5件目 このよろず屋の社員旅行が連日慌ただしかった件 4/4
俺が温泉から出てきてから暫くすると、花音も温泉から上がってきた。
そして、入口近くの休憩所で座っている俺を見つけるとフラフラと近づいてくる。
「からだ…まだ…ビクビクするです…それに…茜は過保護です…」
果たしてそれが過保護で説明できるものなのかはあえて考えないようにしよう。
俺は母性本能からくるものだと信じている。
「大丈夫か?…とりあえずお嬢達が出てくるまであっちで遊ぶか?」
「あ、遊ぶです!」
「なら行くか」
今日の旅館は初日に宿泊した旅館より大きく、最近建てられた高級旅館だ。
休憩所の隣にはクレーンゲームや卓球台、ビリヤード、ダーツなど、様々なアミューズメントが完備されているという充実ぶりである。
俺はアミューズメントがあるエリアを指差し、花音と一緒に移動を始める。
それにしても…お嬢達はまだ出てこないのか。なかなか長く温泉に入っているな?
つか、よく考えたらお嬢と茜があられもない姿で温泉に入っているんだよな?今頃キャッキャウフフでもしているのだろうか―――
―――っと思っていたが、意外と早く出てきたようだ。俺の妄想は始まる前に終わってしまう。
「ふぅ…さっぱりしたわ!気持ちよかった~」
「そうですねぇ~。特に露店風呂がとても良かったですぅ」
湯上りで色艶が良いな!それにしっとりとしたこの感じ!…実にイイね!
「あ、仁さん。もう上がっていたんですねぇ」
「おう、今から花音と遊ぶ予定だった」
「みんなで卓球するですー!」
「いいですねぇ。お相手させてもらいますぅ」
お、卓球か!いいねぇ。
…っと…これは…?もしかして昨日の仕返しのチャンスじゃねぇのか?
よし……ちょっとだけ様子見してから仕掛けてみるか…。
「ほう…してもいいが…なにか軽い賭けでもしないか?その方が白熱するだろ」
「賭けって何よ?お風呂上がりのジュースでも奢りにするの?」
「そうだな。それでいこう」
「いいわよ」
「とりあえずダブルスでもしようか。3ゲームマッチだ。俺は花音と組む」
「なら私は茜とね。茜、いける?」
「問題ありませんよ~」
ククク…俺は中学生の時、卓球部だったんだ!
そこら辺の素人よりもそこそこ出来るんだよッ!!
「まずはダブルスだ。これは練習といこう。さっきも言ったが、これで負けたら牛乳やジュースを奢るってところにしておくか」
「望むところよ」
「いいですよぉ」
「わたしは仁の味方です!」
お、ヤル気に満ちているなこの幼女。
それだけ自信があるってことはできるってことだな…よし!
「いいだろう!行くぞ花音!!」
「仁!やっつけるです!!」
「おう!!」
花音はさっきの仕返しと言わんばかりで超やる気だ!さっきからラケットをブンブン振り回している!戦いに必要な士気は十分だ!
イケる!つか行け幼女!奴らを蹴散らすんだッ!!
―――10分後
「――――はい、こっちの勝ちね」
「……あぁ、そうだな」
少しは幼女に期待したが……身長差もあるのだろうがあまり上手い部類ではなかった。
ダブルスは僅差ではあったが負けた。俺が奢らなければならなくなった。
だが、まだ俺の計画通りではある。
俺は敵の戦力を調査するためにわざと手を抜いていたのだ。
俺からすると花音は話にならないレベル……お嬢も俺の敵ではない。
それでこの両者はいい勝負、又はお嬢に少し分がある程度の領域。
そして茜……こいつも問題ない。ペンホルダーで前に押し出すだけの簡単な卓球だ。
これは……イケる!!
「じゃあ、仁!牛乳2本よ」
「ああ、分かった。買ってくる」
俺は近くの売店で牛乳を2本購入し、お嬢と茜に渡す。
そして、お嬢と茜が飲み干したらゲーム再開だ。
「では、シングルス戦いくぞ!!ここからが本当の賭け…罰ゲーム付きだ!」
「その罰ゲームって何よ?」
「罰ゲームは…相手の言うことを聞く…だ」
「―――ッ!!」
「勿論、自分ができないような無理難題はなしだ。簡単なことをさせるレベルにしておこう。無論…今だったら逃げてもいいんだぜ…お嬢様?」
「……ッ!……やるわ」
「誰と誰が対戦するです?」
「……。…茜が仁と対戦するって言ってるわよ?」
ほう…茜か。
それは俺としても願ったり叶ったりだ。
もしお嬢と対戦を組まれたら、いつ奴隷命令を下されるか分かったものではない!!
