0005木下の仕事場へ
それから俺たちはDランドのナイトパレードを見てから帰る事にしたが。
スゲー気まずい。
実際、俺は屏風、木下、豊穣から告白を受けたことになる。
屏風はいつもの冗談だと考えればいいとして、木下と豊穣は普段は聞こえない事柄である心の声である。
俺が聞いてきた心の声はむき出しの本心だった。
それには嘘を挟む隙間などないように純粋で、たっぷりと感情を含ませた想いの言葉。
それは心を砂糖に漬けるように甘くて、甘くて。
だからこそ豊穣にあんな事を宣言しちまった。
ここしばらく豊穣の心の声を聴いていて思ってしまった――リアルで現実の口で言って欲しいと。
奥にしまう必要がないなら表に出ているものだ。
奥隠したモノを引きずり出したいなど、本来あってはいけないことかもしれない。
それでも聞きたかった。
豊穣の本心をその口から。
そして、今日知った木下の俺に対する気持ち。
木下とは気があうし、中々面白い物を内に秘めていて。
少し身なりを整えただけで、これだけかわいいのだ。
男なんて木下がその気なら簡単にできるだろう。
そんな可愛らしい女の子に好意を向けられるのは正直嬉しい。
男冥利につきるといものだ。
まだ、木下の俺に対する好意は心の声で聞こえてこないが、いずれ聞こえてくるかもしれない。
そうなれば嬉しい。
好意を仲の良い相手に向けられることは、多くが喜ばしい事である。
木下が自分を選んでくれたら嬉しいと言った時、俺は彼女に見とれてしまった。
姿かたちではなくて纏う空気が俺を惹きつけるように。
そして、屏風いつも変わらない軽い口調だったため。
本気ではないと思う。
その時に俺は屏風が向ける俺に対する想いを軽く見ていた。
いつノリのの悪ふざけだろうと。
彼女の本心を知るのはそれから少し先。
その日のナイトパレードは、とても印象に残っている。
ツナギ姿の着ぐるみが闊歩し、一斉に股間のチャックを開け放つと、着ぐるみの股間が発光し、そこから細長い水を放水。
放物線を描き乱れ飛ぶ水は、男になじみ深い生理現象を彷彿とさせる。
そしてプロジェクトマッピング、による光の演出は、卑猥な印象を持たれかねない放水を幻想的に演出する。
着ぐるみは股間から水を放水したままダンスを踊り、続くド派手な光を放つ大きなパレードカーの上に乗るツナギの男たちは、くんずほぐれつ激しいダンスを披露する。
何台の通るパレードカー。
その中には女性の姿は一人も見えない。
俺はつくづく思った――。
この遊園地の運営会社は何を考えているのかと。
◇
「凄かったわね。あのナイトパレード……」
帰りの電車の中、ダンマリを決めていた俺たちに屏風が発言する。
「確かに……ひどすぎるの見ごたえがあった」
それは正直な感想だった。
恐ろしくひどいのに見ごたえがあって、幻想的だった。
「よ……かっ……た……です」
『凄かったないろんな意味で』
「さすが、プリティプリベルファン必見のパレードね!」
『ううう、見たかったけど浅井君が気になってあんまり見れなかった……あんなことの後には無理だよ……』
「金緑今度は私も誘いなさいよ!」
「わかったよ!」
つめよる屏風を制し答えた。
「次はできれば二人きりでね!」
「いや、普通に皆で行こうぜ」
「ぶぅ、金緑乙女心が分かってない」
乙女の心の声は二名ほど聞こえているけどな。
「まぁいいわ。約束だからね! 豊穣誘うくらいなら私にしなさい!」
「ゲロ雌ブタ二号は、立場をわきまえていないようね」
『そんな皆で行こうよ。屏風ちゃん』
「また、雌ブタっていったし! 金緑~~~~」
やれやれまたこのパターンか。
屏風の相手をしようとすると。
『金緑、約束のレポート忘れず頼むぜ』
「木下分かってるって」
「何が分かってるの? 金緑。木下さん何も言ってないけど」
しまった。
いつのものノリで心の声に返事をしてしまった。
