6件目 このよろず屋の大家の孫娘と学園祭に行ってきた件 1/6
お盆休み5日目。
新しい朝が来た。希望の朝だ。
喜びに胸を開き、この青空を仰ごうではないか!!
「う~ん……。今日も清々しいな!」
俺はよろず屋の玄関前に出ると両手を広げ、体を伸ばしながら深呼吸をした。
清々しい空気を胸いっぱいに取り込む。
そして徐々に息を吐き出しながら、気持ちの良い朝を全身に感じた。
ふぅ…さて、全く予定のないお盆休みという自由を始めよう!!
さぁ俺よ?この休日…まず何がしたい?
商店街で買い物か?
都市部でゲーセンか?
ダーツの一日強化合宿か?
……よし決まった!
本日最初のスケジュールは―――
「仁!ちょっとこのゴミ捨ててきて!」
ゴミ捨てだッッ!ヒャッホーぅ!!……って、んな訳ねぇだろ!
俺の記念すべき休日スタートに水差してんじゃねぇよ!
お嬢が窓の隙間からゴミ捨てを要求してくる。
旅行で持ち帰ったゴミの処理と、よろず屋の掃除で不要となった物の処分だった。
確か今日はゴミの回収日だったか…それなりに量があるな。
「早くして!」
「…ッ……仕方ねぇ……」
俺はよろず屋の不要な物をまとめ、近くのゴミ捨て場に捨てていく。
黙々と不要な物を指定の場所まで運び、全て運び終わったこと確認後、お嬢に報告した。
「さてと、やっと自由に………ん?あれは…」
アパートの階段の方から、白い猫を抱えた若い女性が歩いてきた。
そして、俺の横を素通りしていき、よろず屋の入口まで歩いていった。
見覚えがある女だった。
それと抱えられている白猫……ウチの白猫に似ている。
―――ピンポーン
「すみませ~ん」
――ガチャッ
「はい?…って…凛花!?」
「おはよう。旅行は楽しかった?ほら、凛ちゃんを返しに来たよ」
「あっ!ありがとう!」
お嬢は”凛花”と呼ばれる女性から白猫を受け取り、よろず屋の中に放す。
すると、白猫は元気によろず屋の中へと駆けていった。
あっ……思い出した。
お嬢の言ってた大家の婆さんの孫娘だ。
旅行の前日、お嬢と一緒にいたのをうっすらと思い出す。
白猫を預かってもらっていた話などをお嬢から聞いていた為、大家の孫娘でほぼ間違いない。
――くるり
凛花と呼ばれる女性は反転し、俺の方を振り向いた。
キリっとした力強い目に少し緊張してしまう。
「あの…すみません。あなたが但野さんですか?」
「はッ…はい!」
俺は”凛花”と呼ばれる女性に声をかけられた。
どうやら俺の事を知っているようだ。
「へぇ…外見は聞いていた通りっと…」
――ボソボソ
目の前の女性はボソボソと何かを口にしながら、まじまじと俺を見回す。
「あの…俺の事を知っているんですか?」
「はい。瞳ちゃんから色々と聞いています」
”瞳ちゃんから色々と”……ね。
俺の話をお嬢がしているとは思わなかったな。
「初めまして、輝石 凛花です。宜しくお願いします…但野さん」
「あ、はい!よろしくお願いします。輝石さん」
お互いに頭を下げて会釈した。
服装はラフな格好をしている。
だが、話し方や仕草からお嬢様的な上品さを醸し出していた。
なんかお嬢から聞いていた印象と違うな。
お嬢の話ではマイペースで気さくな娘だって聞いていたが…。
やっぱ実際に見て話さないと…本当の事は伝わらないものだな。
「仁。凛花のことはもっと親しげに呼んでいいわよ?畏まらなくてもいいわ」
「…へ?」
突然、お嬢の口から予想外の言葉が発せられた。
この上品な女性にいきなり軽口で話せってか?できる訳ねぇだろ。
「おいお嬢……輝石さんとは初対面で……」
「初対面でも問題ないわ」
「いやぁ……でもよぉ……」
「但野さん、”凛花”……でかまいませんよ?皆からそう呼ばれておりますので」
「ッ!?」
ま、まじかよ…。
こんなお嬢様っぽい雰囲気の上品な女性から……もう呼び捨てを許可されるとは思わなかった。
「……なら……俺も”仁”で構いません。堅苦しくない方が俺もうれしいので…」
「宜しいのですか?」
「大丈夫です。むしろ呼び捨ての方が気が楽なので有難いです」
「そうですか。でしたら私は”仁くん”とお呼び致します」
「はい。では俺は……”凛花さん”と呼ばせてもらいます」
最低限”さん”ぐらいはつけないと失礼だろうからな。
これなら丁度いい感じだろう。
「お願い致します」
凛花さんがニッコリと微笑んだ。
この上品な笑顔……お嬢が稀にする自然な笑顔に勝るとも劣らない。
「では、よろしくお願いします。凛花さん」
「うん!こちらこそよろしくね!仁くん」
…………ん?
