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5件目 このよろず屋の社員旅行が連日慌ただしかった件 2/4


 メロン農園がある山の麓まで歩いていくと、少しずつ人だかりが見えてきた。

 その人だかりは大きなレンガ造りの建物に密集しているようだ。


「あれがメロン農園か…かなり広いなぁ」


 俺達は大きなハウスが建ち並ぶメロン農園に到着した。

 大きなレンガ造りの建物にある受付には、観光客が列になって並んでいる。

 そして、メロンが栽培されているハウスの中では、皆がメロン狩りを楽しんでいるようだ。

 俺たちは既に予約をしており、旅館のロビーで発行したチケットを渡すとそのままメロン農園の中に案内された。


「一面メロン畑じゃねぇか。これは圧巻だな!」


 メロン農園のハウスの中は、どこまでも続くかのようなメロン畑が存在していたのだ。

 

 俺が驚きながら周りを見渡していると、やがて係員から声をかけられ、メロン狩りのレクチャーが始まった。

 メロンの食べ方や基本的な楽しみ方、無駄な食べ方の禁止や食い散らかしなど、楽しむ上での注意点に関する説明をひと通り受けるとレクチャーは終了だ。

 その後は各自が好きなメロンを探して収穫する。


 因みに、ここのメロンは小ぶりなタイプだ。なので女性の方でも2~3個なら食べられるらしい。

 そして、なんといっても甘さとジューシーさが評判の品種である。

 恐らく…いや、間違いなく美味い。


「よし!沢山食うぞ!!」

「そうね!行きましょう」

「そうですねぇ」

「メロン~メロンです~」


 俺はメロン農園の中を少しずつ歩きながら、至高の逸品を探し始めた。

 だが、すぐに一つの疑問が浮上した。”どれがより美味いメロンなんだろうか?”という疑問が。

 

 まぁ、このサイズならいくつか食べられるだろう。

 試しに一つ食べてみるとするか。


 俺はなんとなく美味そうなメロン様を取り、半分に切って食す。


「――ッ!!うん、美味い!甘さもジューシーさも申し分ないな!しかし…」


 適当に選んでこれだ……周りをみると感動したような声をあげている人もいる。

 もっと美味いメロンがあるに違いない!隣の芝が青く見えるだけかもしれないが!


 とりあえず俺は自分の収穫したメロンを一個平らげ、新たなメロンを探し始める。すると―――


「仁、このメロンは熟していておいしいです」


 俺がメロンの判別に悩んでいる時に、花音が声をかけてきた。

 どうやらここで救世主が現れたようだ。

 超絶判別スキルを持つ幼女様の登場だ。


「お、どれどれ…」


 俺は花音の持ってきたメロンを半分に切り、片方を貰って食べてみる。


―――ぱくっ


「―――ッ!!んおぉッ!俺の選んだメロンよりもうんめぇじゃねぇか」

「ちゃんと判別方法も調べてきたです!メロンは大好きなのです~」


 流石は見分ける才能だ。

 勿論、判別する為の知識も必要ではあるが、まさか調査済みとは……食に対してはアクティブだな。

 

「もっと仁に喜んでほしいです。もっと食べさせてあげるですー」


 花音がまた自分で選んだメロンを健気に運んできた。

 そして、俺が軽く半分に切って分けてやると、嬉しそうにスプーンで食べ始める。

 こう見るとなかなか愛いやつである。


「おいしいですぅ~」

「茜みたいな喋り方になってるぞ。どれだけ美味いんだよ」

「このメロンは蕩けるくらいおいしいです~。まさにめろんめろん状態です~。あ、仁も早く食べるです。食べさせてあげるです!」

「ん?そうか。なら切ってやるから食べさせてくれ」

「分かったです」


――スパンッ


「仁。あーん」

「うん!うまーい」


――スパンッ


「仁。あーん」

「うん!甘ーい」


――スパンッ


「仁。あーん」

「うん!ジューシー」


――スパンッ


「仁。あー……」

「おい、ちょっと待てや」


 この幼女…一体何個喰わせるつもりだよ。

 今だけでもう4個目だぞ!


