0004決意
「何……をして……いるの……よ……糞虫」
『あわわ、大好きな浅井君がこんな近くに』
明らかに動揺する豊穣次々に毒を吐いている。
それは聞く者全てを傷つけるような鮮烈な言葉も多数あった。
それで心の声はとろける様に甘くて心地よい。
少しだけ回した腕に力を籠める。
だが、すぐに力を弱めた。
そんなことをすれば豊穣のか細いからだが折れてしまうような気がして。
彼女を傷つけてしまう気がして。
俺にはいつしか心の声だけが聞こえ始めた。
まるで体が彼女の本心だけを聞きたいと他を拒絶するように。
『浅井君どうしたのかな』
『嬉しいけど皆見てるから恥ずかしい』
『大好きな人の体温って熱くぐらいなのに気持ちいい』
『浅井君もしかして私の気持ちに気づいてくれたのかな?
』
『私の本心大好きな浅井君に届いてくれていたのかな』
『こんな事されたらそう思うちゃうよ』
『そんなわけないか……こんなひどい事しか言わない女の子なんて好きになるわけが……』
『それでも、私は浅井君が好き……現実の口から酷い事しか言えないけど』
『浅井君が私は大好き。だからもっと浅井君を感じたい』
『このまま時がなんて少女漫画みたいなことは言えないけれど』
『溶けるぐらい本当に幸せ』
『浅井君ずっとこうしていて、私だけを見ていて』
『私の大好きでかっこい王子様』
現実を忘れてしまいように甘美で心地よい。
言葉とはここまで甘くなるものだったのか。
新たな発見と快感は脳髄を刺激するような心地よい痺れを伴って、だかそれは豊穣とは別の心の声で遮られた。
『いちゃいちゃタイムは終わりだぜ』
「痛ててて」
頬に感じだ鈍痛によって我に返る。
暫く豊穣に抱き付いていたようだ。
豊穣の体がやけに熱く感じる。
「浅井……君……ここ……が……限界で……す」
『ここが潮時だぜ」
その声で豊穣をみるとゆでだこのように首が赤い。
正面なんかみたらきっとすごい事になっているだろう。
豊穣を離すと豊穣は力なくぺたんと地べたに座り込んだ。
どうやら木下が俺の頬を引っ張って引き戻したらしい。
確かに見るからに豊穣は限界で今にも、蒸気機関車のように白い蒸気でも放ちそうだ。
「どうしたの金緑? いきなり豊穣に抱き付いて少し変だったわよ」
「私の言葉なんて届いてなかったみたいだったし」と悲しそうに屏風は付け加えた。
この様子では屏風も何か言っていたらしい。
全く聞こえていないが。
「で、何でこんなことしたの? 最愛の彼女に説明を要求するわ!」
誰が彼女だ!
キャラ入りすぎだろ!
全く屏風の悪ふざけは。
「いや何、無言で抱き付いたらいくら豊穣でもデレるかと」
それっぽい嘘をしれっとつく。
その言葉に屏風は顎に手を当て小さく頷き。
「なるほど、確かにそれはわかるわね。ツンツンキャラがデレるのは恋愛ゲームの楽しみの一つだもんね!
高慢ちきな男の子がデレるのは爽快だもんわかるわ! 効果てきめんね! これでデレれば面白いんだけど」
実はもうデレれてるんですがね。
「まさか、豊穣にこんな一面があるとは……新たなライバル出現ね!
