8件目 このよろず屋は幼女とのふれあいを大切にしている件 2/7
9月の土曜日。時刻は午前10時。
俺はリビングの椅子に座り、ぼんやりとお茶を飲んでいた。
もう一時間くらいは経っただろうか。
何となく、ゆったりとくつろぎながら、時間を浪費している自分がいる。
「………暇だな」
本日はよろず屋での仕事が一切ない。
それは何故か?改めて思い返してみよう。
朝方、お嬢から言い渡された言葉がある。
”今日は休日にするけれど、できればよろず屋にいてほしい”……だッ!
お嬢から”休日にする”という言葉と、”一緒にいてほしい”というお願いをされたのだ!
最初はお嬢の戯言かと思っていた。
だが、どうやらその言葉は嘘ではないようだ。
今お嬢はリビングのカーペットに座り、お紅茶を飲みながらくつろいでいる。
そしてそのすぐ真横で白猫の凛が丸くなっており、頭を優しく撫でられながらスヤスヤと眠っていた。
よろず屋内を包む穏やかな雰囲気。
静かでゆったりとした時間が流れていた。
俺は何となく椅子から立ち上がり、リビングの窓を開けて外の景色を眺めてみることにする。
するとどうだろう―――
小鳥達が謳い、穏やかな風が癒しを運び、優しい陽光が俺を祝福したのである。
「ふむ、素晴らしい。………これが太平の世か」
今日のよろず屋からは、慌ただしさのカケラも感じない。
仕事も何もすることのない―――穏やかな日常の始まりを予感させる。
むしろ何もない日の方が非日常と化していたこのブラック企業。少々驚きを隠せない。
しかし、やはりこう……何もすることのない時間ができると様々なことを考えてしまうな。
例えば……そう、”何で今日は休日になったのか”とかだ。
今日という日が休日になった理由―――そのいくつかは見当がつく。
最近は受託する仕事量が大分落ち着いてきた事。
そして、お嬢が無理な受託を一切しなくなってきた事だ。
よろず屋に勤め始めた頃と違い、最近は俺の体力を限界まで使われることがない。
労働環境の改善をしているのかは知らないが、少しずつ社員に優しいよろず屋になってきた。
この休日もその一環なのだろう。
無理をして体を壊してはいけないからな。……今まで結構無理をしてきたけど。
それにしても、やっとお嬢も理解してきたようだな!
"ワークライフバランス"の大切さってやつをよぉ!
まぁ、何にせよ……平穏な1日の始まりだ。
部屋で筋トレするもよし!お嬢に一言伝えて、商店街に出かけるもよし!
久しぶりの自由な時間だ!思う存分謳歌しようではないか!
さぁ、考える時間は十分にあるぞ!ふふふ……やはり”休日”は素晴らしい!!
―――ピンポーン
―――ん?誰か来た………宅配か?
土曜日着で届く荷物なんて何かあったっけ?
俺は来客対応をする為、よろず屋の玄関まで歩いていく。
そして鍵を開け、ドアノブを回し、玄関の扉をゆっくりと開けた。
「は~い、どちらさ―――…ん?」
宅配の人が目の前にいる―――俺はそう思って扉を開けた。
だが、そこには誰もいなかった。正確には”俺の視界”に人影が存在していなかったのだ。
……うん、俺……このパターン知ってるわ。
次に俺はゆっくりと視線を下げていく。
そして俺の腰の高さまで視線を下げていくと、毎度おなじみの姿が俺の眼に映しだされた。
「仁、わたしです!」
この瞬間、俺の平穏に終止符が打たれた。
宅配物ではなく幼女の到着。動乱の世の幕開けである。
お嬢……なるほどな。
平和な日常の始まりを期待していたが……幼女の出現で全てを悟ったわ。
「……花音か。今日は何の用だ?」
「今日は友達と遊びにきたです」
「ん?友達?」
玄関扉の反対側―――俺の死角にいた何かがコソッと出てきた。
花音と同じくらいの背丈の栗色の髪の女の子。オドオドとした様子でこちらを見上げてくる。
「…こ、こんにちは……なの」
「…お、おぅ…こんにちは」
ほぅ…この幼女が花音の友達か。ぱっと見は大人しそうな女の子って感じだな。
それにしてもこの幼女……何かどっかで見たことのあるぞ。
「……とりあえず入るか?」
「早く行くです~」
「あっ……お、お邪魔…します…」
俺がよろず屋の中へ招くと、2人の幼女がスタスタと入っていく。
そして、よろず屋に入ってすぐ―――リビングで座っているお嬢と対面した。
「きたですー!」
「花音。…あと芽衣ちゃんね。いらっしゃい」
「あっ!……ひゃいッ!」
