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俺の毒舌幼なじみの心の声が甘々の件について  作者: 師失人 
その一~毒舌幼なじみと俺たちの日常~
3/144

0002変わりゆく日常

ホームルームが終わり授業を受けて、6限目が終わり下校の時間。

 下校のチャイムが鳴り俺は、朝に配られたウッドフィッシュ先生先生制作の脚本を眺めていた。


 「こりゃ、いろんな意味で酷い」


 ストーリーは基本のシンデレラと大差ないが、配役の演者のセリフはツッコミがセットになっている。

 しかも、豊穣のボケの系統を数種類に分け、それぞれのその場でいうべきツッコミが記載されていた。

 どう見ても豊穣をよく知る知人の類ではないかと疑ってしまう。

 まぁ、ありえないけど

 

 「金緑何読んでんの?」


 屏風の軽い声が人が少なくなってきた教室に響く。


 「文化祭の出し物の脚本だ」


 そっけない態度で返す。

 内容を知ったら屏風の事だ、私もやりたい! とゴネだすだろう。

 そんなわけで机のなかに隠した。


 「じゃあ、なんで隠したのよ!」


 「そんなもんこっちの勝手だろ!」


 「勝手じゃないわ! 仮にも彼女に隠しごと! いいから見せなさい!」


 「だからその設定やめろ! 誰が彼女だ!」


 「何をやっているのかしら糞虫野郎!」


 「豊穣トイレは終わったんだな」


 トイレに行っていた豊穣が戻ってきた。

 豊穣は俺と共にいつも下校している。

 木下と仲良くなってからは三人だが、豊穣を置いて帰るとあきらかに不機嫌になって、毒舌がヒートアップしてめんどくさい。

 なので豊穣を待っていたのだ。


 「私……も……い……ます」


 「悪い、木下言い忘れた」


 「でっ! 金緑何を読んでいたの? まさかエッチい本?」


 「だから違うって言ってんだろ。これだよこれ!」


 机から脚本を出す。

 この様子だと、実物ださないときっと屏風の事だから納得しないからな。

 無駄な抵抗だったな。


 「毒舌シンデレラとツッコミ王子?」


 俺と豊穣を順々に視点を動かす。


 「ちょっとかして!」


 俺から脚本を奪い取りページをめくる屏風。

 そして、驚愕したというという表現したらしっくりくる顔で、ばさっと脚本を落とした。


 「落とすなよ! てかどうしたんだお前」


 屏風はわなわなと震えていた。

 

