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7件目 このよろず屋にお嬢目当ての野郎共が訪ねてきた件 6/9


 調教された翌日。

 時刻は午後2時。


 ひと通りの仕事を終えた俺は、ゆったりとリビングでくつろいでいた。

 冷えたお茶を飲みながら一息いれつつ、よろず屋の天井をぼんやりと眺める。


 今日はお嬢から俺に割り振られた仕事がやけに少なかった。

 お嬢と茜はまだ働いているようだが、こんなことは滅多にない事だ。


 お嬢が何かしら調整をしたのだろうか?はたまた閑散期にでもなったのだろうか?

 俺にはよく分からないが、どちらにしろ穏やかな日になりそうだ。


―――ピンポーン


 俺がゆったりと休憩していると、玄関のチャイムが鳴った。

 突然の来訪者。嵐の予感がする。


 まさか貴族か?今日の午後に貴族が来るってお嬢が言ってたからな。


 俺は若干緊張しながら玄関に向かう。

 そして鍵を開けた後、ドアノブを回して少しだけ扉を開けた。


―――ガチャッ


「…はい?」

「わたしです」

「なんだ、幼女か」


―――バタンッ


「――ッ!?なんで閉めるですッ!!仁は鬼畜生ですッ!?」


―――ドンドンドン


 何となく扉を閉めたら幼女がノックをし始めた。

 実に騒がしい幼女である。……仕方ないからそろそろ開けてやろう。


―――ガチャッ


「……入ることを許す」

「許されなくても入るです~」


―――トタトタ


 花音が何食わぬ顔でよろず屋内に入っていった。

 そして、背負っていた可愛らしいリュックサックをリビングに置くと、中をゴソゴソと漁り始める。

 

 来訪者はまさかの幼女。警戒して損したぜ。

 貴族は貴族でも幼女なら比較的無害。ただ騒がしいだけだし、お菓子をつっこんでおくと静かになる。


 つかお嬢。幼女が遊びに来るなら教えてくれよ。

 どうせメールでやり取りしてたんだろ?緊張の糸が途切れちまったぜ。


「花音ちゃん、いらっしゃい。また自転車でここまで来たんですかぁ?」

「そうです!でもちょっと遠いので疲れるです~」


 花音の実家からよろず屋までは、俺が自転車で走っても20分くらいかかったはずだ。

 この幼女の場合はもうちょっとかかるだろう。……どれだけ遊びに来たいんだよ。


「花音、今日は何しに来た?何度も言うが、ここは幼女の遊び場じゃねぇぞ」

「今日は遊びじゃないです。宿題のラストスパートをしに来たです」

「あぁ、そういえば花音はまだ夏休みか。休みの宿題があるんだったな」


 そう、もうすぐ8月も終わりだ。そして花音の夏休みも同様である。

 小学生は夏休みの宿題というものがある。どうやらそれをまだ残しているらしい。


「だからちょっと教えるです!」

「お嬢、花音が何か言ってるが?」

「仁が教えてあげればいいわ。アンタ暇でしょ?」

「お、おぅ……そうだが…」


 お嬢はPCとにらめっこしたまま花音の手伝いをしろと言ってくる。

 花音が来ても全く驚かないあたり、多分来ることを知っていたのだろう。

 それに、花音に対しては"いつでも遊びに来ていいよ"って感じだ。


 お嬢…もしかして、今日の俺の仕事が少ないのはそういう事なのか?


「なら決まりです!仁がわたしに教えるです!」

「仕方ねぇ……だが期待はするな。計算問題とかならいいが、自由研究とか読書感想文みたいなものは自分でやれよ」

「それはもう友達とやったです。今は計算問題が問題です!」

「ならいい。それをとっとと終わらせるぞ」


 俺はよろず屋のリビングにあるホワイトボードを出して宿題の問題をサポートしてやる。

 小学生のやる問題―――それくらいなら俺でも容易い。……と思う。


 俺はよろず屋にあるホワイトボードを取り出し、花音の宿題を教え始める。

 小学3年生の計算問題など俺にかかれば………ん?単位の問題?分数の計算?


