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番外編 : このよろず屋の大切な奴隷にドッキリを仕掛けてみた件 1/2

瞳視点での番外編です。

時間軸は4件目の社員旅行前からになります。


 社員旅行前日。

 時刻は午後5時。

 

 瞳はよろず屋に訪れた配送業者に大きな荷物を渡し、宿泊する旅館まで運んでもらうよう依頼。

 その後、自室に戻ると明日持っていく手荷物をまとめ、小さな鞄に詰めていった。

 

「……やっと準備ができたわ…」


 荷物の準備がひと通り完了した瞳は、自室の床に置かれたふかふかのクッションにボスンとダイブする。

 そして、準備作業で張り詰めた気持ちを落ち着かせるように、一度大きく息を吸い込んで、吐き出した。


「にゃー」

「…凛?」


 瞳がクッションでくつろぎ始めた所、見計らったかのように凛が歩いて近づいてくる。

 ふわふわな頬を足にこすりつけ、喉をごろごろと鳴らして甘えたいアピールをする。


「甘え足りないの?かわいい子……よしよし」


 瞳はクッションからフローリングの床に座りなおし、凛を抱き寄せて頭を優しく撫で始めた。

 撫でられて幸せそうな凛の表情に、先程まで感じていた疲れを忘れ、頬も若干緩んでいく。


 でも、明日から寂しくなるわね……。


 瞳は凛を撫でながら、心の中でそう思った。

 明日から旅行で外出してしまい、しばらく会うことができないからだ。


 そろそろ凛のお世話をお願いしに行かなきゃ。


 旅行先で凛の面倒をみることは難しい。

 高級リゾート内はペット禁止のエリアも多く、又、はぐれてしまう危険も考慮すると、連れて行くよりも預けたほうが賢明だ。

  

「さてと…輝石(てるいし)お婆様に会いに行こう」


 瞳は自室の床に凛を放してから立ち上がり、よろず屋の外に出ていく。

 そして、アパートの2階へと向かうのであった。


◇◇


 アパートの管理人ーー所謂"大家さん"をしているのは、瞳と同じ貴族出身のお婆さんだ。

 瞳の両親と面識があり、小さい頃によく遊んでもらっていた為、人見知りの瞳にとっては数少ない理解者の一人である。

 

 アパートの大家になったのは約10年程前。

 貴族間の喧騒にうんざりした為、貴族が数多く住む高級住宅地を離れたことがきっかけだ。その時、落ち着いた場所を探し、見つけたのがこのアパートである。


 最近は商店街や住宅地の開発で辺りに活気が出てきており、昔程の落ち着きは徐々に無くなりつつあるが、高級住宅地のなれ合いよりは良いと考えているため、現在もずっと定住している。



