表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/56

1件目 このよろず屋は超絶ブラックだった件 1/2

日常とギャグをベースにシリアスと若干のラブ要素を突っ込んだ感じのコメディです。

アニメのようなスピーディな展開を意識して書いております。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです_(._.)_


※3件目まではちょっとシリアス。4件目からはコメディ色が強くなっております。


「どうしてこうなった……」


 手元に渡された給与明細に目を落とす。


「手取り9万8000円…」


 この俺、但野 仁(タダノ ジン)の今月の給与だ。

 5桁しかない…。


 一番左にもう一桁足りてないんじゃないか?

 これ絶対印刷ミスだよな?

 そうだと言ってくれお嬢。


 ここの労働環境は週休ゼロ!

 毎日朝から晩まで24時間勤務で泊まり込み!

 三食昼寝付きだが自炊させられるのだ。


 しかし、表向きは週休1日、8時間勤務の初任給19万8千円(出来高)である。

 あまり乗り気な内容ではなかったが……くそがッやられた。


 そして、何故俺はココで働くことになってしまったのか……

 その反省も踏まえ、暫く考えながら、徐々に現実から目を逸らしていった……。






―――ギフト。

 それはこの世界に生を受けた全ての人間が授けられる才能の総称。

 足が速くなる、力持ちになれる、歌が上手くなる、コミュニケーションが上手くなるなど色々存在し、生まれた時に祝福されることでその人の潜在能力として持って生まれてくるのだ。


 そのギフトの中でも幸運の才能、お金が集まる才能など、よく分からないがとんでもない才能もあり、十人十色である。


 そして俺のギフト―――授かった才能はというと…『全職業適性がMAX』という才能!!

 どの職業についても最高のパフォーマンスを発揮できるってやつだ。

 物心がつき、意味を知ったときにはもうウッキウキのワックワクで笑いが止まらなかったね。

 約束された勝利の人生?ってやつが確約されたようなものだからな。


 ――えっ?それは何故かって?適性があるってことは普通に上手くやれる可能性が高いってことだろ?それがMAXだったら尚のこと完璧にこなせる能力を備えることができる可能性が超絶高い。

 さらにそれが全ての職業だっていうのだからもう何になろうと栄光しかないだろ!

 普通の才能の方はご愁傷様~ってね。



 だけど現実は甘くなかった…。もう少し真面目に考えたらわかることじゃないかと今は思う。

 そう、俺は人を、そして世間を見下しすぎたのだ。


 中学は遊び放題。

 高校は荒れ放題。

 大学はサボり放題。


 結果…

 勉強しなくて成績は下の下!

 サボりが日常で授業態度は最悪!

 日々喧嘩三昧で評判も最悪!


 そして、就職活動は落ち放題だ。


 もう何十社…何百社受けた?

 ほとんど面接にも行けなかったが…。


 いや、行けたことはあった。だが、何度も面接で拒絶された記憶が……。

 そりゃ俺の才能が良さそうでも敬遠するよな……。世間には俺より優秀な人間がわんさかいるんだ。


 ……そして俺に残されたのはつらい気持ちだけだった。

 考えると頭が拒絶する始末。

 いくら喧嘩で鍛えた体力があっても、ニート生活3年目だ………精神が持たん…。



 だが、ある日、俺はよく分からない求人募集広告に辿り着く。


 よろず屋『森羅万象』。



 求人的にはあまり乗り気じゃないが、もう自暴自棄になって面接に行ってやった。

 いつでも訪問可能って…今考えりゃヤバすぎるだろ!


 結局足を運んだら得体のしれないボロアパートの一角に事務所があった。

 訪問したらどうぞと言われ中に入ると、受付と思われる金髪の美少女がいた。


 おいおいまじかよ……なんでこんなところにキレイな花が咲いてんだよ…と思ったね。


 それで、いきなり面接開始。

 しかもその受付の金髪美少女が面接官!


