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7件目 このよろず屋にお嬢目当ての野郎共が訪ねてきた件 9/9


 貴族を追い返した後、暫く休憩したことで、お嬢と茜の調子もだんだんと戻ってきた。

 よろず屋内の雰囲気が普段通りに近づいてくるのが分かる。


 もう12時か…そろそろ昼飯を用意しないとな。

 多分空腹を満たしてやれば……もう少し気持ちも落ち着いてくるだろう。


―――ピンポーン


 昼食の準備を始めようとした時、誰かがチャイムを押したようだ。

 恐らく凛花が到着したのだろう。俺は玄関まで歩いていき、ゆっくりと扉を開ける。


――ガチャッ


「やぁ仁くん!瞳たんの様子を見に来たよ~」


 玄関前には案の定、お気楽な調子の凛花が立っていた。

 俺に敬礼して挨拶をしてくる。そして―――


「こんにちは。仁さん」


 大きな鞄を持った銀髪の青年が凛花の後ろから挨拶をしてきた。

 見覚えのある青年。パーティー会場で紹介された記憶がある。


 確か名前は……鶴城 綾里(ずじょう りょうり)


「凛花と……綾里じゃねぇか」

「パーティー会場ぶりですね」


 俺は凛花に軽く挨拶した後、綾里とも挨拶を交わす。

 パーティー会場の時と変わらず、友好的な雰囲気だ。


「それじゃ二人とも、とりあえず中に――」


 俺が二人を中に案内しようとした時、アパートの敷地の少し離れた位置に一人の老執事を見つけた。

 ブレのない直立姿勢を保ちながら、優しい眼差しでこちらを見ている。


 どうやら凛花と綾里を見守っているようだ。


「――なぁ…あそこにいる執事は呼ばなくていいのか?」

「はい。僕が呼ぶまでは2階の部屋で待っていてもらう予定です」

「おう、そうか。じゃあ入ってくれ」

 

 俺はその言葉を聞いた後、凛花と綾里をよろず屋内に招く。

 そしてリビングに戻ると、お嬢に声をかけた。


「お嬢。凛花が来たぞ」

「あっ凛花……って…綾里も付いてきたの?」

「はい、お久しぶりです。瞳さん」


 どうやら、お嬢と綾里は知り合いらしい。そこそこ砕けた調子で話をしだした。

 凛花が絡んでいる為、知り合いであることに何の不思議もないが……どういう関係なのかはちょっと気になる。


「とりあえず今からお昼にするが……二人とも食べていくってことでいいんだよな?」

「うん、ご馳走になるよ」

「すみません…ご一緒してしまい…」

「気にすんな。んじゃ、今から作るからちょっと待ってろ」


 俺はキッチンまで行くと、今日の昼食を考え始める。


 さて今日は人数が多いし、一品料理の方が簡単そうだ。

 ……チャーハンにしておくか。


 そしてシェフとなった俺は、皆の昼食を作り始めた。



◇◇



「飯ができたぞ。あとお嬢、これ白猫用のささみだ」

「あっ…うん。持って行くわ」


 俺は人数分の特製チャーハンを作り、皿に分けて出していく。

 そして白猫の分はお嬢に渡し、持っていってもらう。


「ッ!…このチャーハン…パラパラで美味しいですね」

「本当だ!仁くんのチャーハン…すごく美味しい!」

「そうだろ?俺のクッキングスキルは日々お嬢に鍛えられているからな!」


 まぁ、このよろず屋のキッチン火力が異常に高いから可能なパラパラ感ではあるけどな。

 調整が難しく扱いづらいから最初は難儀した。だが、慣れてしまえばこの通りよ!

 今なら中華の名店の真似事も可能だぜ!