動揺で引きつりそうな顔を無理やり真顔に戻そうとする。
「金緑……君に……後で……用……がある……ので……メール……を……しま……した……スマホ……の……バイブ……ので……気づ……いた……の……だと……思いま……す」
ナイス木下! 見事なフォローだ。
それに屏風は訝しげだった納得したような表情に変わった。
「なんだそいう事、木下さんとボディランゲージでもして通じ合ってるのかと一瞬思ちゃったわ」
屏風の妙に鋭い洞察に眉がぴくぴくと動く。
「そういことだ。そんなわけで木下、耳を貸せ」
「えぇー私には秘密なの?」
「これは木下の仕事に関係ある話だからな。今は駄目だ。木下だっていずれお前たちにも話すって」
「なん……で……すか」
「何だってお前、他の奴らがいるときは普通に話せよ」
『えーー普通に喋ると上手く喋れないんだもん』
「かわい子ぶっても駄目だ。普通に現実のお前が饒舌に話す練習になるだろ。お前がいくらたどたどしく喋っても普通に聞いてやるから」
『しかたねーな。ただし、二人きりの時はこのままでいくぜ!』
「わかったから普通に話せよ。レポートは今日徹夜して書いておいてやるから」
「本当……です……か」
「嘘じゃねーよ」
「じゃ……あ……私の……仕事場……へ……直接……届け……て……くださ……い……今日の……事で……伝えた……いこと……も……ある……ので」
「わかった後で場所をメールで教えてくれ」
その後三人で電車の揺られ最寄りの駅に着く。
意外と面白い遊園地だったな。
と思いつつそれぞれの自宅に帰り。
机に向かった。
そして書き始めたが……。
これって俺に向けられた告白の言葉を人様にさらす中々の羞恥プレイであると今更ながら気づき。
恥ずかしさのあまり床をごろごろ転がり、気分が落ち着いてレポートを書き出すと、また恥ずかしくなって床をごろごろ。
机と床――平静と羞恥往復する事十回あまり、何とかレポートは完成した。
部屋の掛け時計を見るともう3時近くなっていた。
急に湧き出した眠気のままスマホのメールをチェックする。
メールは二件、屏風と木下からだ豊穣のメールアドレスは知らない。
聞いても教えてくれないし、メールでも毒を吐かれても対応にこまる。
それにツッコミは、その場を見て言わなければすぐに滑ってしまう水ものだ。
屏風のメールは特に面白みのない今日の感想と、今度は誘ってくれと言う内容だった。
問題は木下だ。
メールの内容は住所だけが書かれていた。
相変わらず木下のメールは事務的だな……。
そんなことを思いつつ住所をスマホで検索すると駅の真ん前。
確か高層ビルが建っている場所だ。
それを確認するころには思考がボケけてきて、気恥ずかしさの残滓を抱いたまま布団に飛び込み目を閉じた。
◇
次の日の学校終わり家に寄った俺は、できたレポートを片手に木下の指定した場所に向かう。
今日は木下は学校を休んでおり、メールで連絡すると仕事中だと返してくるので、いつこれを持って行けばいい? とメールすると僅か2分で返してきた。
どんだけ楽しみにしてるんだよと、心の中でツッコミつつなら、今日持っていくとメ―ルすると高速でお許しが出たので向かっている最中と言わけだ。
ちなみに学校にはレポートを持って行っていない。
運悪く持ち物検査でもされたら、とんでもない羞恥プレイを晒してしまう。
書くだけでもかなりの羞恥プレイだったのだ。
それ以上の羞恥プレイは俺の精神が持たないゴバァ! と砂糖を吐いて絶命しかねない。
だから一度取りに帰ったのだ。
木下の指定した住所は、駅前の高層ビルで中に入るとフロントに女性がいたコンシェルジュってやつだろうか。
その女性に要件を言うとPCを操作し始める。
木下に連絡を取っているんだろう。
スゲーな流石売れっ子漫画家、仕事場のあるマンションも漫画みたいだ。
