8件目 このよろず屋は幼女とのふれあいを大切にしている件 6/7
お昼休憩が終わり、午後のプログラムが始まった。
花音の個人出場競技―――借りもの競争だ。
そしてこの借りもの競争は、花音だけでなく芽衣も出場する。
順番はどちらも3組目。花音と芽衣が勝負することになる。
とりあえず俺は3組目が始まるまで、第1組と第2組の様子を見ていく。
そして、この借りもの競争という種目の一連の流れを確認した。
借りもの競争の流れはこうだ。
まずトラック内に設置された複数のボックスのどれかまで走り、中から借りものカードを1枚引く。
カードを引いたらそのカードに書かれたことを確認し、合致するような”物”か”人”を借りてくるというものだ。
そしてゴール後、物を持ってきた場合は物を持ったまま順位の旗の所で待機。
人を連れてきた場合は、児童と一緒に並んで待機するようだ。……中々面白そうな種目である。
でも、もし連れていかれたら、その児童と待機することになるのか…。
何か割と目立ってそうだし、あまり連れていかれたくはないな…。
そんなことを漠然と考えていると、いつのまにか花音と芽衣の番が回ってきていた。
俺から見て手前に芽衣、そして奥に花音が並んでいる。
「位置について~、よーい……ドン!」
――パーン
空砲と同時に、各児童が一斉に走り出した。
そして最初に借りものボックスにたどり着いた児童から、ボックス内のカードを引いていく。
さて、何が書いてあるかは知らないが……それほど難しいものは書かれてはないだろう。
あいつらは一体何を引いたんだろう―――――って…何だ?
借りものカードを引いた芽衣が、一直線に向かってくる。
その視線は確実に……俺の方を向いていた。
そして―――花音もその後ろから向かってくるのが見えた。
芽衣の後を追うように、花音もこちらへ一直線だ。
あ、あいつら……何でこっちに一目散なんだよ……。
絶対俺から借りようとしてやがる………何か…嫌な予感しかしねぇぞ…。
そして俺の元へ、芽衣が先に到着した。
何を貸出させられるのかドキドキして待っていると―――何故か俺の左袖を引っ張ってきた。
――クイックイッ
「仁ちゃん、一緒にきて欲しいの」
「えっ………俺?」
「うん!コレ!」
芽衣が俺に借りものカードを俺に見せてくる。
その借りものカードの真ん中に何かしらの文字が書いてあった。
「ん?どれどれ……」
『おとなのひと』
お、”おとなのひと”かよ……。
周りにたくさんいるのに…何で俺を選ぶんだよ…。
俺は一瞬だけ躊躇する。
だが、俺は芽衣から向けられる期待のオーラをモロに浴びてしまった。
一緒に来てほしそうなこの眼差し。
これは暗に”エスコートしてよぉ~執事様ぁ”と言っているに違いない。
まぁ、選ばれた以上……その期待に応えざるを得ないな。
フフフッ…仕方のない幼女だ。俺が少しエスコートしてやろう。
――グイッグイッ
「ん?…花音?」
今度は花音が右腕の裾を引っ張ってきた。
どうやらこちらも俺に用があるらしい。
「仁、一緒に来るです」
「お前も俺狙いかよ…」
「そうです。仁が適当です」
俺が適当って……こいつは一体どんな借りものカードを引いてきたんだよ。
ちょっと見るのが怖いんだが………一応見てやるか。どれどれ……
『おおきいもの(50cm以上)』
ふぅ……なんだ……”おおきいもの”かよ…。
ここでオチがつくかと思ったが……”奴隷”って書いてなくて安心したぞ。
でも……もうちょっと考えてから来いよクソ幼女?
俺を”物”扱いしてんじゃねぇぞ?それは適当じゃなくてテキトーだからな?