「―――うん!美味しかった~!ご馳走さま~!」

「本当に美味しいですね………僕も頑張らないと…」


 凛花と綾里が俺の作った料理を褒めてくれた。

 別に大した料理を作っている訳ではないが…なんかちょっと嬉しい。


 そして俺は、皆の昼食が食べ終わったのを見届けてから、食器の片付けを行った。

 お嬢と茜はカーペットで休憩し、凛花と綾里はリビングの椅子に座って話をしている。


 俺は空いている椅子で休憩するか――っと。ふぅ…疲れた。


「あの…皆さん、少し宜しいですか?」

「ん?」


 俺が椅子に座ると同時に、対面に座っていた綾里が皆に話しかけてきた。

 リビングのテーブル席に集合させて、注目を集める。


 ……何故か凛花だけは、俺の方をじっと見てくるけど。


「今日僕が凛花さんと訪問した理由です。今朝訪問してきた貴族の件で、少し助力をお願いされました」


 やはりその件か。

 雰囲気とタイミングから薄々感じていたが、まさか凛花がこいつを連れてくるとは。


「事情は凛花さん経由で伺っています。華夜という貴族を派手に追い返したとか。瞳さんは報復の心配をされているんですよね」


 お嬢は静かに首を縦に振る。だがその表情は若干不安そうな…陰のある表情をしていた。


「あのぉ…そもそも報復の可能性はあるのでしょうかぁ?」

「絶対とは言えませんが可能性はありますね。”お目当て”かつ”力のない貴族”が相手なんですから…。それに、貴族の世界では珍しくありません」

「ッ!?…おいおい…まじかよ…」


 綾里の言葉には何かしらの重みがあった。過去に見てきたことを語るような口ぶりだ。

 恐らく嘘はついていない。それだけ真剣な表情だった。


「状況は理解できましたか?」

「あ、あぁ……」

「なので、とりあえず一つ……案を提示しましょう」

「案?…何だよそれ?」

「はい。それは―――」


 綾里は一瞬だけ間をおいた。そして―――


「鶴城家の方で”瞳さんを保護する”というものです」


 はっきりとした声で提案した。


「なっ…何だとッ!?」


 予想もしていなかった提案。

 俺は驚いて声を上げてしまった。


「保護ですって!?だったら助力は不要よ。私は私で何とかするわ」

「力もないのにですか?”凛花さんの大切な人”をこのまま放ってはおけません」

「そ、それでも…私はよろず屋にいたいの」

「皆さんが巻き込まれても…ですか?」

「――ッ!?……り、凛花も…そう思うの?」

「そうだね。…少なからずは」


 綾里も凛花もそれだけお嬢のことを心配しての考えなのだろう。

 そしてお嬢は俺と茜を巻き込むかもしれないことを気にしているようだ。


「瞳さん…どうしますか?」


 お嬢は苦渋に満ちた表情で悩み続ける。

 暫く時間が経過しても、その口から回答は出てこなかった。


 お嬢……かなり葛藤しているな。ここは正直に答えてから考えればいいだろうに。

 仕方がねぇ…………少しだけ加勢してやるか。


「なぁ……だったら俺もその貴族のターゲットじゃねぇのか?茜は別に何もしてないが、俺は派手に追い返したんだ……お嬢を保護しても俺は巻き込まれるぞ?ほら、どうするんだ?」

「そうですね。…では仁さんも保護されますか?」

「俺は断固お断りだ。もし報復しに来やがったら全力でぶちのめす!」

「ふふっ……そうですか」


 俺が嫌だと答えると、何故か綾里は笑って反応した。

 まるでその回答が分かっていたかの様な笑み。……一体何を考えているのだろう。


「ではもう一つの案を提示しましょう」

「もう一つの案だと?」

「はい。"僕が代わりに話をつけてくる"という案です」

「――ッ!?話し合いで解決できるのか?」

「助力するだけですよ。それと…タダで助力するとは言っていません。仁さんにはいくつか―――いえ、2つ要望を聞いて頂きます」


 綾里が軽く微笑みながら俺に要望を出すと言ってきた。

 要望内容にもよるが……それでこの問題を解決する方向に持っていけるなら考えてもいいだろう。


「……俺ができる要望ならな。それは何だ?」

「はい、では一つ目です。―――僕と手合わせをしてください」


 俺との手合わせか。まぁ、その程度なら…いいのか?