暫くすると女性がカードを手渡すこれがあればエレベーターに乗れるらしい。
お許しはもらえたしいざ木下の元へ! と、大げさな気持ちでエレベーターにのり木下の部屋へ。
木下の仕事部屋は、十階。
十階でおりて木下の仕事部屋のインターホンを鳴らす。
暫くすると中の人から返答があった。
「どちらさまですか?」
声からして若い女性のようだ。
「今日木下さんと約束した友人の浅井ですが……」
「わかりました! 男の子ですね! ズボンを降ろしてセクシーポーズを決めてください!」
「そうですかじゃ、ズボンを降ろして……」
「ドキドキ! ワクワク!」
「誰がするか!」
ズボンの端にかけていた両手を払うように、姿の見えない変態にツッコミを入れる。
ノリツッコミってやつだ。
まだまだ、練度がたりないツッコミである。
俺はまじで何を目指しているのだろうか……。
俺の落ち込みかけた心に変態はさらにボケを重ねる。
「じゃあいれません!」
「なんでだよ!」
「今日来る浅井きゅんは、穴があれば果敢にツッコんでいく生粋の攻めと聞いています。そのためにブツの確認です」
「俺のツッコミを卑猥な物みたいに言うな! 穴じゃなくてツッコミどころといえ!」
「チッ! 畜生が!」
「なんで怒ってんだよ!」
「がっかりです! いいからズボンを脱ぎなさい! これは私の趣味です!」
「ただの欲望に忠実な変態じゃねーか!」
「ぬーげ、ぬーげ、ぬーげ、ぬーげ、ぬーげ、ぬーげ」
なんだこいつ、話が通じねー変態じゃないか。。
変態は手を叩いてぬげコールを連呼している。
するとドタドタのいう音が聞こえてきて。
「U子またやってる! いい加減にしなさい!」
「痛いよ。花園先輩」
「痛いじゃないわよ。ウッドフィッシュ先生に聞いてたでしょ! 今日来るお客さんは新作の出来を決める大切な人って!」
「でもでも、若い男の子よ! ズボンの下は見たいじゃない!」
「この末期の変態女が……浅井君であってるわよね? 先生が奥でお待ちですよ」
ガチャリとロックが解除されたので恐る恐るドア開ける。
中に入ると玄関は女の子らしい内装で用意されていた可愛らしい兎のスリッパに、靴を脱ぎ履き変え奥へ向かう。
奥にいるというのだからとまっすく進んだ。
先ほどの変態と花園さんらしき姿は玄関にはない。
鍵だけ開けてどっかに行ってしまったらしい。
「木下どこだ?」
いちようの声掛けはすぐに返答が来た。
『こっちだ金緑、玄関からまっすぐ行った部屋だ』
その言葉に返答を返しそうになるがこのまえの事を思い出し無言で首肯して目的に部屋を目指す。
「ここか」
その部屋の扉には可愛らしい丸みを帯びた字で仕事部屋と書いたプレートが下げてあった。
「木下入るぞ」
コンコンと扉をノックして扉を開けた。
返答はなかったが、下手に大声でも出して仕事中かもしれない木下を困らせる趣味は俺にはない。
「いら……っしゃ……い……浅井……君」
『よくきたな金緑』
その部屋じゃ大きなな机が複数並び、手元が見やすいように照明が机を明るく照らしていた。
作業をしているのは、木下を含め三人さっきの二人だろう。
木下は一番奥の机に座っているので近寄ると、木下の目にしたにはうすっらとくまが浮んでいる。
「持って……き……てく……れ……まし……た」
「おう持ってきたぞこれ」
そういうって差し出しだレポートを表の木下らしからぬ、力強い動きで俺から奪い取り、食い入るようにレポートを読む木下。
心の声で『うひょー、スゲー、甘々じゃん、ギャップ萌えジャン』などという感想を飛ばしてくる。
ひとしきり読み終わると。
「あり……が……とう……ござ……いま……す」
そう言って机のインカムを取った。
気のせいか木下の目の下のクマが消えているきがする。
「U子……さん……花園……さん……来て……くださ……い」
「はい、ウッドフィッシュ先生、U子の行くわよ」