 おいおいなんの冗談だよ?新しい面接パティーン?かと思ったが、事情を聴くと少しだけ同情した。


 元々裕福な家庭のお嬢様らしいのだが、とある事情で家が借金まみれとなり、少しでも返済する為に必死でよろず屋を立ち上げたってわけだ。

 まだ18歳…しかも世間知らずだったそうだが…。……努力したんだな…このお嬢様は。


 そして面接後、即採用。

 最初は嘘だろと思ったが採用は採用だった。

 これでやっと俺の人生にも栄光の架け橋へと進むチャンスが来た…と思ったね。

 その後、すぐ契約書を書かされた。

 そう雇用契約書などだ。


 だが、これが地獄の始まりだった。

 後で気づいたが提示された契約書には様々なことが記載されていたのだ。


 入社一年間は退職不可?

 お嬢に逆らったら罰金?

 勝手に退職しても罰金?その他いろいろあった。


 そんなの法律で許されるんかい!!!!って言ってやったぜ。

 するとだ…”この国では問題ない”ってさ……マジかよこの国!!

 

 それにあんな書類の数々読む奴存在するのかよ!

 最初の部分だけちょろっと読んだらハイハイの二つ返事で捺印しちゃったよ!



 ……ちょっと俺の同情返して…。



「ねぇ!?お茶はまだ出せないの?」

 

 瞬間、俺の意識は現実に引き戻された。

 俺の雇い主であるお嬢様……植野 瞳(ウエノ ヒトミ)がお茶の用意を催促してきたのだ。


 よろず屋のリビングに設置された高性能PCの前。

 座り心地の良さそうなオフィスチェアに座りながらこちらを睨んでいる。


「早くしてよね」

「はい只今」


 クッッッソッッッガァァァァァァァッ!!!

 俺に命令しやがってこの金髪女(パツ金)メェェ!!!

 なんで俺が好き好んで茶なんかいれるかよ!

 しかも、俺をイケメン執事ボイスでしゃべらせやがってぇ!


 ―――しかし、無情にも俺の体は勝手に反応しやがる。

 それでいいように使われる…とんだ誤算だ。


 しかもこのお嬢、見た目とは裏腹に性格が結構エゲツない。

 だが一番の誤算は会社が"よろず屋"であるはずなのに、俺に付けられた役職が"奴隷"であると抜かしやがったことだ!

 そして体が勝手に適応しやがった!

 とんだ欠陥ギフトじゃねぇかッ!クソがッ!!!


 このままではヤバい。

 第三者……はたから見たら変態プレイの一環が行われているようにしか見えない!


 ご褒美?んなわけねーだろ!どこのドMだよ!!!


 つーか奴隷の職業なんてあるわけねぇだろ!

 てか、奴隷適性MAXって何だよ!!あり得ねぇ!!


「あ、そうだ。そこのおやつ取って」

「あ、はい…お受け取り下さい」


 クソがッ!!また体が勝手に反応しやがった!!

 

 暫く雑用係として使われるが、これだけが仕事ではない。

 よろず屋としてチラシを出しているのだ。

 当然相談や依頼が舞い込んで来る事もある。


 ただ、基本的にお嬢が『森羅万象ホームページ』をネット開設している為、そちらに依頼は集まってくる。

 そして、行ってこいだ。

 迷子の子猫ちゃん探しから品物の配達業務、ライブステージの警備要員やティッシュ配りと様々なスケジュールをうまく組み立てられてなんでもやらされる。

 俺の一番の自慢である底なしの体力を限界まで消費させられるのだ!



 あれ…?ちょっと待てよ……。

 これって………おい…まさか!!


 ほとんど派遣の仕事じゃねぇかッ!!


「おい、お嬢!」

「何?今大事な品物の仕入れで忙しいの。早くして」

「俺の仕事の殆どがただ派遣されてるだけじゃねぇか!」

「そうよ。今更気づいたの?」


 ウォイィィィィィィッ―――!!

 いつのまにか労働者派遣契約が発生してんじゃねぇかぁぁぁ!!!


