披露宴前日
「金緑さん明日ですね。これで私たちは――」
笑みを浮かべた九条院さんは頬を薄く染めて言う。
一方の俺の気持ちは複雑だ。
九条院さんの家は超がつくほどのお金持ちであるのはこの数日の食事やらなにやらで思い知らされたけど。
未だに俺の片腕には鎖が繋がれている。
それでこのような展開になっても全然喜べない。
そりゃ九条院さんは美人だし、スタイルもいし、料理だって旨い。
だがこれは。
「九条院さん本気で俺と結婚する気なの?」
「本気です。そのための披露宴です」
九条院さんの説明によると俺は明日九条院さんと強制的に結婚させられる、法的にはまだ17同士なので事実婚らしいが。
美人と婚姻を迫られなど男からしたら役得であるが、それに拉致監禁が加わると一気にヤンデレルートを彷彿とされるから不思議だ。
九条院さんがそういうタイプではない事はわかってはいるが、どうしてもそいう考えがちらつく。
断り続けたら手足裂断と言われているせいかもしれない。
でも、九条院さんはまんざらでもないようだ。
「こんな展開は私も受け入れがたいですが、金緑さんと夫婦になれるのは嬉しいです。だって金緑さんが大好きですから」
「九条院さん」
俺は出来る限りの気持ちを込めて、重々しく言葉を放った。
「はい、いいですよ。夫の気持ちを受け止めるのも妻の役目です」
「残念だけど俺は――」
その言葉に笑みを絶やさなかった九条院さんの表情が曇り、奥隠した気持ちがあふれ出てきたのだろう言葉が漏れ出る。
「それ以上は口に出さないでください! 分かっています! こんな卑怯な私が金緑さんの一番になれない事なんて! でも! でも! 私にこの結婚を止める力なんて……」
「ごめん九条院さん……」
そうとしか言えなかった。
俺達の視線は自然と下方へ落ちる。
笑みを絶やさない九条院さんの笑みはアイツらと一緒にいた時とは明らかに違う。
今の九条院さんの笑顔は心からの物ではないのだろう。
少し前の九条院さんは本当に楽しそうだった気がする。
こんな形ではなければ、ずっとあいつらと仲良くできていただろう。
それを残念と思っているのは俺だけではないだろう。
きっと九条院さんも俺と同じ気持ちだ。
あの頃、僅か一週間程度の前の楽し気な様子の九条院さんの姿が懐かしい。
「でも金緑さん――」
その言葉に伏せていた視線を戻す。
九条院さんは雲の隙間から漏れ出る光を追うヒマワリのように笑みの花を咲かせる。
「私は金緑さんが大好きです。この気持ちに嘘偽りはありません」
そう言い切られると本当に好きになってしまいそうだ。
もちろんアイツらには言えた事ではないが。
アイツらどうしてるかな。
いつもの騒がしい毎日が懐かしい。
きっとあいつらはあいつらで頑張っているだろし、俺もチャンスを待たないといけない。
こんな形で九条院さんと結ばれてもお互いに胸にしこりを残すだけだ。
だから俺は機会を待っているのだ。
まだ俺はあいつらの元に帰る事を諦めてはいない。
結局鎖を外すことは出来なかったが、流石に披露宴当日に鎖に繋いで、人前には出さないだろう。
狙うなら拘束を解かれた明日しかない。
そのために捕まってから大人しくしていたのだから。
待ってろよ豊穣、木下、屏風、後花さん。
必ず帰るからな。