 「金緑これ誰が書いたの!?」


 俺の襟首をつかみ揺らす。


 「やめろよ! なんなんだよ!」


 「いいから言いなさい!」


 「ウッドフィッシュって言いう少女漫画家だよ! 満開先生の知り合いで学生らしい!」


 「どうなってるのよ! 年も近いはずに! 私が考えた漫才より遥かに面白いじゃない!」


 「あ……りが……と……うご……ざい……ます」


 何故か礼を述べる木下。

 その時は特に変には思わなかった。


 「どうやら、雌ブタ二号は、私主演の脚本に感銘を受けているようね!」


 「何言ってのよ! あんたのセリフなんて、これのどこに書いてないじゃない!」


 「仕方ないじゃない! 私の演技はナチュラル一択なのよ! 雌ブタ二号!」


 「また雌ブタって言たっし! 最後に書いてあるわよ! これあんたに絶対見せるなって! どんだけ信用されてないのよ!」


 「私の演技にやっかみでも抱いてるのかしら! 流石雌ブタ二号ね!」


 「私だってあんたみたいな無茶苦茶なボケを受け止められる。金緑みたいな優秀なツッコミがいれば苦労しないわよ!」


 「豊穣それは演技とは言わん。あんまりに屏風をいじめるなよ」


 「さすがダーリン! もっと言ってやって!」


 「いうんじゃなかったわ! 調子乗るのが早すぎんだろ!」


 「えぇ~~~~~~いけず!」


 「いけずじゃない! はぁ、お前てっきりこれをみたら自分がやりたいと言い出すか思ったが意外だな」


 「今は駄目なのよ! これだけのツッコミは私にはまだ早いわ! それまでお預けね!」


 よくわからん。

 お笑い好きのプライドってやつなのかもしれないな。


 「でっ、このクラス総出の漫才の公開はいつ?」


 「漫才というな! 文化祭二日目の体育館でだ」


 「ほんと! 絶対いく! 練習も見学していい?」


 「見学しても、俺たち三人は参加してないぞ」


 「え? 豊穣はわかるけど。金緑がなんで参加しないの?」


 「ウッドフィッシュ先生の意向らしい。まぁこいつを一人にするとめんどくさいからな。ちなみに最後の一人は木下だ。木下は重要な用事が立て込んでいるらしい」


 「本当なの木下さん」


 「本当……です……私……がいな……いと……仕事……になら……ないの……で」


 「ふーん。仕事の事は聞くのは野暮ってものね。どんな仕事をしていても木下さんは、木下さんだし」


 「そんなわけだ。だが一番の問題は俺だ。これを読んでみたが、ラスト以外は、ほとんどアドリブで進行しろと無茶を言いやがる」


 「金緑には朝飯前ね」


 「糞虫の口はいやらしい物(ツッコミ)を、常時大量噴火するものね」


 「なんだそのルビ! 俺のツッコミをそう言いう目で見てたのかよ!」


 「だってツッコミよ! あらゆるボケに瞬時に対応するなんて、エロガキがAVをみた条件反射レベルじゃない!」


 「言い換えの趣味が悪いってレベルじゃねーぞ!」


 「全く。糞虫君は私の言動にメロメロなのね」


 「ちゃうわ! 仕方なくやってんだよ!」


 「いやよいやよも、モグロフクオカっていうじゃない!」


 「なんで、トーン! の人なんだよ!」


 「金緑、絶対この漫才成功するわよ」


 「私……も……そう……思……いま……す」


 「そうか?」


 「はぁ、気づいていないのって怖いわね。なんでこれほどの人材が埋もれてるのかしら……」


 「どうした。屏風ボソボソと言って」


 「何でもないわよ。なんでも、それより金緑これから用事ある?」


 「家に帰って夕食の準備ぐらいだな」


 「あらそう! 今日は僕、仕事の終わるの速いから、ご馳走になろうかしら!」



 「満開先生」


 いつの間にか花さん教室にいた。


 「む~昔みたいに花お姉さんでいいんだぞ!」


 花さんは唇に人差し指を当て柔らかい眼差しを俺に向ける。

 花さんお気に入りのポーズでこれで落ちる、男は多いと自負している。

 ちなみに俺はそのカテゴリには入っていない。


 花さんが魅力的な大人の女性だというのは認めるけど、幼いころより外見だけは、美少女だった豊穣を見慣れていたため、俺は花さんにそういう感情を抱くことは無かった。

 花さんいわくそれが非常に悔しいらしい、そのせいかよく俺に絡んでくる。


 「花さんまたですか」


 「いいじゃない、僕みたいな可愛い子に料理をご馳走できるなんて幸せ者だぞっ!」


 「むしろ、手間がかかって罰ゲームなんじゃ――」


 俺の唇をはなさん人差し指で抑える言葉を遮る。


 「それ以上は女の子に言わない。僕の好感度少し減」


 「金緑、満開先生と知り合いなの?」


 「知り合いなんかより数段深い仲よ! 僕のハートを鷲掴みなんだから!」


 「花さん! 誤解招く発言はやめてください!」


 「どちらにせよ、強力なライバル出現――まさか金緑がボケに普通のツッコミをいれるなんて……」


 「お前は俺を何だと思っているんだ!」


 「えっ? ツッコミをしないと死んでしまうんじゃ……」


 「どんな三流映画のシナリオだ!」


 「冗談よ! 冗談! 満開先生がいくなら私の行くわね! 金緑の家行ってみたったんだ!」


 「なんでお前を――」


 花さんは再び指で口を塞ぐ。


 「金緑君、女の子に無粋な態度はご法度よ! いいわね皆で行きましょう!」


 「先生……私……も行……って……いいで……すか?」


 「いいけど、仕事の方は大丈夫なの?」


 「今日……だ……けな……ら……私も……浅井……君の……家……に……行きた……い……です……仕事……の……参考……に……なる……出来事……が……起き……る……気が……します」


