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6件目 このよろず屋の大家の孫娘と学園祭に行ってきた件 6/6


 帰りの電車に乗り、よろず屋の最寄り駅まで到着する。

 俺とお嬢と凛花はホームに降り、茜と別れの挨拶をした。


「今日はありがとうございましたぁ。とても楽しかったですぅ」

「喜んでもらえて嬉しいよ。一緒に行ったかいがあった。…それじゃ、またね」

「はいぃ!またよろしくお願いしますぅ」


――――プシュー……バタン


――――ガタンッ―――ゴトンッ


 茜を乗せた電車の扉が閉まり、駅から遠ざかっていく。


 俺達は電車が駅を出ていくまで見送った後、よろず屋の前まで一緒に帰っていった。




「やっと帰ってきた。…今日楽しかったね~」


 凛花はアパートの敷地内に入るやいなや、笑顔でこちらに振りかえった。


「本当に楽しかったわ。凛花!今日はありがとう!」

「こちらこそ。また遊びに行くね」

「うん!」 


 お嬢は凛花と別れの挨拶をし、小走りでよろず屋の中へと向かっていった。


 様々な出し物で手に入れた景品―――特に俺が取った伝説のカレーの素を嬉しそうに眺めながら入っていくのが見えた。


「あ、仁くん!ちょっと待って」

「ん?」

 

 俺もよろず屋へ向かおうとした時、何故か凛花に呼び止められた。


「少しだけ……瞳ちゃんの件で話がしたい。時間をもらえないかな?」

「いいけど……どうした?」


 今日一日の凛花の雰囲気とはまた別―――真剣な面持ちだった。

 それに、お嬢の呼び方が”瞳たん”ではなくなっており、口調自体も真剣そのものだ。


「えっと……仁くんはここで働き始めてもうすぐ4か月くらいだったよね?」

「あぁ、もうすぐそれぐらいになるな」

「雇われた当時の瞳ちゃんと今の瞳ちゃんの雰囲気……大分変わったと思わない?」

「そうだな、大分違う。……ただ、エゲツない事をするのは変わらないけどな」

「あははっ…そうなんだ~」


 まぁ、そのエゲツなさも”本質”(その理由)が変わってきたように感じる。

 昔とは少し違うエゲツなさ…あれはもしかしたら”ツンデレ”というやつかもしれん。


 ……いや、ちょっと深く考えすぎか。やめとこう。


「――それでも、だんだん”元”に戻ってきた。半年前の病んでた時とは違うよ」

「病んでいた時………確か家が大変な時期だったか」

「うん。”困難”を乗り越えようと努力していた時だね。けれど、それでさらに自分を追い込んでしまったんだから……ホント…どうしようもない生真面目ちゃんだったよ…」


 凛花の表情が哀しそうなものに変わっていく。

 過去の出来事を振り返っているようだ。


 心が病んでいた時期のお嬢……最初はちょっと痛い子かな?と思っていた。

 だが、気づいた時には手の内で転がされてしまう状況にされていた。

 お嬢……病んでてもマジ策士だった。


 そして当初は、自身の直感と作業効率を重視して……自分の身すらも削り業務に従事するストイックスタイルだ。

 感情を押し殺して物事にぶち当たっていた感が凄かった。

 正直、今となっては考えられない。

 