 クソがッ…最近良いことがねぇ…。

 ここで勤めて良かった事なんてあったかって――――――いや……ある!


 コスプレ写真。

 最近コスプレ写真に命を燃やす変態がコスプレ写真を撮らせてほしいと依頼しにきた。

 あのお嬢に対してだ!

 なんて命知らずな奴だ……死んだな……と思いきやまさかのOK。


 30分で5万円という破格の価格提示にも関わらず契約成立!

 俺の手取りをあっさり超えて行きやがった……時給でだ。 


 そして一応おさわり禁止という事で、俺が間をとることになったのだが―――


 グフフ…今思い出しても心が癒される。


 最近人気の萌えキャラのコスプレでポーズして!

 コンバットスーツで銃を構えて!

 猫の着ぐるみでにゃんにゃんして!

 スクール水着で………ぐふ…などなどなど!


 あの30分間×2で繰り広げられた圧倒的情報量。

 とんでもないお嬢ではあるが、器量は抜群なのだ。


 そして依頼主は満足げに帰っていった――――――あの勇者はまた来てくれるのだろうか…。 


「ねぇそこの奴隷!あんた今私に劣情を抱いたでしょ?正直に言いなさい!」


 ―――なぜバレたッ!!!

 

「はい。抱きました」


 グゾがぁぁッッッ!嘘もつけねぇッ!!!


「正直でよろしい。反省は態度で示しなさい!!」

「申し訳ございません」 


 土下座をした。

 フローリングの床に額をつけての土下座だ。

 仕方ない…これで許されるのであれば何度でもしてやろう。


「そのまま3回まわってワンしなさい」


―――ぐるぐるぐる


 ぐぉぉぉぉッ!ヤメろぉぉぉぉぉォォ!!

 俺のデコでフローリング掃除させんじゃねぇぇッ!!!


「ワン」

「いい子ね」


 やはりエゲツねぇ!!天使の皮被った悪魔かよ。


 ……にしてもこいつ…さっきからネットでいろいろやってやがるな。

 やべぇ……珍しいアイテムを買い叩いては横流ししてマージン稼いでやがる。

 …本当は俺なんて要らないんじゃねぇのか?


「あと…借金7150万円…」


 あ…今やべぇ金額聞こえた…。


「ねぇ、そこの奴隷」

「ッ!!はい!」


 突然振り向くなよ!ビックリしたじゃねぇか!


「そろそろ日が暮れる時間よね。今日はカレーが食べたい。買出しに行ってきて」

「はい。行って参ります」


 クソがッ!もう買出しの時間になったのかよ…。

 そして…今日はカレー希望か。まぁ、いつもに比べたら楽な部類だな。

 

「あっそれと、ホットケーキの素と苺とホイップクリームも買ってきて」


 追加注文だと!?しかもこの組み合わせは完全にデザートじゃねぇか!

 シェフ奴隷の次は俺にパティシエ奴隷でもやらせる気かよ!!ふざけんのも大概に――――


「じゃあ全力ダッシュして」

「はい!行って参ります!!」


 俺は近所のスーパーまで全力スーパーダッシュした。




◇◇



 

「うん。流石は職業適性MAXのギフトね。腕が見違えるほど上達してきた!」

「ありがとうございます」


 俺はシェフの真似事レベルではあるものの、スパイスから調合した特製カレーを作り、お嬢に食べさせた。

 もう何度か作っている為、自分でも良いものが作れていると感じる。

 そしてお嬢が完食したのを見届けたのでそろそろデザートを用意することにする。


「おいお嬢。次はパティシエ奴隷でもやればいいのか?まだ試したことがないから大したものはできねぇけどよ」

「ううん。アンタの職業を変えて作らせるのもいいけど、今日は特別に私が特製料理を作ってあげるわ。なんか悔しいし。それに、この前テレビでやっていた美味しそうな料理があるの。試してみたいわ」


「おう、いきなりどうしたお嬢。この俺の超絶クッキングスキルに悔しさを感じるのは気分がいいが……今までそんな事はしなかったじゃねぇか」

「何事もチャレンジよ!さぁ、大人しく座って待ってなさい!」


 あのお嬢がクッキングか…初めて見るぜ。

 俺もそろそろカレーを食おうと思ったが…これは見届けてからにするべきか…。

 

 あれ?ふと思ったが…まさかこれは…フフッ…おいおいおい。

 もしかして…俺の分を作ってるってことだよな!?