 「木下お前なんの仕事してんだ? 今更だけど」


 「駄目、駄目、金緑君、これは噂が広まったら、木下さんの仕事に差し支えるから、あっでも勘違いしないでよね。とても立派な仕事よ」


 「す……いま……せん……」


 「悪い木下そんな仕事だとは思わなかったんだ」


 素直に頭を下げる。


 「別……に……いいで……す……いつか……浅井君……たち……なら……打ち……明け……られる……気……します」


 「それなら皆で行きましょ! あれどうしたの灯ちゃん」


 黙りこくっていた豊穣が口を開いた。

 当然、毒入りである。


 「糞虫がこんなに雌ブタ達に好かれるなんて世も末ね。花姉さんも趣味が悪いわ」


 「またまた、灯ちゃん意地っ張りなんだから! ――本当に金緑君のハートを先に奪っちゃうわよ」


 花さんは会話の途中で豊穣の耳元に口を寄せ何を言ったようだ。

 ショックを受けたのか豊穣は何故か俺を見つめている。

 全くよくわからん奴だ。

 花さんは何を言ったんだか。


 ◇

 学校より歩いて十数分。

 住宅街の端にある我が家に到着。

 まぁ道中は大して事件もないので省略した。

 とだれに行っているのかわからない言い訳をしつつ、玄関のカギを開けた。


 「ここが俺の家だ」


 「ここが金緑の家……つまりツッコミ御殿ね!」


 「ちゃうわ! どこに目がついてるんだ! 普通の家にしか見えないだろ!」


 「いやいや、こういう普通の家にこそ秘密が隠されている物よ!」


 「久しぶりの我が家ね! 僕感激!」


 「結構な頻度で花さんは来てるでしょ。てかいつからアンタの家に」


 「まぁいいじゃない。僕が金緑君を落とせば強制的に僕の家にもなるんだし」


 「金緑どういうこと、私のボケを無視して! 満開先生とどんな関係なのよ!」


 胸倉をつかみゆさゆさと揺らす。


 「なんで、キレ気味なんだよ……花さんは昔近所に住んでいる顔なじみだよ」


 「いやらしい意味じゃなくて?」


 「どういう勘ぐりだよ! エロ漫画の読み過ぎだ!」


 「だって、私が持っている本には全く同じシュチレーションが……」


 「現実と空想を混同するな!」


 「そうよね。あの二人は男の子だもんね!」


 「よりにもよってBL本からかよ!」


 全く持って屏風のギャクはいまいちだ。

 これでお笑い芸人を目指しているというのだから、先が思いやられる。

 だからといって協力はできないので口には出さない。


 「まぁいいから入ってくれ俺は夕食の準備をするから。てかどうした豊穣、随分静かだが体調でも悪いのか?」


 「ゲロ気持ちわるいわね。精神的意味で」


 「なんだそりゃ、具体的にいえ!」


 「何でもないわよ! 糞虫野郎!」


 なんだよ。  

 まじでわけわからん。

 そんな俺に対し花さんは、嬉々として声を上げた。


