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俺の毒舌幼なじみの心の声が甘々の件について  作者: 師失人 
その一~毒舌幼なじみと俺たちの日常~
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0006屏風って俺にホントに惚れてるの?

『てなわけだ』


 そして木下は俺の頭にかけていた両手を離した。

 おもわず先ほど柔らかい何かが触れた部分を擦り、木下を見る。

 木下はうつむいていて耳が真っ赤だ。

 


 「木下さっきのって……」


 「秘密……です……本番……は……のち……ほどで……す」


 『野暮な事は聞くな! いいな』


 「聞かれたないなら聞かないよ」


 『まじ、そういうところ好きだぜ』


 「でっまだ俺はいた方がいのか? 花園さんにの言い方だと仕事があるんだろ」


 『そうだな、もう用事ないし帰っていいぜ』


 「じゃあ漫画期待してるぜ」


 『おう! 任せとけ! 当然キスの件もな!』


 そんなわけで俺が木下の部屋から出ると、ばったり花園さんと鉢合わせして花園さんにも別れを告げて家路につく。

 U子は血を出し過ぎて貧血になったとかで輸血を受けているそうだ。


 鼻血の出しすぎで貧血とは、漫画家としていや人として大丈夫なのか普通に心配になるが、木下も花園さんも特に気にしていないので、大丈夫だと無理やりとらえることにした。


 だってどうでいいし、などと至極当たり前でゲスい考えで歩みを進める。


 「腹減ったな」


 腕時計を見るとすでに8時を回っている。

 昼から何も食べていないから当然と言えば当然だ。


 「我慢して家で作って食うか、今日は揚げ物を食いたし」


 当然コンビニも揚げ物はあるが、やっぱり揚げ物は家で作るのが旨い。

 出来立ての衣のサクサク感、冷めても卵と玉ねぎを絡めるカツ丼。

 コンビの揚げ物も旨いがこれは譲れない。

 すきっ腹を抱え歩いて十分ほど、我が家に帰宅。

 ポケットから鍵を刺しまわすと。


 「あれ? 鍵開いてる……」


 泥棒か。

 警戒しながら家に入る玄関は荒らされていない。

 下駄箱の置きっぱなしだった。

 現金2千円は手が付けられていない。

 となると答えは一つ。

 そのまま玄関で靴を脱ぎ、リビングへ。

 問題のあいつの椅子に座った背中が見えた。


 「おい、豊穣勝手に――寝てるのか」


 豊穣に近づくと豊穣はテーブルに突っ伏して寝ていた。

 手ブールの真ん中には白い布をかけられた何かる。

 その上にメッセージカードがある。

 読んでみると。


 【糞虫これでも食べて元に戻りなさい】


 相変わらずの辛辣さである。

 元に戻るってエノキを取ったマイオじゃないんだから。

 布を取ると。


 「お! チキンカツだ!」


 食べたいと思っていたドンピシャの揚げ物に、喜びをあらわにする俺。

 

 「ううん……あら糞虫帰ったのね!」


 『やっと帰てきてくれた』


 俺の声で俺に気づいた豊穣はさらに言葉を続ける。


 「どこ行ってたたのよ! 糞虫! 揚げ死体が冷めたじゃない!」


 『どこいってたの? 全然帰ってこないから心配したんだから』


 「悪い悪い料理作ってるって知らなくてな。木下の家にいてた。後揚げなんとかは普通に気分を害する奴もいるから、控えるように」


 「さすが糞虫ね! メスの家に入り浸るなんて発情期のサルも真っ青ね!」


 『うううう、いつの間に木下さんと……つ……付き合ってるのかな?』


 「まあ、落ち着け。木下の家に行ったのはあいつの仕事関係だ。男女のとかじゃない」


 「な……なに馬鹿な事いってるのかしら、糞虫の下半身事情なんて気にしてないわ」


 『よかった……木下さんとそういう仲じゃないんだ……私にもまだチャンスがあるなら、浅井君好きになってもらえるようにもっとがんばろ』

 

 「全くこいつは……まあいいやカツ有りがたくもらうぜ」

 