さっきまでの上品さはどこへ行った?
何で敬礼ポーズで”よろしく”って言われたんだ?
お上品なお嬢様が気さくなお嬢さんにいきなり変身した。
フレンドリー感が急に増した為、俺は一瞬戸惑ってしまう。
人によってはちょっと引くくらいの変わり身だった。
何故…何故急に……。
もし考えられるとしたら、俺の性格をお嬢から聞いていた可能性ぐらいか?
俺は気楽がいい。
凛花さんも気楽がいい。
だったらお互い気楽に接すればいいってことか?…俺としてもそっちの方が良いっちゃいいが…。
「どうしたのかな?」
凛花が考え込んでいた俺の顔を覗き込んでくる。
「あっいえッ……凛花さんは親しみ易い方だなと…。少し驚いてしまって…」
「そうかな?それより仁くん、もっとフレンドリーに話そうよ」
えっ!?もっとフレンドリーに話すの!?
溌溂とした声で話しながら身振り手振りを多用してくる為、活発で明るい印象を受ける。
馴れ馴れしさは若干あるが、とても清々しい性格をしているようだ。
「……さっきと雰囲気が大分違いますけど?」
「初対面の方には一応……ね?だけど、仁くんの事は瞳たんから話を聞いてるし、話してみて人柄も良さそうだからやっぱり気軽に話してもいいかなぁって」
「あ、そうですか………じゃねぇな。……なら俺も気軽に話すわ。呼び方も凛花でいいか?」
「ッ!うんうん!いいよいいよ!!そのノリでいこう!!」
「軽いノリがいいんだな」
「やっぱりノリは大事だよね?」
やっぱりそういう感じの娘かよ。
ちょっとフレンドリー過ぎる気がするが……脳内お花畑か?
つか、最初はお嬢様の類かと緊張していたが………危うく騙されるところだったな。
「凛花……やっと元に戻った?」
俺と凛花が打ち解けた様子を見て、お嬢が口を開いた。
「元にって?いつもと何か違ったかな?」
「凛花がお上品な話し方をすると違和感があるの。鳥肌がたった」
「えぇ~!?瞳たん…それは酷いよぉ」
「事実だから仕方がないわね」
お嬢と凛花は軽口を言い合いながら、楽し気に話をしている。
単に友達というよりも親友とか幼馴染とか…そんなレベルで親しそうに見えた。
お嬢のやつ…仲良さそうに話してやがる。
それにお互いの名前も気安く呼びあっている。"凛花"と”瞳たん”…………タン?
なんかお嬢の呼び方が変わってないか?なんだよ”たん”って…
「なぁお嬢…」
「…何?」
「凛花とやけに親しそうだな」
「幼馴染だからね。半分姉妹みたいなものよ」
「だからお嬢は愛称で呼ばれているのか?」
「あっ………そこは気にしないで」
んぁ?気にするなって…何だよソレ?