お嬢と対面した幼女は、何故か体をビクッとさせた。
だがすぐに右手を胸に当てて深呼吸をし、冷静になってから背筋を伸ばす。
「あ、あの!わたし!利水 芽衣って言います!今日はよろしくお願いします!」
それでも少し緊張気味な様子を見せる。
直立姿勢から頭を振りかぶり、全力でお辞儀をしながら自己紹介をした。
何かよく分からんけど、ガチガチに緊張してやがるな。
さっきのお辞儀も思いの伝わる良いお辞儀だったが、かなりぎこちない。
頭突きで瓦割りできそうだぞ。
「ふふっ…宜しくね芽衣ちゃん。花音からは色々と聞いているわ」
お嬢はそんな緊張気味の幼女に優しく微笑みながら言葉を投げかける。
するとその幼女はその微笑みにホッとしたのか、落ち着いた様子を見せて笑顔になった。
それにしても……花音から色々か。やはりお嬢は知っていたようだな。
それなら俺にも教えてくれればよかったのに。……お嬢は時々連絡が足りないからなぁ。
「あの……あのぉ………執事さん!」
「――ん?」
いつも間にか芽衣と呼ばれる幼女が、真剣な表情で俺を見上げていた。
何だかソワソワして落ち着いていない。何かを言いたそうな雰囲気だ。
「こ、この前のパーティーの時は、助けて頂きありがとうございましたッ!」
両手を前で重ね、丁寧なお辞儀をしている。
よく分からないが、どうやらお礼をされているようだ。
今、この前のパーティーで助けたっていったか?
こんな幼女を?この俺が?それに執事さんって…
あのパーティーでこんな女の子何て――――あっ!いたな。
俺の目の前でこけた幼女が。
確かにあの時、栗色の髪の幼女を助けたわ。
近年稀にみる俺の神対応によってな。
「……お、おぅ…どういたしまして」
「それと…執事さんに会えて、わたしうれしいのッ!!尊敬してるのッ!!」
「――んマッ!?」
ま、マジかよ!?そ、尊敬って!?
でもこの様子…見るからに嘘ではなさそうだ。
この屈託のない笑顔と、嬉しさが溢れんばかりの言葉―――これを嘘だとしたら何が本当だよ!
つか、ファーストコンタクトだけでこの好感度か……あの時の俺は、一体何をしてしまったんだ!?
「あ、あぁ…俺もうれしいぞ?」
「ほ、ほんとに!?よ、よかったのぉ!」
「……ところで俺の名前は”仁”っていうんだが…」
「あっ…はい!」
「気軽に”仁”って呼んでくれていいぞ。執事さんっていうのも…なんだか…なぁ?」
「ッ!?い、いいの?」
ん?そんな親しげにしていいのかって顔をされた。性格は割と控えめなのかも知れないな。
とりあえず礼儀正しいことは分かったぞ。……こっちのゲス幼女とは"幼女としてのスペック"が違う。
「芽衣は気を使い過ぎです。仁はそんなこと屁とも思ってないです」
おい花音、お前が言うな……。
でもまぁ、その通りではあるのだが。
「そ、そうなの?執事さん?」
どうやら芽衣は花音の言葉を鵜呑みにしたようだ。
ある意味花音が芽衣の背中を押している感じである。
それでもまだ勇気が出ないのか、”上目使い”かつ”控えめな態度”で俺の様子を伺ってきた。
仕方がない…ここで俺がはっきりと肯定してやるとしよう。
そうすることで、この子との壁を無くしていくことができるだろう。
「あぁ、勿論―――」
「仁、良いことを思いついたです。ここでいつもの一発芸をやるです」
「――おい花音。何いきなり無茶振りしてんだよ」
「手っ取り早く芽衣と仲良くする為です。得意の顔芸で笑わせて芽衣のハートをわし掴みです!」
「得意じゃねぇし!つか顔芸なんてしたことねぇし!」
花音は俺に無茶ぶりをした後、期待に満ちた様子でこっちを見てくる。
そして、花音につられて芽衣も俺を凝視し始めた。
これから何が始まるのか―――そんな感じの眼差しだ。
「……ったく…」
まさかこの芽衣って幼女……変顔が好きなのか?
花音の友達だから……ありえるかも知れん。
チッ……仕方ない。ここは普通に心のこもった優しい笑顔で語りかけてみるとしよう。
――ニっコォぉぉ
俺は芽衣に語りかけるように、最大限の笑顔を作りながらにじり寄っていく。
多分俺の今の表情は、泣く子も笑うおかめちゃんだ。
とてもフレンドリーな笑顔が作りだされていることだろう。
「ほら?どうだい?」
「それじゃ掲示板に貼られてる危険な奴です」
「通学中によく見かけるの。ちょっと怖いの」
うそッ!?変なのと同類にされた!?違うッ俺ロリコン違うッ!!