 「勝手のしなさい糞虫」


 『召し上がれ。上手くできてる思うんだけどな』


 「じゃあ遠慮なく」


 ソースをチキンカツにたっぷりかけて手で掴んでパクリ。

  豊穣の事だから外れはないだろうが、まず、味を見てから白米と箸の出番だ。

 豊穣はテーブルに肘をつけ両掌に頭を乗せる。

 その表情はは無機質な物で、俺の眼では感情は読み取ることは出来ないが。


 『大好きな浅井君が食べると思うとちょっとドキドキしてきた。美味しいって浅井君は言ってくれるかな』


 心の声は甘々で駄々洩れである。

 

「味はどうなのよ! 糞虫!」


 『美味しい? 浅井君』


 こいつの表はマジで可愛げないな。

 もう少し本心を出せってんだよ。

 と言いたい気分にかられるが、そんなこと当然いえるわけがない。

 というわけで無難に返す。

 当然嘘は言ってはいない。


 「普通に旨い、こりゃ白飯がほしくなるな」


 「そう、糞虫の口に合うなんて最悪の気分だわ」


 『うふふ、浅井君のお口にあってよかった』


 『ご飯よそるね』と心の声を飛ばし、炊飯器の元へ。

 そういえば、今日米炊いてねーや。

 くっ……こんなうまいチキンカツを白米で食べられないとは。


 「はい、糞虫」


 「あれ? 今日米炊いてないはずだけど」


 「そんなもの料理と一緒に炊いたに決まってるじゃない! これだからカマドウマは!」


 『大丈夫、そこは抜かりなしだから、揚げものには白いご飯だもんね』


 「言葉遣いは別として気が利いてて助かるぜ。お前案外いい嫁さんになるかもな」


 『あわわわ、浅井君がお嫁さんって、お嫁さん……浅井君のお嫁さん……落ち着くのよ私! これはプロポーズじゃないんだから! えへへへ』


 と無表情で俺を見つめこんな心の声を飛ばしてくる豊穣。

 とてもではないが、この様子を見て心の内がこんなに甘々だと誰が信じようか。

 当事者の俺でさえ嘘に思えてくる。

 こいつのポーカフェイスは筋金入りだな。


 「うん旨い。チーズ入りか、衣は冷めてもサクサクだし」


 「お目が高いわね。糞虫これはゲロ高い貰い物のチーズをふんだんに使っているのよ。糞虫に毒見させるには惜しい一品だったわ」


 『浅井君のためにとっていた高級チーズ、美味しく食べてくれてよかった。私たちはチーズ苦手だし、


 浅井君に喜んでもらえるならとも思ったけど。よかった気に入ってくれたみたい。大好きな浅井君の胃袋を掴む事へのまた一歩前進ね』


 「悪いな豊穣普通に今日揚げもの食いたいって思ってたから丁度良かったぜ」


 サクもう一口チキンカツをほうばる。

 サクサクの揚げ衣の香ばしさ、鳥の胸肉の淡白な味を包み込む高級チーズ。

 それにチキンカツにたっぷりかけられた複雑な旨みのウスターソースが口に中で渾然一体(こんぜんいったい)なる。


 旨い――。

 普通に旨い――。

 こいついつの間にこんなに料理の腕を上げたんだ。


 「そういえばメッセージカードの言葉ってってどういう意味だ?」


 「あれは普通に戻りなさいという、ご主人様である私の命令よ!」


 『だって……その……』


 そりゃどういう事だ?

 頭に湧き上がったクエスチョンマーク。

 さらに豊穣は言葉を続ける。


 「つまり、いつもどうりにしなさいてことよ! 糞虫!」


 『だって……だって……観覧車に一緒に乗った時から浅井君から話しかけてくれる回数が減って寂しんだもん!』


 つまり何か、こいつは俺に話しかけてもらえないから寂しいと、あんなメッセージで伝えようとしたと…………。

 豊穣さんちと上級者向け過ぎませんかね?

