3件目 このよろず屋に親戚の幼女が遊びに来た件 3/3
俺と花音は花音の実家が所有している山に到着した。
到着後はまず山の管理事務所へと向かい管理責任者に挨拶をする。
そして花音が発する鶴の一声により、山道への通行許可と道具を借りることができた。
「仁、わたしについてくるです」
花音の先導の下、けものみちといっても納得できるような山道を歩いていく。
足場はあまり良くはない。しかも前日に小雨が降った為か、少し滑る時もある。
「あ、鉱脈がみえたのです!たしかここらへんだったはずです。ここを少し登っていくです」
「山の入り口からそこまで遠くはなかったが…道が少し急だな。しかも前日降った小雨で…若干滑るぞ」
「わたしなら危ない所も判別可能なのです!絶対大丈夫なのです!」
「お、おう…そこまでいうなら…」
俺は花音と同じ足場を踏みながら後ろを付いて行く。
木と木の間を抜け、伸びる草木をかき分けながら、鉱脈の見える岩肌に沿って歩いていった。
「あっちは危ないです」
花音が突然指を差す。
だがその方向を見てみてもどこが危ないのかがよく分からない。
「足場に亀裂が入っているです」
俺は再度よく見てみると、地面の一部が脆くなっているように見えた。
踏み抜くと足場が少し崩れていきそうだ。
「ホントに分かるのかよ。これはスゲェな」
「こっちです」
「あぁ、今行く」
そしてそれからも少しだけ山道を登っていく。
すると、岩壁の隙間に鉱石らしきものが見えてきた。
「仁!ここです。あそこの周りを砕いてほしいです」
「よし、ちょっとどいてろ」
――ガンッ――カンッ――ガンッ
俺は借りたツルハシを使い、花音の指示する岩肌を全力で削っていく。
そして岩壁の一部を砕き終わると、原石を慎重に採り出した。
「やったです!これだけあれば十分です!」
花音はそう言うと、自分の持ってきた鞄にガーネットの原石をしまった。
少しだけ嬉しそうな表情を見せる花音。
採りたかった物が採れて満足したのだろう。
「よし……あとは花音の家の工房で加工するだけだな」
「そうです。早速お家に帰るです~」
「それにしても…家族がいないからこっちに預けられたわけだろ?家に戻っても問題ないのか?」
「お家に使用人がいないから、一人でのお留守番を心配しているのです。だから多分、瞳お姉ちゃんに頼んだのです。だから戻っても大丈夫です~」
「そうか、なら早速向かうとするか」
何か特別な理由で預けられたわけじゃないならいいのか…。
お父さんの方は花音に対して心配性なのかも知れないな。
「はい。早くいく――」
―――ビュオォォォッ
ッ!?突風ッ!?
「あっ…」
突風が吹きつけた瞬間、花音の体がふらついていく。
「花音!危ねぇ!!」
俺は手を伸ばし花音を抱える。だが―――
「足場がッ!?」
―――ゴロゴロッ――ドスッ
花音を庇うように引き寄せたが、その瞬間に足場の一部が崩れてしまった。
それによりバランスを崩し、崩落した場所へと転がるように落ちてしまう。
「うぐッ…大丈夫か花音!!」
「あぅぅっ…痛っ……だ、大丈夫です。助かった…です?」
「良かった…ケガは無さそうだな」
俺は花音の様子を確認した後、置かれた状況を確認する。
谷風が吹きくぼみに落ちたのが今の状態。
少し広い落とし穴のような構造のくぼみだ。
壁はしっとりした土と木の根っこ、そして小石が混ざったような感じだ。
登って脱出しようにも高さが3m以上あり、木の根っこだけではちょっと心許ない。
そして、使えそうなものが一つもない。
花音を助ける時に投げ捨ててしまった為、何も持っていない状態だ。
「…なぁ花音。登るにしても足掛かりになるものが殆どない。垂れている根っこや枝を使うのも頼りない。土壁を掘って登ったほうがいいかもしれないが…」