つか俺の笑顔って犯罪級だったの!?お嬢の事、何も言えねぇじゃん!
「仁、そんな子供だましの顔は求めてないです。わたしが求めているのは、もっと変顔です!」
「……クソがッ…いいだろう。黙ってそこで見てやがれ……」
どうやら俺を本気にさせてしまったようだな!今度は正真正銘……俺史上最高ッ!渾身の顔芸だッ!
お前がやれっていったんだからな!覚悟しやがれ!
「うお゛ぉぉッ――――ッ」
「うなるだけです?」
「…なの?」
「ででんでんででーん…………般若ァッッ!!!」
―――カッ
「ッ!?ふぇぇッ……」
俺は渾身の般若顏を幼女共に炸裂させる。
すると芽衣は怯えて涙を滲ませ、困り顔で硬直してしまった。
お!?まじかよ……芽衣を怖がらせてしまったぞ!?
ちょっとマジでやりすぎたか…………今後はちょっと自重せねばな。
「あははははッ!!汚い顔ですッッ!」
こっちの幼女は相変わらずかよ!怖がるどころか指さして笑ってやがる!
……つか汚いとか言うもんじゃありません!俺の顔は清潔なんだぞ!
「…まぁ、ちょっと調子に乗りすぎたが……芽衣ちゃん、こんな感じで仲よくやろうぜ」
怯えきらせてしまった芽衣に対し、俺は笑いつつ気軽な態度で語りかける。
すると、徐々に芽衣の表情が和らいでいくのが分かった。
俺の気持ちが伝わったのか、だんだんと緊張がほぐれてきたのかは分からない。
ただ、芽衣との距離を少しだけ縮めることができたような気がする。
初めからこうすれば良かったじゃねぇか。……とりあえず、結果オーライか。
「あっ…うん。……親しくしていいの?」
「あぁ、もう友達だからな?」
不安そうな表情で俺を見上げていた芽衣。
だが、”友達”という単語を聞いた瞬間、不安な感情を一切感じさせない程の明るい笑顔を見せてくれた。
「なら名前で呼ぶの!」
「おう、勿論いいぞぉ」
「えっとぉ…えっとぉ…」
「はははっ。呼び方なんて遠慮しなくてもいいんだぞ」
「…仁ちゃん」
「――ぶッ!!」
おいおいおい…遠慮しなくてもいいとは言ったが……俺に対して"ちゃん"付けかよ!?
呼ばれ方が随分可愛らしくなっちゃったよ!?
でも呼び捨ては流石に難しそうな様子だし………あんまり"ちゃん"とか柄じゃねぇんだが……どうしよう。
「なぁ…”ちゃん”付けは―――」
「あら?良かったわね”仁ちゃん”?凄くいい呼び名じゃない」
「ッ……お嬢……俺を笑い者にしたいのか?」
お嬢が唐突に口出ししてくる。俺を"仁ちゃん"と呼ばせようとテコ入れしてきた。
一応口元に手を当てて隠しているようだが………明らかに俺を嘲笑っている!
「そんなこと―――ぷぷっ……ないわよ?……可愛くて、私は好みかも」
「やっぱ笑ってんじゃねぇか。つか、その顏うぜぇ。マジやめろ」
眉毛を八の字にしてわざとらしく笑ってんじゃねぇよ!
見下すような顔で挑発してきやがって!何がおかしいってんだ!
「あら?"たん"付けするような誰かさんの真似をしてみただけなんだけど?…何か言える?」
「ぐぅッ!?報復だったのかよ……。た、確かに…何も言えねぇ…」
「ふふ、まぁいいわ。からかうのは置いておいて……仁、今日は芽衣ちゃんの執事をしてね」
「はぁ?芽衣ちゃんの執事!?」
「うん、今日は一緒に遊んであげて。お願いね?」
「…ッ……ま、まぁ…いいけどよぉ…」
まさかお嬢から頼まれごとをされる事になるとは思ってもいなかったが……多分こういうシナリオを描いていた気がしないでもない。何でこうなったかを知ってそうだし………一応それだけは確認しておくか。
その後、俺はお嬢に今回の事情を聞いてみた。
するとお嬢から少しだけ事情を聞くことができた。
恐らく花音から聞いていたことだろうが、芽衣は"理想の執事"とやらにエスコートされたいと思っているらしい。
だから今日は日常の中で擬似体験をさせてあげようと考えていたようなのである。
擬似体験させるのは別にいい。
でも日常生活でのエスコートなんて……俺…したことあったっけ?