 流石にできるわ!舐めんなよ!!


 そして俺は、分からない箇所と間違えた箇所を花音に教えていった。



◇◇



 お勉強タイムを開始してから約1時間が経過した。

 だんだんと自身の集中力が切れてくるのが分かる。


「仁…もう疲れたです。……お菓子成分が足りないです~」

―――チラッ


 花音が問題を解くことを止め、俺にお菓子をねだってきた。

 足をばたつかせながらこっちを見ている。キラキラとしたポメラニアンの様な目だ。

 

 そんな目で俺を見ても無駄だ!俺はもう…お菓子程甘くはない!


「ねだる前にやれ。もうちょっとで終わるだろ」

「食べなきゃこれ以上できないです~」

「ほぅ…ワガママな幼女だ。どうやら躾が必要のようだな」


―――ガサゴソ


 俺はよろず屋の物品置き場に入っていた突っつき棒を取り出した。茜の学園祭戦利品その2だ。

 先端には白く柔らかい弾力を持った手が付いており、プニプニした人差し指が真っ直ぐ指されている。

 突き刺すとこそばゆい代物だ。


「躾は要らないです~お菓子が欲しいです~」

「考えが甘い!オラ!さっさとやれや」


―――ツンツン


「ッ!!仁やめるッですッ!こそぐッたいッです!」

「仁、花音と遊ぶのは良いけど、ちゃんと宿題させなさいよ」


 お嬢がお茶を飲みながら落ち着いた表情でこっちを見てくる。

 花音が嫌がっていない様子を見てか、特に止めようとする気配はない。


 そう、これはイジメじゃねぇ。教育的指導だ!……半分以上お遊びだけど。


―――ツンツン


「やめるッですッ!しゅーちゅッッ!できないッですッ!!」

「始めから殆どしてねぇだろ!甘えたこと言ってんじゃねぇ!」


―――ピンポーン


「…ったく…次は誰だよ」


 俺の幼女遊びを邪魔しやがって。


 俺は仕方なくよろず屋の玄関まで歩いていく。

 そしてドアノブに手をかけ、扉を開けた。


「……はーい。どちらさ―――ッ!!?」

「植野瞳の家はここかい?」


 ムエタイでもしてそうな格闘家が玄関前に立っていた。

 後ろにセコンドっぽい執事がおり、どう見ても雰囲気が普通じゃない。


 よろず屋は基本何でも屋だが、格闘ジムまではやってねぇぞ。


「……ここはよろず屋『森羅万象』です」


「お前さん……嘘はいかんぜ」

「いや、嘘ではないんだが……」


 俺はリビングで座っているお嬢の方を向き、アイコンタクトを取った。

 お嬢がこくりと頷いた為、俺は玄関の扉を開けて中に案内する。


「お嬢、お客様だぞ」

「お邪魔するぜぃ」


 よろず屋の中へとあがる格闘家とセコンド。

 とりあえず俺はリビングの椅子までご案内し、茜がお茶を出して歓迎する。


 その後、花音の傍に戻り、広げていた教科書やノートを片付ける。

 花音の教育は一時中断だ。流石にこの雰囲気で勉強は教えられない。


 そして花音と茜は、カーペットが敷かれたリビングの隅へ向かうと一緒に座った。

 どうやら一緒に見守ることにしたようだ。


 なら…俺もそっちで見守ることにしようかな。


「……。…仁?あれは誰です?」

「ん?アイツは……お嬢を付け狙う輩の一人だ」


 俺と花音はリビングの隅でコソコソと話をする。

 一方、お嬢と対面して座った格闘家風の男は、お茶をグイッと飲み干すと、お嬢と会話を始めていた。

 お互いに挨拶をし、色々と話をしているようだ。


「それで……俺の物になる気はないかい?」

「ごめんなさい。その気はないわ。私にはもう、そこにダーリンがいるから」

「ほぅ………まさか例のイケすかねぇ執事野郎とは…」


 格闘家らしき野郎が俺の方を見た。

 確か俺に気があるって言ってたな………ソッチの気じゃないらしいけど。


「そうよ。執事でもあり、私のダーリンでもあるの」

「目つきの悪いあんなヒョロ男よりも俺っちの方がいいだろう?男は強さだぜぃ!瞳ちゃん見ろよ!」


――ムキーんッ


 お嬢に対して筋肉で語りかける格闘野郎。

 鍛えられた二の腕を存分にアピールしている。


 なんだよ……俺もそれぐらいなら鍛えられてるぞ。

 俺は日々ダンベルと遊んでいるんだ!大切な俺の…友達だからな!!