「凛花は…お嬢の傍でずっと支えて……見守っていたんだな」

「うん…できるだけ傍にいたさ……。でも、肝心な時に多忙になって、なかなか会いに行けなかったんだけどね」

「なんだよ……凛花も裏で苦労してたんだな」

「ふふっ…仁くんもね。ありがとう。そんなときに来てくれて」

「いや、それは結果として……だけどな」 

「そうかもしれない……でも――」


 凛花は何かを言おうとしたのだが、数瞬の間、言葉を止めた。

 だが、何かしらの決心をしたのか、再度、口を開く。


「―――今日一日でボクは確信できたんだ」

「確信?」

「うん、確信!仁くんも瞳ちゃんを支えてくれていたっていう確信を!!」

「――ッ!!?」


 俺がお嬢を支えていた…か。

 そう言われたのは初めてだな。


 必死に仕事をこなして、真剣にお嬢と向き合って、たまにふざけて怒られて……。

 俺はお嬢とそんな日常を過ごしていただけに過ぎない……。それが真実だ。


「だから……。そんな仁くんだからこそ頼みたい」

「おいおい……俺に一体何を頼む気だよ……今日みたいに無茶なお願いは――――」


「瞳ちゃんをこれからも支えてあげてほしい!」


「―――ッ!!?」


 真剣な口調と表情で言われた……”支えてあげてほしい”…………この言葉を。


「”いきなり何言ってんだ?”って顏してるね……仁くんを信頼して真剣にお願いしてるんだけど…ダメかな?」

「……さぁな。………俺はこれからも、今まで通りよろず屋に勤めるだけだ」

「ッ!…ふふっ……ありがと」


 俺の言葉の意図を理解したのか、凛花は少しだけ安心した表情をする。

 ……照れ隠しにもならないか。

 

「さて、話は終わりか?」

「あ…いや……」

「何だ?まだ何か…懸念でもあるのか?」 

「えっ?えっと…そうだね。……貴族の―――」

「――?」


 凛花は何かを言いかけて言葉を止めた。


「――いや……ただの杞憂……かな」

「……そうか」


 凛花が歯切れの悪い回答をしてきた。

 何かを考えての回答なのだろうが……正直らしくない。


「ごめんね…いきなり変なこと頼んじゃって。……よし、さぁここからが本題だ!」

「今から本題かよッ!」


 俺はつい突っ込んでしまった。

 凛花のマイペースさは変わらずだ……でも、ちょっと和むことができた。


「実はそうなんだ。話が長くてごめんよ~」

「……おう……とりあえず聞くから話してみろ」

「うん。それじゃあ、質問させてもらうよ。……仁くんは、どうしてよろず屋で働き続けているんだい?」

「――ッ!!」


 よろず屋で働く……どうして…って……え?


 凛花の口から予想外の質問が飛び出してきた。

 働く理由―――まさかそんなことを聞かれるとは思いもしなかった。


「それは……どこにも就職出来なかった俺がここで雇われたからだろ?」

「ボクがもっと良い仕事を紹介してあげるって言ったら?辞めるつもりはないの?」

「お嬢との契約がある。だから一年間は辞めるつもりはない」

「そういう建前はいいよ。本心で聞きたいんだ。ここで働いていたいのかどうかを」

「……それは……分かんねぇよ。働きたいかなんて聞かれても……。ただ……多分だが一つだけ……今なら言えることがある」

「うん?……それは?」


 俺は一瞬の間をおき、”心”から”その言葉(本当の気持ち)”を漏らした。


「多分俺は…このよろず屋が好きなんだってことだ」

「――ッ!!」


 凛花の真剣な眼差しは、一瞬だけ丸くなり、だんだんと優しいものへと変わっていった。

 そして、ゆっくりと目を閉じ、安心したような表情を見せる。


「うん。それだけ聞ければ十分さ。ありがとう…」


 凛花は目をゆっくり開き、満足した表情で頷く。

 そして、アパートの階段の方へと向かってゆっくりと歩いていこうとする――――すると


「……凛花……まだいたの?」

「―――えっ?…瞳………ちゃん?」

「…お嬢…」


 お嬢がよろず屋から出てきていた。

 俺が中々入ってこないから様子でも見に来てくれたのだろうか。


 凛花もお嬢がよろず屋から出てきたことに気付いていなかったようだな。

 ……それだけ真剣に俺と話をしていたってことか。


「よく分からないけど……もしかして…また何か心配してくれていたの?」

「―――ッ!?」


 凛花は図星をつかれたのか、表情が驚きに変わる。

 お嬢をずっと見てきた凛花、だがそれは逆もありうるという事だ。

 お嬢も凛花のことをよく見ていたのだろう。


「そう…だね。ちょっと聞こえたのかな?」

「ううん…でも、なんとなくわかった…」


 お嬢は凛花に優しく微笑む。

 そして、恐らく本心を……心からの”声”を凛花に伝えていった。


「……凛花…私はもう大丈夫よ?今は仁もいるし茜もいる……だからよろず屋を始めた頃みたいにつらいことなんて何もない。……だから、凛花まで身を削る必要なんてないの。今まで心配かけてごめん………あと、ありがとう」

