8件目 このよろず屋は幼女とのふれあいを大切にしている件 3/7
俺は幼女達が俺特製のお菓子を貪っていく姿を見守り続けた。
やがて花音と芽衣がムースを完食し、クッキーを平らげたところで10時とは言えないおやつタイムが終了する。
「はぁ~……すごくおいしかったの~」
「幸せです~」
「良かったな。食べ終わったら食器を片付けとけよ」
「はいです~」
俺のお片付け命令により、花音は食器を台所に持っていき水に浸した。
そして芽衣もその姿を見て、同じように持っていく。
昔の花音は食器類を片付けなかった。
だが最近は率先して片付けるようになってきている。
お菓子を食べたら片付ける。
片付けない奴にお菓子はでない。……当然である。
幼女を動かすにあたり、お菓子を餌にしているが、まずはやらせることに意味がある。
その内、お菓子がなくてもできるようになるはずだ。……俺の鬼調教の賜物だな。
「芽衣、おやつの後はゲームをするです!」
「ゲーム?やるのー!」
食器を片付け終わった幼女達は、台所からリビングのテレビ前まで小走りで向かっていく。
そしてゲーム機を起動し、色々なゲームを物色し始めた。
「どれやるの~?」
「じゃあ『マリ子パーリィ!』をやるですッ!」
「あっそれ面白そうなの~」
「対戦ミニゲームが盛りだくさんです~」
二人とも楽しそうにゲームで遊び始めたな。
これで俺は暫くはゆったりとできそうだが……昼も近いし、焼きそばぐらいは作っておくとしよう。
花音と芽衣が一緒にゲームで遊んでいる傍ら、俺は昼飯の準備を始めることにした。
そして、丁度昼頃にできた焼きそばをみんなで仲良く取り分けて食べた。
◇◇
焼きそばを食べ終わった幼女達はまたゲームを開始した。
俺は使った食器を洗った後、しばらく椅子に座ってのんびりと過ごす。
そして30分くらいは経っただろうか。
快適な気温に、俺がウトウトとし始めた時――
「仁ちゃん…」
突如、芽衣が服をクイクイと引っ張ってきた。
何とか頭を覚醒させながら芽衣の方を向いてみると、何故か落ち込んだ表情でこちらをジッと見つめてきている。
「…芽衣?どうかしたのか?」
「かくとうゲームで花音ちゃんと勝負してみたんだけど……」
「あぁ…けど?」
「花音ちゃんに1回も勝てなかっだの!弄ばれだのッ!ずごく悔じいのぉッ!!」
芽衣は悔しさを噛みしめるような表情で、凄惨な結果を報告してくる。
相当苦渋をなめさせられたのだろう。その眼は、”仇をとって”と言わんばかりだ。
一方、花音の方はというと―――こっちを向いてニヤついている。
俺に対しても容赦はないが、芽衣に対しても容赦がなかった。
「仁、さっさと座るです」
芽衣を悲しませた元凶が俺に座れと促してくる。早くかかって来い―――そんな様子だ。
しかし俺は花音にかなり負け越している。恐らく戦っても奴の贄になるだけだろう。
だが俺は今……芽衣ちゃんの執事である。
例えこれが負け戦であろうと……主の為に動けぬのであれば、俺は執事失格だ!
「……いいだろう。蹴散らしてやる!」
そして俺は芽衣の仇を取るべく、勇敢に出陣し―――
「サンドバックです」
―――フルボッコにされた。
「クソがッ……また負けた!」
「また勝ったです~」
やはりこの幼女……一筋縄ではいかないか!
芽衣ちゃんの仇を取るどころか何度も返り討ちにあっているではないかッ!