 心の声が聞こえなかったら完全にスールしてたぜ。


 「お前がご主人様というのは頑なに否定しておくが分かったよ。普通にだな。でもあの時に言葉は本気だからな」


 「いい度胸じゃない! 私の本心引きずり出せるものなら出してみなさい!」


 『うん、待ってる。私の王子様――大好きな浅井君』


そんなこんなで食事を終えた俺だが、何故か豊穣はじっと俺を見つめていた。

 無表情で見つめられているので少し怖い。

 だが心配は無用だろう。

 一様の為声をかけた。


 「どうした豊穣、俺をじっと見つめて」


 「別に糞虫の造形に美なんて見出さないわよ。これは害虫の生態の観察よ」


 『やっぱりカッコいいな浅井君。ちゃんと髪型とか整えれば凄いカッコよくなるに』


 「そーかい、俺なんか見ても面白みはないだろに」


 「私は遠慮こうむるけど、糞虫を愛る変態趣向の人間もきっといるわよ!」


 『うううう……なんで正直に言えないんだろ……目の前の大好きな人にほん少しの好意を伝えるだけなのに……』


 「お前! ヒデーな! 人をマニアックな奇蟲(きちゅう)みたいないうな!」


 「奇蟲……マニア向けのグロテスクな虫の事ね! さすが糞虫同類に詳しわね! 糞虫の鏡ね!」


 『あわわわわ、世界三大奇蟲の画像思い出して、怖くなってちゃった』


 お前はなんつーもん見てるんだよ。

 知ってる俺も大概だが、あれは普通の女子にはきついだろ。

 普通にお勧めできない。

 と言うとさらに被害者が増える気がする。

 あれは自己責任で見るべきだ!


 お兄さんとの約束だぞ!

 つか、何言ってんだ俺?

 あのグロテスクさを思い出して電波が入ったらしい。


 「まぁ、それはその話題は上級者向けで、俺たちにはまだ早いからポイと捨ててしまうとして、なんでお前は枕を持っている?」


 「何って定期的な糞虫の観察よ。本来隔離指定を受けるような虫は常時監視がつく物よ」


 『このままじゃ怖くて帰れないよ。隣の家だけど暗がりからあんな気持ち悪いモノが出てくるかもと思うと……』


 こいつ狙ってやってんのか。

 ギャップどころの話じゃねーよ。

 どんだけこじらせてんだよ!


 「お前の俺に対する評価ってなんだよ!」

 

 ついむきになってしまう。

 最近誰かにツッコム事が少し楽しい気がする。

 俺も末期だ……。

 屏風にだけは知られちゃダメだな。

 まじコンビ結成となってしまうかもしれない。


 「糞虫」


 『私の大好きな人』


 「ぶれねーな! お前! 逆に感心したわ!」


 心の声まで全くぶれやしねーよ。

 こいつまじどうなってんの?


 「そんなわけで今日は泊まるわよ! いいわね!」


 『えへへへ、今日浅井君の家に泊まろうと枕準備してたんだ』


 「別にいいがなんで急に」


 「いいから泊めなさい! いいわね!」


 『だって浅井君、最近私に構ってくれないんだもん。ここで浅井君成分補給したいし』


 浅井君成分という馴染みがない物質を所望らしい豊穣。


 「お前な……別にいいが、俺が一階で寝ればいいのか」


 「それでいいのよ!」


 『あわわわ、浅井君のベット……お布団……早速くんかくんかしないと!』


 「急に泊めたくなくなったのだが……」


 「駄目よ! これは決定事項! 拒否は許さないわ!」


 『そんな! もうくんかくんかの準備は万端なのに……駄目?』


 上目遣いの豊穣。

 たっく……しかたねーな。

 

