6件目 このよろず屋の大家の孫娘と学園祭に行ってきた件 5/6
俺は4人分の水を売店で購入した後、すぐに引き返し、お嬢達に渡していった。
お嬢達はそのまま木陰で休息し、俺は少し離れた木陰へ移動してから水分補給をする。
やべぇ…それなりに気持ちは落ち着いたが、体がまだまだ元気すぎる!
あれだけ全力で走ったのに体力が有り余ってる……俺の体力ゲージが限界突破している感じだ。
俺はまだまだ火照っている体をクールダウンする為、残りの水を一気に飲み干していく。
―――ゴクッ――ゴクッ――ゴクッ
「…ぷはぁッッ!!水うんめぇ~!」
渇いた喉を潤しながら、少し離れた広場の噴水を眺める。
落ち着いた雰囲気、木陰の涼しさ、そして、閑散とまではいかない程度の絶妙な人通り。
静かで平和なひと時を感じながら安息の時を過ごす。
「―――ちょッ!?嫌ッ!離してよッッッ」
―――ッ!?
平和なひと時から一転、突如、女性の叫ぶ声が近くから聞こえてくる。
元気の出る飲料を販売していた店の方向―――――先程の看板娘の声であった。
おいおい…さっきの看板娘…何かたかられてないか?あいつら……あのゲテモノ飲んで頭でもイカレたのか?
チャラいグループの男7人くらいがゲテモノドリンク店の看板娘を囲んでいる。
行動や言動に全く以てモラルがない。
「いいじゃねぇか?その気があって声をかけたんだろ?」
「ち、違いますよ!!ッ痛いッ放してってッ!」
「ちょっと飲んだだけで頭がおかしくなっちまったなぁ……これどう責任とってくれるんだ?あぁ?」
見た目が危ない男やガタイのいい男らが看板娘の周囲におり、先頭の男が腕を掴んでいる。
男に腕を掴まれた看板娘は抵抗するが、腕を引かれる度に、苦痛の表情を見せていた。
色々と言いがかりを聞いていたが、俺が聞いている限りでは、看板娘の方に非はなさそうだ。
そして、その光景を見た同じサークルメンバーが店から飛び出し、男達に放すよう訴えかけているようだ。だが、男達に聞く耳はなく、解放される気配もない。
なんか…悪者のテンプレートみたいな男達だな…。量産型ザコかお前らは?
つか、周囲に人がほとんどいないし……見て見ぬフリを…俺が出来るわけないよな。…やっぱ行くか。
俺はすぐに駆け出し、渦中に身を投じた。
「―――おい、お前ら何やってんだよ!その娘が嫌がってるだろ!!」
「はぁ?誰だよお前?カッコつけてんじゃねぇよ」
「カッコつけてるかどうかは関係ないだろ!それよりも放してやれよ!!」
「テメェには関係ねぇ。引っ込んでろ」
男達は下卑た笑みを浮かべながら見下してくる。
やはり、看板娘を解放する気はないようだ。
凛花はトラブルがそこそこ起きるって言ってたけど、こういうこともその一つなのだろうな。
つか、今引っ込んでろと言われたが…超絶紳士である俺は、ここで黙って引き下がるわけにはいかねぇんだよ!
