突然に
突然豊穣の行動で場が一瞬静まりかえった。
今豊穣は俺に自身の唇を重ねていた。
豊穣は俺の背に手を回し小さな手に力を籠める。
その力は男の俺からすれば少し強い程度だが、女性であるなら強い方だと思う。
次に豊穣の心の声が伝わってくる。
『大好き』
その一言だったが、確かな重みを感じた。
その言葉が伝わると豊穣は俺の口に舌を侵入させた。
少し粘度のある豊穣の舌はこれまでの三人にないからみつくような感触がある。
それが俺の舌と絡み合うとお互いに求めあってキスをしているようだ。
豊穣の舌と俺の舌は絡みつき木下並に柔らかい舌と唇の感触は、その気持ちを加速度的に高める。
自然と俺も豊穣の背に優しく手を回す。
豊穣がビックンと震えた。
どうやら驚いたらしい。
俺も豊穣の舌に盛んに自身の舌を絡めるとまるで互いの舌と舌がまじりあい一つになっているようだ。
その感覚は頭がふわふわして木下とも屏風とも九条院さんとも違う感覚をもたらす。
花さんを含め四人とのキスは全て個性があって気持ちいモノだったけど。
豊穣はその上を行っていた。
僅かな差ではあったけどそう思った。
いつしか豊穣は夢中になって俺の口を吸う。
俺の口にも甘さが広がっていく。
さっきより甘いまるでさらさらして後味が凄くあっさりしたハチミツのようだ。
こんな心地よい甘みはどんなジュースでも感じたことがない。
俺もその虜になって唾液をもっと湧き上がらせるように豊穣の舌にしっかりと自身舌を絡める。
互いに唾液を求めあい深く深くキスをした。
豊穣の少し粘度の高い唾液は俺の唾液と交じり合い口内は心地の良い甘みと豊穣の舌の体温で満たされる。
まるで俺をくっつけて離さないよう唾液が粘度を持っているようだ。
気持ちよくて暖かくてとろける様に甘くて。
その三重奏は俺を虜にする。
俺は豊穣と離れられない運命なのだろうか?
ふとその言葉が頭に浮かんだ。
でもふわふわした頭はそれを深く考える事を自然と辞めた。
さらに舌を――
「金緑! 金緑!」
誰かが何かを言っている。
「てぃ!」
「ボフ!?」
「何しやがる!」
「何っていきなり豊穣とキスし始めて暫く話聞かないからよ!」
我に返って声の方向を見ると不機嫌な感情が見て取れる表情の屏風。
「どう……やら……豊穣……さん……と……の……キス……は……良かった……よう……です……ね」
「そうらしいですね……」
「らしいわね……」
「そうだねー」
四人はジトっとした目で俺を見つめていた。
木下の目は前髪で隠れているがそれなりの関係であるためそれぐらいわかる。
「豊穣……さん……放心……状態……ですね」
立ったまま頬を染め目をとろんとさせた豊穣を木下は一瞥し俺をジットとした視線を向けた。
「そうね」
「そうですね」
「そうみたいだねー」
「何だお前ら言いたいことがあるならはっきり言え」
「では……はっきり……聞き……ます……誰……の……キス……が……一番……でした?」
「そりゃまぁ」
木下、屏風、九条院さん花さんと視線を順々に飛ばし最後に豊穣を見た。
全員甲乙つけがたい気持ちよさだったけど。
正直に言えば豊穣が一番だ。
唇と舌の柔らかさ、口内に広がった甘味。
豊穣の舌遣いは上手くはなかったけど凄く気持ちよかった。
「どうやら……私たち……の……負け……なよう……ですね……今日の……処は」
次はデレさせるか。




