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7件目 このよろず屋にお嬢目当ての野郎共が訪ねてきた件 3/9


 翌日。時刻は17時になろうとしていた。


「仁、茜、ちょっとこっちに来て。話があるわ」

「ん?何だよ急に?」


 リビングの椅子に座っていたお嬢が、俺と茜に集合をかけた。

 俺は、椅子に座ったまま微動だにしないお嬢の姿を目に映す。その表情は若干陰鬱な様相を呈していた。


 こ、これは……あまり良い話ではなさそうだな。


「えっとぉ……どうしたんですかぁ?」


 台所でお茶を飲んでいた茜がお嬢の呼びかけに反応し、リビングへと戻ってくる。

 そして茜が椅子へ座った所で、お嬢が話を切り出した。


「明日から毎日貴族や有力者が訪ねてくるわ。予定では4人よ。一応おもてなしする方向で動いて頂戴」

「貴族や有力者の方々ですかぁ?…分かりましたぁ」


 貴族や有力者がよろず屋に来るのか。一体何故だ?

 花音や凛花みたいに遊びに来るのか?何かしらの依頼をしに来るのか?……ちょっと想像がつかない。


「因みに目的は、ほぼ私へのアプローチのはずよ」

「へぇ~……え?」

「はぁ~……ふぇ?」


 茜と同時に驚きの声をあげてしまった。


 お嬢目当てで訪れる輩だと!?しかもそれが…直近で4人とな!?

 

「な、なぁ……もしかして昨日のパーティーでアプローチしてきた奴らか?」

「そうよ」

「瞳ちゃんモテモテですねぇ。羨ましいですぅ」

「そんな事ないわ。それに今、私にそんな気はないの」

「そ、そうなんですかぁ……」


 茜は色恋沙汰に関心でもあるのだろうか。

 ちょっとワクワクしてる感じだな。楽しむものじゃないぞ?


 それよりも疑問点がある。確かお嬢はアプローチを断っていたはずだ。

 なのに何でよろず屋に来る野郎が現れるんだよ?


 俺は昨日のパーティーの記憶を思い起こす。

 俺が会場の端っこで黙々と飯を食らっていた時、お嬢は色々な人に囲まれていた。

 特に男からのアプローチが多かったようだが、丁寧にお断りをしていたのを見たのだ。


「なぁお嬢。昨日のパーティーで全員に対して断ってなかったのか?」

「断ったわ。特に紳士的な方は私の気持ちを汲んでくれたし」

「紳士的な方?…じゃあ、これから来る奴らは何だよ?」

「多分だけど、自分と自分の家の事しか考えていない人達。私の気持ちを全く考えてくれてない。少し説明した程度じゃダメだったわ。だから一度会って直接ッ本気でッ断るのッ!」


 なるほどな……お嬢も大変だ。

 あまり嬉しくはないだろうが、人気者は人気者でつらいものだな。


「なら俺は部屋に籠って大人しくしてていいか?」

「それは却下よ!」

「……え?」


 ダメなの?何で?俺を捲き込む気?

 それともまさか……一緒にいてほしかったりする?


「ちょっとアンタに"気がある"人も来るからね」

「なるほど………は?」


 俺目当てとか……え?え?冗談だろ……マジで言ってんの?

 何それおかしい!どういう事?お嬢と……まさか俺のから………いやいやいやッ!!

 それはない!!絶対ない!!それは絶対考えたくないッ!!