「分かりましたよ。さっきの男の子!? はぁはぁ」
「さっき入ってきたでしょ? でなんですか先生」
「この……二人……は……アシスタント……の……花園蕾……さん……腐女子ハンターU子……さん……です」
「私が花園蕾、こっちが腐女子ハンターU子よ。当然本名じゃないわ。ここではお互いは敬意をこめて作家名で呼び合っているの」
「ところで、君ドロッとしたカルプス好き? はぁはぁ」」
「この子はある意味病気だから気にしないで」
「何をいってるんですか花園先輩! 私は腐女子として欲求に忠実なだけです!」
「それを病気というのよ! 若い男と見ればズボンを脱ぐようにいうし、火消しに回るこっちの身になりなさい!」
これまた濃いキャラだな。
白絹子を思い出すが嫌な予感が背中に走る。
「だって見たいじゃない! 憧れの白絹子お姉さまなんてスマホに千点を超える白濁液画像を保存しているのよ! 貴重なチャンスなのよ!」
「うすうす気づいてけど、あいつと同類で知り合いかよ!」
「あら貴方、お姉さまを知っているの? 絶品だったでしょ白濁フルコースセット」
「普通に胸焼けしたわ!」
「それがいいんじゃない! マヨネーズの量は好意の量よ!」
「そんな歪んだ愛情いるか! マヨネーズを抜いて寄越せ!」
「何言ってるのよ! お姉さまからマヨネーズをとったら腐女子しか残らないじゃない!」
「それ何気に馬鹿にしてるからな! マヨネーズに勝てる所ぐらいもっと見つけてやれ!」
「はいはい、それぐらいにして話を戻しましょう。聞いたとうりほんとに面白い子ね。ウッドフィッシュ先生どうぞ」
俺と変態を制しおほんと場を鎮める花園さんは木下に向く。
「次回作……の……イメージ……は……これ……です」
そういって俺が渡したレポートを差し出した。
「先生これを読めばいいのですか?」
「そう……です……私……は……浅井君……と……二人……で……話が……るの……で読ん……でいて……くだ……さい」
そういってレポートを二人に渡し、手招きをするついて来いという事だろう。
木下の後をついて廊下へ出る。
どうやら隣の部屋で話がるらしい。
その部屋は少し大きめな寝室で木下はベットの上に腰を掛ける。
『ふぅやっと、思いっきり会話ができるぜ。聞こえてるか!』
「聞こえてるぞ」
『じゃばお待ちかねの暴露タイムだ。当然、他人に話すようなしらけることをするなよ』
「おう、分かった」
『さて何から話したもんか。俺がお前が気になり始めた時の話か、いやここはなんでライバルの豊穣と、お前が仲を深める機会をやったかだな』
そいうえばそうだ。
恋敵をデートに誘う事はデメリットが大きいから普通は指し誘わない。
普通はデート二人っきりでと考えるのが当然だろう。
『実は俺、ずっと豊穣に狙いを定めていたんだ』
「どういう意味だそれ」
『変な勘違いはするなよ。俺が豊穣を狙っていたのは、新作にあいつをモチーフにしたキャラを出そうと、
前々から思っていたんだが、あの性格だろ。中々いいアイデアが浮かばなくてな。心の声の話を聞いた時ビビッと来たんだ』
「なるほど、遊園地で手っ取り早くアイデアを集めたかったって所か」
『そう言う事だ。理解が早くて助かるぜ』
なるほど。
そういう事か、自身の私情より作品のネタを優先するとはㇷ゚ロの鏡だ。
作品を生み出すことはそれだけ大変なのだろう。
『でっ、お前は豊穣と何かあったんだろ? 豊穣静かだったし』
「実はな、豊穣の本心を引き出すって宣言した。そしたらここ二日豊穣はだんまりを決め込んでる。
目も合わせないし、心の声がなかった完全に嫌われたと勘違いしてたな」
『お前ラノベ主人公みたいだな。となるとうーん』
そういって腕組みをした木下は細い腕を指でトントン叩き、思案にふけているように見える。
『よし決めた! お前、俺とキスしろ!』
はい?