「よし、なら決まりだ!1回戦は…お嬢対花音!」
「いくわよ花音…」
「し、勝負…ですッ!」
―――カンッ――コンッ―――カンッ――コンッ
両者の白熱した試合は進んでいった。
序盤は花音が優勢ではあったが、すぐにお嬢が打ち方を調整して逆転を果たす。
1ゲーム目はお嬢が逆転して取った。そして2ゲーム目、途中から花音の気迫が無くなり―――
―――お嬢が勝った。
「11ー6!ゲームカウントは2-0でお嬢の勝ちだ」
まぁ、善戦した方か。よくやったよ幼女。
そして、審判の時がやってきた。
敗者には罰を……これがこの卓球の締めなのだ。
あ……花音が少し震えている…さっきの刑罰が頭をよぎってしまったのだろう。
お嬢に負けたら何されるか分かったもんじゃない……花音は一日に2度死ぬ運命だったか。
「じゃあ……」
――ビクッ
花音がびくびくしているな。
さて、お嬢の判決は……
「にっこり笑って頂戴」
「―――ッ!そ、それだけです?」
「どうしたの?それだけよ?……もしかしてさっきのイタズラのこと気にしてる?」
――コクンッコクンッ
花音は首を縦に振った。
「もう許してるわよ。だから…いつも通りの花音に戻りなさい」
「――あっ!!わ、わかったです!戻るです!」
花音は満面の笑みを浮かべながらお嬢に抱き着いた。
お嬢…花音のことをちょっとだけ気にしていたのだろうか?安心した表情を見せている。
それに花音も……はしゃぎすぎたのを反省しているようだ。どうやら、こっちはハッピーエンドで終わったって感じか。
……さて、次は俺の番だ!
目の前にいるアルバイターにバッドエンドを与えてやらねばッ!!
――――ん?
アイツ…さっきと持ち方を変えてきた…次はシェークハンドか。
単に気持ちを切り替えただけか?……いやッ…あの手つき……持ち慣れている!?
まぁいい…まずは様子見からだ……クククッ!素人では返球が難しいぞ?この俺のッ!ドライブサーブはッ!オラッ喰らえッ!!
――カンッ
――スパンッ
―――――んんッ!?
――コンッ―――コンッ―ココンッ
俺の背後からピンポン玉の跳ねる音が聞こえた。
遅れて俺の頭がドライブサーブをドライブで返球された事実を理解した。
なッ…ばッ…バカな!……ドライブ……だと…。
コイツ……まさか…
「おい茜!お前…まさか経験者かッ!!」
「はいぃ。私は中学生の時に卓球部でしたぁ~」
「んだとッ!?聞いてねぇぞ!!」
「言ってませんから~」
こんのアルバイターぁぁッ!!分かってて実力を隠してやがったな!
性格は正直だったはず…だが…今日は中々したたかじゃねぇか!
「まだまだぁッ!!」
―――カンッコンッカンッコンッ
そして、罰ゲーム付きの卓球は進んでいき――――
「―――ふふっ…1ゲーム目…もうゲームポイントですよぉ?」
「俺は最後まで諦めねぇぞ!!かかってこいやぁ!」
「では、私のサーブですねぇ」
――クイッ――クイッ
おいアルバイター……さっきからなんだよその伊達メガネは!どこから出しやがった!
クイクイクイクイあげやがって…ファッション用だろソレ!俺の挑発に使用してんじゃねぇよ!
「あ、何ですか?もしかして…この伊達眼鏡が気になりますか?少し前にイメチェン用で購入したので使用してみましたぁ。フフッ……こう見えて私……学校では優等生さんなんですよぉ?」
優等生!?…確かに…色々と要領が良かったことを考えれば頷ける!
つかコイツ…学校で絶対委員長キャラだ!間違いねぇッ!!!
