8件目 このよろず屋は幼女とのふれあいを大切にしている件 4/7
お嬢が帰ってきたことにより、俺無双モードが強制終了した。
そしてリビングの片隅―――白猫の便所の後ろで磔に近いポーズを取らされる。
まるでお嬢に”お前は凛の便所オブジェクトにでもなっていろ”―――そう言われたような気がしないでもない。
だが芽衣がすぐに罰ゲーム付きの遊びだった事をお嬢に伝えてくれたおかげで、俺は難を逃れることができた。
当たり前ではあるが、俺は許されたのだ。
ふぅ…やっと体が動くようになった。……ったく、世の中は男に厳しすぎだぜ。
そして一方、花音はというと―――予想に反して立ち上がっていた。
まだ多少は体をビクビクさせているようだが意外と元気な様子を見せている。
お嬢に喝を入れられたのか、復活の秘孔でも突かれたのかは知らねぇが……まだ余力があったのか。
早く勝負をすれば止めを刺せたわけだが……結果論だな。
次はしっかりとヤッてやるとしよう!
俺は心にそう誓うと、次に”謎の来客”に関して聞いてみることにした。
何故、茜や凛花がお嬢と一緒について来たのだろうか。それがちょっと気になる為だ。
「それにしてもお嬢。何で茜と凛花が一緒にいるんだよ?」
「凛花は私を車で送ってくれたのよ?お陰で今日は助かったわ」
「車で送ってもらっていたのかよ。だから帰るのも早かったわけか」
「因みに茜ちゃんは帰りの道で拾ってきたんだー」
「……は?拾った?」
「私が携帯で連絡したら商店街の近くにいたのよ。だから一緒にお茶しようって言って連れてきたの」
「えへへぇ…拾われちゃいましたぁ~」
おい、何が"拾われちゃいましたぁ~"だ。
お菓子につられたガキかよテメェは。
「凛花お姉ちゃん。お久しぶりです」
「――ぇッ!?」
花音がトコトコと凛花の方へと近づいていき声をかけた。
それと同時に、茜が少し驚いた様子を見せる。
花音が凛花と知り合いってのは別に驚かないが……茜の奴、一体どうしたんだろう?
「久しぶり。花音ちゃんはいつも通り元気そうだね?」
「いつも通り元気です」
「り、凛花さんも……"お姉ちゃん"って呼ばれているんですか!?」
「うん、初めから―――って…あぁ!……ふふっいいでしょ~」
「わ、私も………」
茜は期待するような眼差しを花音に向けた後、自分の方を指さした。
どうやら花音に"お姉ちゃん"と言われたいらしい。
「か、花音ちゃん……私にも同じように挨拶してくれますかぁ?」
「?……茜もお久しぶりです」
「ち、違いますよぉ……私も”お姉ちゃん”ですよねぇ~?」
「?……茜は茜です」
「…で、ですよねぇ………」
花音の呼び方はいつも通り―――普段通りの対応だった。
”お姉ちゃんと呼んでください”とお願いすればいいのだろうに。
茜は花音から視線を外し、虚ろな瞳でどこかを見つめた。
―――そしてその後、何故か俺の方へと向きを変えてくる。
「何故私だけ……”お姉ちゃん”になれないのでしょうかぁ…」
茜が俺の方を見てボソボソと話を始めた。
お嬢だけでなく凛花まで”お姉ちゃん”と呼ばれていたことに疎外感を感じてしまったのかもしれない。
多分自然とそう呼ばれたかったのだろうが……遠回しな言い方じゃ伝わらないこともあるだろ。
「うろ覚えだが…初対面の時に呼ばれてなかったっけ?つか自分で自己紹介して”茜”になったんじゃ……?」
「……あの時の私は……何故”あかね”と呼ばせてしまったのでしょうかぁ…」
いや、何言ってんだコイツ…。
普通の事だろそれ…。
「今となっては…後悔しかありません…」
いや、名前で呼ばせといて後悔すんなよ。
何”あの時の私はまともじゃなかったんです”感を演出してんだよ。
「ですが…私は分をわきまえます。そしてこれからも、前を向いていこうと思います!」
いや、何いきなりキレイにまとめようとしてんだよ。
それに”前を向いていこう”って……俺の後ろにいる”別の獲物”に標的変更しただけじゃねぇか。
「そ、それで…こちらのかわいい子は誰ですかぁ?」
「ホントに可愛い子だね。……はぁい!こんにちは!初めまして~!」
