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4件目 このよろず屋の社員旅行が慌ただしかった件 1/3


―――本格的な夏の季節がやってきた。


 冷房を効かせたリビングで、いつものように仕事に励んでいった。


 お嬢はハイスペックPCを見ながら様々な取引や依頼処理を行い、茜はお嬢の補佐としての指示を的確にこなす。

 俺はいつもと変わらないお嬢のむちゃぶりに対し、全力で対応だ。


 そして本日、遂に世間でいう"お盆休み"の前日を迎えることとなった。


「仁、それに茜。明日からはお盆休みになるわ」

「お盆休みですかぁ。一般的にはそうなんですねぇ」


 くくくっ…だよな?

 ようやく来たか…念願の長期休暇が!


 茜はアルバイターだからあまり関係ないかもしれないが、社会人にとってのお盆休みは貴重な癒しの期間だ。

 俺にとっては初のお盆休みではあるが、あの過酷な労働から一時的に解放されると思うとそれだけで気分はウッキウキだ。


 だが、喜ぶにはまだ早い。


 俺が勤めているこのよろず屋は一般常識が通用しない超絶ブラック企業だ。

 お盆休みがいつ長期休暇と決まっている?

 ぬか喜びになる可能性も十分考えられるぞ?


 俺の経験から導かれてしまった未来の形…そうならないように願う他ない。


「…なぁお嬢。一つ質問していいか?」

「何?何かあったの?」

「流石に"お盆休みは1日です"ってオチはないよな!?」

「そうねぇ…その考えもいいけど、今回は1週間の長期休暇にするわ」


 ――えっ?ホントに長期休暇?

 てか俺今…墓穴掘るとこだった?


 や…やったぞッ!!  

 ”うん、あるわね。勿論1日よ!”って返事を覚悟していたが…お嬢は1週間と言った!確かに聞いた!!

 初めての長期休暇…ゲットだぜ!


「それにしても…せっかくの長期休暇よね…だから…どこかへ旅行に行きたいわ」

「あ、それでしたら…この前取引のあった会社で旅行雑誌を頂いてます。一度見てみませんかぁ?」

「それもそうね」


 茜は棚から取り出した旅行雑誌を開くと、お嬢と一緒に見始めた。


「旅行です?」


 そして”旅行”という単語に引き寄せられたであろう花音が白猫を抱いて歩いてきた。

 どうやら俺の自室で白猫の凛と遊んでいたようだ。


 花音は小学生なので、茜と同様に夏休み中。

 俺を含め、過酷な社会で生きる企業戦士達が日々戦い続けている中、平然と遊びにやってくるのだ。


 ……実に羨ましい。


「あ、おいしそうな食べ物が載ってるです~」

「おすすめの旅行特集がありますねぇ。さっそく見ていきましょう~」

「ここもいいわね…これとこれも…迷うわ…」

「私これですー!おいしそうですー」


 あれ?何故か女子会が始まったぞ?

 今って就業時間中だよな?

 旅行雑誌に目を通してていいのか?

 作業資料に目を通せよ。


 しかし、お嬢はこのよろず屋のヒエラルキーの頂点だ。

 このよろず屋において人権レベル最弱である俺の意見などゴミみたいなものだろう。

 そして、女が3人集まったらなんとやらだ。

 今この場で俺に発言権があるとは到底思えない。


 なので俺は、もう事の成り行きを横で見守るしかないのだ。


「じゃあ…ここに決定ね!」

「少しお高いですよぉ」

「今回は社員旅行として行くわ!だから費用は全て私が払うから気にしなくていいわよ」

「ほ、本当ですかぁ!?ありがとうございますぅ」

「やったです!高級リゾートです~」


 お、どうやら旅行先が決まったようだな?

 どれどれ…うん?人気海水浴場がある高級リゾート?…またスゴイとこ選んだな。


 旅行雑誌のページを覗いてみる。

 結構値段は高めだ。

 一般市民である俺の場合、まず行くことはないだろう。


 だが今回、費用は全てお嬢持ちとの事だ。

 超絶ブラック企業のくせになかなか太っ腹である。


「茜!早速空いてるスケジュールの確認を!できたら予約して!」

「はいぃ!」


 茜が自分達のスケジュールをチェックした後、高級リゾートのスケジュールもチェックしていく。

 見ていて思うが、中々手際が良い。


 それにしても…ぐふっ…人気の海水浴場がある高級リゾートか…。

 それはつまり…?

 こいつらが水着姿になるってことじゃねぇのか?