それじゃ逆に気になってくるだろ。
「何でだよ?中々可愛らしい愛称じゃねぇか。幼い頃から呼ばれているのか?」
「……ッ……」
……ほぅほぅ…なるほど…。見事に無視されたな。
それに明後日の方向を向かれた。聞こえてないフリしてるじゃねぇか。
だがお嬢……その耳、いつもより真っ赤だぜ?
「おいおい…どっち向いてんだお嬢?」
「……。」
反応なしっと。
「こっち向いてよ”瞳たん”?」
「……ッ……」
反応ありっと。
「どうした?お耳が真っ赤っかじゃねぇか?なぁ?ひ・と・み・た―――」
「ふふっ…仁ったら…いつもよりノリがいいじゃない?……そこの奴隷―――」
「はい!すみませんッしたッ」
お嬢は俺の方に振り返るとニッコリと微笑む。
俺は反射的に頭を下げて謝罪した。
お嬢の反応が面白すぎてつい調子に乗ってしまった。
これ以上機嫌を損ねたらマズイわ。
「瞳たん。それって何かの主従プレイ?」
お嬢の奴隷発言により、凛花がツッコミを入れてきた。
「えッ!?ち、違うわよ!?」
「えー。またまた~。仁くんを喜ばせてるんでしょ~?」
喜ばねぇよ。異常性癖者かよ。
「ち、ちがッ…喜ばせてない……はず…」
―――チラッ
おい、自信なさげにこっちチラ見してんじゃねぇよ。
何”もしかして…”って顔してやがる。喜んでねぇぞ。だから喜べ。
お嬢は俺が渋い顔をしながら首を横に振ったことでホッとする。
同時にお嬢の溜飲が下がったようだ。
「真剣な顏でアイコンタクトしちゃって…」
「…まだ疑ってんのか?俺は喜んでねぇぞ?」
「えぇ~、そうかなぁ?」
凛花はニヤニヤしながら疑いの眼を俺に向けてくる。
俺はその視線に抗議し続けた。
「…ねぇ、凛花」
「瞳たん?何かな?」
そんなやり取りが続いた後、お嬢が凛花に声をかけた。
お嬢の指先はよろず屋の方を指さしている。
「ここで立ち話もなんだし、中でお茶しましょうよ」
「えっ?いいの?…だったらお邪魔しちゃおうかな~」
「なら二人とも先にテーブルで待ってろよ。俺が特製のお茶を用意するからよ」
お嬢は凛花をよろず屋の中に招き、テーブル横の椅子に着席させる。
そして、俺が特製のお茶を出し、くつろぎながら雑談を再開した。
◇◇
俺とお嬢は凛花とお茶をしながらよろず屋の日常をネタに話をした。
大変だった仕事の話や一風変わった依頼の話、日常生活での新体験や面白かった出来事など様々だ。
「ところでさ……そろそろ旅行のお土産話を聞かせてよ」
よろず屋の話に区切りがついたところで、凛花が社員旅行のお土産話を要求してきた。
「そうね……っと…ごめん。その前にお手洗いへ行ってくる」
「分かったよ。じゃあ、仁くんと先に話をしているよ」
―――チラッ
凛花がこっちに視線を向けた。
出会って間もない凛花と二人っきりだ。
「んじゃあ……まずは高級リゾートに到着してからの話をしていくぞ」
「うん。聞かせて聞かせて」
俺は初めて観光した高級リゾート”和多海”の素晴らしさを語っていく。
「―――んでよぉ~。俺を埋めた後にお嬢がドッキリを仕掛けてきたんだよ」
「ドッキリ……その話…とっても気になるなぁ」
「そうか!なら聞いてくれ!実はとんでもないドッキリだったんだよ。俺の寿命が三日は縮んだと思う」
多分あのドッキリは花音だな。恐らく変なバラエティーで感化されたんだろう。
それをお嬢と茜に話して実行した。それなら可能性としては十分だ。
「寿命三日分……結構驚いたんだね?」
「おう、ガチで驚いた。気絶してもいいレベルだ」
「そこまで!?やったね!」
ん?何喜んでんだ?