金緑に好意を持っていたのは知ってけど……アレ過ぎるからライバルとは思ってなかったのに、ぐぬぬぬ、金緑って攻略難易度高過ぎね!」
「豊穣大丈夫か」
屏風を無視して。ぺたりと座り込み真っ赤になったまま動かない豊穣に声をかけたが。
「浅井君があんなに近くに」
「なんだって、声が小さくて聞こえないぞ」
「浅井君があんなに近くに、浅井君があんなに近くに、きゃーーーー」
小声からいきなり叫び出し顔を覆い隠す。
後方から見る首は未だに真っ赤っだ。
心の声は何故か聞こえず、何を言っているかわからないが声は喜んだとき特有の高音で喜んでるのは分かる。
豊穣が落ち着くのに数分かかった。
「糞虫、こっちを見ないでくれるかしら……汚物みたいな目を向けないでくれる」
「と言われても見てんのお前じゃん」
先度の出来事によりさっきまで放心状態だった豊穣は言う。
先ほどより豊穣は俺をチラリとみては、俺に見るなと毒を吐く。
これで何度目だよ。
そして本心は以下の模様だ。
『あうううう、恥ずかしくて浅井君の顔がみれない……よ』
『浅井君への私の想いが届いたのかな? でも怖くて聞けないし……どうしたらいいの……』
『えへへへ、大好きな浅井君に抱きしめられちゃった』
『頼んだらもう一回してくれるかな、出来えば二人きりできゃ!』
『私と浅井君との関係これで深まったかな』
『私なんで正直になれないんだろ……』
てな感じだ。
こんな心の声を駄々洩れにしても、現実では毒を吐いている。
なんというか難儀な奴だ。
そんなわけで豊穣は視線をずっと飛ばしてくる。
見られていると感じるあれだ。
そんなわけでついつい豊穣の方が気になってしまう。
見たら見たで、こっちを見るなと言われるが豊穣はずっと俺を見ているのだろう。
熱い視線をビンビン感じる。
「金緑残念ね。豊穣のデレかた予想外でしょ?」
俺を引き寄せ耳打ちする屏風。
「いや。普通に想定内だが」
心の声がデレてるし、そりゃ最初からか。
「ふーん。で豊穣の事好きなの?」
「今はなんとも友達以上恋人未満かな」
「じゃあ私は」
「友達」
即答する。
「なんでよ! この中じゃ私が一番まともじゃない! 豊穣なんかより私を選ぶべきよ!」
「一番まともなのは木下だ、意外と男前な性格だし、俺的には豊穣と同じ友達以上恋人未満立ち位置だ」
「木下さんが? 何おかしなこと言ってんのよ」
「かなりの男前だぞ木下は」
「何を言ってるの聞こえないじゃない! 糞虫! 雌ブタ二号! 私も混ぜなさい!」
そういって話に割り込んだ豊穣は俺の腕をつかむがすぐに離してボッシュと音で出そうなほど赤面してしまう。
『あうううう、恥ずかしいあんな事の後で、浅井君に触るなんて無理』
「積年の恨みを晴らすチャンス! ほらほら金緑の腕は大きくて暖かいわよ。私が独占しちゃうぞ~~」
「万年発情期の雌ブタ二号は下品ね! そ……そんなの羨ましくないんだから!」
「じゃこれでどう」
そいって腕に胸を押し付けてくるのでたまらず。
「なにやってんだよ!」
「押し付けてるのよ!」
「やめろ、俺とお前はそんな仲じゃないだろ!」
「やっぱり私より立ち位置が上の、木下さんの爆乳がいいの?」
「そうはいってねーだろ、てっお?」
衝撃を感じ豊穣の方を見ると豊穣が俺の腕に抱き付いていた。
その顔は朱に染まり、いつもの無機質な感じとは違い妙に色っぽく見えた。
「どうした。豊穣……」
「……………………」
『浅井君は木下さんにも屏風ちゃんにも渡さない』
「どうしたのよ豊穣、黙ってるなんてらしくないわよ?」
「……………………」
『絶対に渡さないんだから!』
豊穣は俺の腕を掴む手にさらに力を入れた。
それは決して話すまいという決意すら感じてしまうような。
縋りつくような感覚を覚えた。
俺は自然と豊穣の頭に手を乗せ優しく撫でた。
特になにか考えていたわけではない。
ただ何となくそうしたかった。
少し時間がたつ。
その間、豊穣は気持ちよさように目を閉じ、されるがままにされていたがいきなり。
「私はなにをしてるよ!」
「なんでお前がツッコんでんだよ!」
「何って頭を撫でられてたんじゃない金緑にこれが証拠」