「仁は強いわよ。もしかしたらあなたよりも」

「ほう…このヒョロ男が俺っちよりも強いと?瞳ちゃんは冗談が上手いぜぃ」


 黙っていれば言いたい放題言ってくるな。

 ヒョロ男じゃなくて細マッチョと言ってくれ。

 いい加減にしないと俺も筋肉で語るぞ?………まぁ、恥ずかしいからやらないんだけれど。


「仁、瞳お姉ちゃんが不機嫌です」


 突然、一緒に座っていた花音が俺の傍に近づき、耳打ちをしてくる。

 お嬢が引きつった笑顔でお引き取り願っている様子を見て、徐々に状況を察し始めたようだ。


「そうかもしれないな」

「あれは何しに来たです?もしかして敵です?」


 まぁ、敵といえば敵かもしれない。

 それをこの状況で判断できるとは、中々空気が読めるじゃねぇかこの幼女。


「そうだな。俺とお嬢の敵だ」

「なら、さっさと追い返すです!!」


――ザッ


 ――えっ!?


 幼女が勇猛果敢に歩き出していく。

 そして堂々とその双眸に野郎を捉えるのであった。


「んん?何だぃ?小さなレディー」

「瞳お姉ちゃんは忙しいです。なのでそろそろお帰り願うのです」


 おぉ、それっぽい理由をつけて帰らせようってか。

 幼女にしては中々良い判断だ。ちゃんと諦めさせてから帰らせるんだぞ~?


「まだあまり話せてないんだぜぃ。これから俺っちの武勇伝を―――」

「別に聞いてないです。さっさと帰るです!」


 うぉぉッ!?今度は啖呵をきりやがった!!

 味方になるとやっべぇなこの幼女!思った事をハッキリと言い放ちやがった!!

 頼もしくもあるがお兄さん…心配になっちゃうぞ…。


 それにしてもお嬢……花音をなかなか止めないな。


 普段のお嬢ならそろそろ止めているはずだ。

 だが今はまだ無言を貫いている。考えている人のポーズで様子を伺っている。

 

「小生意気なままじゃだめだぜ小さなレディー。まぁ聞いとけぃ」


 格闘野郎は花音の啖呵を意に介さず自身の話を続けていく。

 一方、軽くたしなめられた花音は少し不服な様子を見せていた。


「この俺っちは鋭すぎるフリッカージャブとハイキックを持ち地元では上位の格闘家なんだぜぃ?やがて俺っちはそこで二つ名を付けられた!!地元では"南東のサソリ"として恐れられているんだぜぃ!」


 自身の武勇伝を誇り気に語っていく格闘野郎。

 聞いているとそこそこ戦い慣れしている感じだ。…武勇伝かと言われるとよく分からんが。


「…それだけです?ガッカリです!」

「―ッ!?何ぃ?」


 突然、武勇伝を聞いていた花音がゲスな笑顔で突っかかった。

 格闘野郎と対峙する花音。そんな花音の様子に茜がオドオドとし始めてしまう。


「仁の方が武勇伝を持ってるです!!」

「何ぃ!?そこのヒョロ男が俺っちよりもだとォ!?」

「そうです。仕方ないから仁のプロフィールを紹介してやるです!」


 えっ…俺の……武勇伝?プロフィール?