「……分かった」

「じ、仁!?いいの?」


 お嬢……何困り顔でこっち見てんだよ…らしくねぇ。

 まぁ、お嬢案件だから俺が何かをする必要はないわけではあるが……ほっとけねぇからな。


 それにしても、何故それを要望としてあげたのだろうか。

 俺は少し気になった為、綾里に聞いてみることにした。


「気にするなお嬢。んで……理由だけ聞いていいか?」

「単なる力試しです。僕程度の刺客でさえ退けられないようでしたら……話にもならないですしね」


 なるほど……俺が口だけの男かどうか試そうってことかよ。

 凛花から多少は聞いているだろうが…自分で確かめておきたい性分なのかもしれない。


「では、準備します。外に出ましょうか」


 綾里は自身の鞄を持って外に出て行った。


 俺達も追って外に出ていく。すると、鞄の中から次々と何かを取り出していた。

 シリコンのような防具らしきもの―――頭と両手両足分の一式が並べられている。


「ん?なんだそれは?」

「鶴城家傘下の会社で作られている最新の対衝撃素材で作った防具です。テスト的に実践させてください」


 おいおい……俺に会社製品のモニターにでもなれってか?こいつ……意外とちゃっかりしてるなぁ。

 いや、元々それを持ってきているってことは……初めからそういう落としどころに持っていく気満々だったってことじゃねぇか!


 いや、それはまぁいい…こいつが何を考えているかは知らないが、要望を聞けば協力者になってくれる約束だ。

 そして……俺に勝負を挑んできたことを後悔させてやらねばならん!


 ここでこいつに…俺の力を見せつけてやる!!


「最低限のサポーターをつけたら始めましょう。”降参”と言ったら終了です」

「あぁ、分かった」


 俺は両手両足と頭に防具をつけ、綾里と向かい合う。

 眼差しは真剣そのもの。ピリピリとした空気が漂う。


 それにしても……俺は先日格闘野郎と戦ったばかりなんだがなぁ。

 なんか俺の”割と平和な日常生活”が……バトルストーリーに変わっていってないか?

 あのクソ貴族がラスボスだとしたら……こいつはまさかの隠しボスって感覚だぜ。


「では、始めましょう。………参ります」


―――タンッタンッ――――ダダッッ


 なッ!?はやい!!


 上下にステップをしたかと思った瞬間、綾里が一気に間合いを詰めてきた。

 

 キレの良い左と右のワンツー。意表を突かれた素早い動きに俺は一瞬戸惑ったが、すぐにバックステップで距離を取る。

 だが追撃での左ジャブの連打―――俺は持ち前の瞬発力でかわしていくが、何発か腹部にもらった。


「――ぐぅッ――ッオラぁ!お返しだ!!」


 体勢を崩しつつではあるが、左アッパーからの右ストレートを綾里に叩きこもうとする。

 だが綾里は上半身をしならせながらかわし、追加のストレートもガードされてしまった。


――ドスッボスッボスッ

――バチンッバシッバシンッ


 お互いがお互いを打ち合う乱打戦。拳と蹴りの応酬が至近距離で交わされる。

 だが、明らかに俺の攻撃の多くが見切られていた。受けられ、躱され、流されていく。


 体格は俺の方が上だ。それに膂力も俺に分があるだろう。……だが綾里はそれ以上に戦い慣れている!

 対人戦闘の訓練でも受けてきたかのような動きと胆力………正直これはやりにくい!