屏風の突きつけたスマホには、さきほどの目を閉じた豊穣が映っていた。
「消しなさい! 雌ブタ二号!」
「いやよ! これは仲間内でシェアするんだから!」
「どんな仲間内だちなみに?」
「全日本腐女子連名よ!」
「お前どんだけ腐ってんだ! そんなもんに加入して俺が掘られる同人書いてたのかよ!」
「ゲロ! 仕方ないわね。短期決戦にするための秘密兵器を投入よ!」
まけじと豊穣もスマホを突き出す。
スマホから聞こえてきた音声は。
【何を言ってるのよ! これは愛よ! 受け23回攻め36回金緑と男性が絡み合っているのを妄想したんだから!】
さきほどの一部始終だった。
「何言ってんのよ。こんなもの流失しても痛く痒くもないわよ!」
「そうかしら、例えばあなたのクラスの男子が男と見れば
絡ませたがる腐女子だと知って変な目でみないのかしら?」
「思うわけないじゃない!」
「チッチッチ、甘いわよ。男のほとんどはノーマル尻にぶちこまれたくなんてないのよ。そんな妄想を自分でされたら多くの男は嫌悪感を抱くわ」
「そんな有名なヤオイ本に男だってホモが誰しもが好きだってあったのに……」
「お前、それ漫画だから! 歪んだ現実を描いているから!」
屏風頼むからそんな本の情報を信じないでくれ。
「そういうわけで、クラス中の男にこの情報を流されたくないなら、スマホの交換よ。お互いの今日手に入れたモノを消して解決よ!」
「分かったわよ! はい!」
スマホを交換し操作する二人。
豊穣の頬はうっすらと朱に染まっているよほど流失が恥かしいのだろうか。
「ほんとうにあれだけを消したのよね?」
「ゲロ当然じゃない!」
「ほんとみたいね異常なし、で次何乗る?」
「あれ……に……しま……しょ……う」
そういって木下が指さしたんのは。
◇
「金緑、見てみていい眺めよ!」
俺は今屏風と共に観覧車に乗っている。
何故かというと木下の提案があったからだ。
木下の提案で観覧車に乗ることになったが、「こう……いう……もの……は……男女……の……ペア……です」と言い出し話し合いの結果、何故か俺が三回連続観覧車に乗る事のなった。
三回も改めて並ぶとなると結構な時間がかかるため、止めるか迷ったが3人が乗り気であったため、無粋と思い口を閉じた。
その一番手が屏風というわけだ。
「どうしたの金緑ノリが悪いぞっ!」
向かい合って座る屏風はノリノリだ。
「だから、恋人のノリはやめろって」
「なんで? 私は金緑をこんなに愛しているのに」
「また、そんな冗談を言って……」
「きひひ、バレたか!」
笑顔で白い歯を覗かせる屏風。
全くこいつの悪ふざけは……。
「まぁいいけど、俺なんかとこんなの乗って楽しいのか?」
「楽しいに決まってるじゃない! きっと木下さんと豊穣も同じよ!」
「何だのその自信は」
「乙女の感よ! それより金緑の女の子の好みを教えてよ!」
「なんだよ藪から棒に」
「いいから教えて」
「そんなもんお前に言う必要ないだろ」
「駄目よ! だってそうじゃないと金緑の好みに近づけないじゃない!」
なんだ今度はなんの悪ふざけだ。
こいつはいつもふざけているからその境目が分かりにくい。
冗談としてもこれは答えないとダメっぽいな。
「俺が本当に大事にしたいって思える女性だな」
「ふむふむ、でっそれ以外の条件は? 顔とか性格の好みは?」
メモを取り出す屏風。
なんかしらんがキャラに入っているな。
「性格は俺と気の合う奴がいいな。顔はよほど酷くないなら別に」
「なるほど、私達3人は射程圏内ってことね!」
「そうなるな」
「でっ私が最下位と」
「まぁな」
「その理由を教えてよ!」
「やっぱりお前のボケが寒い事かな」
ツッコミがいはあるが俺以外の他の連中だと駄々滑りしてそうだし。
他の連中とうまくやっているのか心配なレベルでだ。
明らかに素の方がボケとして面白い。
「なにそれ! つまり私のボケを受け止められるのが金緑だけである運命の人と再認識しろってこと!?」
「なんで、運命の人みたいな流れになるんだよ!」
「ボケとツッコミの出会いは運命なのよ! テレビにでてくる売れ子お笑い芸人の大半がそう! これは奇跡のカップリングなのよ!」
