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6件目 このよろず屋の大家の孫娘と学園祭に行ってきた件 2/6


 最寄り駅から電車に乗り、鶴城女学園前の駅で降車した後、なだらかな坂道を歩いていくと大きな建物が見えてきた。


「でっけぇ!これホントに大学かよ!?」


 鶴城女学園はなだらかな山の高台にあり、広大な敷地の中には純白に輝く校舎が堂々と建っている。又、装飾の施された大きな門は煌びやかで、立派な校舎と比べても遜色なく、十分な存在感を発揮している。


「あれが受付ですかぁ?」


 門の奥には来場者用の受付らしき区画が見える。

 どうやらすでに多くの来場客が並んでいるようだ。


「そっちは一般来場者用の受付。生徒招待の受付はもっと奥の方にあるからついてきて」

「うん。分かったわ」

「分かりましたぁ」


 俺とお嬢と茜は、凛花の案内する方へと付いていき、招待用の受付がある広い広場まで移動する。

 すると、一般来場者用の受付とは異なり、若干着飾られた女生徒やその友人のお嬢様、そして付き人らしき人達が並んでいた。


「おいおい…辺り一帯が社交場みたいになってるじゃねぇか」

「そうだね。貴族令嬢ばかりだからそう見える」

「はぁ…き、緊張しますねぇ…」

「と、とりあえず並びましょう」


 生徒招待用の受付列に並んだ後、俺は辺りをひと通り見渡してみる。

 そして、受付をしている貴族令嬢や執事らしき人の行動を確認しておくことにした。


「―――ワタクシの執事ですの。一緒に入場させて頂ける?」

「はい。では従者様のお名前をお願い致します」


――サラサラサラ


「”ツヨシ・D・ジキル”様ですね。…こちらがネームプレートになります」

「ありがとうございます」


 右隣の列の女生徒が受付を済ませたようだ。

 こつこつと高らかな靴音を立てて学園内に入場していった。



「―――ウチの付き人や。一緒に通してな~」

「こちらにお名前の記載をお願い致します」


――カリカリカリ


「”デビト・R・キヨツキ”様ですね。…ネームプレートをお受け取り下さい」

「おおきに」


 左隣の列の女生徒が受付を済ませたようだ。

 小気味よい足音を響かせて学園内に入場していった。



 各受付で申請を済ませたお嬢様達が、執事やメイドにネームプレートを渡し、次々と入場していく。

 今まで見たことのない光景……まるで別世界だ。


「…ッ!…ッ??……ッ!?」

「ん?どうしたお嬢?」

「ッ!…な、なんでもないわよ」


 お嬢が辺りをキョロキョロと見まわしている。

 どうも落ち着きがない様子だ。


「人が多くて戸惑っているのかな。それに他のお嬢様の行動をよく見てるね。何とか皆に溶け込めるよう考えているのかも?」

「ッんな!?」


 お嬢が驚き声をあげた。どうやら凛花の推測は図星のようだ。

 流石は仲の良い幼馴染……お嬢のことをよく知っている。


「あ、やっと受付が空いたようだね」


 遂に俺達の前で受付を行っていた女生徒が入場していったようだ。

 受付の順番が回ってくる。


「行こうか」

「そ、そうね」

「あ、はいぃ」


 凛花が空いた受付の方に向かっていき、その後をお嬢と茜が付いていく。

 そして、凛花が受付スタッフに生徒手帳を渡し、連れ入場の旨を伝えた。


「はい、確認しました。ご招待される方のお名前を記載してください」

「"植野 瞳"…っと」

「"恒丸 茜"……はい、書けましたぁ」

「はい。”植野 瞳”様と"恒丸 茜"様…ですね。そちらの男性の方は?」

「あ、私の執事兼ボディーガードです。一緒にお願いします」


 奴隷じゃなく執事兼ボディーガードか。

 これは…お嬢の期待に応えければならないようだな!