「そ、それはちょっとお断りしておいてほしいなぁ……」

「因みに理由は”何か気に食わない”ってことで来るそうよ」

「あっそういう…」

「仁もモテるわね」

「嬉しくねぇよ」


 ()()()の方より安全だけど、()()()の方でも面倒だ。


「瞳ちゃん。他にも何か情報はありますかぁ?いらっしゃる方の噂とか…」

「正直あまりいい噂を聞かない人ばかりね。……もしかしたら私の家柄が目当てかも」

「はわぁ……ドロドロしてますねぇ。何だかドラマみたいですぅ…」

「世の中綺麗事ばかりじゃないからね。ちゃんと物事は自分で判断できるようになりなさい。できないと足もとをすくわれるわよ」

「は、はいぃ!べ、勉強になりますぅ!」


 おいおい……そんなこと勉強させるなよ。

 社会では必要なのかもしれないけどさぁ。


 まぁ、あの世界は割とマジで精神削られる。お嬢のメンタルが強くなるわけだよ。

 昔は贅沢で華やかな暮らしをしてるだけだと思ったが…実際は色々としがらみがあるようだしな。


 俺は少しだけお嬢の手助けをしてやりたくなった。だが、あまり俺がでしゃばる案件ではなさそうだ。

 とりあえず俺は失礼のないように案内することにしよう。基本的にはお嬢が本気で断って終わりになるだろうけどな。


「お嬢、とりあえず断って終わる感じか?」

「断って済めばいいんだけどね。それで簡単に引き下がってくれるかは疑問だわ」

「直接お断りをしても食い下がってきた場合ですかぁ……何か別の手を考えますかぁ?」

「そうね。これから"帰らせる作戦"を考えるわよ!」


 えっ?作戦?いきなり何言っちゃってんのお嬢!?

 確かに事前準備は大切だけどさぁ。


「なぁ作戦はいいが……基本は断って終わりだよな?な?」

「うん。最初はそうする予定よ。でも諦めが悪い場合に備えて何か手を打っておかないと……タチが悪いから」


 タチが悪い…ね。それは貴族あるあるか?

 まぁ、お嬢のお断りに対して強引に切り込んでくるあたり、相当な猛者か自己中だけだろう。


「分かりましたぁ。でも、何がいいですかねぇ…」

「そうだな…」


 俺は頭を捻らせながら真剣に案を考える。

 茜とも意見を交え、あれこれと考えた内容をお嬢に相談してみた。


――ぺちゃくちゃ

――くちゃぺちゃ


「―――ってのはどうだ?」

「それはないわ。力任せじゃだめよ」

「よろず屋の前に塩でも撒いておくか?」

「それで来なかったら苦労しないわ」

「なら……茜効果ってことにして――――」

「わ、私に責任を押し付けようとしないでくださぃぃ……招き猫と違いますぅぅ」


 暫く集団思考(ブレインストーミング)をしても良い案はでなかった。

 課題抽出しても結論まで至らなかった。


 一体どうすれば――――って……まてよ…こういう時こそ逆転の発想だ。


 相手が…じゃない!まずは俺だったらってところから考えればいい!

 俺が嫌になること…よろず屋で……当初あったな………あぁ、お嬢だ。


「―――お嬢の本性を見せれば自然と幻滅して帰るんじゃね?」

「幻滅かぁ……って、それどういう意味かしら?」


 おぅお嬢。ジト目でこっち見んなよ。

 言葉のままの意味だ。他意はねぇ。


「よし、幻滅させる件は保留にしておこう」

「なに話をそらせようとしてるのよ」

「納得のいくもの……難しいですねぇ……」

「ちゃんとした理由付けで諦めさせる良い方法って何かないかしら?」

「もう直接断りまくるしか…それ以外はな――――――いや……あるぞッ!」


 俺の後頭部に一筋の光が走った。

 名探偵が閃いた時に多用してくるあのバックグラウンドだ。

 俺は名案過ぎて思わずニヤけてしまった。


―――にこぉぉ…


「じ、仁さん……不気味な笑顔ですぅ……」

「そ、そうね………でも何か閃いたようだわ」


「クククッ!名案!超名案だぞッ!!」

「早く教えなさいよ、仁」


「”私、女が好きなんですッ”だよッ!これしか――」


「そこの奴隷……腕立て20回」


―――クッソッ(1回)

―――クッソッ(2回)


「もっと良い案出しなさいよ」

「で、でもぉ……そっち方面の考え方もなくはないですねぇ」

「茜?それってどういうこと?」


 どうやら、茜が、いい案を、思いついた、ようだ、なッと!!

 ふぅ、腕立て20回完了だ。とりあえず床に座って聞いてよっと。


「えっとぉ…誰か決まった相手がいるとかどうですかぁ?」

「き、決まった相手?」

「そうですぅ!もう相手がいれば諦めざるを得ないかとぉ」

「ッ!!…そ、そうだわ!確かにそれはいい案かも知れないわね!」


 確かに。結構簡単なことで諦めさせられるじゃねぇか。

 これにてこの話は一件落着。あとはお嬢が―――


 ――っておい待て……。

 その”相手”って……一体誰がやるんだ?