「どうしたのです?」

「どれだけ食わせる気だよ」

「たくさんです。メロンはおいしくて甘くて大好きです。だからいくらでもいけるです」


 いくらでもは流石に無理だろ。胃拡張かよ!

 つかこの幼女…食べ過ぎが体に良くないって知識は持っているのだろうか。

 とりあえず……優しく教えておくとするか…。


「なぁ花音…。いくら美味しくても食べすぎは体に良くないんだぞ?」

「何でです?」

「それはなぁ…食べ過ぎると体がメロンみたいになっちゃうからだ!」


 ………って…何がメロンになっちゃうからだ……だ。

 ちゃんとデブになるぞって言えばよかった。

 このメロンのせいなのかは知らないが、幼女とのコミュニケーションまで甘くなってきたような気がする。

 自分で言っておいてなんだが………正直悶え苦しみそうだぜ!


「それなら大丈夫です。仁はそんなメロンみたいな存在なのです。もうメロンになればいいぐらいです~」


 伝わってねぇ…しかも俺をメロン味にするつもりだったのかよこの幼女はッ!?


「メロンにはならねぇ…出荷される前に撤退だ」


 ここのメロン…美味いけどメッチャ甘い……絶対血糖値が大変なことになる!

 俺まだ20代前半だけどもうやめないとッ!食べ過ぎダメ絶対ッ!!


「仁はもう食べないのです?」

「あぁ…俺はもうお腹がメロンになっちまった……だからちょっと休んでくるぜ」

「わかったです。残りはわたしが食べておくです~」


 うぉ…お腹が重ぇ…食い過ぎた…。

 これもう昼めし不要じゃねぇか……マジで腹がメロンになってやがる!


 そして俺は、メロン農園の隅でお腹のメロンを消化し続けた。



◇◇



 メロン農園で美味しいメロンを堪能した俺は、お嬢達と合流してメロン農園を後にした。昼ご飯の予定はお腹のメロンの都合により、出店の軽い食べ物に変更された。


 次のプランはハイキングだ。


 メロン農園の横から続くハイキングコースを歩き、雄大な自然を眺めながら山頂の展望台を目指す。

 この山はそれほど高くはない。500m程度の小さな山なので、登山初心者でも安心だ。


「山頂までは平坦な初心者コースでいくわ」

「ハイキングですかぁ…経験がないので不安ですねぇ…山頂まで登れるでしょうかぁ…」

「大丈夫よ。……多分」

「山が高いです…疲れそうです……でも…山頂には行きたいです……なので仁!」

「断る!自分で登れッ!」


 おんぶに抱っこを熱望する幼女に現実の厳しさを突きつけて俺は登り始める。

 お嬢と茜もハイキングをスタートし、その後を追う形で花音も登り始めた。


 緩やかなハイキングコースを歩いていき、自然を満喫しつつ徐々に山頂へ向かい登っていく。

 清らかな風と草花の香りがリラックス効果をもたらすのだろうか…ハイキングはとても気持ちのいいものだった。


 やがて、俺達は山の中腹辺りに到達した為、軽く休憩を挟んだ。

 お嬢と茜も少し疲れが見え始めている。普段から元気な花音でも流石に疲れてきているようだ。


「疲れてきたです」

「そうか?体力ねぇなぁ。風は爽快!景色は最高!普通は登る気がどんどん湧いてくるだろうが」

「仁の体力は無尽蔵です?呆れた物言いです」

「確かに人間離れしてるわね。やっぱり荷物を全部持たせましょうか」


 どうしてそうなるんだよ…。

 女物の鞄を全身に纏う登山者とか……そんなハイキング野郎見たくねぇよ……。


「なぁ、そのカワイイ鞄とかも全部俺が持つのか?」

「そうよ。はい持って」

「お願いしますぅ」

「さっさと持つです」

「しょうがねぇな…」

「これで少し楽になったわ」

「そうですねぇ。ありがとうございますぅ」

「これで仁を疲れさせられるです!」

 