何を言ってんですか先生。
とんでもない無茶ぶりを要求する木下。
だが木下は俺の目を真っ直ぐ見て。
『俺の事嫌いか?』
「嫌いじゃないがいきなりキスってのも」
『なんだよ臆病者め。せっかく俺が好きな相手とキスできるかと思ったのに』
「欲望全開だなお前!」
『当たり前だろ。女なんて隙あらば好きな相手とのキスを望む生き物なんだぜ!』
そう断言して肩を竦める木下。
よくわからんがそういう物なのか?
『まぁ仕方ないか。ここには豊穣も屏風もいないからな。あの二人の前でキスするから意味があるんだしな』
「よくわからんが屏風も同じカテゴリなのか?」
『マジで言ってんのか? まあいいけど俺はお前とキスをする。あの二人の前でな』
「勝手の決めるなよ!」
『好意なんて相手がだれであれ勝手もんだ。俺はお前が好きだ。だからキスがしたい、これは譲れないぜ。お前の唇は俺が戴く』
「少しは話を聞いてくれませんかね!?」
『その為に学園祭台本のラストは変更だ! お前豊穣と本当にキスをしろ!』
「何でそうなる!」
『眠りこけるお姫様に目覚めのキッスは必須だろ。それだけ揺さぶればちょっとぐらい豊穣だって本心出すだろ』
その言葉に返す言葉がなかった。
確かにいい作戦かも知れない。
失敗したら目も当てられないが。
『期待しとけよ金緑。俺のキッスも最高のタイミングでくれてやるから』
「もう好きにしてくれ……」
木下は嬉々として俺にキス宣告を行う。
そんな木下に言い返させない俺は負けている気分で声が若干小さくなる。
考え方によっては勝ってはいるのだが。
木下とキスか……木下とキスをすること自体は、悪い気はしないしないが、最高のタイミングというのが引っかかる。
なにか一悶着起きそうな予感がビンビンだ。
しかも、問題はこの場でも起きていたのだ。
バタン!
部屋の扉が勢いよく開かれ花園さんが飛び込んできた。
「U子が、倒れました!」
「また……です……か」
「そうです。またU子の持病が」
「やばいじゃん救急車呼ぶか?」
「大丈夫そういうのじゃないから」
どういう事だ。
持病で倒れたのに放置するきか?
