放さない
次の日俺は鈍痛で目覚めた。
「いてててなんで頭が痛いんだ?」
そうして気づくと豊穣の顔が凄い近い。
少し近づけただけで唇と唇が触れてしまうほどに。
そういえば昨日俺からキスしたんだっけ。
昨日の記憶は何故かおぼろげだがそれだけははっきり覚えている。
それにしてもこの頭の痛みはなんだ。
風邪か? それにしては体が熱くないが。
「全く未来の息子はいくじなしね!」
「海さん」
声の方向を見ると海さんがにやけ顔で見下ろしていた。
「せっかくあれだけ精がつく物を用意しておぜん立てしたのに全くもう! 家の娘がそんなに不満なの?」
「不満とかじゃないですけど。俺は勢いでそういう関係になる気はありませんよ!」
「それを意気地なしっていうのよ! 据え膳食わねばというでしょ! 最近流行りの草食系なの? そのわりにはハレーム形成してディープキスまでメンバー全てとすましているすけこましぶりだけど」
「うぐっ」
海さんの言葉に言い返させない俺がいた。
手を出しも……いやいや約束しただろ俺そういうのは最後に一人を選ぶまでおあずけだ。
「せっかく料理と飲み物にギリギリ気づかないレベルのお酒を混ぜったってのに! 金緑君身が固過ぎよ!」
「どうりでおかしいと思ったよ!」
どうりで頭が痛いわけだ。
俺たちは未成年だと分かっているのだろうか?
「娘の幸せの為なら安全な方法ならなんでも試すのが親心ってものよ! まぁいいわよ家の娘と抱き合って寝るぐらい好意を向けてるってわかれば! 少し身は固くてもそれだけ家の娘を大切にしてくれるってわけね!」
「そうですよ。好意を寄せてないならキスなんてしませんよ」
「むふふふそうなのね! 金緑君そろそろ家の娘を離してくれないとやばいわよ!」
「やばいってなにが……ってお前起きてのか」
『はわはわはわ浅井君がこんなに近くに、それに私に好意を向けてるって言ってくれるなんて……嬉しくて溶けちゃいそう……それに浅井君の体暖かくて気持ちいいいよ』
豊穣はそんな感じに心の声を送ってくる本当はもっと支離滅裂だが、要約するとそんな感じだ。
物凄く顔を紅くしているのでこのままでは確かにヤバそうだ。
「豊穣朝だから放してくれ着替えられないから」
「糞虫! ダメよ!」
「なんでだよ!」
「分かってないわね! 今は私の体で貴方の糞虫ボディを清めているのよ! 後数分このままよ!」
『もっとくっていたいよ! ダメかな浅井君?』
「でも大丈夫か? 熟れて弾ける寸前のトマトみたいに顔が赤いけど……」
「うるさい! 返答はハイかイエスのみよ!」
「じゃあお母さんは退室するから、存分に想い人に香りをつけときなさい! ライバルと差をつけるのよ! 鼻血が出たらやめなさいよ! レッツイチャコラよ!」
そういって海さんは踵を返し右腕を伸ばし親指を立てた。
何かのジャスチャーなのかと白々しい嘘を自分につく。
まぁしかたないかと豊穣を見た。
相変わらずの綺麗な顔をしている。
窓からはいる光が豊穣の美しさを自然と演出。
トマトみたいに真っ赤でもその美しさは健在なのが不思議だ。
「母さんからのお許しも出たし覚悟しなさい糞虫!」
ぎゅっと抱く豊穣。
そして耳元で。
『むふふふ、私専用の浅井君抱き枕~いい匂い~あったかくて気持ちい~』
ご満悦なようだしと俺も豊穣を優しく抱きしめた。
豊穣は小さな声で「あっ」と言ったので力をすぐに弱めた。
豊穣に密着すると薄い胸に僅かな柔らさを感じる。
胸はないものかとおもっていたが少しはあるらしい。
豊穣の体温はとても熱いがそれが何故か心地いい。
『私の香りいっぱいつけとこ~浅井君は今は私のもの~もっとぎょっとしてくれないかな。少し強いぐらいで抱きしめられると浅井君の物になったみたいで気持ちいし』
そんな感じに要望を飛ばしてくる豊穣のリクエストに答え。
結果豊穣が鼻血を出すまでこれは続いたのだった