最初は、芽衣がボコられた格闘ゲームで一矢報いてやろうと考えていた。
しかし、一矢報いる前に俺のハートがハチの巣にされてしまった。
「うぐぐぁぁ……まだ…だぁ……」
「仁ちゃん……。………あっ!」
――ポス
「うん!?」
少し後ろにのけぞりながら天井を見上げて悔しがっていると、あぐらの上に芽衣が移動してきた。
そしてちょこんと座った後、もたれかかるように俺の方を見上げて様子を伺ってくる。
座っても怒られないか確認している……そんな感じを受ける。
でも俺に許可をもらうより先に行動してきたあたり、相当座りたかったのだろう。
ちょっと花音と行動が似ている。
まぁ、別に行動が似てるから問題があるわけではないが……やっぱ似た者同士なところもあるんだな。
甘えたい年頃なのかも知れないが……俺のあぐらには小学生を惹きつける何かがあるのかもしれん。
「……何だ?そこに座りたいのか?」
「うん。ここがいいの~」
「そうか……大人しくしてるならいいぞ?」
「やったぁッ!じゃあ、わたしはここで応援してるの!」
俺が着席を許してやると、芽衣は何だかご満悦な様子となった。
俺の胸板にもたれかかりながら、ゆったりと観戦モードの体勢だ。
因みに、このVIP席―――リクライニング機能付きである。
「それじゃ、次は何に―――」
「…芽衣……ちょっと待つです」
「花音ちゃん?」
「そこは昔からわたしの特等席です。だからわたしにも少しゆずるです」
――むぎゅぅー
今度は花音も俺のあぐらの上に潜り込んでこようとしてきた。
俺のあぐらに幼女2人は乗らない。明らかな定員オーバーだ。
「ここはわたしの~ッ」
「わたしも入れるですッ」
「お、おいやめろ!俺のあぐらの上で椅子取りゲームしてんじゃねぇ!」
ここには男の”聖域”があるんだぞ!!
暴れたらどうなるか分かってねぇのかよ!?
「もうちょっとズレるです!」
「いーやーなーのー」
「こ、こら!?暴れると―――」
――バタバタ
その時、芽衣が駄々をこねるように左手を振り―――
「――ッ!?」
―――その左手が俺の”宝玉”目掛け、落下してきた。
―――ぱちんっ
_人人人人人人人人人人人_
> かいしんのいちげき <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
「ふゥん゛ん゛ッッッッ!!??」
「ッ!?」
「ッ!?」
ッメイイ゛ィィッ!!
「は、はっ…ハスッハスッハスッハスッハスッハスッハスッハス~ッッ!!」
「?…仁ちゃんの呼吸が何だかおかしいの。……だ、大丈夫なの?」
「?…何でそんなに嗅いでるです?興奮してるです?もしかして……あはぁ~!ちょっと密着させすぎたですー」
冗談言ってんじゃねぇよクソ幼女!
興奮なんかしてねぇし!クンカクンカもしてねぇし!!
密着されても嬉しくねぇし!!つかテメェは少し黙ってろ!!
俺は心の中でツッコミを入れつつ、痛みを和らげる呼吸法を続けていく。
すると幸いにも、異常な様子を感じ取った花音と芽衣があぐらの奪い合いをやめたのだった。
と、とりあえずこれ以上被害を拡大させてはならぬッ!
幼女共を左右にどかさなければッ!
――がしっ
「なのぉー?」
――がしッ
「ですぅー?」
うむ!これでよし!
とりあえずあぐらの上はキープアウトだ!
「ねぇ仁ちゃん……何かツラいの?大丈夫なの?」
「あ、あぁ……もう大丈夫だ。ちょっと痛かったけど、あまり気にするな」
「…ぅん?……いたい?」
芽衣は首を傾けながら俺の顔を覗き込んでくる。
恐らく…先程自分が何をしたのか、そして何が起こったのかを理解していない。
ここは俺が保険体育の授業を行い、今後過ちを犯さぬよう是正処置をしなければならないところだが……どう考えても俺が我慢してあげるレベルの事柄だ。
相手はまだまだやんちゃでかわいい小学生。……寛大な心で許してやるとしよう。
「仁、調子が悪いです?」
芽衣が俺を覗き込んで心配する傍ら、花音も同じように俺の顔を覗き込んできた。
真面目に考えさえすれば状況をすぐ理解できるのが花音だ。
流石に俺の心配をしているようだが……根本原因はお前だから、後でお仕置き決定な?