「―――ずいぶん楽しそうね?」
「あ、瞳たん。仁くんのお話は楽しいよ~」
お嬢がお手洗いから戻り、着席する。
「それで、何の話をしたの?」
「社員旅行初日のビーチでの思い出だ」
「あぁ…あれね…」
「瞳たんも観光は楽しめたのかな?」
「うん。とっても楽しかったわ」
「うんうん!それは良かった。…あと旅行前に相談した”ドッキリ”はどうやら成功したようだね」
………あ?
「うん。それは完璧よ。初めて”ドッキリ”ってものを実行してみたけどとっても楽しかったわ」
おい…まさか…
「だよね?刺激的で楽しいコミュニケーションになっただろう?」
あのビーチでの出来事は…
「おかげでみんな笑顔になったわ。また良い案あったら教えなさい。試してみるから!」
全部…全部…
「うんうん!やっぱりコミュニケーションって……楽しくないとね?」
全部テメェの仕業だったのかよッ!!
茜か…ほぼ花音を疑ったが、まさかテメェだったとはなッ!予想外だったぜ。
俺の命を削りやがった上にお嬢に変な知恵与えやがるとは…とんでもねぇ女じゃねぇか!
「おい凛花。何お嬢にドッキリ提案してんだよ」
「なんで?近くでスイカ割りをされているっていうドッキドキのスリルを楽しめたでしょ?」
「あぁ、ネタバラシ後は少し笑っちまったよ。だがドッキリ案が普通じゃねぇ…」
「えっ?そうかな?」
「そうだろ。俺をいきなりスイカ役に抜擢して割ろうとするとか…エゲツねぇぞ」
「うん?」
凛花が若干困惑した様子でお嬢に視線を向けるが、……お嬢の視線は明後日の方向を向いていた。
「瞳たん…仁くんをスイカ役にしちゃったの?」
「……うん。途中でスイカ役になっちゃったの」
「そ…そうかぁ…。本当は少し驚くくらいを想定したんだけど…結構ハードにやっちゃったのかな?」
「ハード過ぎだ。俺に恨みでもあるのかと勘違いしたぜ…」
「…うん、そっか。…だったらこっちもお詫びを込めてネタバラシをしておこう!」
はぁ?今更何のネタバラシがあるんだよ。
どうせお嬢のエゲツない性格が"あのドッキリ行動の発端でした"とかいうんじゃねぇぞ。
「実は瞳たん…真剣に悩んでいたんだよ。皆と楽しくコミュニケーションをするために色々と試行錯誤をして。ね~?」
えっ……お嬢…。
皆とのコミュニケーションを真剣に悩んでいたのか。
「ちょッ!?……もう、黙っててって約束したじゃない!」
「いいじゃんいいじゃん。もうこっちの本当の気持ちも伝えた方がいいと思うよ?」
「う゛ぅ……なんか心の中を見透かされたみたい…恥ずかしい…」
お嬢がモジモジとし始めた。なんだか今日のお嬢はしおらしい。
凛花の存在が影響していることは間違いなく、結果いつもより可愛らしく見える。
大抵のことは許さざるを得ない。…いや、全て許す!
「どう?こんな理由だったんだから、笑える話でしょ?」
「おぅ。それなら仕方がないな。………これじゃ仕返しする気もなくなるわ」
「えっ?アンタ…仕返しする気だったの?」
―――おっとしまった。
「言葉のあやだよ。あや」
―――ニコぉぉぉ
俺はとびっきりの笑顔でその場を取り繕うことにした。
「胡散臭い笑顔ね」
「まぁいいじゃん。少しは絆が深まったでしょ?良かったじゃん」
「う………うん…」
お嬢は少し俯き、首を小さく縦に振った。
確かに凛花の言うことには一理ある。
それに、お嬢が皆と仲良くしたいって気持ちは伝わった。
結構前に直接聞いたことがあったんだが、少し忘れかけていたかもしれん。
だが俺の心の中では知っている事……分かっている事だ。
「それにしても……仁くんって面白いね!」
「え?そ、そうか?」
「うん。好感が持てる」
おいおい…俺に好感がって……えっ?