 ぐふふ…これはやばいぞ。

 特にお嬢の水着姿をまた拝める日が到来するとは…。

 しかも今回の水着はお嬢が自ら選んでいるものだ。

 過去によろず屋へ来訪した変態コスプレ勇者の指定ではない。


 因みに、あの時のお嬢の水着…下着の上から着たであろうあの水着は生地が痛むくらいしっかり洗ってから返してやった。

 あの変態野郎にくんかくんかされる可能性があったからな!当然だ。


 まぁ、昔のことはどうでもいい。

 それよりも自分の準備をしないと…っと、ヤベッ…そういえば海水パンツを持ってねぇ。

 早く買っておかないと…ガチパンツでの遊泳しかできなくなっちまう!


「なぁお嬢。俺の持っていく海水パンツがねぇ。ちょっと今から買ってきてもいいか?」

「あれ?…仁も一緒に行くつもりなの?」


「……えっ?」


 そ、そんな…馬鹿な…!?

 つい一緒に行くものだと思ってたぜぇ?

 豪華旅行の結末が…そもそも俺の勘違い?

 しかもこれ…めっちゃ恥ずかしいパターンじゃねぇか!?


 俺も一緒に行くものだと…俺もよろず屋の旅行メンバーだと……ぐっうァァッ!何か言い訳をぉぉ!


「あ、いや、ただ俺はッ…この夏にどっかの海へ行くことがあるかもしれないってことで…」

「何慌てているの?冗談よ。予定は空いてるでしょ?一緒に行くわよ」


 お、おぉ、お嬢ぉぉ…!!

 最近冗談まで言うようになったのかよぉ…。

 ちょっと前のお嬢だったらガチで除け者扱いだっただろうに……あ、焦ったぁ…。


「お、おどかすなよ…。いつでも行けるに決まってるだろ…」

「仁も一緒に行くです?やったです~!」

「仁さんも来れるんですね。なら旅行がもっと楽しくなりそうですねぇ」


 お、お前らぁ……。


「ま、まぁ…私の奴隷なんだからお供をするのは当然だわ。行かないって言っても強制連行よ!」


 お、お嬢ぉ……って嫌でも強制連行かよ!