「ッ!!……瞳……ちゃん……うん!そうだよねッ!」


 凛花はうっすらと涙を滲ませ、優しく微笑む。

 お嬢も凛花の笑みに対し、とびっきりの笑顔で答えるのだった。


 俺には分からないが…凛花のやつ……うっすらと涙を浮かべている…。

 俺とお嬢の日常とは違う……俺の知らない積み重なった思いがあったのだろう。


 今日、お嬢と楽しそうに笑いあっていたのに………なのに内心、ずっと心配していやがったのかよ。

 ったく…どっちがだよ……”どうしようもない生真面目ちゃん”は…。


 そして、”ありがとう”というその言葉。

 その言葉には大きな意味が込められていたのだろう。

 落ち込んでいた日、泣いていた日、笑っていた日、孤独だった日……いつも支えてくれていたことへの感謝がこもっていたのかも知れない。


 今まで凛花はずっとお嬢を気にかけてきたんだ。あの冷え切った表情をしたお嬢を…いつも…。

 だからなのかも知れないな……最近のお嬢を見て、そして今の言葉を聞いて、何かしらの安心感が込み上げてきたのだろう。


「そういえば仁。そろそろ夜ご飯の時間なんだけど?」

「あッ!そういえば!忘れてたッ!」

「今日はカレーが食べたいわ。伝説の特製スパイスもあることだし!特製のやつをお願いね」

「分かった。すぐ用意する!」


 俺は急いでよろず屋の中へと戻っていく。

 そして、いつもの食材と、伝説のカレーの素を手に取った。


 学園祭…色々あったけど楽しかったなぁ…。それに、凛花ともかなり仲良くなれた。

 今日はいい一日だった……だが、まだ俺の一日は終わっていない。


 今夜はお嬢の大好きなカレーなのだ。それも特製のな!

 伝説のカレーの素でつくるカレー……今からお嬢の喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 今夜のディナーが一日の締めくくりだ!お嬢に最高のカレーを食らわせて感動の涙を流させてやるぜ!

 

 外の天候は徐々に崩れ、雨雲が夜空を覆っていく。

 そんな中、よろず屋でカレーを作る仁の心は、晴れ晴れとし続けていたのであった。


 そして今日もよろず屋の1日は慌ただしく過ぎていくのであった。
















「……ねぇ、瞳ちゃん質問していい?」

「いいけど…何?」

「…例の借金ってまだあるの?」

「いきなりその質問?…あと6千万くらいかしら?」

「先は長いね」

「そうね。…でも、最近はお父様とメールでやり取りできてるし、サポートもお互いにできているから、なんとかなると思ってる」

「なんとかなる…ね。……それは”困難を解決するギフト”で感じたことかな?」

「少しだけね。解決への道筋がなんとなく見えただけ」

「道筋かぁ…どんな感じだった?」

「えっと…途中でなくなることも、見失うこともある糸のような細い筋道。それがいくつも枝分かれしてる。そんな光景…かな?」

「予知夢だったりするのかな?ファンタジーなギフトだよね」

「うん……そうね……」


 瞳はだんだんと暗くなっていく空を見上げた。

 儚げな表情で口を開き、湧きあがる気持ちを、言葉を、溢れさせていく。


「ねぇ、凛花……今だから聞いてほしい」

「うん……聞くよ……聞かせて?」

「……私は今まで何でも一人でこなそうと努力をしてきた。でも、ダメだった。…人の気持ちを考えて、協働して、各々が役割をこなして……そして支え合う……そうしなければ進めないことがある。一人では困難を乗り越えることができない…それがやっと理解できた気がしたわ」

「瞳ちゃん…気づくのが遅いよ…」

「ごめんね……今更だけど……何で気づけなかったんだろうって…思ってる」

「でも、仕方なかったかもしれないね……心が壊れてもおかしくはなかった…」

「う、うん…でもね……仁が、茜が、そして凛花がいてくれた。他にも様々な関わりある人達がいなければ……私は先に進めなかった。どれだけ道が見えていても、一人で解決できることなんて限られている。皆が力を貸してくれたからこそ、困難を解決することができるようになったの」