―――ビクッ
茜と凛花とは初対面の芽衣。俺の腕を掴んで後ろに隠れてしまっている。
多分、茜の獲物を狙うような雰囲気と凛花の溌溂とした様子に気後れしているのだろう。
落ち着いた感じの子なのでこれはしょうがない。
「利水…芽衣なの…」
やがて芽衣が勇気を出し、か細い声で自己紹介を始めた。
そして茜と凛花も自身の紹介を行い、ファーストコンタクトが終了した。
茜は顔を緩ませながら微笑み、凛花は必要以上に干渉しないよう視線を外している。
比較的丸顔の茜は子供に好かれやすそうだとは思うが……ちょっと過保護感を出し過ぎだ。
それに引き換え……凛花は一定の距離感を保っているな。
慣れるまではあまり干渉しない方が良いと判断したのだろうか?……これは意外だ。
「それにしても……仁くん好かれてるね~」
「は?何がだよ?」
「両手に花じゃん。羨ましいなー」
「冗談だろ?どこに花があるっていうんだよ?」
両腕にくっついている幼女を見ながら俺は凛花に疑問を投げかける。
腕をおもちゃ代わりに振り回し、ぶら下がって遊んでいる幼女達。
好かれているのか遊ばれているのか分からない状態だ。
この幼女共……俺は公園の遊具じゃねぇぞ…。
「う…羨ましいですぅ…」
何故か約1名、ガチで羨ましい顔をしている奴がいるようだ。
本当なら俺も変わってやりたいよ。…だが、お前はダメだ。
ん?でも待てよ?……何か意外と程よい負荷が腕にかかってきてるな?
ものは考えよう―――この幼女共をくっつくダンベルだと思えば……多少は役に立つんじゃねぇか?
俺はそう考えると両腕に力を込めた。
そして、ダンベルの要領で腕を交互にあげてみる。
――フンッ
「きゃぁー!」
――フンッ
「ひゃぁーッ!」
うむ…両手にダンベル。なんて実用的なんだ。
多少”音が鳴る”のが玉に瑕だが。
「あっそうだ!そろそろ仁くんに、これをプレゼントしようかな~」
凛花が胸元で大切そうに抱えていた”モノ”を俺に渡そうとしてきた。
両手に丁度乗るぐらいの小さな”モノ”は、柄のついたレースの様な布に包まれている。
……何が包んであるかはよく分からない。
「…ん?…何だよそれ?」
「これは手作りプリンだよ。実は御裾分けとして持って来たんだー」
「プリンです!?」
「ぷりんなの!?」
プリンという魔法の言葉に、幼女共が反応した。
俺の腕から降り、凛花の方へと視線を向ける。
「ほぅ………それは凛花が作ったものか?」
「違う違う。これは綾里が作ったんだよ。この前に迷惑をかけたお詫びってことらしい」
お詫びか。こっちの方が色々助けてもらってた気がするんだけどなぁ。
律儀というかなんというか。やっぱあいつはいい奴だ。
「それと、仁くんのカレーでちょっと火がついたって言ってたかな?」
「ちょっと火がついたって?一体何に火がつくんだよ……ケツからか?」
まぁ、俺の特製カレーはちょっと刺激的だからな。
あいつにはちょっと辛すぎたのかもしれん。
「どうだろう?でも気にする必要はないと思うよ」
「そうか。今度食べに来た時は甘めのカレーも用意しておこう」
「うん?それも美味しそうだね。楽しみにしているよ」
俺は凛花からプリンの入ったタッパを受け取る。
すると、凛花は踵を返して玄関の方へと歩いていった。
「それじゃ、ボクはもう帰るね」
「ん?何だよ。用事って本当にこれだけだったのか?」
「瞳たんを送ったついでに……だよ」
「そうか、お疲れさん」
「プリンを食べた時の感想は今度聞かせてね」
「分かった。ありがとな」
凛花は軽く手を振り外へと出て行く。
お嬢と茜も凛花の見送りをする為、一緒に外に出て行き―――――帰ってこなくなった。
外から楽し気な声が微かに聞こえてくる。
どうやら外で井戸端会議が始まったようだ。……これは長くなりそうだな。
俺はとりあえず、プリンを冷蔵庫へ持っていくことにした。
……常温で放置しておくと悪くなってしまうからな。
「しかし…それにしても……あいつはどんなプリンを作ったんだ?」
冷蔵庫の手前、綾里の作ったプリンが気になってきた。
