奪還
「その結婚待った!!!」
聞き覚えのある声に会場の視線はその方向に集まる。
先ほどまでの和やかなムードは乱入者という異物により、絵の具に違う色の水をいれたちょうに徐々に溶かされ異物に浸食されていく。
今はまだ敵意こそはないが、そうなるのは時間の問題だろう。
「糞虫! 帰るわよ!」
これだけ華やかな場でいつもと変わらぬ豊穣の毒が放たれる。
「豊穣っ!? どうしてお前がここに……」
「何って糞虫を助けに来たんじゃない!」
『やっとあえた! 浅井君さあ帰ろ!』
そうして無表情で手を差し出す。
感情の読み取れない無表情であるが、どことなく喜んでいるように見える。
相変わらず心と表の姿のギャップが激しいな。
この感覚懐かしい。
「お嬢ちゃん今日は私たちにとって大切な日なんだ。邪魔しないでくれるかい?」
会場にいる来場者一人の中年男性が豊穣の肩に手を乗せた瞬間。
バチバチと火花がちり男は「がががが」と奇声を上げ倒れた。
「近寄るとこいつと同じ目に合うわよ! そとの連中に連絡しても無駄よ! 私の仲間が全て倒したから!」
その豊穣の言葉にさっと豊穣より距離をといる来場者。
何か南国の海の魚群にイルカが襲い掛かった時みたいだな。
真の成功者は脚力危険を避けるのが上策だし正しい判断だ。
何人かはスマホを耳に当てている。
多分豊穣の言葉の真偽を確認しているのだろう。
「邪魔ものは消えたわね! さあ来なさい糞虫!」
「豊穣さん貴方! そんな言葉で私が金緑さんを手放すと思っているのですか?」
九条院さんが豊穣に問いかけた。
そしてぎゅっと俺の手を握る。
「何を言っているの? 糞虫は貴方の物じゃないわ!」
「はぁ……貴方それでいいのですか? ずっと金緑さんに甘えて! ずるいじゃないですか! 私だって金緑さんが大好きなのに! 私だって金緑さんに甘えたいのに! そんな言葉で取り返せるなんて思わないでください! 貴方の気持ちを見せてください!」
「ゲ……分かったわよ! 私はそこにいる浅井金緑がいないとダメなのよ! 生きていけないの! 彼がいない生活なんて考えられない! だからだから……」
「だから?」
九条院さんが試すように問いかける。
その表情はとても寂しげだけど、子供をしつける俺のように優しい目をしていた。
「だ……だから私の元に帰ってきて! お願いよ!」
その言葉、その瞬間右手の違和感が消えた驚いて手を見ると俺を拘束していた手錠の姿が消えていた。
九条院さんの左手に小さな鍵のようなものが見える。
九条院さんの顔見た。
九条院さんは薄く笑みを作る。
目じりには薄っすら涙が見えた。
九条院さん……
「ありがと九条院さん」
「いいのです。やっぱりこんな方法で結ばれても、後悔が残るだけですから……」
「よかったのですか響お嬢様?」
「いいのです爺、今回は私たちの負けです。これだけの方が確認を取り続けているのですから、本当に外の警備班は全滅でしょう」
「確かにそうですな。十中八九木下魚の計略でしょう。彼女を侮りすぎましたな。おそらくこの後の後腐れの件も想定済みでしょうな」
「本当に凄い方々です……ウッドフッシュ先生の言う通り、恋する乙女は強いのですね……私もなれるでしょうか……」
「それは大丈夫でしょう。その目の涙さえあればきっと機会はあります」
田中さんは九条院さんに何か言っているようだが聞き耳を立てるの野暮ってもんだ。
壇上を降りて豊穣に声をかけた。
「豊穣! 帰るか!」
俺が近寄ると駆け出して俺に抱き付く豊穣。
さっきのやつは起動していないようでとくに体に変化はない。
ほっと安心する俺。
豊穣は俺の胸に顔を埋めて。
「し……心配したわよ! 糞……浅井!」
『心配すたんだよ! 浅井君! 本当に心配したんだから!』
「分かった分かったそんなに泣くな。綺麗な顔が台無しだぞ」
優しく俺は豊穣の頭を撫でた。
豊穣の涙は俺の服を濡らす。
何故だがとっても豊穣の涙が熱く感じた
想いの籠った涙が本当に熱いなんてな。
初めての経験だがとても心地がいい。
「屏風ちゃん到着! さあ金緑! 帰るわよ! って!?」
無知っこの方はこの章が終了したら再開予定