「そんな見方するか!」
「何を言っているの! 私というボケがいて金緑というツッコミがいる! そんな二人が運命に導かれ出会ったのよ!」
「そして二人は魅かあう……って、そんな運命知るか! お前は運命に何を求めているだよ!」
「最高のツッコミという金緑と言う名のパートナーよ!」
「なんで俺なんだよ!」
「だって、ずっと滑り倒していた私のボケを受け止めて面白くしてくれたの金緑だけなんだもん!」
その言葉は紛れない屏風の本心に思えた。
そこまで言われたら多少はボケに付き合ってやるか。
俺も甘いな。
豊穣の毒を浴び続けたせいで寛大になっていたらしい。
「わかったよ! コンビを組むのはいやだがボケには付き合ってやる!」
「さすが私の運命の人ね!」
「違うけどな!」
「何を言っているの! もうすでに私の薬指には金緑のツッコミの赤い糸が繋がっているのよ!」
「なんだそりゃ! 訳が分からん単語をだすな!」
「金緑待っててね。私、金緑の好みの女の子になって見せるから」
ニコリと顔を崩す屏風。
こいつってこんな顔もできるんだな。
初めて見た屏風の一面。
しかし、俺はいつも冗談と捉えた俺はその時は深く考えなかった。
「はいはい、冗談はそれぐらいでそろそろ交代だぞ」
「これは本気なんだけどな」
ぼそりと小さな声で屏風が何かを言った気がした。
「何だってなんか言ったか?」
「独り言よ!」
◇
「次は……私……で……す」
そんなわけで木下と交代した屏風は満足そうな顔で、木下を見送った。
豊穣は心ここにあらずって感じで何も言わない。
緊張しているのだろうか。
しかし、そんなことを深く考える間
もなく。
順番は意外と早く回ってきた。
やはり混雑のピークは夜景の見える夕暮れが過ぎてからなのだろう。
このペースなら豊穣と乗る時は夕暮れ時だ。
『金緑どうだった』
木下は俺の下方を見つめ、心の声を飛ばしてくる。
俺、相手でもまだ人の顔を見ながら話せないのか木下。
これでも最初であった時よりは緩和してきたのだ。
「どうだったってなんだよ? てか普通にしゃべれよ」
『表の俺の口は上手くまわらないからこれでいいだろ!』
「分かった分かった怒るなっで、なんだよ」
『俺たちとデートをした感想を聞いてんだよ!』
そいうえばそうだったな感想か。
「結構楽しかったぜ」
無難過ぎたか。
しかし、嘘は一切ついていないので悪い回答ではないだろう。
『ならいんだが』
「なんでそんな事に聞くんだ? 友人と遊ぶのは楽しいのが普通だろ」
『そういもんか、昔、俺と遊びに行った奴は、俺の喋りがまどろっこしくて、一緒にいてつまらないといていたんだが……』
「何言ってんだ。豊穣と言う人物と長年付き合てきた俺が、その程度の事気にするわけないだろ」
『そういう金緑の無駄に寛大な所、マジで好きだぜ』
「木下、その発言は男によっては誤解されるから、素ではいわないほうがいいぞ」
『何言ってんだ。俺は金緑を恋愛対象として見てるぜ』
「っぇ!?」
驚きにあまり変な声が出てしまった。
木下の本心は知らんが中々の爆弾発言だろこれ。
『だって当たり前だろ。好きでもねえ男とデートなんて誰だっていやだろ』
「そりゃそうだが、屏風にも同じようなこと言われたが何で俺なんだ」
『くっそ豊穣に続いて屏風にも先を越されたか……屏風の事だから寒いボケにいちいち付き合てくれるとかだろうが……』
さすが木下だ。
あってる。
でも豊穣は口に出してないけど。
『俺は金緑ほど気兼ねせず話せる奴に出会ったことがなくてな……
表の俺のたどたどしい言葉を気にしないで会話に加えてくれるし、金緑だったらいつかこの心の声ぐらい表の俺が饒舌に語れる気がする』
「そうか、いつかその日が来たら馬鹿話で盛りあがろうぜ」
『そうだな、そんな日が来たらいいな。だから豊穣の事を聞いた時チャンスて思ったんだ。
これだけ気兼ねなく話せるなら、心の声がお前に届いたらきっと面白いってな』
「まぁ実際、結構楽しいな」
木下の心の声には嘘や虚栄は混じっていなくて、ストレートな感情そのものだ。