「あ、瞳ちゃん…この日の予約は問題ないのですが…次の日の部屋が…仁さんと…」

「…仕方ないわね…もうこれでいいわ。多少のことには目を瞑りましょう」

「は、はい。分かりましたぁ」


 お嬢と茜がコソコソとした話が終わる。

 予約内容が決定した為か、茜がネット予約を開始した。


 その後、俺は旅行内容を聞くことができた。

 明後日から2泊3日の旅行になるらしい。


 3日目は午後になったら帰宅準備をするので、実質は2日ちょっとの滞在だ。

 そしてお嬢も茜も花音も予定に問題はない様子なので、予約ができ次第スケジュールが確定する。


「はい。予約できました~。荷物の配送サービスがありましたのでそちらも手配完了です。明日の夕方にはここに来るそうですよぉ」


「なら大きな荷物は明日ここに持ってきて。予約した旅館に送ってもらうわ。ここまで持ってこれる?」

「お父さんにここまで送ってもらうです」


「よろず屋まででしたら私は持ってこられますぅ」


「荷物はいいわね。集合は明後日の朝9時!ここの最寄りの駅の改札前に集合で!」

「分かった」

「はいぃ」

「はいです~」


「それと…今日はもう終業時間にするわ。キリがついたら終わりなさい」

「分かりましたぁ」

「あと少しで終わる」

「もう終わってるです」


 いや幼女…お前は働いてねぇだろ…。


「私は荷物の準備がしたいから自室に戻るわ。仁。花音の送迎よろしくね。その後に必要なものを買いに行きなさい」

「おう」


―――バタンッ


 お嬢が自室に戻っていった。

 そして茜も仕事のキリがついたらしく、別れの挨拶をした後に帰っていく。


 よし、俺もそろそろ行くとするか。

 自転車で花音を送ったら商店街で水着を買わないとな。


「行くぞ花音!」

「はいです~」


 俺は仕事にキリをつけ、花音の送迎を完了した後、商店街で買い物をした。






◇◇






 旅行当日。

 俺は昨日大きな荷物を旅館へ送ったので、軽い手荷物――必需品のみを確認した。


 ひと通りの準備ができたら最寄り駅の改札前までお嬢と自転車で向かい、駐輪場に止める。

 時刻はちょうど8時50分。集合時間の10分前だ。


 因みに、白猫の凛はお嬢が留守の間、お嬢の知り合いの娘に預かってもらっている。

 普段はアパートの管理人をしている元気な婆さんがいるのだが、その婆さんの孫娘が自身の通う大学近くの別宅から遊びにきていたようだ。

 その孫娘にお嬢がお世話をお願いしたら二つ返事で了承してくれたとの事。


 流石のお嬢もアパートの一角を借りている為かどうかは知らないが、そこらへんの人付き合いはあるようだ。

 俺は最近まで存在すら知らず、会ったことはなかったが、昨日お嬢と話している姿をよろず屋の前で目にすることができた。

 パッと見は元気なボーイッシュ少女という感じだ。

 お嬢との仲は悪くなさそうではあった。



「あ、皆さんそちらでしたか~」


 俺とお嬢が最寄駅に到着したと同時に茜の声が聞こえた。茜は少し早く到着していたようで、俺とお嬢を見つけて合流してきた。

 軽めの鞄を手に新調したであろう可愛らしい服装で歩いてくるのが見える。


 つい1ヶ月前くらいの時は男物の服や深めのフードで顔を隠していた外見変質者がこの変わり様!

 そして今のアルバイト中では制服姿やお嬢の借り物服を着てる時があり、それはそれでいいものだったが…これはこれで素晴らしい。


「お父さん行ってくるです~」


 茜が合流したタイミングで花音の声も聞こえた。

 お父さんに手を振って別れた後、こちらに駆け寄ってきていた。


 おいおいおい…朝からテンションたけぇなぁ。

 これだから幼女は……ここで走ってこけるんじゃ―――


「じぃぃぃぃんッ!!」


―――ドゴッ


「うぐぉッッ!!!」

「わぁ……花音ちゃん…朝から大胆ですぅ」


 こ、この幼女…テンション上がりすぎだろ!!駆け寄ってくるのはかまわんがちゃんと止まらんかい!!

 朝イチタックルを俺の下腹にぶち込んでんじゃねぇッ!!男の聖域に直撃したらどうすんじゃい!!


「ようやくみんな揃ったわね?忘れ物はない?さぁ、2泊3日の社員旅行よ!今回は少し奮発したわ!人気の和風高級リゾートで楽しむわよ!」

「はぃ」

「はいです!」


 えっ…お嬢……先程行われた俺へのダイレクトアタックは完全無視ですか?

 もしかしてこれも……もう日常風景の1つなんですか?


 そして何事も無かったかのように俺たちの旅行はスタートした。






◇◇




 


 高速鉄道とリゾート直行バスを乗り継ぎし、大体2時間ほどで高級リゾートまで到着した。


 道中は俺が幼女を軽くあしらいつつ、窓の外を流れていく風景の移り変わりを楽しんでいく。

 お嬢と茜に関しては、旅行先でのプランについて色々と想像し、談笑していたようだ。

 不思議と道中の時間経過は早く、気がついたら到着していたという感覚だ。


「おぉ…これは………す、すげぇ…」

「確かに…圧巻ですぅ…」

「大きいです!広いです!きれいです!」

「和風高級リゾートって言うだけあるわね。期待通りだわ」


 青く輝く海と白く輝く砂浜。

 そしてその砂浜に沿う形で和を感じさせる綺麗な旅館が建ち並んでいた。

 建ち並ぶ旅館と緑豊かな自然との共存は実に見事と言わざるを得ない。

 この景観を眺めているだけで、次第にテンションが上がってくるのが分かってしまう。


 きた…ついに来たぜ…!


 和風高級リゾート!

 太平洋に面した温泉と海の別天地!和多海(わたみ)に到着だ!!


 流石は高級リゾート!

 人気の別天地と銘打つだけあって素晴らしい景観と設備の数々!

 さらに人気であるはずなのにごった返していない!

 人数制限がしっかりされているようなので快適さも問題なし。

 予約出来たことが奇跡じゃないかと思ってしまうぞ!


「うぉぉッテンション上がってきた~ッ!」


「仁。気持ちは分かるけど、まずは旅館にチェックインするわよ」

「おっと…そうだったな。行こうか」


 俺は予約を取った旅館まで荷物を運び、ロビーでチェックインをした。

 俺専用の1人部屋と女子3人の大部屋だ。

 