「どうしました?それで瞳さんを守るつもりだったのですか?」


 綾里は所々で俺を挑発してくる。俺を試すような言動……恐らくお嬢の事を考えての挑発なのだろう。

 それに打ちだす拳の一撃一撃が重い……真剣な思いまで伝わってくるようだった。


「足が止まってきましたよ?もう終わりですか?」


 もう終わりかだって?それじゃ…まるで”俺の思い”が取るに足らない”偽物”だったみたいじゃねぇか。

 だが”俺の思い”は本物だ!お前の思いがどれだけ重かろうと―――


「終わりなわけねぇだろ!!まだまだ全然ッ軽いんだよォォ!!」

「――ッ!!?」


―――ドゴォッッ


 攻撃を左腕でガードしながら、渾身の右ストレートを綾里へと放つ。

 綾里はそのストレートを左腕でガードする―――だが、その衝撃により、後ろへとバランスを崩してしまった。


「どうだ!!俺はまだ―――」

「――降参です」

「おぅッ!これから……………は?」


 その瞬間、俺は綾里の言葉を理解できずに困惑した。

 両手をあげて構えを解く綾里。その仕草を見た俺はやっと言葉の意味を理解した。


「参りました。仁さんの勝ちですね」

「おい…何でだよ?まだまだピンピンしてるじゃねぇか」


「いえ、ぱっと見はそうかもしれません………ですが、腕は痺れるし腹部にもらった一撃もかなり響きました。なのでこれ以上はやめておきます」

「そ、そうか…」

「威力をそれなりに軽減する素材なのですが……本当に強いですね」


 綾里は満足そうに試合終了を告げた。

 防具を外して鞄にしまい始める。


「まぁいい。これで良かったのか?」

「そうですね。合格です」


 なんか爽やかな笑顔で対応された。

 しかも合格って…やっぱ俺を試すためにわざと挑発してきてるだろこいつ。


「さて、少し疲れましたね。暫く休憩しましょうか」

「あぁ、ならお茶でも出そうか?」

「いえ、自分の分は持ってきています」


 鞄から変わった形の赤い容器が出てきた。

 そしてそれを飲み始める。


―――ごく


 スポーツドリンクでも持ってきたのか?

 なんか奇抜なデザインなんだけど。


「それ…何を飲んでいるんだ」


「プロテインですよ」

「プロテインかよ」


「しっかりとしたカラダづくりの為に飲んでいます。それに美味しいですし」

「そうか。頑張っているんだな」

「はい。でも筋肉がつきにくい体質らしくて…兄さんが羨ましいです」


 兄さん―――確か獅童さんのことだ。

 確かに獅童さんはスーツの上からでもガタイの良さが分かるからな。


 俺達は一旦よろず屋の中へと入り、休憩する。

 そして暫く休んだ後、俺は綾里に話しかけられた。


「では、そろそろ最後の要望を出しますね」

「あぁ、いいぜ」


 綾里が出す最後の要望。固唾を飲んで聞こうとする。

 ただ、凛花だけはカーペットでくつろぎながら、誰かと電話をしているようだが。


「では……カレーを作って下さい」


 ―――ッ!?

 よ、要望がそれかよ!?何考えてんだ!?


 理解の出来ない要望を口にする綾里。

 お嬢と茜の頭の上には、ハテナマークが表示されただろう。無論…俺もだ。


「おいおい……何でカレーを作らされるんだよ!?」


 手合わせはまぁいい…俺がお嬢を守れるかどうか試したのだろう。

 だがカレーを作れとは何だ?お嬢の胃袋を満足させられるかのテストってことか?


「えっと…これは個人的に”仁さんのカレー”を食べ――」

「綾里~。さっき夜生(やおい)さんから連絡あったよ。…ビンゴだって」

「あ……そうですか…。なら仕方がないですね」


 ん?凛花の奴…誰かと電話をしていたようだが…夜生って誰だ?それにビンゴって?


「瞳さん、仁さん、それと恒ま…茜さん。今日はもうお暇させて頂きますね」

「え?どうしたの?」

「ちょっと用事ができたもので。話し合いの件は僕に任せてください」

「う、うん…ありがとう…」

「ということで、ボクも帰るよ。皆、お仕事頑張ってね~」


 綾里と凛花が玄関へと向かって歩いていく。

 凛花は手を振りながら、綾里は”また来ます”と言い残し、よろず屋から出て行った。


 お嬢の助力に来たのだろうが……結局、俺の腕試しが目的だったのか?