さすがにそれは。
「見ればわかるわよ。先生、彼氏借りてくね」
「あ……浅井……君と……私は……まだ……そん……な関係……じゃ」
「何言ってんですか、先生私達から見てもバレバレですよ。確かにまだですけどね」
そうニヤニヤしながら木下に言うと花園さんは俺の手を引いて、隣の仕事場へ向かう。
その足取りはゆっくりで急いでいるようには見えない。
あいつの持病が何なんか知らんが、そこまで心配する必要はなさそうだ。
ガチャリと仕事部屋の戸を開けた。
「しっ死んでる……」
U子は床の頭部の部分血だまりを作り、うつぶせのまま倒れていた。
完全に二時間ドラマで見慣れた光景がそこにあった。
思わすこみあげた吐き気を、喉元にとどめ押し返す。
「違う違う、それ完全にアウトだからよく見て」
「これ死んでんじゃ……」
「よく見て、背中が動いてるでしょ。よいしょと」
花園さんがU子を起こすと、顔は血だらけで鼻血が出ていた。
それ以外の外傷見られない。
何故か顔は仕事終わりに適温の湯船に浸かったように恍惚の表情だ。
まさかな、ふと浮かんだこうなった理由を頭を小さく振って否定する。
まさかな、流石の変態でもあり得ないか。
「浅井君、U子の口に耳を近づけてみてそれで理由はわかるから」
その言葉でいやな予感がひしひしと、しかしいくら何でも俺の頭に浮かんだ理由である思えずゆっくり耳を近づける。
耳を近づけるとU子は、ぼそぼそ何かを呟いていた。
「正直になれない――君の○○に○○〇をぶち込んで受けが攻めに転じで、
○○して○○〇を○○して――」
「予想的中かよ!」
「ね! このとうり大丈夫でしょ! この子興奮しすぎると鼻から血を出して倒れちゃうのよ」
だからって限度があるだろ。
こいつの作品は見たことがないが、完全に作品より作家本人の方が、面白いパターンじゃねーか。
「これでも、本当に体的には病気じゃないのよ。精神の問題と医者に言われたらしけど、悪いけど浅井君、U子運ぶの手伝って、先生は腕力がないから危なしいし」
「分かりました」
「そうじゃあU子の足をもって私が腕持つから」
俺と花園さんは先とほどの寝室の隣この部屋から、2つ隣の仮眠室へU子を運び込んだ。
「ありがとね。流石先生の彼氏ね」
「いやだから、彼氏じゃないんですが」
「今はってことでしょ? 私が言うのもなんだけど先生はかなりの優良物件よ。人気漫画家でお金持ち、料理や家事だって一通りこなせるし、
ちゃんとおしゃれすれば立派な美少女だし、そしてあの小さな体に不釣り合いな胸部! マイナス面なんて恥かしがりやで人とちゃんと話せないぐらいじゃない。どうなの?」
「確かにそうですけど。ちょっと気になっている奴がいて」
「ほう興味深いわね。私たちの先生に勝てるのかしら?」
「あいつは口を開けば毒しか吐ないし、俺をまともな名前で呼びやしない。本心なんて絶対に見せないし、
胸だってぺったんこ、料理を作れば食欲が減退する命名をつけるし、いい所なんて綺麗な顔だけで――」
「何それ、普通に気になるとかあり得ないじゃない」
花園さんの当然の指摘を無視して言葉を続ける。
「そうだったんだけど。ある日あいつの本心を知ってしまったんだ。そんな本心がとても心地よくて――それを白日の下にさらしたいって思った。これが恋という感情かはまだわからないけど」
「まだ恋じゃないなら先生にも勝利の可能性は残されているのね」
「そうかもしれまあせん。木下と一緒にいて楽しいですし、普通に好きですよ」
「そういう女の子が勘違いするセリフは言わない。そいうモノはたった一人の女の子に言う物よ」
「気を付けます」
「よろしい。先生はいつもあなたの事、嬉しそうに話すのよ。口だとスムーズにできないからPC上だけど。よほど先生に愛されているのね」
「みたいですね」
知ってますよ。
告られたし。
「随分軽いわね。流石すでのハーレムを築きつつあるわけだわ」
「誰情報だそれ!」
「そんな物これまでの経緯をしれば一目瞭然よ!」
「このレポート相手の名前A君って書いてあるし、先生と私たちの会話を思い返せば当然ね」
「少しばかりハレームについては否定する」
そういって少し考えてみた。
1、俺は現在、木下、屏風、豊穣に好意を持たれている。
2、主な友人は女子。
3、学校の男の友達と言われて考えてみても、誰の顔もでてこない。
4、ハレームの定義。
元はとある宗教に置いての女性の住む家の事、紆余曲折合って、複数の相手にたった一人が好意を持たれる状況を刺すようになった。
……………………あれ?