「仁ちゃん。とりあえず一緒に来るの~」
「仁!早く一緒に行くです!この競技で1番乗りです!」
――クイっ
――グイッ
「お、おいッ……両腕……」
俺は片腕ずつを同時に引かれ、幼女共に連行されそうになる。
「ほ~ら、早く行きなさいよ」
そしてお嬢が笑いながら俺に行けと命じてくる。
幼女2人にトラック内へ引っ張られていく俺。
周りからは笑いの声が聞こえ、優しい目で見られているような気がした。
なんだコレ……めっちゃ恥ずかしい…。
エスコート以前の問題じゃねぇか。……とんだ羞恥プレイだよ…。
「おとなのひとを連れてきたの!」
「おおきなものを持ってきたです!」
係員の元についた幼女達。
持ってきた”モノ”を主張することで、俺の借りもの判定が始まった。
「……”おとなのひと”は問題ありませんね」
「わーい!やったの!」
まぁ、これは当然であろう。
どう見ても俺は大人だ。
「”おおきいもの”は……」
「50cm以上です」
「で、でもね?…”物”としては……」
「今は”わたしの物”だから問題ないです!」
係員が花音に”物”として判定できない事を優しく伝えようとした。
だが、花音は俺を"自分の物”扱いすることにより、クリアしようと試みている。
少し苦しい言い分のように聞こえる。
だが、”物”と言われれば”物”になってしまうのかもしれない。……”人物”って言葉もあるんだし…。
「……”物”……でしょうかね?」
係員が俺の方を見て聞いてくる。
なんかちょっと苦笑いだ。
「まぁ……何故か”自分の物”扱いされてますからね……」
「は、はぁ……」
「そういう事です!今の仁はわたしの大事な物です!」
いいのかよコレ…
いいのかよ俺……
「で、ですが、よく考えたら2人とも同じ”モノ”を持ってくるのはダメですよね?なのでここはじゃんけんで決めましょうか」
「あはは……そうなりますよねぇ」
同時に同じものを持ってくるという異常事態。
係員は苦肉の策として”じゃんけん”を提案してきた。
ルール上は明示されていなさそうな雰囲気なので、基本的に被るということは想定されていないのだろう。
………こんなハプニングもあるものなんだな。
「じゃあ、二人ともじゃんけん―――」
「ちょっと待つの!ここで異議ありなの!」
「ん?芽衣?」
係員がじゃんけんを始めようとした時、芽衣が挙手をしながら待ったをかけた。
じゃんけん対決よりも先に、花音へ物申したいことがあるらしい。二人が面と向かいあう。
「仁ちゃんはわたしが連れてきたの!一緒に1番の旗の前に立つの!」
「それはわたしも同じです。だから、じゃんけんで勝てばいいです」
「じゃんけんは絶対しないの。多分わたしは、花音ちゃんに負けると思うの」
「ならどうするっていうんです?やっぱり芽衣が諦めるってことです?」
「ここは花音ちゃんが諦めるの。わたしは仁ちゃんを譲らないの!」
「芽衣こそ………さっさと別の人を借りてきた方が賢明です」
「共存も撤退も……ここにはないの!」
「わたしに物言いするつもりです?…上等です」
おおぅ!?なんか開戦の狼煙が上がってないか!?
幼女共による俺の奪い合いが始まったぞ!?
「花音ちゃんの言い分には欠点があるの。だからわたしが言い負けることなんてあり得ないの!」
「いいです。聞かせてみるです。今からその主張……論破してやるです!」
真剣な表情の芽衣と不敵な笑みを浮かべる花音。
2人のいたいけな幼女が俺の奪いあいをしようとしている。
果たして俺は……どちらの”モノ”になるのだろうか。
「まずその借りものカードの”おおきなもの”。仁ちゃんは人だから該当しないの」
「ふふん、そんなものは関係ないです。仁は”わたしの物”なのです~」
「それは花音ちゃんが勝手に言ってるだけなの。仁ちゃんの同意が完全に取れていない今、それは”花音ちゃんの物”とはいえないの!」
「むぅ…」
芽衣の的確な言い分に、花音は若干狼狽する様子を見せた。
だがすぐに表情を戻し……不敵な笑みを浮かべ持ち直す。
「ふ、ふふん……ならこう言う考えはどうです?この借りものカードに書いてある”もの”はひらがな表記です。この場合は”物”でも”者”でもどちらでも正解だと言えると思うです」
新たな言い分で反論する花音。
しかし、芽衣はその言い分を受けても冷静なままだった。
「でも通常”50cm以上”という記載は、人ではなく物体に対して使われることが一般的だと思うの。だから花音ちゃんの解釈が間違っているの。これでその言い分は終わりなの」
何という舌戦!!