――どっこいしょっと


 ったく…これじゃ荷物運びのおっさんと変わらねぇじゃねぇか…。

 俺はハイキングをしてるのか荷物運びの仕事をしてるのか分からなくなってくるな…。


 そして、山頂に向かってのハイキングが再開された。


◇◇


 俺は全ての荷物を持たされてハイキングさせられることになったが、格好がアレなだけで体力的には全く問題なく、山頂まで登る事ができた。

 お嬢達は所々で休憩を入れながら、なんとか山頂まで到着していたが、既にヘトヘトな様子だ。


「やっと到着…疲れたわ…」

「ですねぇ…でも、いい景色ですぅ」


 山頂からはどこまでも続く海の美しさを眺めることができた。

 又、展望台に設置してある双眼鏡を使えば、さらに遠くの風景さえ鮮明に眺めることが可能なようだ。


「仁…もう歩けないです…肩車をするです」

「なんで肩車なんだよ」

「高いところから…景色をみたいです」


 花音はもう歩けない事と高い所で景色をみたいという理由で、俺に肩車を要求してきた。

 勿論俺は断ろうとしたのだが―――


―――肩車か………そういえば俺も小さい頃、親父によくしてもらっていたな…。


 親父に肩車してもらった世界はいつも見ている景色と違うものに見えて好きだった記憶がある。

 だからなのかは分からないが、もしかしたら花音も小さい頃の俺と同じ気持ちなのかもしれない。

 そう考えると俺は――――――


「……ほら、掴まれ…」


―――よっと


「肩車は高いです。仁はお父さんみたいです~」


 俺はお父さん代わりかよ…。

 いや、確か花音はお父さんっ子だったな…色々と事情があったようだし…。

 まぁ…今ぐらいは代わりになってやるとするか…。楽しそうにはしゃぐ花音を見て、悪い気はしないからな。


「お父さんみたい…か。どうだ?楽しいか?」

「楽しいです!」

「良かったわね」

「あ、瞳お姉ちゃんはお母さんみたいです!」


――ッ!!おい、それはッ!!


「――ッ……そ、そう…。まぁ…今だけはそういうことにしといてあげる」


 んん?お嬢…今日はやけに大人しいじゃねぇか?山登りで疲れているのか?

 "なんでこの奴隷と夫婦代わりにさせられるのよ"からの”そこの奴隷”パターンで四つん這いにでもされるかと心配したが…。


「瞳お姉ちゃんは優しいけど厳しいです」

「ただツンツンしてるだけだろ」

「ち、違うわよ!…前からちょっと人見知りなだけで……」


 いや、ちょっと人見知りレベルではなかったけどな?

 昔のお嬢は超冷たかったぞ?俺をゴミのように見ていただろ?

 無愛想で無口で…人を全く信用していない感じだったからな?


 でも……確かにあの頃と比べると人見知りぐらいにはなったのかも知れない…。

 あの頃よりも気持ちが通じたから?年の近い友達が出来たから?それは全く分からないな。

 

 俺も4ヶ月程前に出会ったばかりだ。だからお嬢の事で知らない事は多分沢山ある。

 今考えると出会った頃のお嬢は色々あって大変だった…必死にもがいて、一人で悩んで、苦しんでいるような毎日を見てきた俺からすると、ある程度は仕方がなかったのかも知れないと思う。


 って…よく考えると出会ってまだ4ヶ月かよ。もう半年以上経っている感覚だった。

 ………よろず屋の日常は濃密過ぎる。


「あ、花音ちゃん。私はなんですかねぇ?」


 花音が俺とお嬢に対して"〇〇みたい"と言った為、茜が自分は何代わりにしてくれるのかが気になったようだ。

 まぁ…普通に考えたらわかるだろうに。聞くまでもないだろ…。


「もちろん茜も決まっているです」

「えっそうなんですかぁ?嬉しいですぅ」

「ふさわしいポジションをTVで見たことあるです」

「お、なんだ?お姉ちゃんだろ?」



「愛人1号です」


「ッ!!――ァィぃ!?」

「ッ!!――ジンッ!?」


 お嬢と茜が驚愕の声をあげた。


 オィィィッッ!!