「もうゲームはやめておくです?」
「ふん、俺はまだやれるぞ……再戦だ!」
完全敗北したままで終わるのは癪だからな!
何でもいいから1勝した瞬間、速攻で勝ち逃げしてやる!
「ッ!……ふふん、それでこそ仁です。…なら今度は精神的にやってやるです!!」
そして再度、”俺VS花音”の戦いの火蓋は切られたのだった。
◇◇
俺と花音のゲーム対戦が3度行われた。
だが同じ対戦ゲームでは言うまでもなく、ゲームタイトルを変えても勝ち星を手にする事は出来なかった。
「またまた勝ったです~。仁は弱すぎです~」
「…ち、調子に乗るなよ…クソ幼女ぉ…」
「仁ちゃん…落ち込むことないの。次は一緒に花音ちゃんをやっつけるの!」
花音に負け続け、ナメプまでされた俺に対し、優しい言葉を何度もかけてきてくれる芽衣。
あぐらのまま脱力して落ち込む俺の傍ら―――膝立ちで寄り添い、俺の目を見て健気に応援し続けてくれる。
あぁ…やべぇよぉ…マジ癒されるよぉ…。
お兄さん……何だか元気が湧いてきたよぉ…。
「あっ!元気がでてきたの?良かったの~」
――なでなで
優しい言葉をかけられた後、頭を優しく撫でられた。
純真無垢な激励の数々に俺の心が癒されていく。
うぉォォッ!!可愛らしィィィ!!!
芽衣ちゃんマジ天使ッッ!!!
「さて、そろそろ仁に引導を渡すです!次は仁の大好きな罰ゲームをするです!!」
「――ッこいつ!」
花音は俺を流し目で挑発してくる。
さらに生意気な表情でニッコリと煽ってきた。
こんのリトルデビルめッ!!完全に調子乗ってやがるッ!
ナメプによる精神攻撃だけでは飽き足らず……さらに俺を貶めようとしてくるとはッ!
だがこれは挑発だ。ここでムキになったら奴の思うつぼ……その手には乗るな!
どんなゲームでも俺が大抵負けている……これは負け戦!戦ったら殺られる!だが―――
俺は画面に映るゲーム一覧をカチカチと流しながら策を練ろうとする。
勝利への一縷の望みを信じて考える――――――しかし、一向に名案は浮かばない。
もう残された道は逃げる事しかない…そう思われたその時―――
―――ん?ちょっとまて……ここのゲーム一覧………ッ!
画面切替1回で最大4つのゲームが並んで表示されるメニュー画面。
カチカチと画面を変えていると――――とあるタイミングであることに気付く。
昔遊んだことのある旧タイトルゲームが3つ、よく分からないゲームが1つ表示されている画面があった。
こ、これは…天啓か!?
俺がやったことのあるゲーム3つが……並んでリリースされてるじゃねぇかッ!
クイズゲーム。
レースゲーム。
落ちものパズルゲーム。
そして、よく分からないシューティングゲームだ。
選択されれば有利に戦えるタイトルが3つ。画面確率的に75パーセントで持ち込める!
但し、25パーセントを引かれた時は………それは考えないようにしておこう。
よし!決めたぞ!どう考えても唯一の勝機はここにしかない!!
これはチャンス!しかも千載一隅のだ!
俺が勇気ある一歩を踏み出せるかどうか、試されているとしか思えないタイミング!
天が俺に囁いている……今こそ悪を滅ぼせとッ!!