――コンッ
「優等生ぶってんじゃねぇよ!!おらぁッ!」
――カンッ
「ふふっ……お返ししま~すぅ」
――コンッ
「ざっけんなぁ!!このメガネ委員長!」
――カンッ
「クラス委員長はやってますよぉ~。よく分かりましたねぇ~」
――コンッ
「興味ねぇよッ!さっさとくたばりやがれぇ!!」
――カンッ
――コンッカンッコンッカンッスパァァンッッ
「ぐぞがぁッ!!」
――コンッ―――コンッ―ココンッ
「11-6で1ゲーム目は茜の勝ちね」
「やりましたぁ」
「ぐぅぅッ…」
ダメだ……こいつ……強ぇぇ……このままではやばい!
敵の戦力を完全に見誤った!誤算発生だ!すぐに修正せねば!!
しかし…もう勝負は始まってしまっている!挑発以外打つ手がねぇ!!
いやむしろ俺が挑発されて集中力を欠かされている状況!非常に劣勢だ!
これはもう……一か八かだ……お嬢の力を借りるしかねぇ!!
「おいお嬢!俺の職業は?」
「奴隷よ」
「ち、ちが…卓球選手だろ?」
「私が敵に塩を送るとでも思っているの?」
やっばダメか…
「別にいいですよぉ~?」
茜がまたメガネをくいっとあげる動作をする。
茜め…ついに本性をあらわしやがったな!!
この俺を何度も挑発してきやがるとはッ!!
完全になめ腐りやがって……だが……少ないチャンスをものにしたぞ!
「決まりだ!俺の職業はプロ卓球選手だ!」
「…はいはい。茜がいいならいいわ。プロ卓球選手ね」
「よっしゃ!」
「プロではないですよ?アマチュアですぅ」
「んな細かいことはいいんだよッ!今は全力で貴様に勝つ!!」
「少しは楽しませてくださいねぇ~期待してますぅ」
「調子に乗りやがってぇぇぇッ!!俺の身体能力……舐めんじゃねぇぇぇ!!!」
――カンッコンッカンッコンッ
――カンッコンッカンッコンッ
――コンッカンッコンッカンッ
――コンッカンッコンッカンッ
「オルァァァッ!!」
――スパァァンッ
「やりますねぇ」
「8-11です。仁の勝ちです」
「ふはははッ!どうだ!?俺の身体能力を過小評価していたようだな!このゲームは俺がもらった!!」
「これでゲーム数は同点ですかぁ」
「さぁ、運命の最終ゲームだ!」
――カンッコンッカンッコンッ
――カンッコンッカンッコンッ
――コンッカンッコンッカンッ
――コンッカンッコンッカンッ
「はぃッ!」
――スパァァンッ
「マジかよッ!?」
「6-6です」
ば…ばかな!!互角だと!?
俺は今プロ卓球選手の適性MAXだぞ…しかも経験者…さらに運動神経には自信がある…それなのにッ!!
「まさかお前…卓球の才能まで持っているのか!?」
「そうなんですかねぇ。でもこれは努力の結果ですよぉ。毎日、朝から晩まで練習して…その結果、中学の時に県大会上位までいったことがあるんですぅ」
「んだとぉ!?」
金集めるだけのエロい女じゃなかったっていうのか…このアルバイターッ!
「さて、そろそろ本気でいきますよぉ」
「なんだと!?」
「流石に負けるわけにはいきませんからぁ。何されるか分かったものじゃありませんので」
「ほぅ…よくわかってんじゃねぇか。……だが俺も容赦しねぇぞ!」
俺に対して舐めプしたことを後悔させてやるぜ!
勝ったら変態プレイさせてやる!恥ずかしい言葉を言わせてやる!!
そしてお前のその痴態を!今夜の酒の肴にしてやんよォォォッ!!!
――スパァァンッ
「11-8で茜の勝ちね」
「私の勝利ですぅ」
「クッソッガァァァッッ―――!!」
「最初は接待ゲームのつもりだったんですが…途中で本気になっちゃいましたぁ。流石は仁さんですぅ」
「ぐぅッ…うれしかねぇよ!」
「さて…罰ゲームは何にしますぅ?」
「そうねぇ…頭にこれってものが浮かばないわ」
あ…そ、そうじゃねぇか…。罰ゲームが浮かばなければ助かる可能性が…。
いいぞ!そのまま浮かばなくていい!浮かばなければ―――――
「白猫の代わりにするのはどうです?」
は?今不吉な言葉が聞こえたぞ。俺に人間辞めろってことかこの幼女?
