専用
「糞虫! 朝餌よ!」
「分かった今行く」
豊穣の声を聴き眠りから覚めた俺は、パジャマを脱いで制服の袖に腕を通す。
昨日の白菜と豚肉の重ね鍋は流石豊穣といったところの絶品だった。
そんな豊穣が朝飯まで作ってくれると言ってこの状況である。
そのまま階段を下りていくと食欲を刺激するいい香りが。
期待感は否応なしに高まるといった所だ。
「来たわね糞虫! 朝餌はこれよ!」
と豊穣が言ってくるが。
「どうしたの糞虫? さっさと朝餌に食らいつきなさい!」
豊穣が毒を吐いているようだが半分ぐらいしか理解できていない。
だって豊穣が。
「なんでお前メイドのコスプレしてるんだ?」
フリルのついた可愛らしいメイド服を着ていたから。
「ゲロ! 何って母さん昨日持たされたのよ!」
『えへへ! どうかな? 浅井君専用のメイドだよ♪』
スカートの端を掴み一回転。
光の粒を振りまいているようにさまになっていた。
「すげー可愛い……」
思わず本音が出て、慌てて口からもれた声を掴む様に手を口にやった。
やべこの状況は。
「ゲロ! ……」
『ありがとう……浅井君嬉しいよ』
そういって頬を染め視線を下方へ。
あれ? てっきりいつもノリで攻撃してくるかと思ったが、そうではないらしい。
「どうしたんだ豊穣? 今日ちょっと変だぞ」
「ゲロ! 気のせいよ!」
『だってこんな格好していると恥ずかしくて、まともに浅井君の顔見れないんだもん!』
そいうことが、こいつのようなやつと付き合うには心声を聴くって一番の方法だな。
なぜこんなことができるかは知らんが、今はいいだろうとなると俺が言うべき言葉は。
「豊穣自信持ってて普通に可愛いぞ!」
「ゲロ……」
『そうかな……嬉しい』
屏風がコスプレは可と言っていたが、豊穣に事前に持たせておくとは海さん狙っていたかのような気の利かせ方だぜ。
「まあいいから食べなさい! 糞虫!」
そういって俺を無理やり椅子に座らせると、すでにテーブルには料理の姿が、メニューは薄黄色のコーンポタージュ、きつね色のトースト二枚、黄色いオムレツ、レタスとミニトマトのサラダどれもこれもお店で出ているものと遜色ないもので彩りも鮮やか。
さっそくスプーンを手にコーンポタージュを掬おうとするが、豊穣にスプーンを奪われた。
驚いて豊穣を見るといつも間にか前の席に座ていて無言でコーンポタージュを掬って。
『ご主人様あ~ん』
とスプーンを近づけてきた。
言われるままにスプーンを咥えコーンポタージュを味わう。
粒コーンの優しい甘みに濃厚なスープ。
うん! 旨い!
『どうです? ご主人様専用メイドの愛情たっぷり手料理の味は』
マジで今日の豊穣どうしたんだ?
やけにキャラに入り込んでいるようだが。
まあこれはこれでいいけど。
『次はチーズ入りオムレツですよ! ご主人様への大好きな思いを沢山込めた自信作です!』
『あ~ん』そう心でいいながら再びスプーンを近づけてくるのでまたパクリ。
ふわふわでほんのり塩気の効いた卵の旨みと、中の濃厚なチーズ表面にかけられた甘じょっぱいトマトケチャップがいい感じだ。
三度あ~んを試みようとする豊穣に。
「マジでどうしたんだ? 豊穣」