も、もしかして……遂に俺にもモテ期到来だったり?
「凛花はちょっと親しくし過ぎよ。誰にでもそうだと勘違いする男子もでてくるでしょ?」
「えっ?そうかな?その時はちゃんと謝るよ」
あれ、違った?もう少しで勘違い野郎になるとこだった?
「あっ!そんなことよりも凛花。大学生活はどうなのよ?今開催してるイベントを手伝ったりしているらしいけど……楽しいの?」
今度は凛花の方に話が振られる。
お嬢は大学に通っていない。どうやら凛花の大学生活に興味があるようだ。
って、俺への好感度はそんなこと扱いかよ。
俺にとっては結構気になる話だったんだぞ。
「楽しいよ。イベントもそうだけど、普段でもトラブルが多くってね~」
トラブルが多くて楽しいって…こいつ一体どんな神経してんだよ。
「確かお嬢様ばかりが通う大学だっけ?貴族のお嬢様ってトラブルばかり起こすわよね~」
その通りだパツ金。テメェも同類だからな。自覚しろ。
「そのお嬢様大学ってどこだよ?」
「うん?鶴城女学園ってところだよ。今年3年生になったんだ~!」
あぁ、鶴城女学園か。確かに貴族令嬢が数多く通う女子大があったな。
そしてそこの3年生だったのか。お嬢より2つ年上だったんだな。そうは見えなかった。
「へぇ~、お嬢様だったのかぁ……へぇ~」
「…何かなその疑いの眼は。じゃあ、そんなことを言う仁くんの大学生活を聞いてみようかな?」
「それは秘密だ!」―――ドドンッ!
俺は適当な大学に入り適当に”卒業”だ。大学の授業なんて昼寝の時間だったからな。
そして今となっては黒歴史。記憶のほとんどが俺の頭の深淵に封印されたのだ。
「何で自信満々に勿体ぶっているんだい?もしかして壮絶な過去があったり―――」
「そんなことより、お嬢がさっき言ってたイベントって何だ?それって面白いのか?」
「うん?」
俺はこれ以上過去を掘り返されないように、力技で話題を切り替えることにした。俺のパンドラボックスを開けたところで希望は一切残らない。
「―――あぁ……学園祭のことだね。ボクはお昼から向かう予定だけど………一緒に行く?」
「マジかッ!?本当にいいのか?」
超名門大学のイベント……しかも女子大だぞ?
俺なんかが易々と入れるところじゃないからな!やったぜ!
「確か女性は生徒の身内枠で通せたはず。男性は大体付き人として、若しくは一般入場の方で手続きすることで入れたかな?」
「俺は一般入場の受付まで行けばいいのか?」
「あ、でも一般入場はあまりお勧めしないよ。付き人って形で入った方が色々とお得だからね」
「なるほど」
凛花は付き人として入場させてあげてもいいと話をしてくれた。
勿論、その場合は好き勝手に移動しないことを条件に出されてしまったが。
「あっもし行くなら茜に電話していい?」
「お嬢?何かあったのか?」
「確か、茜が来年狙ってるのが凛花の通っている大学なのよ」
「そうなのか」
「そうよ。良ければどうかなって聞いてみる」
お嬢は茜に電話をかけ、鶴城女学園の学園祭に興味があるかどうかの確認を取った。
すると、学園祭に興味があり、丁度予定も空いていた為、よろず屋まで来るとの事だった。
そして俺とお嬢は、茜が到着するまでの間、社員旅行二日目の思い出をネタに雑談を始めた。
◇◇
暫くすると茜がよろず屋に到着した。
凛花と挨拶を交わしあい、会話の輪の中に参加する。
そして俺の時と同様、”いきなり親し気な会話”という洗礼を受け、茜は大いに戸惑った。
「―――それじゃ、よろしくってことで!茜ちゃん」
「あっはいぃ。宜しくお願いします。てる……凛花さん」
凛花から差し伸べられた手を茜が握り、握手を交わしてからお互いが微笑む。
