拉致
そして次の日制服に着替えて豊穣の作った朝食を食べ学校に行く前のルーチンワークを終えた。
「じゃあいくか豊穣」
「ゲロ! そうね!」
『うん! そうだね浅井君』
玄関を開けた。
玄関を開けると流れ込んできた冷気はその時は寒いと感じたが、空に光り遮る雲の姿はなく、太陽で寒さが中和されて少し暖かいくらいだ。
まだまだ寒い季節ではあるが、日差しは中々暖かいな。
そう天を見上げて下に視線を落とせば見慣れた姿が。
「お前らどうしたんだ?」
「木下さんと相談してね。できるだけ金緑を一人にしない様にすることにしたのよ!」
「そう……いう……事……で……す」
『つーわけだ。これから俺たちがお出迎えだぜ! 役得だろ役得』
そういう事かだから木下と屏風が待ってたのか。
どうせなら何日か俺んちに泊ればいい気もするが、そんなことをすれば多くの人がいかがわしい関係を疑われてしまう。
学校でも一部の男から俺はハレーム王と呼ばれているらしいし、花さんが前に言っていたように教師たちも疑いの目を俺たちに向けているのはホントっぽい。
これ以上の火種は避けるべきだ。
俺たちの関係は完全クリーンだが一応ね。
「じゃいくか」
そうして歩き出した。
たわいう無い話をしていつもの通学路を歩く、いつもならここらへんで九条院さんが加わるんだよな。
期待を込めて視線を飛ばすが影も形もない。
お金持ちってのは俺たち庶民には理解できない悩みでもあるのだろうな。
九条院さんも大変だな。
「浅井……君……聞いて……いま……す」
「悪い聞いてなかったわ」
「ゲロ! しょうがない糞虫ね!」
「全くそのとうりよ金緑!」
「でっ何の話なんだ?」
「名付けて金緑防衛大作戦ね!」
なにそれ、いろいろとざる過ぎて結果的に失敗する予感がムンムンなんだが……。
「仕方ないわねもう一度説明してあげるわ!」
そうして屏風が説明してくれるのだが、予想道理グダグダである。
ようは俺を一人にしないで俺んちに防犯設備を沢山つけようって話だ。
明日からつけるとか木下は息巻いている。
費用は木下持ちだそうだ。
さすが木下先生気前がいい。
木下と言えば何か忘れているような……何だっけか。
すると木下が。
「ところ……で……浅井君……ネクタイ……ピン……が……見当た……り……ません……が……」
「ああそれなら袖に……あれ?」
袖を確認するがネクタイピンの姿はない。
そういえば袖につけるのは寝間着にと気だっけ。
家から少し歩いた程度だ。
急いで戻れば学校にも遅刻しないだろ。
「やっべ家に忘れちまったぜ。すぐ取りに帰るから先に学校行っててくれ」
「私達もついていくわよ」
「いや、いいや走れば十分でつくからお前らと一緒だと遅刻するだろし」
「ゲロ! 糞虫!」
『ちょっと浅井君!』
「浅井……君」
『おい! 金緑! こんなフラグンビンの時先走ると――』
二人が何かを言っているようだが、駆け出した俺の耳には届かなかった。
すぐ近くだし大丈夫だと思っていたのだが。
これが飛んで火にいる夏のなんやら状態だったわけだ。
俺はそんなことをしらず全力疾走で家に向かった。
時計を見ればかかったのは八分弱予定よりもかなりはかなり早く着いた。
これならネクタイピンを見つけてダッシュすれば余裕で一限目に間に合いそうだ。
呼吸を整えカギを解き玄関を開けた。
あれ? 靴の位置が少し違うような気が……でもカギはかかっていたけど、何やら見られいるようなぞわぞわ感を感じる。
これやばいんじゃ……ゆっくりと辺りを見渡すとお目当てのネクタイピンが即座に手を伸ばし袖につけた。
バタン――開けっぱなしだった扉が閉まった。
俺は即座に玄関に駆け寄ったが、開かない誰かに外から押しているかのようだ。
無駄とわかっていても開けようとするがびくともしない。
後方の気配を感じ振り返ると、火花を散らす黒いモノ。
多分スタンガンだ。
それは急速に首に近づき痺れを伴う痛みが走った。
「ターゲット確保しました」
それが最後に聞こえた声だった。
早いとこ奪還せんといかん。