 俺は自室に荷物を置き、必需品のみ持ったらロビーに寄った。

 昨日配送依頼した大きな荷物――パラソルなどがロビーに届いているので受け取りの手続きを行い、砂浜へと運ぶ。


「みんな、必要な荷物は持った?早速砂浜に行くわよ」

「花音ちゃん?準備はできましたかぁ?」

「できたです。早く行くです!」


 ちょうどお嬢たちも不要な荷物を置き、必需品を持って出てきたようだ。

 そして旅館のすぐ目の前の砂浜に歩いてくる。


「来たか。パラソルとか配送してもらった大きい鞄はあそこの砂浜らへんに置いておくぜ」

「うん。じゃあ、私達はここの建屋で着替えてくるから」

「分かった」


 お嬢たちは女性専用の更衣室がある建屋に入っていった。

 俺も男性専用の更衣室がある建屋に入り、ササっと着替えてからお嬢たちが出てくるのを待った。


 とりあえず準備運動をしながら燦々と照りつける太陽を全身に浴びる。

 そして深呼吸をしながらこの昂る気持ちを少し落ち着かせようと善処する。すると―――

 

「やっぱりすごいわね!流石は和風高級リゾート!!砂浜も海も広くて綺麗…それにお店も充実してる」

「本当に綺麗な海ですねぇ。天気も快晴でキラキラ輝いていますぅ」

「すごく広いです~!大きな砂場みたいです~!」


 お嬢たちの声!?

 俺は反射的に声のする方に振り返った。どうやら昂る気持ちは抑えられそうにない!

 まぁそりゃそうだ…だってよぉ…お嬢の水着がみられ―――


 ―――ッ!!!!!

 ウッヒョォォォォォォッッ!!!

 スタイルやッべぇぇぇッ!!


 女神の姿が俺の目に焼き付いた!

 純白のフリル付きビキニを身に纏い、真紅の可愛らしいリボンで髪を括った女神の姿がッ!!

 さ…さ…さッ――――――


 流石だぜッお嬢!顔だけでなくスタイルも着こなしも抜群じゃねぇか!!腰のフリルも素晴らしいッ!!




―――んおぉ!?次は茜か!!

 オフショルが似合っててやっべぇなッッ!!

 しかも……おいおいおい…むっちむちのエッロい体してんじゃねぇかッ!!!

 くぅぅ~ッッテンションあがるぅぅぅ~ッ!!!!




―――フッ…さて、幼女か。


 5年経ってから出直してこい。


「瞳お姉ちゃん。仁が変なことを考えてるです。目つきもいやらしいです」


―――ッこいつ…メンタリストかよ!!!!


「思ったとおりね。仁の処分は決まったわ!当初の予定どおり、そこの砂浜に埋め立てるわよ」

「そうですねぇ」

「楽しそうです~」


――えっ…?処分?予定?なんでニコニコしながらエゲツない話してきてるの?


「ちょッまっ―――」

「そこの奴隷。静かに立ってなさい」


――ッ!!体が言う事を聞かないッ!!やられた!!


「どれくらい掘るです?」

「2メートルぐらい掘ってみる?」


 完全に埋める気ですかお嬢?

 私は人間ですよ…窒息しますよ?


「ここら辺の砂はしっとりとしていて掘りやすそうではありますが…ちょっとその深さは無理ですねぇ」


 ですよね。死にますよ?


「なら、埋まらなかった部分は山みたいにしましょう」

「時代劇の生首みたいにするです」


 な、生首!!そんなの嫌ッ!やめてぇぇッ――ってまてよ…


 これはッ――――――合法ローアングル視点を確保できるじゃねぇかッ!!!


 そうと決まれば真っ向勝負だ!

 カモンッ!!さっさと埋め立てろよハニー達!!!


「瞳ちゃん…仁さんが両手を広げて凝視してきますぅ…」

「命令通り静かに立ってるけど……あの顔…不愉快極まりないわね…」

「さっさと埋め立てるです!」

「そうですねぇ。では…さっそく始めましょうかぁ」


――ザック――ザック――


 ……おい、アルバイター。

 なんでお前は折り畳みシャベルを持ってきてんだよ。

 砂浜で城でも作るつもりだったのかよ…。

 最初から俺を埋める気だったのかよ…。


――ザック――ザック――


 こっちの幼女はスコップか。

 年相応だな。


 …おい、墓穴みたいになってんじゃねえか。

 もっと真剣に掘りやがれ。


――ザッ――ザッッ


 ………ん?なんだ?

 お嬢が俺の近くまで歩いて来た。


「どうしたお嬢?掘らねぇのか?」


「アンタの埋め立て場所なんだからアンタが掘るに決まってるでしょッ!!」

「――ッ!!な、なんだってぇぇぇッ!!??」


「そこの奴隷!さっさと自分の住処を掘りなさいッ!!全力でッ!」

「くッ――――クソガァァァッッッ!!!!!!!」


 そして俺は、全力で自分の墓穴を掘った。

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