気のせいか否定の言葉が出てこないぞ。
おかしいな。
普通に爆発しろ! と言われて当然な気がする。
「全くリア充は羨ましいわね。そんな今気づいてって顔されたらこれ以上言いたくても言えないじゃない……
全く先生も難儀な男を選んだものね……この青春ラッキーボーイめ」
俺がリア充かどうか置いておくとして花園さんは肩をオーバーに竦め呆れぎみに声を放つ。
「まあいいわ、先生の所へ戻りましょ、先生も待ってるだろうし」
そんなやり取りをした俺たちは、U子に布団を仮眠室を後にする。
そんなわけで木下の元へ戻る。
「どう……で……した?」
「いつもの持病ですね。一様もう少したったら病院に連れていきます」
「レポート……は……どう……でし……た」
「中々面白かったです。こんなのがライバルなんて大変ですね」
「あ……ううう……ど……うし……て?」
「先生、私の得意ジャンルラブコメですよ? これまでの先生の話とレポートと浅井君を重ねれば見えてきますよ」
「他言無用……で……お願い……しま……す」
「そんなのあたりまえじゃないですか、それよりこのネタどのように使います?
プライベートな物は削除するとしてもいろいろ詰めないと、だから危険を承知でU子にまで見せたんですよね?」
「そう……です……U子……さん……は男性……に……関す……る物に……対して……頼れ……る人……なので」
「確かにそっちだけならU子は本物ですからね」
「じゃあ、木下、俺帰るからこれから仕事なんだろ」
「浅井……君……待って……くだ……さい」
『待て金緑』
「なんだよ、木下忘れものでもしたっけ」
「違い……ます……えっと……あの」
『ちょっといいにくな』
「あの……この……レポート」
「だからなんだって、木下落ち着け、急がなくてもちゃんと聞いてやるから、ほら深呼吸」
木下は小さな体を揺らして息を吸ってはく、暫くすると落ち着いたのかこう切り出した。
「これは……浅井……君……の……実体験……ですか……漫画……にし……て……大丈夫……ですか」
「そんなことか、いいけど条件があるぜ」
「これは私はお邪魔かな。先生U子を病院に連れて行ったら他のアシスタント集めときますよね」
そういうと花園さんは部屋を出ていく。
何故か片手だけ親指を立てていた。
グッジョブと意味と捉えればいいのか?
『ふぅ~これでやっと思いっきり喋れるぜ。で、望みは何だ金か有名人のサインか、当然だが、まだ18禁的な要望は応えられないぜ』
「最後どういう取り方だ。あーもう小さい事過ぎて言い出せなくなったじゃねーか」
『小さい事、売れっ子漫画家に要求する対価が?』
「何簡単なことだよ。書くなら最高に面白く書いてくれって話だ。それが条件、流石に大事な友人に体とか大金を要求とかできないよ」
『最高に面白くか難しい事をいうな、当然できるだけ面白くは書くが』
「何が問題なんだ?」
『それだけプロの世界は厳しいってことだ。渾身の力作を漫画家になってから、編集に何度ボツにされたことか』
「むりそうなら普通でいいぞ」
『何言ってんだよ! 狙うならてっぺんだ! そんなわけだからやる気のチャージだ。この前のように片膝ついて目をつぶってくれ』
「またか?」
『まただ!』
仕方ないので俺は前と同じく目をつぶり片膝をつく。
屏風と豊穣の前でするとと宣言していたし、キスではないのだろうが、一体何をする気なのか。
ガシリと頭の両端掴まれる今回は耳から少し上の部分だ。
木下は俺の頭を引き自分の口元を俺の左耳に寄せているのだろう木下の熱い吐息が左耳をくすぐる。
「浅井……君……私は……あなたが好き……です……だか……ら……いずれ……二人の前でキス……します……でも今は……これだけ……」
柔らかい感触の何かが左耳に触れた。