 「いいけど、変な事するなよ」


 「するわけないじゃない! 糞虫のベットに興奮なんてしないんだから!」


 『はぁ~どんな匂いなんだろ』


 こいつ嗅ぐきまんまんじゃねーか。

 これなんのプレイだよ。

 幼なじみに布団くんかくんかプレイって、マニアックってレベルじゃねーぞ。


 「おい、マジで変な事するなよ」


 「なに、何か言った?」


 もう二階に行きかけてるのかよ……。

 どんだけ楽しみにしてんだよ……布団くんかくんかプレイ。

 まあ仕方ない。

 あいつに関するいろいろで俺の懐は大河のごとし、誰だってずっと毒をあびてりゃそうなるわな。


 こういう時まで冷静な自分に驚く、まさに恥を面の前にした羞恥プレイ。

 今頃くんかくんかしているのか。

 聞き直さずいちまったしあいつ。

 どーゆうい気持ちで寝つけってんだ。


 仕方ない布団引き出しから出してくるか、両親の布団が一階にあったはずだ。

 その日は二階から聞こえてくるゴトゴト音が気になったことをよく覚えている。


 ◇

 「朝よ。起きなさい糞虫!」


 「ごふ!?」


 なんなんだ一体。

 腹に衝撃が。


 「って、なんでお前が俺の腹の上にダイブしてんだよ!」


 「糞虫が起きないのが悪いんじゃない!」


 『起きた! 今日は浅井君成分補給したから元気いっぱいだよ!』


 謎の成分を補給したらしい豊穣の心の声は、やけにテンションが高い。

 気のせいか表の豊穣の方も声が僅かに甲高い気がする。


 「でっ、昨日は俺の部屋でゴトゴトと何をしてたんだ?」


 「何って、エロ本探しに決まってるじゃない! 定番でしょ定番!」


 

『いっぱいくんかくんかしたよ。エッチな本をみつけて、浅井君の好みの女の人がしりたかったけど……見つからなかった残念……』


 つーか部屋にエロ本を隠すって定番だけど。

 今時にパソコンに保存して隠しておくのが普通だと思うぞ。

 俺が隠しているフォルダは、いろいろフォルダ内のある漫画をまとめたフィルダの一つに収めている。


 容量を見れば一目瞭然だが、そもそもパソコン自体にロックがかかっており、デスクトップに行く前にパスワードを入力しないといけないのだ。

 ばれる事は滅多にないだろう。


 「お前にしては普通のベタな発想だな」くんかくんかを除けば。


 「当たり前じゃない。プリティプリベルは言ったわ! 王道(おうどう)こそ真骨頂!」


 「中二魔道機械戦士プリティプリベルで初めて出たよ! 普通の教訓!」


 「何を言っているの?」


 「はぁ?」これはどう考えても普通……だよな。


 「王道は人名で真骨頂は技名よ!」


 「中二魔道機械戦士プリティプリベルは、ついに格闘系まで手を出したのですかね!」


 「何言ってるの糞虫、真骨頂は治療術よ」


 お前こそ何いってんだ……毎度ながら、プリティプリベル関係のネタは判断がつきにくい。

 じゃあ王道って医者なのか?

 真骨頂ってどんな治療術だよ。

 名前でさっぱり概要が伝わて来ないんだが。


 「仕方ないわね。説明してあげるわ糞虫。これは第三期30話『王道の指』はまずたけし宅のトイレの流し忘れた赤く染まったモザイクのかかった茶色の物体から始まるの!」


 「いきなり最低の下ネタで開始かよ!」


 「そしてたけしは日本を離れ、東方の隠れ里に住むという東大陸6千年の歴史をもつ擒拿術(きんなじゅつ)の達人を探す旅に出るの」


 「普通に()を治すのに、どんだけの大層相手探してんだよ!」


 「そしてたけし見つけるの! 過酷な世紀末を生き抜いた胸に幸運の文字の入れ墨をいれた、伝説の擒拿術の達人を!」


 「幸運だけが取り柄のヒーローか! てか過酷な世紀末ってなんだよ!」


 「彼の名は王道! 点穴(てんけつ)血脈(けつみゃく)の全てを知り尽くした6千年の歴史を持つ伝説の擒拿術の使い手!」


 「だから()を治すのになんで伝説の達人を求めるんだよ!」


 「仕方ないじゃない! たけしの怪我は現代医学では治せないの! 彼に残された余命はあとわずか、そんな緊迫した状態でやっと出会えたのよ!」


 「なんで仮にもアニメの主人公が()で死にかけてんだ! ふざけてんか! どんだけ酷い()だ! 想像がつかんわ!」


 「王道はたけしを見ていったわ! ヘイ、ニイチャンイイケツシテルネ!」


 「なんで片言なんだよ! そして達人そっち系の人!?」

 