 俺…そんなの初耳なんですけど…。


「耳かっぽじってよく聞けです!」


 花音が自信満々に胸を張り、俺の紹介を始めたようだ。格闘野郎もそれを黙って聞いている。

 さて、この幼女はどんな紹介をするつもりなのだろうか。あまり期待してはいないが、ちょっと気になる。


「瞬発力としぶとさは人間やめてるです!ついでに顔芸も人間やめてるです!!」


 おい幼女。何勝手に人間やめさせてんだよ。

 あと遠回しに顔面崩壊させてんじゃねぇ。好きで顔芸はしてねぇぞ。


「仁に付けられた二つ名は"よろず屋のゴキブリ"なのです!!」


 オイコラ幼女ッ!!その二つ名は酷すぎだろ!!

 もっとまともなの考えろやッ!!ゴキブリ扱いしてんじゃねぇッ!!


「これから(ジー)って呼んであげよう……ぷぷっ」


 おいコラパツ金!何一人で笑ってんだッ!!

 ボソッと呟いても聞こえてるぞッ!!俺の名前をいじってんじゃねぇ!!


「全国で恐れられる逸材です~」

「ほう……恐れられる程の逸材だったのかぃ」


 いや、別に俺は恐れられてねぇよ。

 恐れられてんのはゴキブリの方だ。間違えんな。


「ならば俺っちと戦おう。俺っちに勝てれば諦めてこの場を立ち去ってやるぜぃ」


 格闘野郎が自信満々に戦いを申し込んできた。

 ”俺っちに勝てるはずがない”…そう言わんとしていることが何となくわかる表情だ。

 なんかムカついてきた。


「仁、申し訳ないんだけど、頼めるかしら?」


 お嬢が申し訳なさそうな表情で頼んでくる。

 そんなお嬢の頼みを俺は断ることができない。


「仕方ねぇ……やってやるよ」

「なら今すぐ外に出な!準備をするぜぃ」


 そして俺達は格闘野郎の言葉に従い、よろず屋の前の広い敷地に移動した。


◇◇


 俺はセコンド執事が車から取り出した防具一式を受け取る。ヘッドギアやグローブなどだ。

 それを一つずつ取り付けていく。そして全て装備し終えた後、今回の勝負内容を確認していった。


「ダウン、もしくは”参った”と言った方が負けだ」

「分かった」

「俺っちの引き立て役になる準備はできたかい?できたら声をかけてくれぃ」

「いつでもいいぜ。かかって来い」


 俺と格闘野郎が睨みあう中、セコンド執事が間に立った。

 お嬢、茜、花音が少し離れた場所で見守っている。


 さてと、こいつはなかなか強いようだからな。

 油断はしない。始めから本気で相手をしなければ。


「よし…では勝負だ!アタッ!」


―――バチンッ


「ほう、防ぐとはアタッアタッ!」


――バチンッ――バチンッ


「ほう…ヒョロ男のくせになかな――ゴフッ――よくも殴りやが―ガフッ――2度も俺っちを―――グフッ!」

「おい、まだやるか?もう足元がフラフラじゃないか」


「フゥゥゥゥッッ!!お前は俺っちを怒らせた!

 受けてみろ!俺っちの怒りの鉄拳ッ!

 アタッ!ホアタッ!ホァァァァァッッ

 アタタタタタタィダタダいダいだ痛タ痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛ァァッッ――!!」


―――ドドドドドドドドドドドドッッ!!


「仁!もうやめなさい!勝負はついたわ」

「ッ!おっと…ちょっとオラオラし過ぎたようだな」

「ホ…ほわッ…ッだぁ……」


 少し遅れてセコンド執事が試合中止を告げる。

 その瞬間、俺の勝利が確定した。


「結論が出たわね」

「う゛……うぅう゛俺っちは……まだ…」

「あんたじゃ不相応よ。早くお家に帰りなさい」

「ホ……ほぁッ………」


――ブロロロォ――


 格闘野郎はセコンド執事に車まで抱えられ、運ばれていく。

 本日の来訪者対応が完了したようだ。


「終わったわね…仁、お疲れ様」

「あぁ、これで今日の仕事は完了したな」

「まだ終わってないです!仁の仕事はこれからです!」

「あぁ!そういえばそうだったな。さっさと宿題の続きをやるとするか」

「その前におやつ休憩です!3時のおやつがッまだ終わってないです!!」


 そして俺は、お手製のお菓子を用意した後、花音の勉強に付き合ってやった。

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