 俺はお嬢の方をチラっと見上げた。

 すると、お嬢もニヤッっとしながら俺を見下ろしてきた。


 オイオイオイ………お嬢がこっち見て笑ってやがるじゃねぇか!

 嫌な予感しかしねぇ!これは絶対巻き込まれるッ!確定パターンだ!!


「アンタ……非常時に私の相方役をやりなさい!」


 ほら来た。思った通りだ。


「俺に彼氏役をやれってことか!?」

「そ、そう……彼氏………”ダーリン”役よ!!」


 ダーリンだぁ?いきなり出来るわけねぇだろそんなもん!

 誰か架空人物でもでっち上げとけよ!


「やめとけお嬢……演技力の保証はできん」

「そこは何とかしなさいよ」

「そういうお嬢はどうなんだよ?」

「少女漫画で学んだわ」

「おい!全然期待できねぇじゃねぇか!」

「な、何とかするからそれはいいのよッ!」


 うわっ…やる気満々かよ。

 本気かどうかだけもう一度確認しておくか…。


「わ、分かった!なら一応最終確認だ。…本当にやるんだな?」

「やるわ!でも一応よ一応ッ!」


 お嬢が少しだけ声を荒げた。

 真剣な表情―――迫真といってもいいレベルだ。


「でもぉ…ダーリン役って一体何をするんですかぁ?」

「うーん…そうね。……とりあえず仁、私を褒めてみて」

「――ッ!?な、何だって!?」

「何でもいいから。ほら、私を見てどう思う?」


 お嬢は少し考える仕草をした後、褒めてみろと促してきた。

 予想外の質問。俺は答えに戸惑ってしまう。


「どうって……お嬢はお嬢だろ?」

「ち、違うわよ。もっとこう…あるでしょ?何かしらの褒める言葉が…」


 ちょっともじもじした仕草を取るお嬢。何を言われるか気にしているのかも知れん。

 面と向かって言うのは正直恥ずかしいが……ここはちゃんと褒めてあげる場面だろう。


「あ、あぁ…凄く綺麗で可愛くてスタイルがいい。あと髪もツヤツヤだ。着こなしも上手いし、それに―――」


「――ッ!そ、そこまで褒めなくてもいいわ!……照れるじゃない…」


 ウオィィッ!!何恥ずかしがってんだよおめぇはよォォ!!

 言われて照れるぐらいなら言わせんなッ!こっちが恥ずかしいわッ!!


「とりあえず外見はまともってことよね?」

「あぁ…そうだな」


 ()()()まともか。よく分かってんじゃねぇか。

 外見だけは完璧だからな。同人の表紙詐欺かよ。みんな騙されてるぞ。



「じゃあ内面は?」

「ポンコツだろ」


 ―――そして俺は、腹筋50回をさせられた。


◇◇


 俺は腹筋50回を終わらせてからお嬢の方へと向き直る。

 つい真顔で本心を漏らしてしまった。今後は少し気をつけよう。

 

「でも悔しいけど仁の言う通り。良いとはいえないわ。だって私、人付き合いが苦手だから」


 人付き合いが苦手でもパーティーであれだけ対応できれば問題はなさそうだけどな。

 一時期のお嬢は異常だったが。

 

「だからかも知れないけど、昔、変な噂を耳にしたことがあるの」

「何だそれ?変な噂ってなんだよ?」

「私を落とす男は誰になるんだろうって……一部の男達のゲームにされてるって噂」


 げ、まじかよ!ゲスすぎだろ!

 お嬢を景品扱いにするとか!考え方が普通じゃねぇッ!