「どうしたです?やるです?逃げるです?」
「…いいだろう……やってやる!」
「いい返事です!ならゲームを選ぶです」
「そうだな……じゃあ……ここらへんから選んでおくか」
俺はゲーム一覧をカチカチ移動させながら、有利なゲームの並ぶ画面へ、しれっと移動させる。
「いいです~」
「しかし……どれもよく分からないゲームだな。…花音はここらへんだと何のゲームがいい?」
「う~ん……なら……」
クククッ……勝負は既に始まっているぞ?
さぁ選べ!クソ幼女!そこがお前の墓場となるのだ!!
「これです!!」
――ッ!?どれだッ!?
「『マスラオカート~夜64苦~』です~」
うッしゃあッ!レースゲーム!!見事75パーセント当選だ!
さぁこれで勝利が近づいてきた!!この勝負……恐らく俺の優勢だッ!!
このゲームは、違法改造車レースに命を懸ける益荒男達のバトルレースゲームである。
様々な益荒男達が種類豊富な武器アイテムを片手に、あらゆるコースを走破していく。
そして他のライバル達を蹴散らしながら、目的地への一番乗りを目指すのだ!
ルールは簡単。
まずはキャラクターと改造車を選択し、次にタイヤやフレームを好きにカスタマイズしていく。
そして加速装置などの補助パーツと、改造車毎に設定された積載量ゲージ―――それを超えない程度に武器を搭載したらゲームスタートだ。
「よし!俺の改造車が出来た!ジンカスタムの完成だ!いつでも行けるぜ」
「わたしもできたです~。花音号が完成です~」
――パラリラプップゥー
こいつ……改造車に煽りオプションをもれなくつけてきやがった。
挑発用パーツをわざわざつけてくるとは……余裕綽綽かよこの幼女!
「準備は整ったです?」
「あぁ、そうだな」
「わたしが勝ったら今日一日、わたしの奴隷として仕えさせるです!」
「ほぅ…大きく出たな。なら俺が勝ったら………うむ…さてどうしようか?」
「仁は無しでいいと思うです!」
「んなわけねぇだろ!………じゃあ勝ったら5分間仰向けで動くな。指差し棒で突っついてやる!!」
「ッ!?そういう趣味です!?」
「ふん…何とでも言え!テメェには笑死の刑を執行してくれるわ!」
「ッ!上等です!仁はわたしの奴隷です!!」
「クックックッ……勝てれば…なッ!!」
――STRAT――
スタートの合図とともに、各改造車が一斉にスタートした。
俺と花音の改造車は並んで大平原を直進していく。
「早く勝って特製おやつを作らせるですー」
「テメェ…パティシエ奴隷をさせる気かよ!?」
奴隷にするって意味が分かったぜ。俺にお菓子を作らせてパーリィするつもりだな!
だが残念だったな!俺は昔このゲームをやりこんだ!!負けるつもりは毛頭ない!
しかし最初は華を持たせておいてやる。このゲームに慣れていない体を保たなければ悟られる可能性があるからな!
コース前半から中盤まで、花音が少しリードする展開となった。
的確に銃撃し、地雷をばら撒いて進路を妨害してくる。腐っても幼女…やはりうまい。
だが、勝負はいつも後半からだ!俺はまだアイテムの使用回数を残している!
ここからは本気で勝ちにいくとしよう!
だがもしも…奴が俺の予想を超えてきた時は――――
いや、ありえぬッ!そんなことはッ断じてありえぬッ!!
「よし!!ここだッ!!」
レース後半。遺跡エリアの直角カーブ。
アウトコースからドリフトし、回数制限のある加速装置で一気に加速!
花音号を抜いた瞬間にまきびしでタイヤパンク狙い!!ここで勝負をかける!!
「甘いです!」
だが花音も負けじとハンドルを急回転させ、スリップするようにまきびしをかわす。
速度を失った花音号―――しかし、止まる直前に加速装置を作動させ、再スタートによるタイムロスを大幅に減らしてきた。
チッ避けやがった!なんという判断スピード!