考え方がお嬢並みにエゲツないじゃねぇかッ!!
「う~ん…あ!そう、そうね!語尾に"にゃ"をつけるとかどうかしら?ずっと猫語。何々するにゃって」
……なんだ…そっち―――――ッっていや、嫌だよッ!!
「かわいいですねぇ。猫語ですかぁ」
「にゃんにゃん猫さんです~かわいがるです~」
やばい…羞恥プレイに決定した…。
他にも観光客がちらほらいるんだぞ…そして俺は公衆の面前で”猫野郎”をさせられるんだぞ…。
こいつら…正気の沙汰じゃねぇ…。
「さて、そこで固まっている仁にそろそろ罰ゲームを受けてもらいましょうか」
「ですねぇ」
「です~」
あ……俺に定められた未来がだんだんと近づいてくるのがわかる……猫野郎への変身まで猶予はない。
まだ…まだ抗えるか…イケるか俺!?
「ねぇ仁。罰ゲームは語尾をずっと猫語にするってことに決まったわ。分かった?さぁ、早速やってみなさい」
「えっ、いやぁ~…ちょっとよく理解出来ないんだけど…」
「語尾に”にゃ”をつけるだけの簡単なことよ?もし出来ないなら奴隷命令にしておく?自らやるか…やらされるか…選ぶ権利をあげるわ」
くそがッ!脅してきやがる…初めから抗える余地なんてなかった!
しかもどっちの選択肢だろうが行きつく先は同じじゃねぇかッ!!
どのみち絶対やらされる……こいつ鬼かよ!
「ッ…自らやる…これでいいだろ」
「いいわよ」
「仁さん…違いますよぉ。語尾は…”にゃ”…ですぅ」
「……。……分かった…………にゃ」
「……プッ…」
「……クフッ…」
―――ッ!!笑われたぁッッ!?
お嬢も茜もこっち見てニヤついてる!どう見ても笑うの堪えてやがるじゃねぇか!!
コイツら…とんでもない羞恥プレイを…クソがッ!
これは早く次の対戦で挽回せねば俺に明日はない!!
どれならいける……どれな…あっ!あ、あれだッ!!
「おい!さっさと次のゲームに行く……にゃ」
「う~ん…もうちょっと可愛くして!ちょっとヘリウム吸ったみたいに高い声で!」
なんだよ可愛い声って!!追加注文してんじゃねぇよ!もう十分恥ずかしいんだぞッ!!
「早くやるです」
もうそっち側かよこの幼女!
「さぁ、…くふっ…早くしなさい。それとも…命令されたいの?」
―――クソがッ
「………さっさと次のゲームをやるぞ……にゃ」
「くふッ…仁?違うでしょ?」
………。
「…次はダーツをやるにゃ~」
「……ぷっふふッ!クッククッ…あっ…もうだめッ!…笑いが止まらないわ…!お腹が…痛いッッ!!」
「じ…じんさん…真顔でその言葉…ククッおかしッ…いですぅ…ふふッッ!!」
………。
誰得だよコレェェェッッッ!!!
野郎のにゃんにゃんとか一体誰が望むんだよぉぉぉ!!
「仁の猫さんはかわいいです~」
一人いたぁぁぁぁッッ!!
いや、考えを切り替えろ!次だ次!失敗をいつまでも引きずっててもしょうがねぇ!!失敗から学び次に活かす!!それがこの俺…但野 仁だ!!
今は笑えッ笑うがいい!そのまま抱腹絶倒しろ!
そしてゲームへの精細を欠いておくがいい!
次のゲームは俺が大学時代にハマっていたダーツだ!
今考えればこっちからやれば良かったッ!!!
「私はダーツのルールがよく分からないですぅ…」
「わたしもです。やったことないです」
「なら私がやるわ。勝負しましょうか」
お嬢と1対1か!
「いい度胸だにゃ。さぁ、勝負内容は何にするにゃ?」
「くふッ…あ、あんたに…任せるわ…フフッ」
クソがッ話す度に…そのまま笑ってろ!
