スマホ
「おっはよ！ 金緑！」
「おう、おはよう屏風」
「それよりどうしたの？ 金緑が歩きスマホなんて珍しい」
「まあな、そういう気分の日も俺だってあるさ」
そう答え再びスマホに視線を戻す。
「そうだけど、そういえば豊穣は？」
「少し遅れるから先に行けって」
あれから慣れないコスプレなんかしせいか豊穣は着替えるのに手間取り、俺が先に家を出たのだ。
歩きながら眺めていたのはさっきの待ち受け。
豊穣の貴重なコスプレだ眺めていても罪にはなるまい。
「おはよう……ござ……います……屏風……さん……浅井……君……何……を……見て……いるん……です……か？」
「そうよ！ 輝く太陽のごとしスーパー美少女ＪＫ屏風風花ちゃん目の前に何ごとか！ って感じよ！」
「お前は大昔のヒーローアニメの主人公っか！ 別になんでもねーよ。スマホで動画見ていただけだ」
「それ……に……して……は……画面……が……動いて……いま……せんが……」
流石木下先生すぐに勘づくか。
そのまま無言でスマホを鞄に入れようとするが。
「むうっ怪しい！ 貴方のこの正室風花ちゃんに見せなさい！」
スマホを奪い取ろうとする屏風。
当然抵抗する俺。
「何でもないから離せ屏風！」
「だったら見せなさいよ！ どうせエッチい画像か何かでしょ？ いいから見せなさい！」
「エロ関係では断じてないが！ そっち系だと思うならなぜ見たがる！」
「性癖に把握は良妻になる必須の条件なのよ！ お母さんが言ってた！」
「だとしても見せねーよ！ スマホは俺のプライバシーの最後の砦だ！」
自分でも珍しく熱くなっていた。
この待ち受けを見られたら、めんどくさくなる事など分かりきっていたがつい見てしまう。
可愛いは正義とはこのことか。
「いいから見せなさい！」
「だから――あっ！」
宙に舞うスマホ。
飛び上がり回転しながら木下の方向かう。
「――ッ」
木下がスマホをキャッチしてくれたが、そのまま迷わず画面を。
「豊穣……さん……です……か？」
「そうだよ！ 今日起きたらコスプレしてた！」
もうやけっぱちだ。
こうなると分かりきっていたのに、つい見入ってしまった。
ニヤニヤが止まらなくならないだけましか。
まだまだ意思が弱いな俺。
「なるほど！ 金緑はメイド萌えなのね！ 豊穣もやるわね！ コスプレは可といった次の日にぶちかますなんて、次の待ち受けは私ね！」
「豊穣……さん……凄く……可愛い……です……ね」
「だろ俺もびっくりしたぜ！ アイツの顔は一級品だからな！ 表の毒と胸がないのが難点だが……」
「まあそうね！ あいつ思っている事という事全く違うのよね。金緑が刺されて入院してた時初めて知ったけど」
なるほどそれで屏風は豊穣の表の裏の事を知ったのか、最近二人が喧嘩しないな、って思ったらそういう事か。
「ゲロ！ どうしたのかしら！ 糞虫と雌ブタたち！」
どうやら豊穣が追いついたらしい。
豊穣の方を見ると肩で息をしているので走ってきたのだろう。
「何ってこれよ！ やるわね！ 豊穣！」
そういって木下から俺のスマホを渡してもらい見せた。
するとボン！ 音でもするのかと思えるように顔が一気に赤くなり、流れる動きで。
「ゴボッウ！？」
俺のみぞおちに拳を叩き込んだ。
マジでなんでだ！？
「なにしやがる！」
「何って糞虫のしゃっくりを止めようとしたんじゃない！」
「いつ俺がしゃくりをした！ 今日はしてねーぞ！」
「ゲロ何って予防よ！ あらかじめ驚かせていれば安心じゃない！」
『ごめんね……浅井君』
謝るくらいならやるなと豊穣にはいえないが、少しぐらいその優しさを表に反映させて欲しいものだ。
「お前な全く、恥ずかしからって攻撃は止めろって……」
「ゲロ！ 何の事かしら……」
『できればそうしたいんだけど……ごめんね浅井君……』
「全く素直じゃないうわね！」
「その……とうり……で……す」
「皆さんおはようがざいます。相変わらず夫がお世話になっていますね」
ヘルメットを小脇に抱えて九条院さんが俺たちに声をかけた。
「誰の夫よ！ 金緑は私の物よ！」
「いえ……私……で……す」
「糞虫の飼育権は変わらず私の物よ！」
「いつもどうりですね皆さん安心しました。金緑さん放課後御時間いただけないでしょうか？ 二人きりでお話したいことが……」