なので俺は台所で隠れるようにしゃがみ、タッパの蓋を開けて中を覗いてみることにした。
―――パカッ
「ほぅ、カスタード系……それにバニラビーンズ……上にフルーツも散りばめられている…」
綾里の作ったプリンを見て俺は息をのんだ。甘い香りは言わずもがな、彩りも見事である。
俺のスイーツを超える程のポテンシャルを、このプリンからは感じられたのだ。
そして、魔が差すとはこういう事なのだろう。
一刻も早く味見をしてみたいと思ってしまう。
俺のパティシエスキルが探究しろと囁いてくる。
今日は何だか魔が差してばかりな気がするが……これはやむを得ない気がしないでも―――
「……甘いものです?」
―――ビクッ
後ろを振り向くとそこには花音がいた。
俺が眺めるデザートを後ろから覗き見していたのだ。
こいつ…いつの間に俺の背後を……。
「食べるつもりだったです?」
「ぐっ……お、お嬢に伝える気か?」
「大丈夫です。わたしは仁の味方です」
「……芽衣はどうした?」
「今は白猫が相手してるです」
今このよろず屋内にいるのは俺、花音、芽衣のみ。
そして、芽衣は白猫に夢中なのでつまみ食いしてもバレはしない。
こいつまさか……この状況を狙っていたのか!?
「俺は一口だけ味見をしようと思ってるんだが……」
「ちょっとくらいなら分からないと思うです」
「そ、そうだよな…」
「わたしは何も見てないです。ただ口をあけて座ってるだけです」
どうやら俺を見逃してくれるようだ。
花音は分かってる。そして、つまみ食いがいけないことも……分かっている。
だがそれでも俺は……プリンの風味が損なわれない内に、一刻も早く口に入れたいと考えてしまっている。
俺のパティシエスキルの向上はお嬢の為になる……。
一口食べた後に均せば何とかなる……。
そう考え始めてしまったら、もう俺の手は止められなかった。
「よし…じゃあ、ほんのちょっとだけ」
とりあえず俺はスプーンを2つ取り出し、片方のスプーンで小皿にプリンを取り分けた。
そしてプリンの魔力に導かれるように―――俺達はプリンを口へと運んだ。
――ぱくっ
綾里の作ったプリンはめっちゃくちゃ美味かった。
蕩ける食感、滑らかな舌触り、濃厚で奥深い素材の味わいが口いっぱいに広がる。
そして俺達が正気に戻った時には……大スプーン3杯分の極旨プリンを口に運んでしまっていた。
◇◇
午後3時半過ぎ。
お嬢と茜は30分以上もの井戸端会議から帰ってきた。
そして早速お茶会をする為に、冷蔵庫から色々と取り出し始める。
「花音、芽衣ちゃんも。もし良かったら一緒におやつをしない?」
「おやつなの?わーい!」
「今行くです~」
やはりおやつの時間が来てしまったか…。
お嬢はまだタッパを開けていないから……まだバレてはいないな。
ついつい大スプーンで3杯分も食べてしまったが……あの後プリンはちゃんと均したし、小皿やスプーン等の証拠は全て隠滅した。……だから意外と大丈夫かもしれん。いや、そうあってほしい。
「あれ?……ムースがないわ…」
そ、そういえば……。幼女達に食べさせたからムースはない。
でもそれに関しては言い訳ができるな。お嬢も怒ることはないだろう。
「……それに…クッキーもない…」
あ…そ、そうでしたね。クッキーもありませんでした。
それも幼女達に食べさせてあげましたよ?ついでに私もかじりました。
「……何で…?……プリンが減ってる…」
ごめんよお嬢!ごめんよお嬢!
三分の一も減らしちゃってごめんよォ!
お茶会を悲惨なことにしちゃって……ホントにごめんよォ!!
「茜…何故かタッパ内のプリンが食べられているわ」
「えぇ!?…誰かが先につまんだという事ですかぁ?」
「そう。誰かがつまみ食いをしたとしか考えられない………一体犯人は誰かしら?」
「あっ!犯人探しをするの?なら、わたしが探偵さん役をやりたいの~!」
プリンをつまみ食いした犯人は誰か―――そんな話になった時、意外と芽衣が乗り気になっていた。
恐らくゲーム感覚なのだろう。楽しそうに顎に手を当て、探偵風なポーズを取り始める。
いや、そんなことより―――俺はこの状況をどうすればいいのだろうか?
