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8件目 このよろず屋は幼女とのふれあいを大切にしている件 1/7


 各地の学校では長い休みが明け、始業式が始まっていた。


 穏やかな風が流れる清々しい天気。

 まだ多少暑さが残る時期ではあるが、少しずつ過ごしやすい気温へと変わっている。



 そして―――



 ここは黒山(こくさん)小学校。花音が通う学び舎である。

 花音の実家近辺に建てられており、よろず屋からは自転車で15分程の距離にある。



――キーンコーンカーンコーン



 とあるクラス。

 始業式後の自由時間。



「花音ちゃ~ん。お久しぶりなの!一緒にお話するの~」


 自席に座り、うつ伏せ状態で脱力している花音に、一人の女子児童が声をかけた。

 花音の隣のクラスに在籍している女子児童―――利水 芽衣(りすい めい)


 夏休み前にも自由時間に会いに来ていた、花音と仲の良い友人である。


「芽衣、久しぶりです。…なんでそんなに元気です?」


 花音は遊びに来た女子児童―――芽衣の方へと顔を向け見上げる。

 そして、元気いっぱいの笑顔を向ける芽衣の様子に、あきれた様子で問いかけたのであった。


「久しぶりに花音ちゃんやみんなと会えたからなの!やっぱり学校は楽しいの!」

「それは良かったです……わたしも会えて嬉しいです…」


 明るい笑顔で話しかける芽衣とは対照的に、脱力した状態で机にへばりついたままの花音。

 そんな微動だにしない花音の様子を見た芽衣は、体調不良なのかと思い心配しだす。



「なんか花音ちゃん…元気なさそうなの。……もしかして体調悪いの?」

「ふっ……9月病です。今は谷底に落とされたような気分です…」


「…9月?…その病気はよく分からないの。…大丈夫?」

「学校好きのいい子ちゃんには分からない難病です。あ゛ぁ~、早く休みになって欲しいですー」



 重力に負けたお饅頭の様に顔を弛ませながら、憂鬱な目で遠くを見つめる花音。

 これから長きにわたり授業の(たいくつな)日々―――そんな望まない日々の始まりを思ってか、憂鬱な雰囲気を醸し出していた。



「もしかして学校嫌いになったの?それとも嫌いな授業でもあるの?」

「んむ?……勉強が好きじゃないだけです。特に算数と社会は眠くなるです。でも理科と図工と……あと体育は好きだから耐えてるだけです」



 芽衣の問いかけに対し、花音は机にへばりつきながら回答した。

 体を動かす授業や好奇心を刺激する授業―――そういう授業は好きだということを暗に伝えている。



「苦手な授業は誰にでもあると思うの。でもわたしは、算数も社会も大切だと思うの」

「いい子ちゃんだけがまじめに受けてればいいです。わたしには将来に役立つ”びじょん”が見えないからどぉーでもいいです」


「花音ちゃん…それじゃ悪い子なの」

「ふっ…悪い子上等です。もしわたしにやる気を起こさせたいなら、まず受けるメリットから諭すことです~」



 花音は不敵な笑みを浮かべながら鼻で嗤い、自分の考えを口にする。

 そして”正論”と言わんばかりに、最後はドヤ顔で決めた。


 常日頃、先生が強要してくるお勉強。

 その不自由な拘束に反旗を翻すような強気な態度を見せていくのであった。


 一方、そんな花音に対し、半分諭す事を諦めている芽衣。

 少し困り顔で花音を見つめ、自身の腰に手を当てながらため息をつく。



「はぁ……花音ちゃんは相変わらずあまのじゃくさんなの。……夏休みの宿題もサボってないか心配なの」

「それはちゃんとやったです。最低限の事はやってるです」



 夏休み前と変わらない様子で会話を楽しむ二人。

 その独特なやりとりはしばらく続いて行った。


 挨拶から始まった会話は宿題の話題となり―――

 ―――やがて夏休みの思い出に関する話題へとシフトしていく。



「―――ところで芽衣は、休みにどこかへ行ったです?」

「えっ…どこ…って?」

「わたしは和多海に行ったです。景色とか料理とか、みんな最高だったです~」