「それじゃ、私はそろそろ外出してくるから。お留守番はお願いね」
「えっ?お嬢!?今日出かけるの!?朝方”一緒にいてほしい”って言ったじゃねぇか?」
「えっ?仁と一緒にいてほしい!?”よろず屋にいてほしい”とは言ったけど……な、なに変な解釈してるのよ!」
うわッ…マジかッ!?俺の聞き間違いだったの!?
ちょっと意味深な言葉だなぁと思っていたが……まさかこういうことだったなんて…。
「と、とりあえず分かった。んで、…帰りは遅くなるのか?」
「う、うん…少しね。どうしても外せない大切な用事があるの」
「分かった。後は任せろ!」
「うん!後はお願いね」
―――バタン
お嬢は簡単に荷物をまとめると、軽い足取りで外出していった。
今日一日はゆっくりくつろぐのかと思っていたが、まさか用事があったなんてな。
それにしても…大切な用事ね。だから今日が休日になったってこともあるかもしれないな。
さてと…俺は芽衣の執事を仰せつかってしまったわけだが―――うむ、全く以て問題ないな。
大人しい幼女のエスコートなぞ、今の俺にとっては造作もないことよ。
ついでに花音を軽くあしらって………いつも通り適当に遊んでやればいいか。
「あっ!白い猫さんがいるの~!かわいいの~」
お嬢が出て行った後、芽衣はリビングの隅でくつろいでいる白猫を見つけたようだ。
花音と一緒に小走りで近づいていき、白猫の真横でしゃがむと優しく撫で始める。
「ふわふわなの~」
――なでなで
頭から喉元にかけて優しくサワサワと撫でる芽衣。
その手の動きに合わせて、白猫も擦り付けるように撫でられにいっている。
芽衣のやつ…とても幸せそうな表情をしている。それに凛も何だか嬉しそうな様子だ。
特に芽衣の撫で方は優しさに溢れているし……WINWINの関係が構築されているではないか。
「この猫は凛って名前です。誰にでも大人しいから愛で放題です~」
――わしゃわしゃ
「にゃぁ……」
凛の真横から撫でる芽衣に対し、花音は堂々と凛の真正面に陣取ってしゃがんだ。
そして両頬を真正面から捉えた後、両手でわさわさと愛で始めていく。
凛の表情は若干嫌そうに見えなくもない。
だがほとんど抵抗しない為、花音に愛でられ放題にされている。
あの白猫……大丈夫か?顔が変顔みたいな状態にされてんじゃねぇか。
多分あれは……めっちゃ耐えてる感あるな。……優しすぎだぞ白猫野郎。
「かわいいの~」
「んにゃ~」
「ここがイイです?」
「んにゃぁッ!?」
「もっと鳴くですッ!!」
「にゃッんにゃぁぁッ!」
おい白猫……芽衣はいいが、花音に対しては嫌がってもいいんだぞ?
そのクソ生意気な幼女の腹に、渾身のネコパンチでもぶち込んでやれ!
だが、そんな思いは凛には届かず、花音のなすがままに蹂躙され続ける。
一方芽衣は背中や尻尾をサワサワとしていく。それだけで満足そうな様子を見せていた。
流石にネコパンチは炸裂しないとしても……白猫はホントに大人しいな。
でもにゃーにゃー唸りはしたものの…結局逃げなかった。
……ってことは、まさか…実は花音のマッサージ?が気持ちよかったりしてたのか?……やっぱり猫の気持ちはよく分からんわ。
そして数十分後―――リビングの椅子でくつろぐ俺の元に、花音と芽衣が戻ってきた。
満足そうな表情を見せる幼女2人。……だが、カーペットの上にはぐったりとした白猫が転がっていた。
「………満足したのか?」
「満足したです~!」
「かわいかったの~!」
花音と芽衣は無邪気な笑顔を向けてくる。はたからみても上機嫌だと分かる様子だ。
白猫の働きとしては十分な結果であろう。……白猫…よくやった。…あとはゆっくり休むといい。
「仁、そろそろ例の時間です!」
「あん?」
「花音ちゃん、例の時間って?」
「恒例のおやつタイムですッ!」
花音は俺にいつものおやつタイムを要求してきた。
だが、既に時刻は11時を過ぎている。流石におやつの時間ではない。……とりあえず、昼めしが食えなくなるぞって言っておくか。
「おやつ!?待ちわびたの~」
は?…こっちの幼女もおやつ希望かよ!?