今更ながら心の中で……自責の念が渦巻いてきている。
「でしたらぁ、芽衣ちゃんに犯人を捜してもらいましょうかぁ」
「あっそれもいいわね。……じゃあ芽衣ちゃん、犯人を探してくれる?」
「うん!任せるの~!」
何か知らんが探偵ごっこが始まった……とんだ茶番だ。
あの幼女は何をもって、犯人を推理するとでもいうのだろうか。
それに容疑者は
容疑者A・・・仁
容疑者B・・・花音
容疑者C・・・芽衣
容疑者D・・・凛
の3人と1匹だろ?普通に考えて、お前も容疑者側だぞ。
「な、なぁお嬢……芽衣も容疑者の一人だろ?何で探偵役やってんだ?」
「別に楽しそうだからいいじゃない」
「でも犯人の可能性があったら設定上マズイだろ?」
「犯人の可能性?仁しかいないでしょ」
おい、推理もくそもねぇのかよお嬢。……確かにそれであってるけど。
「この均し方……多分スプーンを使ったの!」
「うん、それから?」
「でも台所にスプーンがないの。だから多分―――あっ!このスプーンがまだ冷たいの。やっぱりキレイに洗って片付けたの!」
「うんうん、そうかもしれないわね」
「そしてキレイに洗うのは花音ちゃんには無理なの!だから犯人は―――」
「犯人は?」
「仁ちゃんなのッ!!!」
この幼女……当てやがった!
「この反応……間違いないです!」
検察も優秀すぎる!――って、お前も一緒に食ってただろ!!
「ということだけど……自白する?自白させられたい?」
「…そ、そうだ…俺がやった…」
「仁さん有罪ですぅ」
「それじゃ、刑罰を考えなくちゃ」
まじかよ……ちょっと先に味見しただけじゃねぇか。
ほんの出来心なんだよぉ……許してくれよぉ…。
「あと、花音ちゃんも食べたと思うの」
―――ビクッ!
一瞬、花音の体が動いた。
犯人が確定し、自分は難を逃れた―――そう思われた矢先に犯人として白羽の矢を立てられた為だろう。
「多分仁ちゃんと一緒にありついたの」
「め、芽衣は深く考えすぎです」
「花音ちゃんとは付き合いが長いからなんとなく分かるの」
「しょ…証拠がないです。決めつけは良くないです」
花音の両手がソワソワと怪しい動きをしている。
それに目も若干横に泳いでいる。この幼女……追いつめられると実は分かりやすい。
「花音ちゃんは”つまみ食い推定時刻”に満足そうな顔をしていたの。あの顔はお菓子を食べた後のとろけた顔だったの」
「それは気のせいです~。わたしに揺さぶりは効かないです~」
「多分口を開けたら証拠がでてくるの。歯と歯のすきまから―――」
―――じゅるるるッ
こいつッ!口の中を啜ってやがる!!
白状してるのと変わらねぇじゃねぇか!!
「…状況証拠が揃ったの。…執行なのッッ!!」
「あきゃうぅッ!」
普通の幼女がゲス幼女に襲いかかり―――何だかイチャイチャし始めた。
幼女2人が戯れあっている。お互いにこそぐりあって楽しんでいるようだ。
何かいいな……こういう和やかな光景。
俺、ロリコンじゃないけど……実に微笑ましい気分になってくる。
「二人ともかわいいですぅ!か、カメラを―――」
「ふっ…これで一件落着か。めでたしめでたし」
「仁、アンタもこれから…執行されるけど?」
「…えっ?」
お嬢が俺をジトっとした目で睨んでくる。
完全に”今からお仕置きしますよ~”って感じの笑顔だ。
「アンタも”つまみ食い”したでしょ?行儀の悪い奴隷ね」
「ちょっ……あれはつまみ食いではなく研究を―――」
「問答無用!そこの奴隷!リビングの隅で静かに立ってなさい!!」
「――ッ!?」
おいおい…またリビングの隅で棒立ちかよ…。
今日2回目だぞソレ……俺は廊下に立たされるガキかってんだ…。
しかし今回は俺に非がある。だからお嬢の命令には逆らえない。
リビングの隅まで歩いていき、観葉植物と同化するレベルで静かに反省を始めることにした。
ったく……またこの位置で案山子に似たポーズをやらされるとは…。
しかも白猫野郎の便所の後ろとかさらに萎えるぜ。
もしこのタイミングで白猫がきたらどうなるとおも―――
「にゃー」
突然、白猫の鳴く声が聞こえた。正面からゆっくりと……俺に近づく白い影。
見計らったかのようなタイミングで―――恐らく尿意を催したであろう、白い悪魔がやってきた。
……まさかこいつ…この時を待っていたのか!?