「なら勝負内容はゼロワンだにゃ!501点丁度を先に取った方が勝ちだにゃ!勿論今回も罰ゲーム付きだにゃ!お嬢が代表で勝負するってことはお嬢が負けたら茜も花音も罰ゲームにゃ!一連托生にゃ。覚悟はいいかにゃ?」
「いい…ふふっ…わよっ…くくッ…」
うぁぁァッッ!喋りすぎると辛いッ!!
くそがぁぁぁッ!!みんなメス猫にしてやるぅぅぅ!!
俺だけのにゃんにゃん動物園をつくってやるぅぅぅぅッ!!
「勝負内容が…フフッ…決まりましたねぇ…ぷふッ…」
…く…そ…がぁぁぁ……だが準備は整ったッ!もう容赦しねぇぞッ!
いくぞお嬢!!そしてそこの小娘共ッ!!
すぐに俺の屈辱を味わわせてやるからなぁ………これからにゃんにゃん…させてやるからなぁぁッ!!!!
「瞳ちゃん、頑張ってくださいぃ」
「瞳お姉ちゃん頑張るです~。次はわんわんもさせるです~」
あの幼女ッ!!次は犬もやらせるつもりかよ!お前しか得しねぇよ!
だが!俺がそこら辺のお嬢様程度に負ける訳がねぇ!
その未来はあり得ねぇッ!!
さぁ、まずは先攻後攻を決めないとな!
「お嬢…先に投げるにゃ」
「いいッ…わよ」
俺はスローラインで投げる体勢を整えた。
久しぶりの緊張感…この感覚…心が昂ぶる。
さぁ思い出せ俺!あのダーツに費やした長き日々を………今ッ!
―――ひゅん―――トスッ
ち、僅かにブルから逸れた…2点のシングルに刺さったってことは右にブレがあったか?少し懸念をしていたが…若干ブランクがあるようだな…。
「次は私ね」
―――ひゅん―――トスッ
――ッ!?ブル…ではないがお嬢の方が真ん中に近いじゃねぇか!!
まさか…いや、偶然の可能性もあるからなんとも言えん。だが…今の一投でお嬢も経験者である可能性が高いことが分かった!もう油断はない!!
だが…これで俺が後攻か…少し不利ではあるが…まずは少しずつ勘を取り戻すとしよう。
俺はお嬢の投げ終わった後、3本のダーツを手にもち、スローラインに立ってから投げる体勢を整えた。
思い出せ俺!あの過酷なダーツ生活をッ!!
――トスッ
――トスッ
――トスッ
「よし!ロートンッ!一気に勝ちが見えてきた!…にゃ!」
「やるわね…私も負けてられない!」
――トスッ
――トスッ
――トスッ
「ねぇ見た?ブル2回よ!」
「うめぇ……ふんッ!なかなかやるにゃ」
そして、精神を研ぎ澄ませた俺とお嬢の白熱した接戦が続き――――
「――――にゃオラァァッ!!」
――トスッ
よし、トリプル刺さった!これで一気に勝ち圏内!!
あと一投ッ!!ここで7のトリプルに刺されば俺の勝ちだ!!
―――1、2、3…
――今ッ
「……そこの奴隷」
――ボソッ
「―――ッんにゃ!!」
―――トスッ
…えっ…19のトリプル……BURSTしたじゃねぇか…。
「卑怯だぞお嬢!!」
「命令はしていないわよ?”そこの奴隷”って言っただけ」
「反応しちまったじゃねぇか!」
「そうなの?あら?猫語を忘れているわよ?」
お嬢がジト目でこっちを見てくる。
だが口元は笑いをこらえているといった感じだ。
「……んぐぅぅ……言葉で妨害してんじゃないにゃッ!!」
「仁もさっきからにゃんにゃんいって私を笑わせようとしてるじゃない。フフッおあいこよ?…あぁ…お腹が痛い…クフッ」
んにゃああああッ!!何がおあいこにゃァァァッ!!
っと…いかん!落ち着け俺!まだ勝負は決していない!
俺がお嬢を笑わせてBURSTさせるしかねぇ!!
「ほら、さっさとなげるにゃ?」
「うるさいわね。気が散るでしょ?」
「うにゃ~?にゃにゃ~?」
「プッフフッ…や、やめなさいよ…変な顔しないでッ」
「にゃんにゃんにゃ~」
「鬱陶しい!そこの奴隷!静かに立ってなさい」
し、しまッ!俺の努力がッ!!