「えぇっ!?……うらやましい……そ、その話聞きたいの!」

「――ッ!…仕方がないです」


――むっくり


 うつ伏せの状態から上半身を起こす花音。

 その表情は”よくぞ聞いてくれた”と言わんばかりの嬉しそうにニヤついた顏である。


 そして芽衣の方に体を向けると、和多海旅行での出来事を身振り手振りを交えながら話し始める。


 初日の煌めく海での出来事。

 二日目の各観光スポットやメロン天国。

 三日目の食べ歩きなどなどなど――――楽しかった思い出を次々と語っていく。


 そんな思い出を聞いた芽衣は、花音の楽しそうな思い出話をのめりこむように聞いていく。

 目をキラキラと輝かせながら、”もし自分が和多海旅行に行っていたとしたら”―――そんな想像を膨らませていった。



「―――ってところです。どうです?うらやましいです?」

「す、すごいの!わたしも!行きたくなったの!!」



 一通り話をした花音は満足そうな様子を見せた後、再度うつ伏せ状態になって机にへばりついた。

 自身の楽な体勢へと戻りつつ、今度は芽衣の方に話題を投げかけていく。



「それじゃあ、次は芽衣の番です~。どこに行ったかを教えるです~」

「う、うん……でも…わたしはほとんど外出してないの」


「芽衣はお家で引きこもりです?」

「ち、違うの!わたしはただ読書に夢中だっただけなの。流行りのミステリー小説―――あっ!」


「ん?どうしたです?」

「そういえば!この前大きなパーティについて行ったの!”しゃこうかい”に初デビューしてきたの!」



 手をポンと合わせ、閃いた様子を見せる芽衣。

 大きな会場で催されたパーティーへ、親と一緒に行った時のことを語りだす。



「それは良かったです。……ちゃんとドジっ子してきたです?」

「ど、ドジっ子じゃないの!わたしは花音ちゃんと違ってしっかりしてるのッ!」



 芽衣は頬を膨らませながら花音の言葉を否定する。

 だが”ドジっ子”属性はとっくの昔に取得済みである。


 そんな鈍臭い自分からの脱却を目指し、いつも頑張っている芽衣。

 そしてデキるお嬢様を目標に、日々懸命に頑張ってはいるものの―――



「じゃあ質問です。……こけたです?」

「――ッ!?」



 ―――現実は想像(りそう)に遠く及んではいなかった。


 その瞬間、芽衣の目が徐々に真横へと泳いでいく。

 そして口を若干とがらせた後、か細い声で意地の反論を行った。



「……こ、こけてな…ぃの」

「むふっ……わたしの目はごまかせないです。やっぱりこけたです!まさにッ嘲笑(ちょうしょう)ものです!」


「あっ!その言葉知ってるの!人をばかにして笑う言葉なの!!」

「知ってたです?流石は優等生です」

「む゛ぅぅぅっ!!」


――ばしっばしっばしっ


 芽衣は花音の背中を片手で叩き始める。

 一方花音は、脱力してだらけきった体に喝を入れられた為、たまらず体を持ち上げて姿勢を正した。



「あ゛ッあ゛ぅっ!!めい゛ィッ!」

「背中にワルイモノがたくさんついてるの~」

「…わ、悪かったです!もうやめるです~ッ」

「うんっやめる!分かればいいの」



 芽衣は花音への制裁(スキンシップ)を止める。

 花音は芽衣の攻撃が止んだことを確認すると、姿勢を正したまま芽衣の方に向き直った。



「そ、それで……こけた後は大丈夫だったです?」

「あっ……うん。こけた時に料理を散らかしちゃったけど、背の高い優しい執事さんが助けてくれたから大丈夫だったの」


「その執事も災難です」

「ホントにそうなの。もう一度会って、お礼を言いたいくらいなの…」



 芽衣は少し俯く。そして自責の念にかられていく。


 大きなパーティーの雰囲気に舞い上がってしまい、色々とはしゃいでしまった事。

 それにより起きた自分の粗相―――その処理を見知らぬ執事に任せっきりにしてしまった事だ。


 一応、頭を下げてお礼は言った。そして謝りもした。さらにその執事からは”気にするな”とも言われた。

 なのでこれ以上の謝罪やお礼は正直必要ないだろう。

 だが、芽衣の気持ち的には、もう一度会ってお礼だけ言っておきたかったのである。