 瞳は真剣な表情で語っていく。

 凛花は沈黙しながら瞳の様子を見守っていた。


「半年前と比べて、随分心に余裕ができたようだね。……これも仁くんのおかげかな」

「う、…うん…。…私の思いを汲んでくれるし…嫌と言いつつも最後まで付き合ってくれることが多いわ。……今日だって私の我儘を受け止めてくれていたし……だから…」


「だから?」


「……多分…そんな仁が…私は好き…なのかも…」


 瞳は真剣な表情で―――しかし、その表情には自然と笑みが浮かんでいた。

 そして凛花も…その笑顔につられてか、口角が若干上がってしまっていた。


「ふふっ……そっか……」


 凛花は小声で嬉しそうに呟き、笑顔になる。

 そしてそのまま、わざとらしく、瞳の事を煽り始めるのであった。


「――え~?なになに~?仁くんのことが好きだったんだ~?」

「あッ!ち、ちが……人として好きっていうかッその、信頼してるって意味よ!!」

「ふ~ん……なら、そういう事にしておくよ」

「む……む゛ぅぅ……」


 瞳は頬を膨らませ、凛花を睨む。

 今日覚えた不満を表す表現方法である。


「何それ?可愛いなぁ~」

「か、からかわないでよ」

「フフッ……因みに仁くんも”好き”って言ってたよ」

「えッ!?」

「”よろず屋の事が好き”って言ってた」

「――ッ!?…だ、だから、からかわないでってッ…………でも……嬉しいわ…」


 凛花にからかわれ、少し膨れていた瞳。

 仁の本心を聞くことができ、また少しずつ笑顔になっていく。


「………でも、仁くんの雇用契約は1年でしょ?1年間は辞めるつもりはないようだけど、その後どうするかは決めてないってさ」

「そう……でもそれは仁の自由よ。時が来たらその時の気持ちを尊重するわ。…でも、最低1年間は絶対に働いてもらうんだから!そう、これは決定事項よ!」

「う~ん……なんか性格…ツンデレになってきたね?」

「えっ!?性格は前から変わってないでしょ?」

「ふふっ…そうかい?でも、やっぱり変わってると思うよ………良い意味で……ね?」


 夕闇の中、瞳と凛花は楽しげに話し続けた。

 共に過ごし、ただ笑いあっていた……幼少の日々を取り戻したかのように。


「それじゃ、"瞳たん"!今日はおやすみ」

「うん、凛花も!おやすみなさい」


 瞳と凛花は別れの挨拶を済ませる。

 そして、凛花は自室へと戻っていった。


「……。」 


 ―――だが、瞳は暫くその場から動くことはなかった。

 夜空を雲が覆い、暗然たる中、よろず屋の前で一人佇んでいる。


「もう4ヶ月……」


 瞳は4ヶ月間の思い出を振り返る。


 当初、結果ばかりを追い求めていた余裕のない自分の姿……半年前はつらい事ばかりだった。

 だが仁と出会い、過ごしてきた何気ない日常が、徐々につらい気持ちを消していってくれた。


 しかし代わりに、別のつらい気持ちができてしまった。

 それは、大切な"モノ"がいなくなるかもしれないという……不安(つらい気持ち)であった。


「あと…たった8ヶ月……」


 瞳は様々な思いをめぐらせながら、ゆっくりと歩き出す。

 そして、よろず屋の中へと戻っていくのであった。

 

6件目を読んで頂きありがとうございました。


書きたいことを只管に書いていったら長くなりました。

そして、校正が間に合わず…もうできたらUPすればいいや…という暴挙に出ることを決意!(錯乱)


寝る時間を少し削った。日中眠かったぜ。


今回の余談…というか反省点。

校正がてら投稿分を読み直したら、説明不足な点が散見されました。

次回はもうちょっと時間をかけてマシな校正を心がけたいと思います。(マシ程度です)

やはり一日熟成?させてから読み直すと違いますよね。

文章の味がよく分かるよ……うん……ぱくっ……


……雑ッ味ィィィッッ!!



ということで、次はなんと7件目!結構話も進んできました。

そして、新キャラのラフ画も同時進行でやりまッす!


次回8月中旬に更新!(予定)


また更新した際に読んで頂ければ幸いです。それでは!


★今後のクオリティ向上の為、惜しいところがあれば是非お聞かせください_(._.)_★

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