺も少しだけ昔を思い出してしまったからな。……ただ無邪気に楽しんでいた"あの頃"を。


「あっじゃあ…この写真でも部屋に飾っておく?とてもいい写真が撮れたのよ?」

「おう?一体何を撮ったんだよ?」

「見たい?……はいこれ!」

「ん?……こッこれは!?」


 お嬢が写真データの一部を俺に見せてきた。

 そこには俺が花音と芽衣に両手を引かれ、連行されているシーンが写されている。


「どう?うまく撮れてるでしょ?」

「おいこれ……ただ恥ずかしかっただけの瞬間じゃねぇか……」

「いいじゃない。これも大切な…思い出の1つなんだか――――」


―――ヒュゥゥ…


「――きゃぁっ!?」

「うぉ!?」


 玄関前で写真データを見ていた俺達に、突如、冷たい風が強く吹きつけた。

 突然の出来事に、俺もお嬢も驚いてしまう。


「何だか風が出てきたわね。…それに少し肌寒い…」

「そうだな。最近は気温も下がってきたし……とりあえず先によろず屋へ入ろう」


 俺とお嬢はすぐによろず屋の中へと入っていく。

 そしてリビングにある椅子に座り、一息ついた。


「何かもう秋って感じね。季節が進むのは早いものね」

「あぁ、そう感じる。外の木も大分色付いて来たしな」

「紅葉かぁ……またどこへ出かけてみたいわ」

「そうだなぁ……俺も休みがあればどこかへ出かけてみたいところだが―――」


 俺はなんとなく―――去年の秋の季節に行った事を思い返してみる。


 あれは約1年前。俺がまだ地元の山森(さんりん)プーさん(じゆうにん)をしていた頃の事だ。


 地元の友人達と集まり、近場の山でバーベキューをした思い出がある。…毎年行っていた恒例行事だ。


 紅葉シーズンのバーベキューは最高だったな。

 ……今度ちょっと連絡してみるか。


 俺はそんな事をぼんやりと考えながら、お嬢の方をチラっと見てみる。

 とりあえず目線と言葉のニュアンスで、ふわっと休日を訴えかけてみた。すると―――


「休みたいの?……別にいいわよ?」

「え!?まじ?」

「うん。でも勿論、仕事の調整次第だけどね?」


 お嬢の口から飛び出した思いもよらぬ言葉。

 しかも微笑みながら俺に優しく回答してくれた。


 おいおい、まじかよ…。

 いつからここは、ホワイト企業になったんだ!?


「ま、まぁ……必要になったら相談させてもらうよ」

「分かったわ。でも早めに言ってね」

「おう」


「それじゃ仁、もう日が落ちる時間よ?今日のディナーを用意して」

「あぁ、そうだったな。ちょっと待ってろ」




 季節はもう秋。外は次第に寒くなってきている。

 なので仁は、初めに温かいスープを作ることにした。


 秋風で冷えた心と体を、瞳と共に温めていく為に。


 そして今日もよろず屋の一日は、慌ただしく過ぎていったのであった。

8件目を読んで頂きありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます。


さて、今回のあとがきですが、ある意味お知らせになります。


実は一度全体校正しようと考えておりまして、次話更新まで多少お時間をいただきます。

内容はあまり変更する予定はありませんが、色々とクオリティ向上を図ります。

(特に2件目3件目あたりですかね。コンセプトが最初はダーク方面だったし)



因みに決行の理由ですが、ほんの少しだけ本気出す!というやつです。

そもそもは自己研鑽のつもりで何となく勢いで書き始めましたが、だんだんこだわりが出てきてしまったようです。(困惑


(仕事忙しくて時間取れないのに拘るという)


ということで、

ペース的に9件目の更新は12月下旬か新年ですかね。

でも話は面白くする!いや…する予定!(白目)


因みに校正した後なんですが…

もういっそのこと再投稿してキレイに分割もしちゃう?

と思ったり思わなかったり。



さてと、もし時間あまったら表紙絵っぽいものでも描こうかな。

それか10~12件目の話を同時進行でストックしよう。これは捗るぜ(ゲス顔


……という夢物語を描きつつガンバリマス。(実際にやったら絶対死ねる)



では最後に。

ブクマを頂いている方。ここまで読んで下さった方。

改めてお礼申し上げます。_(._.)_感謝感謝。


多少なりとも面白い時間を提供できていたのであれば、私としても嬉しい限りです。


また更新or再投稿した際は読んで頂ければ幸いです。それでは!

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