しかもカーブ先すぐの対戦車地雷原まで運よく当たらずに走り抜けてくるとは!!
さらにこいつ……加速装置で追い抜いて行きやがった!
まさか俺がここまで接戦に持ち込まれるとは!!
レース終盤。
荒れた大地のコースをアクセル全開で走り抜ける2台。
俺は車3台分の距離を離されながらもなんとか後ろを追随していく。
「あっ!やっとゴールが見えたです!」
谷にかかる狭い橋の向こう側―――――このレースステージのゴールが見えていた。
その橋を先に渡りきられると、間違いなく先にゴールされてしまう。
チッ…まさかこんな最終局面まで接戦を強いられるとはな……。
――ブゥゥン―――ガタガタッ
花音の改造車―――花音号がゴール手前の狭い橋へと先に突入した。
そして俺のジンカスタムも後に続いて突入する。
「ふふん!勝ったです!この橋に入ったらもうわたしは抜けないです!!」
「……あぁ、確かにそうだな。……この橋に入ったら抜けないからな…」
そう……ゴール手前の橋の上まで来たら、もう抜くことは至難の業だ。
橋の幅はほぼ車1台分のスペースしかない。無理に抜こうとしても簡単にブロックされてしまうのだ。
だがそれは、一般論である。この考えは”別の解釈”をすることもできるのだ。
抜くスペースがないから”抜かれない”ということは……避けるスペースがないから”避けられない”ということを。
幼女よ……お前は強い。
だが……どうやら地理がッ理解できていなかったようだなッ!!!
最終兵器―――RPG装填!!
「まだアイテムを隠し持ってたです!?」
「ヒャッハー!当たり前だッ!!これが俺のッ最終兵器よぉ!!」
「でももう遅いです!1着はわたしが―――」
「これが避けられればなぁッ!!落ちろッ!花音号ッ!!!」
――バシュン――――ドゴォォンッ!!
「ぁあ゛あ゛ッ!?」
RPGの直撃により、幼女の改造車がコース外の谷底へと吹き飛んでいく。
谷底からの復帰は大幅ロスとなる為、勝負が決した瞬間であった。
「っしゃぁ!直撃ッ!たぁ~まやぁ~」
「んむ゛ぅぅッ!仁!!卑怯です!!」
「卑怯?ハッハァー!最ッ高の褒め言葉だぜぇぇ!!」
花音は俺の方を向き、悔しそうに頬を膨らませている。
悔しがっているその様子に―――俺はご満悦という他ない!テンションアゲアゲだ!
クソ幼女がッざまぁミロ!!俺はその顔が見たかった!
これが才能ではない……経験の差だ!世の中の厳しさを学ぶがいいわぁぁぁ!!
―――GOAL―――
「フハハハハッ!俺の勝ちだ!!」
「す、すごいの仁ちゃん!!」
「ま、負けた…です…」
見たかクソ幼女!!これが大人のッ勝利の方程式だ!!
そして……クククッいいぞいいぞぉ!ハイハイのポーズで落ち込んでやがるぜ!
「フッフッフッ…さぁ花音!罰ゲームの時間だ!そこのカーペットで横になるがいい!!」
「む゛ぅぅ…」
「どうした花音?できないのか?…まぁ、誠心誠意謝罪するなら…俺の気分次第では許してやらんこともない」
「んぐぅぅぅッ!……に、煮るなり焼くなりッ好きにするですッ!!」
花音は覚悟を決めたのかカーペットの上で大の字に寝転がった。
駄々をこねると思っていたが……中々潔いじゃないか。褒めてやろう。
さて、結構久しぶりだなぁ~。俺がゲス野郎に変身するのは。
俺は突っつき棒と指差し棒を物品置き場の箱から取り出し、花音の方へと振り向いた。
指差し棒は基本教育用の代物だが、俺の手にかかれば別用途でも利用可能だ。
そして二刀流となった俺は早速花音を見下ろす。
大の字の幼女はソワソワとしながらこっちを見ていた。
多分手術台にでも乗せられている気分だろう。
クククッ…この様子、花音風に言えば"まさにまな板の上の鯉ですー"っというやつだな!