「もう一度言うぞ?…その娘をさっさと放せ!」
「なら俺ももう一度言ってやろう。…ボコられたくなけりゃ今すぐ失せろ!!」
デカイ男が失せろと言った瞬間、周囲の男達も笑い始める。
お前一人でどうにか出来るとでも思っているのか?…そう言われている気分だった。
「ハハッ――その通りだぜぇボコられてぇのかよ!独りでしゃしゃり出てきて何い―――」
―――バキィッッ
「ッでぶぅッ!?」
―――――ドッ―――バタン……
「え!?」
視界の外から飛び蹴りを入れて割り込んでくる女がいた。
顎を捉えた飛び蹴りにより、看板娘を掴んでいた男は膝をつき、倒れて動かなくなる。
「ボクの後輩に手を出さないでよッ!」
「り、凛花!?」
視界の外から割り込んできた女は凛花であった。
乱暴に腕を掴んでいた男を一蹴し、看板娘と男達の間に割って入る。
「オイ女ッ!何しやがる!!」
「何って……さっさと放せって言ってるじゃん?だから放させた」
「だからって…いきなり暴行か?どう落とし前つけてくれるんだよ?」
「先に乱暴を働いたのはそっちだからね。今なら謝れば許してあげるよ…。でも、もしまだやるっていうなら…ボクが代わりに相手になるから」
凛花は半身で構え、男達を睨みつける。
だが、その様子を見た男達は謝る素振りは一切見せず、ただ笑みを浮かべていた。
「フハッなんだよ?なんかムカつく女がでしゃばってきたじゃねぇか」
「あぁ、……でも、こいつも結構かわいいじゃん。こっちも連れてくか」
「たしかに。とりあえず大人しくさせてやる」
男達の中から一人、中肉中背のチャラい男が歩み出てきた。
不気味に笑いながら、細い目で凛花を睨む。
「キミからくるの?…さて、できるかな?」
「ははっ…できるぁぁッ」
――ブンッ――ブンッ
―――パシンッ
中肉中背のチャラ男が凛花を殴ろうと飛び掛かる。
だが、凛花は鮮やかに拳を躱し、いなし、下段蹴りを放つ。
――バシィィッッ
「ィイ゛ッッ!」
膝を打ち抜かれた男は苦痛に顔を歪める。
凛花は体勢を崩した男の懐へと潜り、腕と服を掴むと、背負い投げで地面に打ちつけた。
―――ドスンッ
「オマケだよッ!」
―――ドゴッ
地面に叩きつけられ、動けなくなったところにトドメの追撃。
足蹴にされた男はぴくぴくと痙攣し、気絶した。
「ふぅっ…これで2名様ご退場~!!」
「この女ぁ!!」
男達の顔が少しずつ本気になっていった。
仲間の2人がなすすべなくやられたのだ。当然だろう。
というか…凛花……お前強すぎだろ……。
俺、呆然として突っ立っちまったよ!
「俺がこの女を力ずくで抑え込んでやる!!お前ら見てろ!いくぞッオラァ」
ガタイの良い男が前に出て、力任せに凛花を押さえつけようとしてくる。
「やぁぁッッ!!」
「――ッ!?」
―――バシバシバシッ
―――バキッドコッゲシッバシッバキッ
だが、凛花はガタイの良い男にも怯まず立ち向かい、拳と蹴りを叩きつけていく。
そして、その洗練された連撃により、男が徐々にのけぞっていく…のだが――
「ぐぅッ―――効くぜぇ…だが、少し軽いなァァッ!!」
―――ガシッ
ほんの一瞬の間、連撃の間を狙われ、凛花の腕が掴まれてしまう。
「あっ!――くッまだッ!!」
「いや、これで終わ―――」
「おい……」
「ッ!?」
俺は瞬間的に足に力を入れ、男との間合いを一気に詰める。
それと同時に体をねじり、右手に力を込めた後、全力で拳を打ちだした。
―――ドゴォッッッ
「ぐふ゛ぅぅぅッッ!!!」
顔面を正確に捉えた全力ストレート。凛花の腕を掴んでいた手が緩み、解放される。
――ザザザッ
「フンッ!悪いなデカブツ!!ここはお触り…禁止だぜッッ!」
「………ッ…」
―――ドサッ
ガタイの良い男は少しだけ踏みとどまったが、脳震盪でも起こしていたのか、前のめりに倒れ、白目をむいて動かなくなる。
「…ふぅ…倒れてくれたか。…これを卑怯とか言うなよデカブツ。これは喧嘩だ…ルールなんてねぇ」
「助かったよ仁くん。これでご退場3名様だね」
「あぁ。……まだいけるか?」
「うん!まだまだ余裕さ!」
「そうか。ならいい」
俺は少しだけ凛花と顔を見合わせる。
凛花は特に被弾した様子もなく、まだまだ余裕そうな感じで微笑していた。
「………さてと…残りは…」
――チラッ
――チラッ
俺達は残された"男共"の方を向く。
そして、4人全員が臨戦態勢を取っている事を確認した後―――
「…4名様だなッ!」
「…4名様だねッ!」
――ダダッ
――タタッ
――――凛花と同タイミングで走り出し、制圧にかかった。
――バシッ――バシバシッ!