――トスッ
「仁!私の勝ちよ」
「ぐぞぉぉッ!ごれでも負けたぁぁッ!!」
「強敵だったわ。それは認めてあげる」
「ひ…一つだけ…一つだけ教えてくれ!お嬢!…どうやってここまでの実力を…」
「ふふっ…あんたは知らないでしょうけど…私の実家にはダーツがあるの」
――ッ!!
な、なん…だと…まさかそんな…。
「だから家ではよく一人で投げていたわ。ダーツが上手いってことが役に立つこともあるのね。良かったわ」
「ば、ばかにゃ…」
俺の敗因は敵の情報分析が足りなかったってことかッ!!クソがッどれだけ墓穴を掘ってんだよ俺!!!お墓作りすぎてるぞ俺!!お墓に別荘は不要だろッ!!!
「どう?とっても自信があったようだけど。私の勝ちよ?」
「にゃぁぁぁッッ…んにゃぁぁぁッッ…」
「仁が悔しがっているです」
「頭を抱えていますねぇ」
負けた!負けた負けた負けた負けた負けたぁぁぁッ!!
あーッ頭もにゃあにゃあいっててもうわけわからん!!
「じゃあ、そろそろ覚悟はいい?仁!」
「えっ!?全然よくない…絶対やらねぇからな」
「大丈夫よ。今度は私が命令してあげるから」
「えっ!?嘘……ど、どうかご慈悲を!」
「ふふっだーめッ!」
――わ、わおーん!
そしてその日、俺は一人わんにゃん動物園をやらされた。
◇◇
3日目の朝、旅行最終日を迎えた。
俺は、日の光がうっすらと差し込む和室の一角で起床した。
お嬢達はまだぐっすり寝ているようだ。紐で仕切られた畳の向こうでスヤスヤと寝息を立てている。
俺はゆっくりと立ち上がり、お嬢の近くまで歩いて寝顔を見下ろした。
俺は昨日の夜を決して忘れない。
お嬢…いつか俺が…にゃんにゃんさせてやるからな!
「仁…もう起きたの?」
――ビクッ!…うぉぉッマジびっくりした!いきなり起きるなよ…。
「あ、あぁ、もう起きた。そろそろ朝食の時間だ。茜と花音も起こして食べに行こうか」
「うん……そうね」
お嬢は茜と花音を起こし、旅館での朝食を食べに行く。
旅館で朝食を食べ終えたら俺達は私服に着替え、自分達の荷物をまとめ始めた。
そして、各々の荷物が全てまとまり、出発の準備が完了したら、旅館のロビーでチェックアウトを行う。
本日の13時頃には高速鉄道に乗り、よろず屋までの帰路につく予定である。
お昼ご飯の時間を考えたら時間の余裕は3時間ほどだ。
なので、まずは高級リゾート内にあるお土産屋さんに向かうことにした。
旅行の最後はやはりお土産だろう。
必ず見てはおかないと後で悔やむ可能性があるからな。
そして俺達は、近くのお土産屋さんから順番に入っていくことにした。
大きな建屋の一角に設けられたお土産コーナーを覗くと、数々のご当地名産品やご当地キャラクターのグッズが並んでいる。流石は高級リゾート。品数も種類も豊富である。
「凄い種類ね。珍しいお土産も沢山あるわ」
「どれを買おうか迷ってしまいますねぇ」
「おいしいお菓子を買うです。さっそく探してくるです~」
茜はご当地キャラクターのぬいぐるみコーナーへ行き、花音はご当地のお菓子コーナーに向かった。
そしてお嬢は、和多海のご当地キーホルダーを複数手に取り悩み始めたようだ。
うお!?このキーホルダー1000円もするのかよ…。
つか……お嬢の持っているやつ……あれ2000円じゃねぇか!?