「あっ!なら良いものがあるです!そこは安心するのです!」
「ん?まじか?」
花音はそう言うと、肩掛けの鞄に手を入れて漁り始める。
そして手を引き抜くと、片手に何かが握られていた。
「ここにスコップがあるのです。これで余裕の脱出です~」
「す…スコップぅ…」
山舐めすぎだろこの幼女!…っと思ったが…素手よりはマシな状況だった。
普段なら”スコップかよ”と突っ込みを入れるところだが、今は不幸中の幸いだ。
よし…とりあえず掘って足場を作ってみるとしよう。
そして俺はスコップを片手に、土壁を掘り続けた。
◇◇
「――――ッくそッ!」
大分時間が経過したと思われる。
足場は若干作れたが、まだまだ脱出にはかかりそうだ。
掘り方にも無駄があるかもしれないな…少しでも効率を上げたておきたいが…。
だんだん日が落ちてきた。
雲だけの暗さではない。
しかも雨が少し降ってきた為、あまり長居すると体力が持たないだろう。
特に花音は体が小さい。
比較的気温は暖かいほうだが、ずっと濡れたままでは風邪になる可能性が考えられる。
そう考えると……気持ちがだんだん焦ってくるな。
もう手段は……選んでられないか…。
俺はポケットを探り、中から携帯を取り出した。
ボタンを押して電源を入れてみる。とりあえず壊れてはなさそうだ。
――ポチポチッ
――プルルルッ
『――はい』
「おいお嬢!仁だ」
『いきなり何?何か用事?』
「今の俺の職業なんだが… ちょっと変えてくれないか」
『は?何で?だったら理由を言いなさい』
「あ、あぁ…理由は……ッ…」
……理由…か。
それを言ったら、多分心配させてしまうだろう。
それに今言ったら、サプライズにもなら無くなってしまうだろう。
「……あ、あとで話すからよ。…ちょっと頼むわ」
『ならダメね。保育士のままよ』
「頼む!今は…今だけは土木作業員にしてくれ」
『なんで土木作業員なのよ!あんた何を考えてるわけ?』
「いや、大した――」
『危険なことでもしようとしてるの!?』
――クソがッ……少しイライラしてきた。
「…ッいいから早く言えよ!時間がないんだよッ!」
『ッ!…分かったわよ…今のアンタの職業は土木作業員…これで満足?』
「ッ!…あ、あぁ……すまねぇ…」
――プツンッ
電話を切られた…当然か。
俺としたことが……お嬢に何て言い方してんだよ…。
本当の事を言えば良かったかもしれねぇ…。
今からかけ直して謝って…本当のことを言ってやりてぇ…。
つい焦っちまった…つい怒鳴っちまった…。
ちゃんと考えて話せばよかったのに…。
……今日はやけに雨が冷たいな。
だからだろう……体も…心も冷える。
「仁……悲しいの?」
「――ッ!!」
ふと気が付くと、花音が悲しそうな表情で俺を見上げていた。
いつものですです口調はどこにもない。本気で心配させているようだ。
分かっちまったか……流石だなこの幼女は。
俺は気持ちを切り替え、改めて目の前の土壁を見上げた。
先程までに掘ってて気づいた事がある。
闇雲に掘っても足場が脆くて崩れてしまうことだ。
崩れるのは柔らかい土では体重を支えきれないからだ。
だったら…崩れないようにする方法を試してみるしかない。
「おい花音!どこが一番足場を作れそうか…分かるか?」
「うーん……あっ!こっちの部分なら土がしっかりしてそうです」
「よし!次は箇所を俺に教えろ!どの部分を掘ればいいかをな!」
「分かったです」
「うぉぉぉッ!やってやるぜ!地上最高の土木作業員とは…俺のことだぁぁぁッ!!!」
――ザクッ――ザクッ
俺は土を掘り、小石をどかし続けた。
土が柔らかく滑りやすい部分には、逆に小石をスコップで打ち込んで足場を作る。