この幼女共……本当に小学生か!?
「そ、そこまで言うならやっぱり仁は”物”でいいです。わたしの目には”物”に見えてるです~」
花音は上手い切り返しが浮かばなかったのか、言い分を元に戻してきた。
次は”わたしの物”ではなく自分が”物”に見えるから”物”という言い分だ。
「花音ちゃん、"物"は喋らないの。会話はできないの」
「喋る”物”もあるです。これは喋る”おおきなもの”です」
「花音ちゃんは”物”と1人で会話しているの?」
「お人形さん遊びと一緒です」
花音もなんとか対抗してる。だが正直、言い分が苦しくなってきた。
議題は人は”物”として扱えるのかってところか。……哲学的な所も感じるが、多分花音が劣勢だろう。
「でもね花音ちゃん。もし相手が”物”だったら、その会話に心はないと思うの。それにもし相手が”物”だったら、それはわたしの事を好きになってはくれないの。だからもし”仁ちゃんが物”だったのなら……わたしはとっても悲しいの…」
「む゛ぅぅッ!?」
ついに花音が唸った。次の言葉が出てこない。
これは勝負ありだろう。芽衣の心をこめた反論に、花音は言い返すことができなくなった。
悔しそうな顔で俯き、徐々に引き下がっていく花音。
その表情の裏には、様々な葛藤があるように見える。
「むぐぅぅ……ッ…もういいです………仁はだんしゃりです…」
おい……なんか俺、花音に捨てられそうなんだけど。
つか、断捨離という言葉をどこで覚えたんだ?あいつ変なとこで賢いよな。
「おいおい……お前にとって俺は”大事な物”なんじゃねぇのか?いきなり捨てんなよ」
「捨てるです!不要です!仁はもうポイーです!」
「あん?なにムキになっ―――ってお前………もしかして……悔しがっているのか?」
「む゛ぅッ!!や……やっぱり仁は廃棄ですッ!処分ですッ!!これがホントの捨て台詞ですぅぅッッ!!」
―――ダダダダダダダッッ
あいつッ!?俺を廃棄物扱いして逃げやがった!
やっぱとんでもねぇ幼女だな!!
花音は俺を廃棄した後、一目散に駆け出していった。
不法投棄されてしまった俺は、ただ花音が走っていく様子を眺めることしかできない。
それにしても花音のやつ……どうしても俺を連れて行きたかった感じだったな。
もしかして俺と一緒にゴールしたかったのか?………いや、それは俺の考えすぎか。
「やったの!1番なの!!」
両腕をあげて喜ぶ芽衣。係員に連れられて1番の旗の前まで案内される。
俺も芽衣と一緒に歩いていき、暫く一緒に座ってやることにした。
そして、その後は借りものを持ってきた児童が次々と戻ってくる様子を見届けていく。
花音は結局、12人中8番目にゴールした。
何処からか入手した大きな風船を抱きかかえてのゴールだった。
あれからすぐ大きな風船を見つけて持ってくるあたり、あいつの判断はやっぱり早い。
でも今考えたら、俺の上着でも貸してあげれば……良かったのかもしれなかったな。
そして、花音と芽衣が出場した借りもの競争が終わっていった。