「仁、茜。…私達はいつも通り…やるべきことをやりましょう」

「あぁ…そうだったな」

「ちょっと溜まってきてますからねぇ…頑張りましょうかぁ」


 そして俺達はよろず屋内に溜まった書類の処理を始めることにした。



◇◇



 綾里と凛花はよろず屋から外に出る。

 すると、アパートの陰から白髪の老執事が綾里の元へと近づいていった。


「綾里様……夜生からの連絡の件ですが…」

「僕が話をつけます。離れて待機していてください」

「承知しました」


 綾里は老執事に鞄を渡すと建屋の影まで下がるように命じた。

 そして暫く腕を組みながら、アパート敷地内の中心で立ち尽くす。


「それじゃ、そろそろ()()だろうし、ボクは2階の隅で傍観しているよ」

「はい。あとは僕に任せてください」

「うん、任せた。…期待してるよ」


 凛花は綾里の肩をポンポンと軽く叩くと、アパートの2階へと上がっていった。


 アパートの敷地内には綾里だけが残される。

 辺りは平穏。穏やかな風の音のみが聞こえていた。


「……連絡通りですね」


――キキィッ

――バタン


 二台の高級車がアパート前に止まった。車の後部座席から一人の男が車外へと出てくる。


「このボロ屋敷だ!この僕に恥をかかせた貴族の娘と平民がいるのは!」


 一凛の赤い薔薇を胸ポケットに差した青年。仁がよろず屋から叩き出した貴族―――華夜であった。

 車内から出てくるや否や、黒いスーツを着た男達3人に命令し、よろず屋へと向かって歩き始める。


「特にあの平民…この僕の胸倉を掴んだんだ!まずはあの男を見せしめにして―――」

「そろそろ無様な真似はやめたらどうですか?」


 黒いスーツの男達を付き従えながら歩いてくる貴族―――華夜に声をかける綾里。

 この時…華夜とって、"そこら辺の男"は眼中になかった。だが、眼中にない男でも挑発されたということであれば話は別であった。


 その声の方向へと振り向き、睨む。


「誰だ!?この華夜様を無様呼ばわりした無礼者はッ!?」

「はい、僕ですよ」


 綾里は澄ました表情で華夜の行く道を遮り対面した。

 すると華夜は足を止め、"立ち塞がった男"へと文句をつけ始める。

 