「さて、そろそろ始めよう。まずは軽く……」
脇腹を突いてやる。
――ツン
「むぅ…」
お、なんだ?ここが弱いのかこの幼女?
ふむふむ、なるほどなるほど。…ま、知ってるけどな?
だってな?和多海旅行で存分にな?……お前の弱点を…見させてもらってんだからよぉッッ!!
「オラオラオラッ!!」
「あひゃぁッ!く、くすぐったいです!!」
「もっと叫べッ!もっと嫌がれやッオラッ!!」
「あぃやッひゃッやめッ!くすぐったいッでぇすぅッ!!」
お前のワガママはッ!
――ツンツン
この程度でッ!!
――ツンツンツン
許されるものではなぁぁぁいッッ!!!
――ツンツンツンツンツンツーン
「ひゃぁぁぁうッッ!!!」
こりゃいい!日頃のうっぷんが解消される!!
ブーブークッションの100倍は面白いぜぇッ!!
そしてもうッ棒なんてまどろっこしいものは不要だッ!!
テメェはッ!直接ッ!オレノフィンガーでッ!昇天させてくれるわッ!!!
「オラッまだだッ残り3分!悔いろ!媚びろ!詫び入れろッ!」
「きゃうぅッ」
「オラ!反省しろや!」
「ひゃッッッ!ぁひゃッッ―――ッ――」
「オラ!窒息しろや!」
「ゃッ!―――ッゃッ―――ッ――――――」
「オラ!お仕置きじゃァァァ!」
「アンタ……何やってんの?」
「オラ…おら?…おお?おッお嬢ッ!!?」
時計を見ると時刻は午後3時前。思っていたよりも早くお嬢が帰って来ていた。
腕を組んだままこちらを見下ろし、リビングの入口で立っている。
俺は花音の叫び声とあまりの楽しさに、お嬢が入ってきた音に気付けなかったようだ。
「あ、…お、おかえり……今…花音と遊んでいるんだが……」
「私にはセクハラしてるようにしか見えないんだけど。このロリコン奴隷」
「ち、ちがッ――」
「仁さん……最低ですぅ」
えっ!?なんで茜もいるの!?
「じ…じんに……けがされた…です……」
こ、この死にぞこないめッ!なんて言葉を残して逝きやがるッ!!
こいつ深夜番組の見過ぎなんだよ!教育上よろしくないからな!!
「仁くん……ロリコンだったんだ~」
ふぁ!?まじかよ!?凛花までいたんかい!?
やばい!!社会的に俺弱者!!何このリアル四面楚歌!?
「仁、しかもその棒……そんな使い方をする為のものだったの?」
お嬢は俺が花音の脇に突き刺した指差し棒を指さした。
そして、ジトっとした目で俺を見下ろしてくる。……なんだか状況が怪しくなってきた。
「つ、つい魔が差して…刺してしまいました…」
「魔が差してここまでやったの?花音が涎を垂らして死んでるじゃない」
た、確かに……これはちょっとやり過ぎ―――っていや待てよ?
これは花音が仕掛けてきた勝負。そして俺は返り討ちにしただけだ。
よく考えれば俺は悪くない。……別に堂々としても問題ないはずだ!
「……。」
「黙ってないで状況を説明しなさい」
「…ふん、簡単だ。敗者に”死”を、与えてやったまでよ」
「……。…他に何か言うことは?」
「今日は俺がッ正義だッ!!」
俺はお嬢に”勝利の思い”の全てをぶつけてみた。
だがこの選択は完全に不正解だった。
この言葉は届くことなく―――俺は自由を失った。