 超絶美少女の手料理を食べられるとか生まれてこの方考えたこともなかった!

 コスプレ勇者が来訪して以来…またよろず屋で働いていて良かったと思えることが起こるとは…。


 あれ…しかし、あの手に持っているもの………カレーも入ってないか?

 だが、テレビでやっていた料理といっていたな…うーむ…。


 まぁいい……一度味わわせてもらおうか!

 お嬢の言う”美味しそうな料理”の味とやらを!




◇◇




 おい、美味しそうな手料理はどこだよ…。


 前言撤回だ。

 美少女の手料理って希望を抱かせておいて…。

 ここでお約束かよ。

 運命のイタズラかよ。


 目の前に置かれた皿の上に目をやる。

 そこに俺の食欲を唆る食べ物は存在していない。


 お嬢よぉ…なんだよこれぇ…食べ物じゃねぇよぉ…。

 上下左右360度見回しても黒い岩石にしか見えねぇじゃねぇかよぉ…。

 しかも周りにはカレー臭の溶岩を纏ってやがるじゃねぇかよぉ…。


 俺は顔をしかめながら、無言で”その物体”を眺め続ける。

 ”料理”=”食べられる物”という固定観念を破壊してくれたお嬢の手作りだ。


 くッ……クソがッッ!!

 ”まぁいい”ではなく止めるべきだったッ!!

 あれだけ期待させといてご褒美が罰ゲームに早変わりじゃねぇか!!

 向上心があるのはいいが、好奇心が半端じゃねぇ!


 そして、タチが悪いのが本気でやっているってことだ。

 庶民の俺からしたら”うまいもの×うまいもの=超うまいもの”の式は完全に破綻していると知っている。

 ついこの間までカップラーメンすら食べたことのないようなお嬢様にはそこが抜けていたのだろう。


 ゲテモノ料理研究家が罰ゲーム用に作ったレシピを嬉々として作りやがった!

 そんなもん放送すんじゃねぇ!!被害被っただろ!! 


 そして…”カレーパンケーキホイップ苺乗せ”を作る予定だった…だと…?


 ダークマターが生成されてんじゃねぇかッッ!!!



 あぁ~……腹減った。

 そうだ、カレーを食おう。



「ねぇ…そこの奴隷…」


―――ビクッ


 ”奴隷”の一言で体が勝手に奴隷モードへと切り替わった。

 適性MAXの為、どんどんスキルアップしていくのが分かる。

 あれ…これ―――やばくね?


「食べ物は粗末にしちゃいけないと思わない?」


 思うけどね…おいまさか…嘘だろ…。


「私も心苦しいわ…」


 えっえっえっ?!

 どっち?

 食べずに捨てちゃうことがッ?

 無理矢理食べさせちゃうことがッ?!


「……ご主人様の手作りよ……勿論…食べるわよ…ね?」


 ダメだダメだダメだダメだダメだッ!!

 食べるな!

 断れ!

 拒否しろ!

 首を横に振れ!

 逃げろ!逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げ―――


「ハイ!よろこんで――――ッ!!!!!!」


 ッ!ぐぶッッ!!!

 ふっふぅッッふっふっふッ!!!!!!!

 んふぅッッ!!!ふぅぅぅぅぅぅぅぅんッ!!!!


 …んぐふぁッ………これやべぇ…


「……偉いわ。流石、優秀な奴隷ね」

「う…うれしか…ねぇ……」


――ガクッ


 お嬢の命令に従い、皿の上の全てを食べつくした俺。

 限界を迎えたその体は―――静かに眠りについたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