 「あらら、僕の言葉がよほどショックだったのね。灯ちゃん。このまま手をこまねいていると、本当にそうなちゃうぞ!」


 「!?」


 目を見開いた豊穣は。


 「糞虫! 今日は私が夕食を作るわ!」



「金緑、DVDなんか見てて大丈夫なの?」


 不安をあらわにする屏風。

 普段の豊穣を知る人間なら当然の反応と言える。

 だが意外な事に豊穣は料理は得意だ。

 一つ欠点があるが。


 「大丈夫よ! 屏風ちゃん! 灯ちゃんの料理は少しびっくり要素があるけど、美味しいよ!」


 「本当なんですか、満開先生」


 「僕を信じてこう見えて人望はある人間だよ! 僕の好感度の採点は一部の人には不評だけどね!」


 「さすが、金緑の知人ね……中々のキャラの濃さだわ……」


 「ぶ~~~そんなこと言わない。そんなこというと金緑君の貞操、僕が先に奪ちゃうぞ!」


 「勝手に奪う発言しないでください!」


 「冗談よ! 冗談! 合意もなしにそういう大事な物は奪わないよ!」


 「合意があれば別だけど」と加えれオープニングの始まったテレビに目を移す。

 全く花さんは本気と嘘の境界が分かりにくい。


 そんな飄々(ひょうひょう)とした態度の花さんを俺は苦手だ。

 からかわれているような。

 値踏みされているような気がしてついつい敬語になる。


 「本編……始……まり……ま……した」


 これが噂の中二魔道機械戦士プリティプリベルか。

 しょっぱなから青いツナギで登場とか完全にあの人物じゃないか。

 

 一時間ほどの時間がたち映画が終わった。

 はっきり言って酷い作品だったが。

 何で面白いんだ。

 駄作要素しかないはずなのに、前半は目が離せない熱い内容だった。


 まさか、人助けでツナギがカピカピになるとは、完全に勘違いをしていたな。

 後半は自慢の中二病セリフが突飛すぎて訳が分からない。

 何かを伝えようという、たけし役の声優の想いは伝わってくるが、全く持ってわからん。

 唐突に起こる殺人事件より。たけしの意味の分からない中二発言に目が向いてしまう。

 なんで劇中の人物はたかしの言葉が平然と理解できるんだよ!

 そして、事件を解決して天に拳を上げ「我が推理に一片の悔い無し!」と叫びエンディング。


 すげぇ、どっかで見たことがあるのに意味合いが全く違う、原作をレイプどころじゃねぇ。

 そして、なんで中二魔道機械戦士プリティプリベルと名乗るようになったのか、大雑把にしか描かれずよくわからない。


 ガイヤが俺を求めている発言で仕事を辞めたのだから、ガイヤ関係か?

 分からなすぎる。

 これ推理物だよな?

 明らかに作中の謎より見終わった後の疑問と謎の方が多いじゃねーか!

 なんという視聴者の気持ちの置いてきぼり感。

 ……第一作借りてこよう。

 今度は字幕付きで。

 