「お名前の記載をお願いします」

「わかりました。……えっと…」


 おっ!お嬢が記載してくれるのか。

 他のお嬢様達も自分の従者の名前ぐらいは記載していたからな。嬉しいぜ。


「…あっ……う~ん…」


 お?どうしたお嬢?ペンが止まってるじゃねぇか。

 まさかとは思うが、俺の名前を忘れたとかじゃないだろうな!?


―――カキカキカキ


 お!?書き始めた。良かった良かった。

 俺が書きに行く必要はなかったか。もしそん時は俺が涙目に―――


「……はい。”タダノ・D・ジン”様ですね」


―――うん………誰だよソレ?


「ネームプレートの記載が終わりました。どうぞ」

「ありがとうございます……はい、仁!」

「お、おぅ…」


 俺は自分のネームプレートを見た。

 ”タダノ・D・ジン”……なんちゃって外国人か俺は?


「それじゃ、入場しようか」


 受付を無事済ませた俺達は凛花の先導で招待者用の門から学園の中へと入場する。

 とりあえず俺は、学園内に入った後、お嬢の考えの意図を探る為、小声で質問をぶつけてみた。


「なぁお嬢」

「何?」

「ミドルネームの"D"はどういう意味でつけたんだ?」

「ちょっと考えれば分かるでしょ?」

「"奴隷"の”D”」

「うん。正解」


 え?正解?やったぜ!ハハッ…おいふざけんな。


「…何でミドルネームを入れたんだ?」

「…ッ…。かっこいいから?」

「何で疑問形なんだよ。本音は?」

「……。」


 俺とお嬢の間に沈黙が流れた。お嬢は明後日の方向を向いている。

 無駄だぜお嬢。最近は少しずつ考え方が読めてきたぞ。


「お嬢……実は周りに流されたんだろ?」

「…ッ…」

「そうだろ?」

「ちょっとオシャレに書いちゃったッ!テヘッ」


 …は?何いきなりテヘぺろしてんだよ…。

 新手の誤魔化し手法か?暑さで頭が沸いちまったのか?

 多分周りのお嬢様のぶりっ子を真似したんだろうが、全く出来てない。顔面硬直してねぇか?


「周りの執事の名前をみてそれっぽくしたんだな?」

「……そうよ。皆それっぽいし私もハーフだから……だから仁もその方が似合うかなって…思ったの」


 やっぱり他のお嬢様達の従者を意識していたのかよ。お嬢は変なところで気配りしてるな。

 まぁ、とりあえずお嬢の考えは分かった。


「確かにそうかも知れないな。…だがお嬢……その完成度の低いぶりっ子はやめろ。見るに堪えん」

「失礼ね。ちょっとかわいい大学生の仕草を真似してみただけじゃない」


 ちょっとかわいい大学生の真似?

 ハハッ冗談言ってんじゃねぇよ。笑顔の練習してから出直してこい。


「顔の引きつった可愛い大学生がどこにいるってんだよ」

「でも可愛かったでしょ?」

「寝言は寝て言え」

「…後で覚えておきなさい」


 お嬢は頬を若干膨らませて不満をあらわにしている。

 

 それも周りのお嬢様の真似事か?

 本人は真剣に試行錯誤しているようだが、真似する仕草がお嬢らしくない。


 まぁ、本音を言うと、仕草が下手くそでもお嬢の新しい一面を見ることができて俺は満足してるんだが。そしてその仕草…正直ありだ。絶対教えないけどな。


「そういえば凛花。今気づいたが、記載する名前は本名じゃなくても良かったんだな」

「うん。受付で紹介者の本人確認さえ出来れば問題ないよ。本名を記載する規則はないから招待者や従者はどんな名前でも大丈夫さ。だから…くふふっ」


 凛花は思い出したかのように笑いながら答えた。

 どうやら、過去に変な名前で登録された人がいたようだ。

 とんでもない主人に仕えてしまったのだろう。ご愁傷様だ。


「あ、そうだ!仁、私のボディーガードなんだからコレをかけなさい」

「……え?」


 お嬢が黒いグラサンを渡してきた。

 そして”早くかけなさいよ”と急かしてくる。


 お嬢……別にボディーガードはグラサンって決まってねぇぞ?