「それは……何かムカつくな…」

「うん。私もそれを知った時は酷く気分を害したわ」


 お嬢がちょっと怒ってる。

 確かにその状況だと普通怒るぜ。


「私はね。ただのステータス扱いなの…」


 何処か遠くを見ながら話をしていく。

 少し俯き、悲しそうな表情だ。その様子に俺も心が痛んでくる。


「それは人としてどうかと思うぜ。俺だったらキレるだろうな」

「私は仁じゃないし、ましてや社交界よ?基本的には常に愛想よく笑っていなければならないの。そうしないとお父様や周りにも迷惑がかかるわ」

「あ、あぁ…確かにな…」


 そうだった。一時の感情で物事を考えてはいけない時もある。

 ただ単純にその場の感情だけで動きたい時もあるだろう。だがその行動が例え正常であったとしても、"正解"であるとは限らないのだ。


「だからいつも頬が疲れてしまっていたわ……だから人付き合いって苦手」


 お嬢の愛想笑いは完璧だ。

 この前のぶりっ子笑顔は最悪だったけど。


「…まぁいいわ。ちょっと話が逸れたけど、とりあえず仁は役を演じなさい」

「分かった。お嬢のダーリンを一時的に演じればいいんだな」

「ダーリン……そうよ!」


 ったく…しょうがねぇな。

 お嬢の奴隷として…じゃなく、よろず屋の仲間として助けてやるか。


「ところでお嬢。役を演じるのはいいが、変な噂が立ったりしないか?」


 俺がダーリン役を演じるのだ。もし噂になったら今以上に俺への視線は厳しくなる。

 執事としてお供をするだけであの視線だ。……俺も少しだけ覚悟を決めねば。


「分からないけどその時はその時よ!」

「……まぁ、だったらいいが…」


 お嬢は特に気にしていないか。良ければそれで良しとしよう。

 俺もその時になったら考えれば……多分何とかなるだろう。


「それじゃ、断る方法の一つとして採用ね。次は嫌われるような行動を考えるわよ!茜!何かある?」

「えっとぉ…そうですねぇ……」


 茜が首を傾げながら悩み始める。

 そして、少しの間の後ハッとした表情をした。

 …どうやら何かを閃いたようだ。


「変態的なことをすれば幻滅するのではないでしょうかぁ?」

「変態的なこと?具体的には何?」

「SMとか…アブノーマルな感じのことですぅ」

「あっそれちょっとだけ知ってる。茜からもらった()()もあるし、とりあえずそれを候補にしましょうか」


 何か変態プレイをしそうな雰囲気なんだが…。マジでそれを検討する気かよ?

 つか茜のアレって一体なんだよ?ロクなもんが出てこない気しかしねぇ!


「と、とりあえず…なんだかんだ大体のプランが決まったな。嫌われるやり方は”幻滅作戦”とでも呼んでおけばいいか?」

「そうですねぇ。あと、一回情報をまとめておきましょうかぁ?」

「じゃあ来訪者の情報を再確認してまとめてみるぞ」


 俺と茜はお嬢からの来訪者情報をまとめる。そして誰をどのように対応するかを少し詰め、メモ用紙に書き込んでいった。


 一人目・・・良家のぽっちゃりお坊ちゃん。

 お嬢の”クールなお嬢様感”がたまらないそうで、直接会いたいそうだ。

 もし断っても食い下がってくるようだったら幻滅作戦で対応する。


 二人目・・・お嬢に会いに来つつ俺のことが気に食わないとか言っている格闘界有力者の息子だ。

 何か格闘技をしている野郎とのことだが……まさか俺に絡む気か?正直ちょっと緊張するぞ?

 とりあえず、こいつも断って食い下がるようだったら幻滅作戦で対応する。

 

 三人目・・・お嬢にベタぼれしている世間知らずの坊主だ。

 恐らくパーティー会場での完璧なお嬢のイメージがこびりついているのだろう。

 コイツに関しては何も考える必要はない。多分お嬢なら大丈夫。

 ……ほっといても、その幻想をぶち壊す。


 四人目・・・我儘かつナルシストな大手花屋の御曹司だ。

 そこそこ有力な貴族である為、本当はあまり無下にはできない。

 だがお嬢曰く女性の誑し込みがひどく、性格も最悪らしいので本気でお帰り願いたいそうだ。

 なのでこいつとは、よろず屋の総力をあげての戦いになる。


 御曹司に対して戦いに挑む際の作戦は”死んだ(オペレーション)魚達の目作戦(・デッドうぉーズアイ)”だ。NOT歓迎フィールドをよろず屋全体で構築することにより、”早くお家に帰りたい”ムードを作りだし、自主的に撤退させる。


「よし、まとまったな」

「それじゃ最後に作戦内容を調整するわよ!」

「お、おう」

「はいぃ」


 そして俺達は作戦内容の打ち合わせを始めていった。

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