 そしてもう一つ―――会いに行きたい理由があった。



 昔よく見た童話にあったような―――自身の理想を体現したかのような主と執事の在り方。

 豪華絢爛な社交界の中、ほんのひと時と言える短い時間であったが、初めて接した”理想に近い主従の姿”が忘れられなかった。

 そして、その姿は思い出せば出す程に”芽衣の理想”と重なっていき、もう一度会いたいという思いが徐々に募っていったのである。



「いい執事で良かったです。……かっこ良かったです?」

「うん!わたしも早く大人のレディーになって、あんな執事にエスコートされたいの~」


「あははっ、芽衣はいつも夢を見過ぎです。やっぱり脳内乙女です~」

「わ、笑うことないの!その執事のご主人様みたいに、立派でキレイなレディーになるの!」


「その”ご主人様”はキレイだったです?」

「うん!今のわたしの理想なの!」


「むふふッ……ち、ちょっとその理想のレディーとやらを聞かせるです」

「何で笑いながら聞くの?」


「今日のご飯のおかずにするですー」

「む゛ぅぅ……」


―――スゥ…


 突如、芽衣が左手をあげ―――


「冗談ですぅー」


―――花音はすぐに頭を庇って丸くなる。

 いつもと変わらない花音なりのスキンシップである。



「笑うならおかずは提供しないの」

「冗談に決まってるです。とりあえず教えてみるです」

「まず外見は、金色の髪で青い瞳のキレイなお姉ちゃんだったの」

「ふぅ……んッ!!?」



 花音は乙女な雰囲気の芽衣に対する笑いを少しこらえていた。

 だが理想のレディーの回答を聞いた瞬間、その表情が普段の顔に戻っていった。



「?…どうしたの?」

「ちょっとその執事の特徴を教えるです。わたしの知っている人の可能性が出てきたです」



 芽衣は目を瞑り、深く考えるような様子を見せる。

 そしてパーティーで優しく接してくれた――――あの優しい執事の姿を思い起こしていく。


「えっと…黒髪で…」

「うん」


「…背がすごく高くて…」

「うん」


「…目つきが鋭くて…」

「うん」


「じん?って呼ばれてたの」

「うん!?一致したです!」


「えっ!?もしかして…花音ちゃんの知り合いなの?」 


 芽衣への質問を聞き、花音は今の状況を何となく理解した。

 うんうんと頷きながら、自分と仁の関係について話を始める。



「知り合いも知り合いです。仁にはよくお菓子をねだりに行く仲です」

「お、お菓子?」

「仁の手作りお菓子です!仁のお菓子を食べると、衝撃でアゴがガクガクになるぐらいおいしいです~」

―――じゅるりッ


「舌なめずりするほど!?それに花音ちゃん…目つきがやらしいの!……そ、そんなにお菓子がおいしいの?」

「あれはほっぺたが垂れ下がるです。多分人をダメにする成分が入っているです」


「もしかして……花音ちゃんが病気(くがつびょう)になったのは……」

「その食べ物が……一因ですッ!」

「――ッ!」

―――ごきゅんっ



 芽衣は生唾を飲み込み、色々なお菓子の妄想を始めてしまう。

 徐々においしいお菓子の妄想が頭の中を占めていき―――”会いに行く理由”の割合が変わっていったのであった。



「ちなみに、今週か来週にまたよろず屋へ遊びに行くつもりです」

「よろず屋?」


その執事(じん)が働いている場所です。芽衣も一緒に遊びに行くです?」

「えっ!?いいの!?わたしも行きたいの!」


「なら瞳お姉ちゃんにそのことを連絡しておくです」

「ひとみ?…金色の髪のお姉ちゃん?」


「そうです。遊びに行ってもいい日を教えてもらうです」

「わーい!やったの!お菓――じゃなくて、キレイなお姉ちゃんと執事のお兄さんにお礼しにいくの!」


「芽衣の目的はお礼参りだったです?」

「…それ多分意味が違うの」



 その後も花音と芽衣は楽しそうに会話を続けていった。 

 そして9月初週の平日は、割と平和的に過ぎて行ったのであった。


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