―――カンッカンッカンッ



 瞳は甲高い音の鳴る階段を上がり、アパートの2階で暮らしている大家の部屋の前まで行くと、チャイムを押した。


――ピンポーン



―――ガチャッ


 大家が住んでいる部屋の扉がゆっくり開いた。


 瞳は大家のお婆さんに挨拶をする為、背筋を伸ばして扉が開き終わるのを待つ。

 だが出てきたのは、大家をしているお婆さんではなく、若い女性の姿であった。


「……あ、瞳たん!」

「えっ?凛花(りんか)!?こっちに帰ってきてたの?」


 溌剌とした声で瞳の名前を呼んだ女性……輝石 凛花(てるいし りんか)は、現在女子大に通っている瞳の幼馴染だ。

 このアパートの大家であるお婆さんの孫娘でもあり、大家さんに会いに部屋を訪れると稀に出会う。


「さっき別荘から帰って来たんだよ。今は大学が休みだからね」

「そうだったの。元気そうで良かったわ」

「そっちも元気そうだね」

「うん」


 久方ぶりの再会に笑顔になる二人。

 軽く挨拶を交わしていった。


「ところで凛花…」

「ん?なぁに?」

「”たん”付けで呼ばれるのが恥ずかしくなってきたんだけど」


 瞳は少し困り顔で訴えかける。

 幼い頃はあまり気にしていなかったが、最近はだんだんと周りの目が気になりだしたのだ。


 しかし、そんな瞳の様子を見た凛花であったが、呼び方を変えるつもりは微塵もなかった。

 むしろ、恥ずかしがる瞳に機嫌を良くしたようで、軽く微笑んだ後、瞳の肩をポンポンと叩く。


「幼い頃からの愛称じゃん。気にしない気にしない」

「で…でも…」

「諦めて受け入れちゃってよ。…ね?」

「はぁ………相変わらずマイペースね…」

「ふふん。昔から知ってるでしょ?」


 瞳は諦めた表情でため息をつく。

 だが一方で、幼い頃から姉妹のように育ってきた凛花だからこそ、その変わらない様子に安心してしまう思いもあった。


「……それで瞳たん。今日はどうしたの?何か用があった?」


 凛花は瞳との談笑を終えた後、訪ねてきた理由に関して話題を切り替えた。

 首を少しだけ傾げて、微笑みながら瞳に問いかける。


「あ、えっと……数日間預かってもらいたい子猫がいるの。見る?」

「え?子猫!?見たい見たい!」

「じゃあ、行きましょうか」


 瞳は飼っている子猫を凛花に見せる為、アパート1階のよろず屋まで一緒に向かう。

 そして、よろず屋の中へと入り、瞳が"凛"と名を呼ぶと、瞳の自室から白い子猫が歩みでてくるのであった。


「ほら、この子よ。かわいいでしょ。頭もいいの」

「おぉぉ……確かに可愛いなぁ…」

「明日から2泊3日の社員旅行に出かけるの。だから輝石お婆様に預かってもらう予定だったんだけど……」


 瞳は凛花の様子をチラっと見る。そこには目を輝かせて凛を眺めている凛花の姿があった。

 預かることに問題はないといった感じである。


「いいよいいよ!全く問題なし!むしろ大歓迎!今週はずっといるからボクに任せてよ」

「そう?なら良かったわ」


「かわいいねこの子猫」

「ふふん…当たり前よ」


「じゃあ……旅行から帰宅した次の日まで預かっていいかな?朝方に連れて行くよ」

「勿論。凛花なら安心して頼めるわ。それに…輝石お婆様もいらっしゃることだし」


「うんうん!お祖母様がいれば飼育関係は全く問題ないよ。逆にボクが邪魔なくらいだ」

「確かに。凛花は不要かも」

「え~。酷いよ瞳た~ん」


 瞳と凛花は軽く笑い合いながら冗談を言う。

 慣れ親しんだ関係だからこその冗談である。


「それにしても…この子かわいいね~。宜しくね~」


 凛花は膝を曲げて凛の顔を覗く。

 その様子に凛は気づき、凛花の方を見上げていく。


「にゃー」


 そしてタイミング良く、可愛らしい鳴き声をあげるのだった。


「わぉ!返事したよ!」

「頭がいいでしょ?」

「うんうん。それに可愛い!」


 二人して優しく凛を撫でる。

 凛も満更ではないような様子を見せ、ごろごろと床を転がっていった。


「あ、そういえば……この子の名前なんだけど…」


 急に凛花がソワソワしだした。

 瞳の方を向き、ちょっと真面目な雰囲気で質問をする。


「……凛って文字?…ボクの名前と同じだね?もしかして意識した?」


 瞳が子猫の名前を決める際、"凛花"の名前からとったのではないかと少し期待した。

 なので凛花は、嬉しそうな表情で瞳に聞くのであった。


「全くしてない。あり得ない」


 そして、バッサリと切り捨てられた。


「えぇ~…ありえたと思ったのにぃ~」


 凛花は少し口を尖らせ目を細める。

 残念そうな表情で不服感を訴えた。


「この子は凛とした佇まいをしてるから凛なの。分かった?」

「うん。因みにボクも凛とした花のような女性になるように……って想いから付けられたけど?」

「ふーん。ならすればいいじゃない。すまし顔で黙ってれば?」


 瞳は若干ニヤつきながら凛花に提案をした。

 凛花はその提案を聞くと、瞳に続きニヤつき始める。


「ふふ~ん。ボクはそんな柄じゃないから無理だね~!」

「ふふっ…やっぱりそうよね。知ってた!」


 昔から度々行ったことのある儀式(やりとり)