「薄汚い低俗市民が!邪魔だッどけッ!この――」

「鶴城家の次男である僕をコケにしますか……良い度胸ですね」


 その言葉に、華夜の言葉が急に詰まる。

 そして暫く顔を凝視した後、みるみる表情が青ざめていくのであった。


「なッお前……鶴城!?何でここにいるんだよッ!?」

「ここに居てはいけませんか?貴方は相変わらずですね」


 狼狽しながらも再び睨み返す華夜。

 暫く二人の睨み合いが続いていった。


「鶴城!僕の邪魔をする権利がお前にあるとでもいうのか?」

「権力を使い邪魔者を排除している自分は棚の上ですか?大きな力があるのであれば、それは正しい方向へと使うべきです」

「分かったような口をッ!!全てにおいて恵まれているお前に何が分かる!!」

「己の私利私欲で権力を使ったことはありません。僕が権力を使うとしたら……まさにこの時だと思っています」


 静かに…そして力強い言葉を言い放つ綾里。

 華夜の威圧に対しても微動だにせず、行く手を遮り続ける。


「お前には関係ないだろ!そこをどけ!」

「関係ありますよ。彼らはもう僕の友人です。なのでもし狼藉を働くようなら……分かりますよね?」


「ず……鶴城ォ…ッ!」

「どうします?これ以上進むなら……僕が相手になりますよ!」


「ぐッ………クソッ………ッ帰るぞッ!!」


 綾里の突き刺さるような冷たい眼光に畏怖した華夜。

 悔しそうな表情を浮かべながら踵を返し、叩きつけるように車のドアを閉める。


――バタンッ

――ブロロロッ


 怒鳴るような声が車内から微かに聞こえた後、高級車二台がよろず屋から去っていった。



◇◇



「―――いやぁ、逆上して綾里を襲ってくるかと思ったんだけどなぁ~。平和的な話し合いで済んで良かった良かった」


 アパートの2階で様子を見ていた凛花は、華夜とのやり取りが終わったことを確認すると、ゆっくり階段を下りてきた。

 軽く冗談を言いながら綾里の元へと近づいていく。


「凛花さん…襲われる可能性のあるプランを考えないで下さいよ。結局、思惑通りでしたけど…」


 綾里は少し困惑した様子で凛花にツッコミを入れる。

 凛花はその様子に笑顔で答えるのであった。


「それにしても、やっぱり”保険”は必要だったね~。鶴城家の権力に助けられたよ」

「いえ…瞳さんは知り合いですし、凛花さんの友人でもありますし…それに仁さんとは約束しましたから」


「とか言って…最初から”話をしてきます”で良かったじゃん。色々要望なんか出しちゃって……その商魂は何とかならないの?」

「なら凛花さんが"保険料"を払ってください。僕は高いですよ?」


「あっ!ボクに請求するんだ?……いいの?またあの時みたいに女装させちゃうよ~」

「お、脅しとか最低ですよ!あれ、”精神修行”じゃないですよね?なぁなぁで連れていかれて…騙されましたよ」


 綾里は凛花に対して不満そうな表情で抗議する。

 過去に弄ばれた記憶を思い出したからだ。


「まぁ、それは置いといて……よくやった綾里!やるじゃん!」

「ちょ、や、止めてくださいよ……」


 凛花に何度か肘でつつかれる綾里。

 肘でつつかれる事に対し、嫌そうな言葉を漏らしながら止めるように訴えかける。


 だがその心は決して嫌がってなどいなかった。

 寧ろ、信頼されて頼られたことに誇りを感じていたのである。


「それじゃ、今日はもう商店街まで行っておこうか」

「まだ早くないですか?」


「早めに向かって挨拶しておこうよ。綾里の大おじ様の傘寿(さんじゅ)のお祝いと、大おば様との金婚式祝いなんだから」

「まぁ…そうですね。商店街までは歩いていきますか?」


「うん、そうしよう!…さぁ行くよ!綾里」

「ふふっ……はい!」


 凛花の歩いていく後を綾里がついていく。そして綾里の後ろを老執事が見守るように付き従った。

 商店街までの短い道のり。その短い道のりを楽しそうに歩いて行った。




◇◇




 8月末。時刻は17時。

 玄関のチャイムが鳴った為、俺は玄関の扉を開けた。


「こんばんわ~。顔を見せに来たよ~」

「すみません……またお邪魔します」


 玄関の扉を開けると、凛花と綾里が立っていた。

 今日はお嬢から、凛花と綾里が立ち寄っていくことを聞いていたので驚きはしない。


「今日来ることはお嬢から聞いている。入れよ」


 俺はよろず屋の中へと二人を招き、リビングの椅子へと案内した。

 そして、俺、お嬢、茜が椅子に座ると綾里が話を切り出した。


「例の貴族―――華夜との話がつきました。今後、手を出してくることはまずないでしょう」

「ありがとう。それと…ごめんなさい。綾里と凛花に貸しができちゃったわね」

「いえ、それは仁さんとの約束でしたから気にしなくてもいいですよ。あと、ついでに瞳さんを狙う貴族を牽制しておきました」


 ついでに牽制って…軽く言ってるが何かすげぇな。

 こいつ……どんだけ発言力を持っているっていうんだよ…。

 

「なぁ……鶴城家ってやっぱ有力な貴族なのか?」

「そこそこですかね?でも家の力には頼っていませんよ」

「ん?…ならものすごい演説でもしたのかよ?」

「いえいえ…大したことは言ってません。普通にパーティで雑談して、ありのままを周囲に伝えただけです」


 おぉ…ご謙遜ってやつか。できる貴族は言うことが違うな。

 それだけでも、お嬢にとっては十分助けになっているだろう。


「小さなパーティーだったので、あまり効果があるとは思えませんが――」


 多少でもいい。あれはもう勘弁だからな。


「瞳さんにはもう決まった相手がいますと―――」


 うんうん。それは………ん?


