弁当対決
「でっこの状態だと……」
「そう……で……す」
あれから時刻は昼休みに達している。
だが、未だ九条院さんが俺の膝を占拠していた。
でっ昼休みにいつもと同じく現れた屏風に木下が説明をしたわけだ。
九条院さんは宣言道理俺が椅子に座るたびに俺の膝にさも当たり前のように座る。
九条院さんの女性特有の軟かい体の感触と鼻孔をくすぐるシャンプーのいい匂い。
それがこんなに密着すると、刺激は凄い物で思わず愚息が……となるのを想像したかもしれないが、それは幸いなことになかった。
だって前と後ろの席の豊穣と木下の視線が怖いんだもん。
豊穣に至っては後ろに目があるんじゃないかと思えるほど視線? を感じた。
とても興奮する気分にはなれず。
それを感謝すらした。
これでアレがあれになったら変態呼ばわりされても反論が難しい。
そして昼休みの昼食タイムだが。
「豊穣さんお弁当を食べてもらうのは私が先です!」
「ゲロ! 何言ってんのよ! 糞虫のエサやりは今日から私の仕事よ!」
豊穣と俺の膝に座ったままの九条院さんが言い争っていた。
これは何でかというと。
昼休みになって二人が弁当を取り出した出した。
↓
両方とも手作り
↓
どっちから食べてもらうか
↓
今ここ。
うむ、矢印を使うまでもない短い出来事だったな。
そんなわけで二人は言い争いをしているわけだ。
「ゲロ! 今時ティティちゃんなんて流行らないのよ!」
「何を言っているんですか! ティティちゃんは世界中で愛されている国民的マスコットですよ! 豊穣さんこそハート柄なんて露骨すぎます!」
「何を言ってるのメット野郎! これは異世界に存在するという設定のハート型の果実よ!」
とまあ、有名なランリオの猫のティティちゃん柄と豊穣のハート柄の弁当の包む布についてまで言及するほど、二人はヒートアップしていた。
「まぁまて二つとも食えばいんだろ?」
「私の愛妻弁当だけ食べてください!」
「ゲロ! 私のだけで充分よ!」
どうすんだこれ。
そんな困り果てる俺に木下先生が提案する。
「二人……とも……落ち……着いて……くださ……い……まず……は……浅井君……に……自信……の……ある……一品……を……食べ……比べて……もらっ……て……から……どちら……を……食べる……か……選ん……で……もら……いま……しょう……お弁当……に……大事……なの……は……味……と……愛情……です……の……で」
木下が俺を一瞥心の声を送ってくる気らしい。
『ほら! 選んでやれ、信じているからな!』
「なるほど確かにそうです。先攻は私でよろしいでしょうか豊穣さん?」
「ゲロ! いいわよ!」
「でわ、お先に失礼して」
ティティちゃん柄の包み布を開けると普通の大きさの小判型の弁当が現れる。
九条井さん初めてお弁当を作ったといっていたが大丈夫なのか?
いろんな意味で。
そして弁当の蓋を開けるとそこには、見らなれた料理が、唐揚げに生姜焼き黄色い卵焼きにレタスと胡瓜とミニトマトのサラダ。
あと白米海苔でハートマークが描かれている。
案外普通だな。
こっちの方が食べなれている分判断しやすいが。
「でわ、これを国産地鶏の唐揚げです」
唐揚げを一つ取って俺の口に、高級地鶏特有の柔らさと程よい噛み応え。
普通に旨い。
「ゲロ! 次は私ね!」
豊穣が弁当の包み布を開けると出てきたのは、四角の弁当箱。
その蓋を開けると、出てきたモノは唐揚げ
レタスとトマトのサラダ、意思表示のつもりなのだろうか、トマトはハート型になるように飾り切りされていた。
そして純白の白米。
主力のおかずが一品とはよほど自信があるのだろう。
豊穣が『あ~ん』と上機嫌な心の声を飛ばしてくる中、唐揚げを口に。
若鳥特有の柔らさとジューシ感、そして下味がしっかりついていて、旨い。
「どち……ら……の……お弁当……が……美味し……い……です……か?」
ジャッジ役の木下の言葉に四人の視線が俺に集中する。
選ぶのは。
「九条院さんより豊穣の弁当の方が美味しいな」
「そんな馬鹿な! 最高級国産地鶏ですよ!」
自身の弁当の唐揚げを頬張り、豊穣の唐揚げをパクリ暫く咀嚼して。
「確かに豊穣さんの方が美味しい……」
うなだれる九条院さんに俺は。
「多分だけど、下味しっかりつけなかったでしょ? 素材の味はは圧倒的に上だけど肉に味がついてなかったよ。悪いけど豊穣のを食べるよ」
「ゲロ! 勝利ね! さあ糞虫食べなさい!」
「なんで命令口調なんだよ……」
『ふふん! 勝った! これで浅井君のお嫁さんに一歩前進だね!』
「これだけで調子に乗るのは早いです! 金緑さんのお嫁さんは運命に導かれた私です!」
「ゲロ! そんなこと言ってないじゃない!」
「でも思いましたよね!」
「ゲロ! 思ってないわよ!
争う二人を前に豊穣の手作り弁当を平然と食す俺。
豊穣の手作り弁当の唐揚げは、全て味の違うという手間がかかった物であり、全てが俺のドストライクの味付けだ。
特に塩だれ唐揚げが旨い。
「金緑止めなくていいの?」
「大丈夫だろ、お前と知り合ってからの初めの方はこんな感じだったしな」
「まあ最初のうちわね。あいつの言葉が素だと思ってたから……」
「そいうわけだ。あいつを見捨てないでやってくれると助かる」
「見捨てないわよ! 金緑について三人で協定を結んでいるしね!」
「協定?」
その言葉を言及しようとするが。
「屏風……さん」
木下が口元に指を寄せ屏風にジェスチャー。
どうやら俺に内緒の事がらしい。
「そうだったわね! これは金緑が私たちの中の一番を選ぶまで秘密だったわね!」
「何だよそれ、スゲー気になるんだが……」
「これは流石にお知られないわ! 最後までお楽しみってやつよ! あとお弁当いずれ私も作るから食べてよ?」
「私……の……も……です」
『当然俺の愛情ぎちぎち弁当もだぞ!』
「分かった食うって、そろそろ二人を止めるからお前ら手伝え」
空になった豊穣手作り弁当の蓋をしめ俺は二人をなだめるのだった。