 「そして王道は手袋から手を抜き放ち、『真骨頂!』そう叫ぶの。するとたけしは涙を流しながら、


 『ありがとうございます!』と深く頭を垂れて、エンディング。エンディングの映像ではたけしは、自身の口座から50億もの大金を達人の口座に振り込んでいたわね」


 「糞高いし、意味がわからん! ()はどうなったんだ! てか達人片言設定どこにいった!」


 「それは大丈夫よ! エンディングが終わった後の映像で、たけしのトイレで流し忘れモザイクのかかった茶色の物体が出てきて終わりね!」


 「普通に最悪な始まりと終わり方だよ! う〇こで始まってう〇こで終わるのか! 汚ねーよ! 最高に汚ねーよ!」


 「そして、次回予告の前説で『王道こそ真骨頂!』とたけし役の声優が叫んで普通に次回予告」


 「最初の言葉最後のセリフかよ! つか最初の流れと全然関係ねーじゃないか!」


 「当たり前じゃない! 関係ないんだから!」


 「どういうボケだ! 無理やりすぎるわ!」


 「そんなわけよ、糞虫朝エサを食べたら豚小屋(学校)よ!」


 『ふぅ、これで浅井君のお布団をくんかくんかしたことがばれなさそうね。浅井君の匂いって嗅いでいると落ち着くな。こんな変態さんみたいなこと絶対言えないけど』


 バレバレだよ。

 豊穣こっちは丸聞こえなんだから。


 「一様言っておくが、学校のルビの使い方間違ってるからな、てか朝エサってなんだ」


 「なにってよく使うでしょ? 朝エサ、朝に上げるエサよ! そのまんまね!」


 「お前の一般常識って一体……」


 呆れて何も言えない俺は黙々と朝食を食べ。

 制服に着替えて家を出た。

 そういえば今日は放課後、学園祭の演劇の練習に出る日だったな。

 何故か僅か一日だけでいいのが意味が分からんが。



 放課後『私も行きたい!』という世にも珍しい豊穣の心の声だけの懇願を却下。

 当然、表では一ミリのその感情を一切出していないのですんなりである。


 それでも随分悔しそうな心の声を飛ばしてきたが、今日ばかりは無理なので、木下をつけて帰らせた。

 下手に内容を知って豊穣のボケが死んでしまっては、元も子もない。


 というか、ウッドフィッシュ先生――別名木下魚制作の台本にも、豊穣には見せない様にとでかでかと書かれていた。

 誰が見ても納得する理由をつけて、さすが売れっ子漫画家である気遣いもプロだ。


 で、俺はなんで今日だけ練習に参加するんだ。

 そんなことを思いつつ体育館に入った。

 

 「来たわね。金緑君! セリフは覚えてる?」


 ジャージ姿の花さんは俺に話しかけた。

 準備は万端らしい、時間を空けてこいと指定してきたで遅れてきたが、特に問題はなさそうだ。


 「まぁ、一様台本の大まかな所は頭に入ってます」


 「じゃあ皆リハーサルよ!」


 ちらりと手に持った台本をみた。

 これ厚みはあるんだけど、ほとんどが数パターンのツッコミのセリフで、実際はとても短い。

 完全に俺と豊穣に成功の是か非がかかっている。


 木下……俺たちを過大評価しすぎだぜ。

 そして始まったリハーサルだが、なんと言うかお笑い芸人養成学校の授業ようにしかみえない。

 架空のボケにツッコミを重ねるクラスメイト達。


 普通にこれが演劇の練習だと誰が信じようか。

 そして、それが終わると花さんは。


 「どう?」


 とにこやかな顔で聞いてくる。


 「どうっていわれても……」


 「僕の言い方がわるかったね。演者のツッコミのキレについて聞いているのだけど」


 つまり、指導しろと?