その光景を傍観していたお嬢も、なんだかちょっと嬉しそうだ。
「それにしても…凛花さんは鶴城女学園に通ってるんですねぇ。私…来年そこを狙っているんですよぉ」
「らしいね。もしかしたらボクの後輩になるって事かな?」
「学費を一部免除出来るくらいに成績が良ければですけどねぇ……まだギリギリどうかってところですぅ」
「そうなんだ。じゃあその内勉強会でもしようか。もし分からないことがあったら教えてあげる。ボクはこう見えて成績優秀なんだ~」
「はい!ありがとうございますぅ!」
「瞳たんも一緒にどうかな?」
「えっ?私は今大学に入るつもりなんてないんだけど?」
「そうだよねぇ。本当なら今頃瞳たんと一緒に甘々な大学生活を過ごす予定だったんだけどな~」
「悪かったわね。でも、甘々な生活なんて例え入学してもしないわよ?」
「それは残念すぎるよぉ……」
「別の人としてれば?噂では構内でかなり人気らしいじゃない。貴族の間ではもう有名人って感じよ?」
「あっ瞳たん。や~め~て~よ~」
「凛花さん人気者なんですねぇ」
「あぁ~……何故か色々やったら目立っちゃってさぁ。人気者とか…なんか照れちゃうなぁ」
――わいわい
――ワイワイ
――わきあいあい
茜が会話に参加してから、お嬢と凛花との会話がさらに楽し気になった。
俺そっちのけで会話が弾んでいく。
皆楽しそうに話をしている。
その会話を聞いているだけでも楽しいし和むんだが……なんだかちょっと疎外感を感じてきたな。
そろそろ会話に混ぜろよって感じだ………ズズッ―――ふぅ、お茶が美味いわ。
「――ところで本題なんだけど、茜ちゃんは学園祭に興味あるってことでいいんだよね?」
「はい、ありますぅ!」
「なら、これから一緒に観に行こう!ボクが中を案内するから」
凛花が茜に学園祭への参加を改めて確認する。
そして、茜が参加を希望した為、凛花の紹介で学園祭への参加が決定した。
「ところで、瞳たんも学園祭一緒に行こうよ!大学に行ったことないでしょ?雰囲気だけでも体感しにいこう!」
「え?…う、う~ん……」
お嬢は少し悩むような表情をした。
人がごった返している場所が嫌いだからか?”学園祭”に興味がないからか?
なんだかあまり乗り気じゃなさそうだ。
「そういえば瞳たんは猫好きだよね」
「え?…うん…そうだけど……」
「ボクの友人が大学構内で”ネコカフェ”を開催してるんだけど?一緒に行かない?」
「ネコカフェ!?何それ!?」
あっ…お嬢がめっちゃ食いついた。
「沢山のネコちゃん達と触れ合いながらお茶をするところさ」
「えっ…そんなカフェがあるの!?気になるわ!」
「どう?案内するよ?行く?」
「行く!」
「じゃあ決まりだね。予約できないか確認しておくよ」
凛花はすぐ携帯電話を取り出し、電話をかけ始める。
そして、右手でOKのサインをするのだった。
流石はお嬢の幼馴染……扱い方が分かってるじゃねぇか。
さっきまで乗り気じゃなかったお嬢が、もう行く気満々で準備してやがるぜ。
お嬢、チョロすぎだ。
「仁!アンタはさっさとスーツに着替えて!私の付き人として最低限のドレスコードを満たしなさい」
「おっと…分かった。すぐ準備する」
「じゃあ、ボクも少し着替えてくることにしよう。この格好だとちょっとラフかもしれないし」
「あ、あのぉ…私の服装は……」
「それなら全く問題ないよ。危ない格好以外なら大体入場できるから。例えばワイシャツ短パンでもいけるよ」
「あ……それはちょっとぉ……」
そうだな。それは別の意味で危ない格好だ。
目のやり場に困る。
そして俺達は準備をした後、鶴城女学園の学園祭に向かうのであった。