 つかいつ何処で調達してきやがった。元からかけさせる気満々だったんじゃねぇかよ…仕方ねぇ。


――カシャッ!シャキーン!


「良い感じね。凛花、案内よろしく」

「おっけー。それじゃ、また付いてきて~」

「はいぃ。宜しくお願いしますぅ」

「おう」


 そして俺達はネコ共が住まうカフェを目指して歩き出した。



◇◇



 俺達は学園敷地内の中心に作られた幅が広くまっすぐに伸びた一本道を歩いていった。

 道の両脇には緑豊かな草木と色鮮やかな花が咲き、まさにお嬢様の庭園といった風景だ。

 又、この広い一本道は、両端に生えている大きな樹木の枝葉がジリジリとした日光を遮っている為、暑い夏場でも快適な空間がつくられている。


 とりあえず俺は、凛花とお嬢の後ろに付いて行く。

 だが、暫く歩いていると、辺りから違和感を感じ始めることとなった。

 

「え…凛花様の隣……金色の髪のお嬢様…すごく綺麗!外人さんかしら?」

「ホントね……どこかのモデルなのかしら?」


――ざわざわ


 通行人の多くが、お嬢に視線を向けてくる。それでも、お嬢はいつも通り何食わぬ様子で歩いていった。

 だがよく見ていると、時折スカートの端を摘むような仕草をしており、もしかしたら内心そわそわしているのかも知れない。


 まぁ、でもしょうがないな。お嬢は基本的に目立ってしまうが、今日はさらに目立っていると思う。

 なにせ気品を感じさせる服装を着こなして歩いているからな……普段より眩しく見えてしまう。外見だけなら完璧なお嬢様だろう。

 そう…だからこそ、近づく不届き者から俺が守ってやらねばならん。……別にメッキが剥がされないようにって訳じゃないからな?


「でも、凛花様も凛々しくて素敵…」

「私もそう思うわ。…声をおかけしたい……」


 ん?凛花の事も囁かれてる?


「何か接点がほしいわ……」

「あっそれなら私、前の学内イベントで変態男から助けて頂いたわ」

「えっ?なにそれ初耳ッ詳しく!」

「一般来場者の酔った男に絡まれて抱きつかれたことがあって……」

「それでそれで?」

「颯爽と現れて一撃!……私を庇って…優しく微笑みかけてくれて……そして去っていったわ…」

「「キャーッ」」


 なんだよ、コイツもか。

 凛花も有名人であることはお嬢がチラッと言っていたのを耳にしていた。

 だが、まさかこれほどの人気とは……ここでの人気だけなら芸能人並みかもしれん。

 つか……一撃って何?


「後ろの殿方…あの綺麗なお嬢様の何なのかしら?」

「執事かボディーガードっぽいけど?スーツ着て後ろにピタっとついてるし」


 凛花の後輩らしきお嬢様達が遠くで俺の様子を伺っている。

 こっちを見てこそこそ話し合っているようだな。クククッ…存分に俺の勇姿を見てウットリするがいい。


「凛花様の後ろの男………目つきが怖くない?」

「あっこっち見たわ!?確かにコワイ…」


 これは予想外ッ!!すぐに笑顔で対応だ!!


―――ニッコぉぉ!


「えっ…私はいやらしく感じるわ…」

「嫌っ!?こっち見た!?いやらしい……」


 何でだよ!?それなら誠実な顔でッッ!


―――シャキーン!


「私はカッコいいと思うけど?」

「ワタクシもよ?まさに頼れるボディーガードって感じではなくて?」


 これだッ!!本日のベストオブマイフェイスッ!