それ只管繰り返していき…やがて、窪みから登れるほどの段差を作ることができた。
「よし!ここを上がれ花音!」
「う゛うぅぅぅん……やったッ!出られたです!」
「俺も上がるぞ!少しどいてろ」
「あ、はいです」
俺は掘って作った足場を慎重に登っていく。
そしてやっと窪みから出ることができた。
「…ふぅ…。やっと出られたぜ。まさかこんなことになるとはなぁ」
「ほんとです…帰るときに管理者に一言いってやるです」
「おぉう…。と、とりあえず慎重に降りるとするか。それに…少し疲れた」
「疲れたです?」
「あぁ、流石にな…しかも服がかなり汚れちまった」
「ならわたしの家に行くです。いろいろあるです。洗い流せばいいのです」
「ハハっ…分かった。花音、原石は持ってるな?お前の家まで行くぜ!」
「はいです!」
俺と花音は管理事務所に寄った後、花音の実家にある工房まで自転車で向かった。
◇◇
花音の実家にある工房に到着した。
花音はまず自分の汚れた服を先に着替え、それからガーネットの研磨に取り掛かる。
俺は花音が研磨している間に自分の服の汚れを水で洗い流していく。
「仁!ガーネットの研磨が終わったです」
暫くすると工房の中から花音の声が聞こえてきた。
どうやらガーネットの研磨を終えたらしい。
俺は急いで工房に戻り、研磨を終えたガーネットの原石を見てみる。
すると原石の角ばった部分はうまく削られ、表面は滑らかになっていた。
素人目であっても違いは明白。
原石を研磨する前と後では、輝きが雲泥の差だ。
「おぉ…すげぇな…」
「どうです!これで次の段階にいけるです」
「おう。次はストラップ作りだな」
「さくっとやるです~」
研磨された小さなガーネットを手に作業台へと向かう。
そしてそれをストラップにつける作業へと取り掛かった。
「……やべっ…難しいぞコレ…」
しかし俺の素の細工スキルでは、やはり荒削りなストラップになっていく。
案の定ではある…だが、時間をかけることでなんとか形にすることはできた。
ガーネットが輝くお手製ストラップ。
どうやら花音もしっかり製作できたようだ。
「できたです~!」
「おっ!上手いな」
「当然です!後はタイミングを見て渡すだけです」
「あぁ…だが…」
俺はあまり悠長に喜んでは居られなかった。
既に外は暗く日が沈んでいる。
時計を見ると花音の迎えまであまり時間がなかった。
幸運にも小雨は止んでいた為、自転車で帰ることはできる。
だが、時間的には結構ギリギリのラインだった。
「花音、時間がない。急ぐぞ」
「あっ!今行くです~」
俺は急いでガーネットのストラップを袋にしまう。
そして自転車の後ろに花音を乗せて、よろず屋へと急行した。
◇◇
よろず屋へと到着し、玄関を開けて中に入る。
するとリビングの椅子に座ったお嬢がこちらに視線を投げかけてきた。
見るからに不機嫌な様子。……叱責される5秒前だ。
「仁!今何時だと思っているの!もうすぐ21時よ?何度も電話したのに!」
「えっ!?…あぁ、すまねぇお嬢」
「それに服が汚れてるじゃない!どこで何をやってたのよ!?」
「これは…ちょっと……転んじまってな…」
俺はお嬢に対して深く頭を下げた。
お嬢からは何度か携帯に連絡が入っていたようだ。
だがそれに全く気付かなかった。
ストラップ製作に夢中になり、急いで自転車を漕いでいた為だろう。
お嬢にはかなり心配をかけてしまっていたようだ。
「転んだ?まぁいいわ。それで…まだ謝ることがあるでしょう?」
「あぁ……お嬢に向かって怒鳴っちまった事…だろ?」
「そうね…許されないわ」
「すまねぇ…どんな罰でも受ける。だから…」
「瞳お姉ちゃん!だめッ!」
花音!?俺を庇って…?