 まじで俺を何だと思っているんだ。


 「安心して君のツッコミはプロ級だから! ビシバシ指導して」


 普通に屏風が聞いたら狂喜乱舞しそうと状況だな。

 木下に言って一緒に帰らせて正解だったぜ。


 「そうだな、全体的に皆キレが悪いな、ツッコミってのはようは的を射るリアクションだから、ある程度はっきりと的を射ること言えばツッコミになる。


 後大事なのは、ある程度大きな声でハイテンションでツッコむそうすると勢いで何とかなる」


 「なるほどハイテンションで押し切るのね!」


 「まぁそいう事ですね、後は――」


 「金緑~~~~~~~~~!? こんな待ち望んだイベントに私をのけ者にして!」


 体育館に聞き覚えのある絶叫がこだました。


 「屏風……お前木下達と帰ったんじゃ」


 「帰る途中だったわよ! おかしいと思って引き返してきたのよ! 金緑を探してみればこのありさまよ!」


 屏風はダンダンと足を叩き付け俺の前に来る。

 屏風は怒り心頭で俺の胸倉をつかみ左右に揺らす。


 「どうして、どうしてこんなことするの!?」


 「落ち着けってどうしたんだよ。何で怒ってんのお前?」


 「だって! だって! 私だって金緑のツッコミの指導受けたいわよ!」


 「てか、お前ボケなんだから必要ないだろ!」


 「時代は両方できるオールマイティを求めているのよ! そんなわけで参加していいですか満開先生!」


 「そこまで熱い情熱を向けられたら僕は断れないわね! いいよ! 金緑君指導を続けて」


 はぁ、全く屏風と来たら、それを承諾する花さんも花さんだが一人増えても大差はないか。


 「それにしても、金緑がいないと私はだめね。ツッコんでもらえないと、落ち着かない」


 「そこ変な勘違いをするような言葉は言わない様に」


 「ほんとの事よ金緑、私たち三人の中は金緑あってものなんだから」


 確かにな。

 屏風を含めあいつら三人はツッコミ役がいないと上手くは回らないだろう。

 両名の心の声を除けば、ツッコミをしなければ悲惨としか言いようがない豊穣。

 ほおっておくとほとんど喋らない木下。

 ボケが寒い屏風。


 こうしてみると、中々一癖も二癖もあるキャラが濃い奴が俺の周りに集まった物だ。

 まぁいいか今は指導の時間、この数年間豊穣対策に磨き上げた、理論を全て吐き出してやる。


 「ツッコミってのコツってのは……」


 ◇


 そんなこんなで、俺はツッコミの指導を終えたその帰り道もう気が付けが夕日が沈もうとしていた。


 「金緑ほーんとに、今日は勉強になったわ!」


 「そうかい」


 こっちは大変だったけどな。

 根ほり葉ほり聞いてくる屏風にせいで。

 自分のツッコミ論を詳しく考えてよかったぜ。

 無意志的に使える事と意識的に使える事は違うからな。


 まぁ使える事には変わりないけど。

 意識的に使えるってことは、大きな差だ。

 無意識的に使えるってのは、どうやっているかわからなくて他に転用しずらい。


 分かっていれば他にも応用できるってわけだ。

 だからと言ってツッコミの理論が一体何の役に立つのは疑問だっだが、需要のあるところにはあるものだ。


 「でも、金緑、私はまだあなたのパートナー(相方)を諦めていなんだからね! やっぱり作るなら一姫二太郎が理想的ね!」


 「おい! アップグレードでいつ嫁希望になった!」


 「きひひひ、バレたか! こっそり了解ととれる音声とってコンビを組ませる計画が――」


 「お前な……冗談でもそれはそんなことを言うなよ……」


 「きひひひ、結構本気だったんだけどな!」


 「はいはい」


 全くこいつはよほどつまらないボケが好きらしい。

 色恋をネタにするのは芸人の常だから、芸人志望として立派な心がけともいえるのかもしれない。


 「私こっちだから! 金緑!」


 「じゃあな、ってなんでお前は俺の首に手を回している」


 「いいから、いいから今日の指導のお礼」


 チュ。

 そんな小さな音が耳元で聞こえた気がした。


 「じゃあね! 金緑大好き!」

 