 お互いの性格を熟知しているからこその会話を交わす。


 その後、瞳は白猫の凛を抱えて大家の部屋まで向かい、大家のお婆さんに凛を直接預けた。

 そして、二人はお互いの出来事について、再度談笑を始めるのであった。



◇◇



 瞳はよろず屋の出来事を凛花に話していった。


 仁や茜、そして花音も含めたよろず屋の日常……大変だが賑やかな毎日の出来事を楽しげに話す。

 すると凛花は、そんな楽しげに話す瞳の様子を眺めながら微笑し、口を開くのであった。


「……よろず屋を始めた頃はそんな話全くしなかったのに……それに瞳たんの表情…明るくなった気がするよ」

「そう?……でもそうかも」

 

 一大決心でよろず屋を始めた頃、どんなに仕事に没頭しても寂しさや苦しさが常に付き纏っていた。だが、いつの間にか寂しさや苦しさはなくなり、気持ちが楽になっていたのだ。


 仁と茜が色々と助けてくれたこと。

 仁と茜が色々な話をしてくれたこと。


 どちらも一人ではありえないことだ。

 他愛無い話でも”ある”のと”ない”のでは全く違う。


 振り返ると、そんな日常の出来事が、自分の心に余裕をつくってくれたのだと……そう感じることが出来ている。


「ふふっ……ニヤニヤしちゃって…嬉しそうだね?」

「ッ!!そ、そう?…でも、最近楽しいわよ」

「ふーん……なら従業員の仁くんと茜ちゃん…二人とは仲良くやれてるんだ」

「――ッ!」


 瞳は凛花の質問に少し目を丸くした。


「あ…その様子じゃ怪しいね。瞳たんコミュ障だから」

「コミュ障!?ち、違うわよ!ちょっと人見知りなだけで…」

「少し我儘なところがあるし」

「ゔぅ……ちょっと…だけよ…」

「顔は不愛想だしねぇー」

「うぐ……それは否定できない…」


 瞳が少しずつそわそわし始めた。

 そして、難しい顔をしながら俯いていく。

 

 最近はよろず屋内のコミュニケーションを意識しているが、上手くできてるかどうかなんて自分では全く分からなかった。

 なので、仁や茜にどう思われているかを直接聞こうと考えたこともあったのだ。


 だが、怖くて聞けなかった。

 恥ずかしくてできなかった。

 

「…で、どうなの?」

「……最初の頃よりは出来てる……多分」


 瞳は俯きながらボソボソと答える。

 だが、すぐにハッとした表情で顔をあげ、凛花の目を見返したのであった。


「そ、そうだ!凛花!私に良いコミュニケーション方法を教えなさいよ!」

「え?えぇ…っと………そ、そうだなぁ…」


 瞳の突然の切り返しに凛花が戸惑い悩み始める。


「あれだけ好き放題言ったんだから、何か良い方法あるんでしょ?」

「う…ぅん…………あっ!ならさぁ……”ドッキリ”なんてどうかな?」


 そして、突拍子もない提案が飛び出した。


 凛花は瞳の”不愛想で刺激のないコミュニケーション”が面白くない職場を作っているのではと考えたのだ。

 