「にゃぁぁ」
おい白猫野郎……なにこっち見上げてんだよ?
……おい待て……別にケツを向けろって意味じゃねぇよ……待て…おい待てッ!?
「ん゛にゃぁぁぁ…」
こら……何してんだ……おい……やめろ……。
やめろ……やめろォッ!!
マーキングッッヤメロォォッッ!!!
◇◇
俺の罰は、お嬢達のお茶会が終わった後に許された。
そして結局、白猫によるお執行は、寸前でお尻を下げてしてくれたのでかけられはしなかった。
流石は凛、そこはお上品な雌猫様だった。
「もう夕方ね。そろそろ外が暗くなってくるわ」
そしてもうすぐ日が沈み始める時間帯。
今日はもう幼女達が帰る時間になった。
「芽衣ちゃん、今日は楽しかった?」
「楽しかったの!!仁ちゃんと花音ちゃんと遊ぶのは楽しかったの!」
ほっ…良かった。
多少トラブルはあったが俺は役割を見事にこなせていた様だ。
「ねぇねぇ……瞳お姉ちゃん。それよりも……来週の運動会は来れるようになったです?」
花音がお嬢の服を引っ張り、不安そうな小さな声で何かを聞いている。
なんか”運動会”という言葉が聞こえたような気がした。
「うん。調整したから大丈夫よ?」
「わぁい!やったですー!」
花音がお嬢に抱きついて嬉しそうにはしゃいでいる。
運動会?それに調整がどうのって………少しだけ聞いてみるとするか。
「なぁお嬢。今、運動会っていったか?」
「そうそう。今日確定した事柄だから説明しておくわね」
「あ…あぁ…」
お嬢は俺に花音の”お家事情”に関して説明を始める。
正確には、花音の運動会に行く成り行きに関するものだった。
どうも花音のお父さんが仕事の都合で運動会に来れなくなったらしい。
そしてお母さんの方は姉の方の発表会で来れない為、花音が懐いているお嬢に依頼したらしい。
だからお嬢が一緒に行ってあげる事になった―――ということのようだ。
……やっぱりお嬢は花音に優しい。
「その日も休日にできるように日程調整も終わってるから」
「最近出かける事が多かったけど……色々調整してたのかよ」
「私情もあるけど、半分くらいはそういう事よ」
「仁も運動会に来るです?」
「来るの?」
幼女達が俺に期待した眼差しを向け、キラキラとした光線を飛ばしてきた。
ここで”行く訳ねぇだろ”と言ってみるのも一興だが……冗談でもできない。俺の心がそれを許さない!
「……まぁ……そうだな」
「やったです!!」
「やったのー!!」
俺が”行く”と言ってやると、二人ともがキャッキャしてはしゃぎ始めた。
俺が来るとそんなに嬉しいのか?………まぁ、悪い気は全くしないのだが。
「仁!黒山小学校は知ってるです?」
「あぁ、確か西側にそんな名前の小学校があったな」
「そうです!仁なら自転車で10分くらいでいけるです!必ず来るんです!」
「あぁ、必ず行くよ」
「約束です!それじゃ、今日はもう帰るですー」
時間も時間だ。幼女達は家に帰る用意を始めた。
そして茜もどうやら帰宅するようだ。……もし歩きなら芽衣ちゃんの帰りが心配になる。
「芽衣はどうやって帰るんだ?自転車か?」
「うん!それに、今日は花音ちゃんのお家でお泊りなの!」
「芽衣と一緒に一晩遊ぶです~」
おっ!いいねぇ。2人でお泊まり会か。
俺も昔……地元の野郎の家に泊ったことあったっけ。
なんかいいよな……そういうの。楽しそうで何よりだ。
「あまり夜更かしするなよ。…んで、またいつでも来い」
「また来るです!」
「また来るのー!」
俺とお嬢と茜は、花音と芽衣をよろず屋の前まで見送る。
茜は東にある最寄り駅の方向へと歩いていき、花音と芽衣は自転車に乗って日の沈む方向へと漕ぎだした。
そして俺は少しの間、花音と芽衣が帰っていく後ろ姿を見守ったのであった。