 全くあいつはいつまで、このネタを続けるきだ。

 走り去る屏風を見つめ、家路に戻る俺。

 家に帰えうころには、日は完全に沈み辺りは暗くなっていた。


 「ただいま」


 と声をかけるが誰もいない。

 今日は夜、豊穣は家族と出かけると言っていたし、両親は出張当然誰もいない。

 冷蔵庫の昨日のチキンカツの残りをおかずに食事を終えた俺は自室に向かいスマホを見た。


 「ラインが来てる。木下からか」


 そういえばこの前番号を交換してからラインでたまにやり取りをしてたっけ。


 【屏風さんが浅井君を探しに行きましたが鉢合わせしました?】


 【鉢合わせして、クラスメイトに交じってツッコミの指導をすえる羽目になったよ】


 【それ詳しく】


 木下が食いついてきた。

 ラインでの木下の会話は心の声とも表の姿の声とも違う。

 女には複数の顔があるともいうし、このことなのだろうか。


 【何故か花さんにクラスメイトのツッコミの指導をやらされて、それに屏風が加わっただけだ】


 【それ以外に何かありました?】


 【そう言えば別れ際に、耳元にキスして大好きっていって帰っていったな】


 【詳細希望!! 今日会えますか?】


 「それを了承し今に至る」


 「何を……言って……るん……です……か」


 「何でもない。いつもと同じで心の声の方でいいぞ」


 俺がいるのはこの前木下と待ち合わせしたコンビニ、木下は上下のジャージとラフな格好だ。

 髪型は前髪をカチューシャで上にあげているので、可愛らしい双眸がはっきりと見える。


 仕事が忙しく、この前みたいにちゃんとおしゃれをする時間がないらしい。

 じゃあ明日でいいんじゃねーかといったが、今聞きたいとキラキラした目で言われてしまっては断れないだろ。


 『っで? 屏風に何言われたんだ?』


 「何って、帰り道に俺のパートナー(相方)になるのを諦めていないとかいって、俺の耳にキスをして大好きってって走り去っていっただけだが……」


 『それって……オメーお前はなんて言ったんだ……』


 「何故か俺の嫁希望にバージョンアップしていたからツッコんだだけだが」


 『…………』


 「そんだけだな。どうせいつもの屏風の悪ふざけだろ」


 『ライバルに貸すのは癪だがこれは……』


 「何だよわかってるなら言ってくれよ」


 『じゃあ言うけどさ……屏風お前の事大好きだぜ』


 「好きってラブ()じゃくなくてライク()だろ?」


 『…………』


 違うのか?


 『こりゃ早急に屏風の心の方もお前に筒抜けになる必要性が台頭してきたな』


 「……俺って屏風に惚れられてるの?」


 まさかな、あいつに限ってな。


 『……ここまで鈍感だと病気を疑うぜ! ラノベ主人公君! それは屏風本人の口から聞くように!』


 「マジ?」


 『マジ! こればっかりは自分で考えるのが最低限礼儀ってもんだ』


 その日は悶々とした思いを抱え家に帰った。

 一方の木下はハイテンションに心の声を飛ばして小走りで帰っていった。

 『いいネタがキター』と言っていたので売れっ子漫画家先生のネタの種になったらしい。


 屏風が俺に惚れている?


 実に現実感がなかった。

 いつもふざけていているせいで、俺の中ではあいつの言動はふざけ半分と捕えてきたからだろう。

 そもそも出会い頭でつまらないギャグを言ってきたという何とも言えないふざけだ出会い。


 それについツッコんだから懐かれてしまって今日にいたるのだ。

 いきなりそんなことを言われても、信じられない。

 ばっちり決めた木下と豊穣には劣るが、屏風は普通より可愛らしい方だ。


 それをつまらないギャグで台無しにしてはいるが。

 普通の性格でつまらないギャグを言わなければ、彼氏だってそれなりにできるだろう。

 まぁ考えてもしかたないか。


 よし決めた。


 明日屏風に直接聞いてみよう。


 俺をどう思っているのかを――

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