――ドスンッ――ドゴッ!
――ドゴッッバキィッッドスッ
――ドゴッッドゴッボスッ
俺は有り余る体力で力任せに男共を制圧していき、凛花も向かってくる敵をいなしては投げていく。
噴水広場の一角での大立ち回り、辺りには少なからず人が集まっていた。
――パンッ――パンッ
「ふぅ……こんなもんだな?」
看板娘を囲んでいた集団の成敗が完了した。
俺と凛花は辺りを眺め、まだ抗う者がいないことを確認し、気を少しだけ緩める。
「はぁ……疲れた。毎回出てくるんだよね、こういう手合いが」
「イベントの度にか?」
「そうそう。どこから湧いてくるんだか……ほんと物騒な世の中だよ」
「そうなのか……だから―――」
「――今だッ!ずらかるぞ!!」
「―――なッ!?」
まだ動ける奴がいたのか!!
このままでは逃が――
「――ッ!!」
俺は逃げる男共の走っていった方向を振り向いた。
するとそこには、逃げた男共が地面に押さえつけられている姿があった。
どうやら、噴水近くに座っていた数名の男性達がそれぞれ取り押さえたようである。
おぉ……正義感があって勇気のある奴もいるもんだな。
流石、あのゲテモノドリンクを飲んだ同士って訳だ。あいつらも漢だぜ。
「あれ?何とかなってる?」
「なんとかなってるな」
「じゃあ後は任せちゃおうか……ねぇ、そこの方!急いで警備の人を呼んでくださ~い」
凛花は近くのスタッフに警備員へ連絡するように伝えた。
そして、腰を抜かして座り込んでいる看板娘に声をかけ、広場の隅の方まで優しくエスコートしていく。
凛花の人気の理由……少しだけ分かった気がした。
「待たせたね。終わったよ」
凛花がエスコートを終えて戻ってきた。
すると、ひと段落した様子を確認したお嬢と茜は、俺と凛花の元へと近づいてくる。
二人とも心配そうな表情をしていた。
「仁…凛花…大丈夫?怪我してない?」
「お嬢……この程度なら全く問題ない。心配すんな」
「心配かけちゃったかな?ちょっと疲れただけだから安心してよ」
「そう……良かったわ…」
お嬢と茜がホッとした表情になった。
まぁ、外野で見ていたらハラハラするだろうな。思った以上に心配をかけたかもしれない。
「それにしても……凛花の体捌きは綺麗だったな」
「えっ!?…と、突然何さ?そう見えたのかい?」
「あぁ、武術の経験が豊富なんだなって思った。それと、何で人気があるのかって理由も、何となく分かったよ。まるで超人だ。そうだろお嬢?」
「そう、そうなの!凛花はいつだって凄かったんだから!武術は勿論、性格も容姿も頭も良くて人望まである。さらに言っちゃえば貴族のお嬢様でもあるのよ?もう完璧よ!」
俺とお嬢は素直な気持ちで凛花をほめちぎる。
すると、流石の凛花も少し戸惑い、照れるような仕草をした。
「ちょ、調子狂うなぁ……仁くんはそう見える?」
「……お嬢様だけはないな」
「あははっ…そうだね!その通り!」
凛花の雰囲気が柔和なものに変わってくる。
独特のお気楽モードにだんだんと戻ってきたようだ。
「―――へぇ、…お前、やるじゃねぇの」
―――ッ!!