ただのキーホルダーなんだぜ?お土産とはいえ、ちょっと躊躇うな…。
俺はどれもグッズにしては高いと思う。でもそういう商売だから仕方がない。
そんな感想を抱きつつ、様々なお土産屋さんで色々と悩みながら巡っていった。
お土産の購入を終えた後は、余った時間で高級リゾートの近くをブラブラと寄り道だ。
近場の気になる建屋をブラブラと巡っていき、最後の観光に費やしていく。
そして時刻が12時頃となり、お腹が空いてくる頃合いになったら、露店で売っている和多海の名物を食べ歩きして回る。和多海でしか食べられないご当地名物で舌鼓を打った。
やがて、ゆったりとした時間は終わりを迎え、帰宅の時間が近づいてくる。
俺達はバスで高速鉄道の駅まで向かい、高速鉄道の指定された席へと乗り込むと、遠くに見える高級リゾートに別れを告げた。
「ふぅ、この慌ただしかった旅行もこれで終わりか…そう思うと寂しくもあるな」
「ですねぇ。とっても充実した旅行でしたぁ」
「おいしいものも珍しいものもたくさん見れたです。またみんなで来たいです~」
「そうね。私もそう思う。久しぶりに旅行をしたわ。本当に…久しぶり…」
そうぽつりと呟いたお嬢は、物思いに耽った様子でお土産の袋の一つを開封した。
お嬢が開封した袋からでてきたのは、最初のお土産屋で購入したであろう高級なキーホルダーだった。
そして、それを自分の鞄につけ始める。
「お嬢それ……最初のお土産屋でずっと悩んでたやつじゃねぇか。無駄に高かったんじゃねぇのか?」
「うんそうね…でもいいの。やっぱりそれだけの価値があると思ったから購入したわ」
「そうか?俺にはただの和多海オリジナルキーホルダーにしか見えねぇが…」
俺がお土産屋でお嬢を見かけた時、最後まで値札とにらめっこしていたものだ。
もし俺だったら間違いなく購入しなかった高級キーホルダーである。
「そうね………確かにこれはただのキーホルダー。でも、私にとっての”コレ”は違うの。…私の感じた価値は、物の価値なんかじゃないわ」
「どういうことだよ?」
「それはね……思い出の価値よ。仁……私はね…思い出にその価値があると思ったの。この楽しかった旅行の記憶……私はそれを思い出させてくれる”モノ”として購入したわ!その一つとしての価値があるの!」
「――ッ!!…へぇ…そうかよ。…なら……高い買い物なんかじゃなかったな」
「うん。私はそう思ってる!!」
――プルルルルッ――ガタンッ
高速鉄道の発車時刻。
扉がゆっくりと閉まり、静かに走り始める。
帰りの高速鉄道―――――窓際の席。
瞳と茜と花音が旅行の出来事で談笑する傍ら……仁は一人窓の外を眺めた。
だんだんと遠ざかっていく高級リゾートを車窓から眺め続け、やがて静かにその目を閉じる。
楽しくも、慌ただしくもあった……この社員旅行の思い出を振り返りながら。
そして、よろず屋の社員旅行は慌ただしく過ぎていったのであった。
社員旅行編、読んで頂きありがとうございました。
ブックマークもありがとうございます。
楽しい旅行が終わってしまいました。
でも、まだ休みは続いているのでそこは次回!
因みに、今回の話はちょっと長くなりすぎた感。
そしてこのままいくともっと話が長くなるのでサクッと切断(苦笑
しかも急ぎ足での執筆になったのでもし校正甘かったら許して…いや教えて(懇願
でも今回は更新日マニフェストを提示したからめっちゃ頑張った…多分(自己満足
今後ものんびり不定期更新で行きますので、ふと気づいたときに読んで頂ければと思っております。
それでもブックマークして頂いている方…本当にありがとうございます。励みになります_(._.)_
では、今回の余談。
休日での超絶執筆活動中(30分以上連続入力中)に起こった悲劇。
急にPC上のIEブラウザが固まりデータ保存ができずに死んだ。
ブラウザ再起動……そして私の目の前 (のメモ)が真っ白になった。
保存はマメに行いましょう…その通りですね。いや、マジ勘弁。
そういえば茜と花音のラフ画をアップしなくちゃ。(使命感)
そして新キャラのラフ画がまだできていない…(これもやらなきゃ)
では次回、日常系ラブコメ第6弾!
6月末頃には更新したい!(できれば2話分…いえ、ただの願望です)
また更新した際は読んで頂ければ幸いです!それでは!
★今後のクオリティ向上の為、惜しいところがあれば是非お聞かせください_(._.)_★