「アンタ…何さっきから顔芸やってるのよ。気持ち悪いから普段の顔に戻しなさい」

「あっ…はい」


 お嬢が白けた目でこっちを見てくる。俺はすぐにいつもの顔へと戻した。


 なんか結局表情が一周したんだけど。

 一体どんな顔してればいいんだよ…わけわからん…。


「でもやっぱり……凛花様の方が…」

「「「断然カッコいいよね~」」」


 結局それかよ。

 まさかそこのお気楽ガールにかっこよさで負けるとはな。


 だが、ここは凛花のホームグラウンドだ。

 故に落ち込む必要はない!!…もう一度言う…落ち込む必要は……ない!!


 そして俺は、自分に”自信を持て”と歩きながら語り続けた。



◇◇



「到着~!この校舎の2階でやってるよ」

「これかよ!流石は超お嬢様大学!」


 俺達はひと際大きな建屋の前に到着した。

 3階建てのテラス付き豪邸かと勘違いしてしまう外観の建物だ。


「凄いですねぇ…動物と触れ合える企画をやってますぅ」

「ホントだ!茜!さっそく行ってみましょう」

「はいぃ」


 お嬢と茜が先行して建屋内に入っていった。


「なんだよ…ニコニコどーぶつふれあいランドって」


 俺は入口の看板を見て大体の予想がついた。


 可愛い系動物が何匹か触れるレベルの出し物だろうが……来園客のターゲット層は幼稚園児か?もうちょっと良いネーミングを考えろよ。

 そして俺の場違い感が凄い。お兄さん…ちょっと気楽には入れないぞ?


 ……だが、建屋内に入ってみると中は広く、意外と動物の数と種類も豊富だった。

 俺は移動動物園かと思ってしまう程の本格的な光景に少し驚きつつも、とりあえず全容を把握しようとキョロキョロと辺りを見渡した。


「わんわん」

「ちゅんちゅん」

「にゃ~」


「犬がいる!鳥も!それに……かわいい!三毛猫よ!!」

「ほんとですねぇ。可愛いですぅ…それに…ふわふわしてますぅ」


 お嬢と茜が色々な動物、特にネコと戯れながらはしゃいでいた。随分と楽しそうにしている。


 ここには犬や猫を始め、鳥や兎など様々な種類の動物がいるようだ。

 先程ネーミングを馬鹿にしたのは謝らなければならない。結構本格的なふれあいランドだった!


 へぇ…一回りしてみると結構良い出し物じゃねぇか。だが、残念ながらこれといって珍しい動物までは…


「メェェ~」

 

 お!?羊がいるじゃねぇか!スッゲェな!


「モォォ~」

 

 おぉ!?牛までいるのかよ!ヤッベェな!!



「ヘケッ」


 オイィッ!?なんか変なの混じってんぞォォッ!!

 色々大丈夫かよこのふれあいランドォォッ!!!


――とことことこ


 つか…おい、何足元でとっとこしてやがるこのハム野郎。必死にひまわりの種(食べカス)(こす)りつけんな。サンフラワーオイル塗りたくんな。靴から無駄な光沢が出てきちゃうだろ。


「仁!何してるの?こっちよ!」

「お、わりぃ」


 お嬢に呼ばれた為、俺は愛すべきハム野郎(モザイク生物)を手で掴みどける。

 そして、ふれあいランドの奥にある階段を上っていき、風通りの良いテラスに出た。


「―――おぉ!?…なんだよここは?」

「ネコカフェのVIP席さ。一般来場者は入場禁止エリアだよ」


 マジかよ……まさかVIP席でのティータイムとは!


 このテラス……席と席の間隔は広めに取ってあり、ゆったりとした空間が演出されている。

 純白の丸テーブル、美しく加工された椅子、大学構内の自然を一望できるテラス。

 そしてこのテラスには貴族御用達と言わんばかりの貴族(セレブ)ネコが数匹歩いている。まさに中世貴族!豪華絢爛!

 

 あぁ、そうか……これが”優雅”というものか…。


「じゃあ、ここで昼食にしようか。このメニュー表から好きなもの選んで」

「うん」

「はいぃ」

「おう」


 そして俺達は、各々の好きなランチメニューを注文した。

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