俺のすぐ後ろ…自信に満ちた顔をした男が俺に語りかけてきた。
その男は、ガタイ、眼光、そして佇まいから、かなりの強者であることを匂わせている。
この俺が威圧されている…。
さっきの奴らの仲間ではなさそうだが……ちょっとヤバそうだ…。
「あ、獅童さん!来てくれたんだ」
凛花が獅童と呼ばれる男の方に小走りで近づいていく。
「またド派手にやらかしたな。だがご苦労。後はこちらで処理しておく」
「あ、は~い!」
どうやら凛花の知り合いのようだ。このトラブルの事後処理をしてくれる人なのだろう。
しかし、この男……一体何者なのだろうか。
俺は、この男の素性を凛花に聞いてみることにした。
「なぁ凛花…こちらの方は?」
「うん?この方は鶴城 獅童さん。学園長の補佐を任されている方だよ。そして、鶴城家の次期当主様でもあるんだ」
学園長の補佐?鶴城家?大学がそんな名前だったから………。
「そう言う事だ青年!凛花と共にトラブルの早期解決にあたってくれたようだな!非常に助かった」
「あ、いえ、き、恐縮です!」
「ねぇ仁くん。そこまでは畏まらなくていいよ。このおじさん、見た目は怖いけど優しいからさ」
「コラッ!おじさん言うな!俺はまだ32だ!」
「あははっ!ごめんなさ~い」
凛花の軽口に慣れた様子で返す獅童という男。
凛花とは何かしらの繋がりがあるようだ。
「あらぁ、あの漢…ナイスガイじゃない?」
獅童と呼ばれる男の後ろ、二名の従者らしき存在が控えていた。
その内の一人、レスラーかと思う程のがっしりした男がこっちをジッと見つめている。
何だアイツ?……なんだか俺に対して熱視線?
あいつGAYじゃねぇだろうな…。
マジなら違う意味でヤバイ存在だ……あの目…ガチで狙われている…。
「……ふぅん…強いですね…彼」
ん?もう一人の付き人?メイド女が澄まし顔でこっちを見てくる。
だが、その眼光は鋭く、命を狙われているような気配を感じる。
こっちはこっちでヤバそうだな……。初対面で殺気を放たれてる……俺なんかやらかしたか?
「それにしても獅童さん、到着が早いですね」
「あぁ、それは偶然だ。さっき近場で猫が一匹脱走したらしくてな……人手が足りねぇからって向かわされた。………お前代わりに行けるか?」
「え゛え……今は無理ですよ……招待客がいますし…」
「ん?そうか……ってありゃぁ植野家の…」
獅童と呼ばれる男は少し離れたお嬢の姿を確認する。
そして、そのまま少しだけ思案する様子をみせて、また凛花に視線を戻した。
「……それならいい。こっちで何とかする」
「すみません」
「いや、いい。では、俺はそろそろ行くとしよう。また武道館でな」
「は、はい!」
とんでもないオーラを放つ男が去っていった。
人ごみの中に消えていき、見えなくなったところで俺は大きく息を吐き出す。
「一体何だったんだ?あの3人は…」
「簡単に言えば治安部隊かな?まぁ、獅童さんは雑用に使われているってボヤいていたけど」
「それでも真剣に雑用やってるんだな。……なんか良い人そうだ」
「そうだね。でもそれは仁くんも一緒じゃん!それに良い人ってこともね。多分獅童さんとは色々と似ている部分があると思うな~」
「おぅ…そ、そうか…」
凛花が…俺のことを”良い人”だって認めてくれた。
まだ今日初めて会ったばかりのはずだ……なのにすごく親しくなれたような気がする。
……こいつの性格による部分が大きいのだろうけど。
「……まぁいい、んで、まだどっか回る気か?」
「いや、もう帰ろうかと思ってる。時間も時間だし、雲も多くなってきた。夜には雨になるかもしれないね」
「あっほんとですねぇ……」
「ならもう帰りましょうか。もう十分楽しむことができたしね!」
「うん。じゃあ、ボクについてきて」
俺達は凛花の後をついていき、学園の敷地内を出る。
そして、鶴城女学園を後にした。