俺がおやつタイムを却下し、ランチタイムに変更しようとした矢先、芽衣も花音に乗っかってきた。
芽衣からも感じられるおやつタイム突入要求。
キラキラとしたその目が、俺の気持ちを傾けていく。
花音から何を聞いているかは知らないが……この期待するような眼差しはヤバイ。
それに花音同様、芽衣も味をしめてこないか若干心配になる。
「…でももうすぐお昼ご飯の時間だぞ?…それでもおやつがいいのか?」
「うん!おやつがいいの!」
「そこまでお菓子が食べたかったのか?」
「あっ!うん!だって仁ちゃんは執事だけじゃなくパティシエも完璧にこなしてるって!仁ちゃんのお菓子は凄いって!花音ちゃんから聞いてるの」
「――ッ!?」
ほう…やはり聞いていたか。…俺が作るお菓子の凄さを!
そして…まさか花音が俺の株を陰ながら上げていた事に驚きを隠せない!
これだけ真剣に尊敬の眼差しを向けられるのであれば、俺も全く悪い気はしない。そして、少しぐらいなら期待に応えてやらんこともない。
その点に関しては良い働きだぞ花音。……普段からその気持ちを心がけるのだぞ?
「ついでにシェフもやってるです」
「おぉ~!!」
おいおい…この幼女。花音の俺株操作によってさらに目を輝かせちまってるよ!
何かもう…崇拝レベル?…ったく、俺の株がバブリーしてるよ!!
「因みに奴隷が本務です」
「おぉ~…おっ?」
芽衣の放つ尊敬の眼差し―――そのキラキラした目が丸になった。
首を傾けて不思議そうに眺める芽衣。その表情に不信感が漂い始める。
おいクソ幼女!余計な情報まで公開してんじゃねぇよ!
どうしてくれるんだよこの空気!俺の株がストップ安だよ!
「…ったく、この幼女共は。今あるお菓子はクッキーと……冷蔵庫にムースが2つあるぞ。これでも食っとけ」
俺はこの空気感を変える為、冷蔵庫からムースを2つ取り出してやった。
お嬢と俺の分として作ったやつだが……まぁ別に食べさせてもいいだろう。
「ほらよ」
「わーい!今日はムースです~!」
「あ、ありがとうなの!」
花音と芽衣はすぐにリビングの椅子へ座り出す。
そして一緒に出したスプーンを片手に持つと、小さな容器からムースをすくいだした。
――ス~ッ
――ぱくっ
「ッ!うぅんッ!やっぱり仁のお菓子はおいしいです~」
花音が嬉しそうにムースを一口頬張った。
幸せそうな表情で俺のムースを味わっている。
花音の奴……満面の笑みを浮かべて食ってやがる。
ホント……菓子食ってる時だけは大人しくて良い幼女だな。
「わ、わたしも……」
芽衣も花音の様子を見た後、右手に持ったスプーンで一口分のムースをすくう。
そして、ムースを落とさないように注意しながら、ゆっくりと自身の口の中へと運んでいった。
――ぱくっ――――びくんッ!!
ムースを口に含んだその瞬間、芽衣は目を見開き、体をブルっと震わせた。
スプーンを咥えたままの状態で、喉元以外の動作が完全に止まってしまっている。
――ごくんっ
「芽衣、どうです?仁のお菓子は……やばいです?」
「うん……その通りなの。これは……病気になるのッ!」
えっ!?病気!?もう生活習慣病でも気にしてんのか?
花音のお友達……しかもパーティにも来る程の家庭ってことは……良家のお嬢ちゃんである可能性は大いにある!家によって甘いお菓子を禁止する所があっても不思議ではない!
やっべ…そん時は俺…ご息女にとんでもないもん食わせちまったってことになるじゃねぇか!?
「な、なぁ……もしかして甘すぎたのか?」
「ううん!そんなことないの!あまりのおいしさに感動したの!」
ん?やっぱ考えすぎか?例えそうだとしても……流石にこれは不可抗力だ。
多分芽衣が健康を気にする子だったってことだろう。
それにもしダメだったとしても……食べた証拠は消せるしな。問題ない。
まぁ、一応お菓子の甘さは控えめで作っているが、確かに健康は考えていなかったな。
……今後は健康面も考慮してみるとしよう。
―――ぱくぱくぱく
それにしても……病気になるとか言ってたのに食べるのをやめようとしないな。
つか全部食べちゃう勢いなんだけど?……病気って”中毒になる”って意味だったのか?
その後も一心不乱にムースを食べつづける幼女達。
俺はその傍らで頬杖をつきながら、幸せそうな表情の幼女達を見守った。