「あの瞳さんですら心を許した漢が……そして僕も認めた漢が傍にいますと伝えておきました」


 げぇッ!!こいつ……後先考えて物事をしゃべれよッ!

 今それを聞いたお嬢がどんな反応すると思って――――って……あれ?お嬢?


「まぁいいわ……それより皆で一緒に食事にしましょう。仁、今日の料理は分かってる?私は自分の部屋で待ってるから、夕食の準備ができたら呼びにきて」

「あ…おい、お嬢…」

「……。」


 お嬢は特に反応することなく、いつも通りの澄ました表情で席を立つ。

 そして、自分の部屋の方向へと歩いていった。


 何か知らんけど…助かったのか?お嬢が怒らずに立ち去って行ったぞ。


 いや、そういえば綾里は”決まった相手”とは言ったが俺の事だとは一言も言ってない。

 流れ的に俺の事かと思ったが、固有名詞は出してなかったから……まぁ俺の早とちりか。


「それじゃあ、俺は夕食を作るが……また食べていくんだろ?」

「そうだよ。流石は仁くん!分かってるぅ」

「でしたら、今日はお手伝いをさせて頂きます」


 凛花は笑顔のまま回答すると、お嬢の後を追って歩いていった。

 綾里は少し気を使ってか、俺の手伝いを申し出る。


「やらんでいい。そこで待ってろ」

「いえ、待っているだけだと悪いので…」


 綾里は申し訳なさそうにこっちを見ている。あまり頼ることに慣れていないのか?

 こいつ絶対良い子ちゃんだよ……ったく…しょうがねぇな…。


「おいおい…これはお前の要望だったはずだぜ?」

「はい?要望?……え、えっとぉ…」

「まだ話し合いに対する要望を守れてないからな。今から”仁さんのカレー”ってやつを披露してやる。腹でも減らしてそこで待ってろ」

「あっ!!……そうでしたね!」


 凛花と、そして綾里が来るようになって賑やかになってきた。

 だからかもしれねぇ……なんだか少し楽しく感じることが多くなった気がするな。


 ったく…またよろず屋が騒がしくなってきちまった。…困ったものだぜ。



 仁はいつもよりも愉快な気分で夕食を作っていく。

 気持ちのこもった極上カレー。それをよろず屋の仲間達に披露した。


 もうよろず屋に暗い雰囲気は微塵もない。

 いつも通り、いつも以上の、明るい雰囲気に包まれていた。


 そして今日もよろず屋の一日は、慌ただしく過ぎていくのであった。




7件目を読んで頂きありがとうございました。

ブックマークもありがとうございます。


今回は思ったよりも話が長くなりました。(9/9なんて1万文字ギリギリや)

そして予定よりも時間がかかりました(´・ω・)いやぁ長かったわぁ~


でもそれは構成にも校正にも時間をかけたから。これはしょうがない。

それに平日書く時間がとれなかったし。これもしょうがない。


だから、投稿が遅いのはしょうがない( ^ω^ )

はい、だからこれで良いわけです。 ← いいえ、これは言い訳です


さて、次は8件目ですね。10月上旬までには書き上げたい!

……と思っている(ニッコリ


今度は日常的な話に……なるのかなぁ?


また更新した際に読んで頂ければ幸いです。それでは!


★今後のクオリティ向上の為、惜しいところがあれば是非お聞かせください_(._.)_★

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