そんな竹を割ったような男前の木下の心の声は、聴いていて清々しくて気分がいい。
『そういってくれるならうれしいぜ。だから金緑これから先、俺は豊穣の心の声並にデレるかもしれない』
木下は赤やかにそまった顔で下方に向いていた視線を俺の顔に向け俺の瞳を見る。
木下の穢れなき瞳は宝石のように光を反射しているかの様にさえ見えて。
ゆっくりと噛み締める様に言葉を放つ。
「それ……ぐら……い……貴方……に……好意……持って……います」
『それぐらい俺はお前に惹かれ始めている』
「少し……恥か……しい……告白……です……が」
『我ながら馬鹿な告白と思うが』
息を溜める木下。
「……です」
『その時は俺を選んでくれると嬉しいな』
木下は優しく微笑んだ。
それはとても優しくて、包み込まれるような。
彼女の心根が笑顔に、にじみ出てきたのだろう。
俺はただただ見とれていた。
◇
『好き』
『私に優しくしてくれるのが好き』
『思いやりがある所が好き』
『誰にでも気さくな所が好き』
『面倒見がいい所が好き』
『面白い所が好き』
『料理が上手い所が好き』
『運動が得意なのがカッコよくて好き』
『カッコいい顔が好き』
『大きくて暖かい手が好き』
『こんな私に優しくしてくれて構ってくれるのが大好き』
『ううう……そんなこと正直に言いたいよ! せっかくの二人っきりなのに……』
豊穣の心の声は、観覧車に心の声が染み渡り様に饒舌に俺の耳に届く。
その心の言葉は一言一言噛み締める様に、落ち着いていて俺の胸が熱くなる。
豊穣は本当に俺が好きなのだろう。
そんなことはここまでの事で分かりきっていた。
だが、本心を知ったからと言って即恋人なんてことはあり得ない。
それほどまでに豊穣との思い出は苦痛と言える時期もあったのだ。
そして、それは現実の豊穣の口からは一言も放たれていないのだ。
事実、観覧車に乗った時点で豊穣は外の夕日に目を向けて一言も喋っていない。
「糞虫なんであんな事をしたの?」
「あんなことって?」
観覧車に乗ってから、初めて言った豊穣の言葉にとぼける俺。
「糞虫が私に抱き付いた事よ」
「ただ、なんとなく……」
「そう……」
『えぇええええええ!? 何それ! 確かに嬉しかったけど! 嬉しかったけど!』
「変な事を聞くようだがお前はこのままでいいのか?」
「なにがよ……」
「全くお前は……まぁ、まだ時間があるからいいか、さっきの答えはあれはその一環だと思ってくれ」
「その一環?」
「お前の本心を引きずり出す事だよ」
「そんなの有難迷惑だわ!」
「そうか? 毒さえ吐かないならお前は可愛いし、引く手数多だと思うが」
「っ!?」
『浅井君が私を可愛いって……てへへ、てれるな』
その言葉に俺は決意の言葉を放つ。
「決めた。俺は、お前の本心を引きずりだして毒のないリアルのお前をこの目で見てやる!」
こいつの心の声を聞いてからからずっと考えていたんだ。
こんなに可愛らしい彼女の姿を白日の下にさらす事を。
「引きずり出した本心に毒があったらどうするつもりよ?」
「だったら、その毒を全て俺が飲み干して綺麗なお前にするだけだ!」
すでに分かっている物を引き出すことは卑怯かもしれない。
だが、そんなことは知るか。
毒なんて年中浴びてきた飲み干してきた。
出てきた本心に毒がいくらこびり付こうと俺なら飲み干せる。
飲み干してみせる。
それは俺の真実の気持ちだった。
「そんなの無茶苦茶よ。私の本心にそんな価値があるとでも思ってるの?」
「ある!」
卑怯ともいえる分かりきった答え。
その言葉に豊穣は、呆れたように言葉を放つ。
「なによその根拠のない自信……」
『うん』
「そう……ならやってみなさい」
『わかった、心の中だけの私をいつかお姫様みたいに、お城の外に連れ出して』
「少しだけ待ってあげる」
『いつまでも待ってるから』
オレンジがかった夕日の光に照らされた豊穣は、俺の目を見つめた。
その無表情な麗美な顔は光加減のせいか微笑んでいるような気がした。
いつか豊穣の笑顔は見れるのだろうか……頭で思い描いた豊穣の笑顔はあやふやで、いつか豊穣の最高の笑顔をこの目で見ようと心に決めた。