 いきなり何言っちゃってんのこの幼女ぉぉッッ!!

 一体どんな番組見て覚えたんだよぉォォ!!!

 ここで爆弾落とすなよぉォォッ!


 しかもそれ幼女が覚えるべき日本語違うよォォッ!?

 つか意味分かって言ってんのかよォッ!!


「あ、愛人1号……そ、それもまぁ…」


 おい待てや!何納得してんだよ!間女扱いでいいのかよ!!背徳過ぎだろ!!


「だからみんな大切な家族です~」


 おいおい…愛人も家族かよ……どうやら本気で言ってやがるな。

 後で言葉の意味を優しく正しておいてやるか…。


「あ、あっちの展望台のある山に行きたいです!仁、進むです!」

「いきなりだな……はいよ…」

「私はここのベンチで少し休むわ…先に行ってなさい」

「あ、はいぃ。分かりましたぁ」


 お嬢は少し疲れているらしく、ベンチに座り休んだ。

 なので、俺と花音と茜で展望台の方に向かう。

 展望台は階段を少し登った場所にあり、その場所が一番の絶景ポイントだ。


「わぁ…美しい風景ですぅ。風も清々しくて気持ちいいですねぇ」


 展望台がある所まで到着すると、絶景ポイントというだけあって景色がより見渡せるようになっていた。


「こっちの眺めも最高だな。この"和多海"の良いところが全て一望できる!高級リゾートの全景もここからなら見渡せるじゃねぇか」

「海がおっきいです~すごいです~」

「あ!なぁ、写真を撮っておこうぜ」

「あ、いいですねぇ」


 俺は鞄からデジタルカメラと三脚を取り出して絶景ポイントの前に設置する。

 そして、花音を肩車したまま、茜と一緒に一枚写真を撮った。


――カシャッ


「良い思い出になったです~」

「お嬢も来たらもう一度撮ろう」

「そうですねぇ。あ!私の学校の友達に見せる用で一枚撮らせてくださいぃ」


 そういうと茜はカメラの写角から俺を外しにかかる。


「なんだよ?俺達と一緒のじゃ嫌なのか?」

「い、いえいえッ!!ち、違いますよぉ……………ご、誤解を…」

「何ごにょごにょいってんだ。なら俺が撮ってやるから場所を決めろ」

「あ、はいぃ!」


 茜は高級リゾートが見渡せるポイントを選び、撮影場所を決めた後、ポーズをとった。

 俺はデジタルカメラを構えて茜とリゾートの全景をフレームに収め、シャッターを切る。


――カシャッ


 撮影が終わると茜が写真の出来栄えを見にこちらへ歩いてきた。


「綺麗に写りましたかぁ?」

「あぁ、見ろよ!すごく…綺麗だ」

「えっ!?……ほ、ホントですか?」

「ん?あぁ、すごく綺麗に写ってるじゃねぇか。見ろよこの景色!」

「……。……もう!」

「何ふくれっ面してんだよ?写り方が気に入らなかったのかよ?」

「最高の一枚ですよぉッ!」


 だよな。中々いい写り具合だ。

 実にいい思い出になった。


「あ、そこにいたの?」


 お嬢が展望台エリアまでの階段を上ってきた。


「お嬢!来るのが遅いぜ?早く集合写真を撮ろう」

「あ、うん。そうね!」


 お嬢が合流したので俺はもう一枚写真を撮った。

 写りは勿論、最高である。


 そして、暫く山頂でゆっくりした後、俺達は旅館の方へと戻っていった。


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