「花音?…何がダメなの?」
「仁!プレゼントを渡すの!」
「――ぁッ!!」
俺は慌てて袋を取り出した。
そしてガーネットのストラップを手に、お嬢へと渡そうとする。
「お嬢!誕生日は明日だけど……誕生日おめでとう」
「これは…?ガーネットのストラップ?」
「仁が一緒に採ってくれたですッ!誕生日プレゼントです!」
「そう…とっても嬉しいわ。でも花音、仁には罰が必要よ。こんなに心配させたんだから?…私が怒るのは当然でしょ?」
「ダメッ!怒られるのはわたし!わたしのわがままなのッ!仁は何も悪くない!」
「ううん…それでも―――」
「服の汚れだって仁が泥だらけになってまで助けてくれたときのやつなの!山道の足場が崩れて落ちたときに穴の中から助けてくれたのッ!」
「…か、花音……わ、分かったわよ。そこまで言うなら罰はなし!だからこの話は終わり!…それでいい?」
「…うん」
「だけど…今後は心配させないでよ?」
「ごめんなさい…です…」
「反省してるのならいいわ。もしこんなに心配させるくらいなら…サプライズなんて―――」
―――ピンポーン
「あっ!お父さんが迎えに来たです?」
「多分そうだろ。ちょっと出てくる」
俺が玄関に出ると花音のお父さんらしき人が車で迎えにきていた。
花音を預かる時間が終わりを迎え、俺とお嬢は花音に別れの挨拶をする。
「迷惑かけたです。でも楽しかったです!」
「俺は気にしてねぇよ。また来い。おいしいお菓子を作って待ってるからよ」
「仁!楽しかったです!また来るです!」
「またね…花音」
「瞳お姉ちゃんも…むぎゅぅ」
「…もう…」
よろず屋の玄関前。
俺との別れの挨拶を済ませた花音は、お嬢とも別れの挨拶を済ませる。
だが少しばかり別れを惜しんだのか、花音はお嬢に抱きつき離れようとしない。
「…じゃあお嬢。俺は先に夜ご飯の準備をしてくるぞ」
「…そうね。任せるわ」
俺は再度手を振り、花音に別れを告げる。
そしてよろず屋の中へと戻っていった。
「………。……瞳お姉ちゃん」
仁がよろず屋に戻った後、花音は瞳に声をかける。
その表情は何故かキョトンとしたものであった。
「どうしたの花音?お父さんが車の前で待っているじゃない。早く行きなさい」
「なんでまだそんな顔をしているのです?」
「そんな顏?普段通りの顔でしょ?」
瞳は花音の問いかけに対し、普段通りの表情で答えた。
いつもと変わらない無愛想な澄まし顔。
だが、花音の瞳には違う表情に見えていたのであった。
「違うです。見たら分かるです」
「……そうね……なら少しだけ仁に怒っているからかも。あれだけ心配させたんだから…怒って当然よね」
「当然なのです?でも仁がプレゼントに込めた気持ちは本物です。このわたしが保証するです~」
自分を心配させた事に対して怒る瞳。
そこにすかさずフォローを入れる花音。
だが、瞳の表情は先程と変わらない。
普段通りの無愛想な表情のままだった。
「気持ちがあったとしてもまだ許す気はないわ」
「瞳お姉ちゃんはまだ怒っているです?」
「そうね。花音の言う通り…まだ怒っているわ」
「えへへぇ。それも嘘です~」
「な、何でそうなるのよ?」
「だって瞳お姉ちゃん……とっても嬉しそうに見える…です」
「…ッ……ふん」
瞳の心情を察し、笑顔を見せる花音。
最後に一言だけ言い残すと、自分のお父さんの元へと駆け出していった。
お父さんと共に帰っていく花音。
その姿を見送った瞳は、手に持つガーネットのストラップに視線を落とした。
「嬉しそう…か。……そうなのかも…」
よろず屋の周りには誰もいない。
ポツンと漏れた呟きは、ただ闇夜に消えていく。
だが瞳の心の奥底には、不思議な気持ちが消えずに残っていたのであった。
「……ありがとう…仁」
瞳は普段通りの表情でよろず屋へと戻っていった。
両手で愛でるように、ガーネットのストラップを持ちながら…。
そして今日もよろず屋の1日は、慌ただしく過ぎていったのであった。
3話目を読んで頂きありがとうございました。
あまりラブコメしてないなぁと思ったけどどうだろう(いや、幼女としてるか?
主人公がヒロインのお風呂タイムに気づかず脱衣所へ侵入し、さらに服を全て脱いで扉を開けて「えっ入っていたんですか?(確信犯)」「キャー(白目)」ぐらいは……うーん、ないな(確信
さて、次話は少し羽を伸ばすような話になる予定です。
また更新した際は読んで頂ければ幸いです。それでは。
★今後のクオリティ向上の為、惜しいところがあれば是非お聞かせください_(._.)_★