「ドッキリ?何よそれ?」


 だが、瞳はその言葉に首を傾げる。

 ”ドッキリ”がどういうものなのかを知らない為だ。


「もしかして知らないの?」

「うん」

「イタズラを仕掛けて、驚かせて、最後にネタバラシをして皆で笑うやつ」

「ふ~ん」

「面白いコミュニケーション手法の一つだよ」

「ふ~……ん?こ、コミュ!?………もうちょっと聞かせなさいよ!」


 コミュニケーションの一つと聞いて興味が湧いた瞳は凛花に問い詰める。

 そして二人は、大家さんの部屋の前で"ドッキリ作戦会議"を始めるのであった。



◇◇



 まず凛花は、瞳にドッキリとは何かを説明する。

 そして、ドッキリを行うターゲットから、プランを詰めていく事にするのであった。


「瞳たん。じゃあまずターゲットは誰にするの?」

「仁よ」

「即決だね」


 瞳は即断即決で仁をターゲットに指定する。

 "仁であれば何かあっても何とかなるかも…"という謎の安心感が選定の大きな理由だ。


 ターゲットが決まったら、次はドッキリ案について検討を開始する。


「…仁くんの飲み物にタバスコとか」

「それただの嫌がらせじゃない?」

「…仁くんの鞄に瞳たんのパンツを紛れ込ませておいて……」

「恥ずかしすぎよ!絶対やりたくない」


 瞳と凛花はドッキリ案を色々と模索した。

 しかし、一向にまとまる気配はなかったのであった。


「もう夏らしく…普通にスイカ割りでもしとく?」


 凛花が若干諦めかけ、別の案を考え始める。


「スイカは用意する予定だけど……あっ!もしかして仁がスイカ役ってこと!?」

「ドッキリさせたいかポックリさせたいかだね…」

「あまり危険な事はしたくないわ。私の大切などれ……従業員なんだから」

「冗談だよ。…だから……っていや…意外と妙案かも…」


 凛花が両手をポンと叩き、ピンときたような仕草をした。


「砂に埋めて、目隠しをして、スイカ割のフリを真横ですれば驚かせられないかな?」

「驚かせられるかも知れないけど…具体的は何するの?」

「砂に埋めた仁くんに目隠しをした後、近くにスイカを置き、スイカ割りをやっているかの様に見せかける。だんだんと近づいて叩かれる恐怖を与えるんだ!そして最後に、仁くんの近くの砂を叩いて音でビビらせる。その後目隠しを取ればいい」

「な、なるほど…」

「そして、最後はとびっきりの笑顔でネタバラシ。これが大事!」

「うん、分かった!ならそれでいくわ!」

「うんうん。名案だっ……あっ!でも…」


 凛花はハッとした表情で再考する。

 そのドッキリ案の盲点に気づいてしまったのだ。


「……仁くんをどうやって砂に埋めれば…」


 凛花は課題の出現に悩んでしまった。

 仁を言葉巧みに誘導し、砂の中へと埋める必要があるからだ。


「……瞳たんの話術で仁くんを埋められる?」

「えっ?簡単に埋められるわよ?」

「え゛っ?それはすごいね……流石瞳たん…」


 瞳は課題に対して問題ないと口にした。

 凛花は瞳の言葉に驚きつつも、話を進めることにした。


「なら…道具はどうしようか」

「折りたたみシャベルを2つ送ってあるわ」

「砂で城でも作るつもりだったのかな?」

「一応そのつもり。だから埋める手段に問題はないわ!」

「なら何の問題もない……かな?……それにしても、さっきの埋められるって話…一体どうやって砂の中に入ってもらうんだい?」


 凛花は気づかれずに入るのは言葉巧みに誘わないと無理だろうと考えていた。

 砂風呂?罰ゲーム?…流石に無理矢理は難しい。


「命令したら(強制的に)砂の中へ入っていくわ」

「命令したら(自ら)砂の中へ入っていくの!?」


 凛花は瞳の話した事をすぐには理解出来なかった。

 頭で情報を整理し、答えを導いていく。


「…瞳たん…命令…従う…言い方からすると……喜んで?……これは仁くんドM疑惑が…いや、でもそれなら辻褄が……」

―――ボソボソッ


「?どうしたのよ凛花?考えこんじゃって」

「あ……うん。何でもないよ」

「そう?とりあえずその点は全く問題ないわ!」


 凛花は仁が職業:奴隷になっている事を知らない。

 その為、仁は瞳に従順な”ドMの子豚ちゃん”という認識になってしまうのであった。


「……じゃあ、大まかな筋書きはそんな感じで」

「わかったわ」

「帰ってきたら旅行のお土産話を聞かせてよ」

「そうね。ドッキリのことも報告するわ!このことは秘密よ?」

「うんうん。ふふっ…面白い話を期待しているからね!」

「うん」


 そして、社員旅行当日―――作戦決行日を迎えたのであった。

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