 「いつ見ても訳がわからないのに、目が離せないわね」


 「こん……な……推理……アニメ……始……めて……です」


 「うん! さすがね! 噂に違わない内容ね!」


 「面白いけど。見終わってから謎しかねーよ……」


 「糞虫! これがいいんじゃない!」


 「豊穣、料理は終わったのか?」


 「もちろんできたわ! 花姉さんの食事と糞虫の餌と雌ブタの餌がね!」


 「豊穣! いい加減にしなさいよ! 食欲無くすじゃない! それでなんで満開先生だけ普通に言ってんのよ!」


 「私は真実を言っただけよ!」


 「まぁまぁ、屏風ちゃん。灯ちゃんの料理を食べてから言えばいいじゃない」


 「満開先生がそういうなら……」


 豊穣は花さんの言葉にふふんと満足そうに鼻をならし、リビングに置かれたテーブルに料理を並べる。

 相変わらず豊穣と花さんの関係が分からん。

 何故かいつも普通に呼んでるし。


 「これが私の手料理よ! 糞豚の生姜焼き! 糞餃子! ゲロ中華スープ!」


 「普通の生姜焼きと餃子と中華スープだろ! 糞とかゲロをつければいいってんじゃねーぞ!」


 「金緑、大丈夫なの? 凄い心配なんだけど……」


 「言い方はあれだが大丈夫だって、ほら旨い」


 餃子を掴み口に放り込む。

 うん。旨い。


 「私……も……食べ……てみま……す……美味し……いで……す」


 木下も箸で餃子を口に放り込んだようだ。


 「僕もいただくね! うん! 腕上げたじゃん! 灯ちゃん」


 「じゃあ私も……嘘!? 美味しい……」


 恐る恐る箸を伸ばした餃子を口にした屏風は目を見開く。

 実は豊穣の料理はとても旨い。

 糞だのゲロだのつけて、食欲を減退させるのが欠点だが。


 「敗北を認めなさい。雌ブタ二号」


 「最初から勝負してない! てか雌ブタっていうないし!」


 「屏風、落ちつけって、元からこういう奴なんだから……」


 「止めないで金緑! 今度こそこいつのボケを完全にツッコミきってみせるわ! さあ、来なさい勝負よ!」


 「いい度胸じゃない! 雌ブタニ号!」

 

 「そんなの食事の後にしろ!」


 ◇

 五人で食事をとり終わり、豊穣と屏風の結果が見え見えの勝負は、安定の豊穣の勝利に終わり、気づけば夜七時。

 何故か四人は俺の家に泊まるといいだし、今は交代で風呂に入っている。

 ちなみに俺は一番風呂を頂いた。

 俺の家だし年頃の女子の入った湯につかるのは男として抵抗があった。


 別に後で入ったら残り湯を飲むとか興奮するとかはありえないが、そんないじり方をされても困るからだ。

 四人は女子会をすると言っているので邪魔をしない様に、二階の俺の自室に退散した。

 布団の場所は豊穣が知っているし、両親はそろって転勤中。


 別に放っておいて問題ないだろう。

 部屋に入りベットに寝転び目をつぶる。

 色々考えてみた。

 豊穣がなぜ毒しか吐かないのか――。

 屏風がお笑い芸人を目指す理由――。

 木下の仕事――。

 花さんの言動がどこまで本気なのか――。

 しかし。考えても分かるはずもなく。

 その日はいつの間にか眠っていた。

 

 「糞虫! 糞虫起きなさい朝よ!」


 「なんだよ、豊穣……」


 「だから朝だって言ってるじゃない! 糞虫!」


 「てっ……お前なんで」


 何故か豊穣は俺に馬乗りになっていた。

 豊穣の美少女を体現したような綺麗な顔が近く、どっきとして思わず上半身を起こす。

 すると、馬乗りになっていた豊穣の頭に俺の頭が激突して。


 「ゴチン」


 「痛ぇ!」


 思えばこれが、ずっと変わらなかった俺たちの関係が変わり始めた瞬間だった。



 『大丈夫? 浅井君』


 「痛てて、ああ、大丈夫だ。豊穣っ!?」


 少し頭は痛むが。

 あれ?

 気のせいか普通に豊穣に心配された気がするが……。

 まさかな、あの豊穣だぞ。

 ありえねーか。


 「どうしたの糞虫。鳩がくさやの山につっこんだような顔して」


 「どんだけ臭くなってんだよ! 鳩でも鼻が曲がるわ!」


 『よかった、大好きな浅井君が怪我がなくて』


 !?

 なんだこの時間差で聞こえるこれは……声は完全に豊穣なんだが。


 「糞虫、頭をぶつけて、ただでさえ汚い顔がさらに汚くなてるわよ」


 「俺の平常時はどれだけ不細工なんだよ!」


 『いつ見てもカッコいいよ浅井君』


 「そりゃねえ……しいて言うならカマドウマかしら」


 「よりによって便所コオロギかよ! いい加減、糞虫から離れろ!」


 『人気アイドル俳優の木村タクマかな』


 なんだこれ、何度も言うけど時間差で豊穣らしからぬ声が、豊穣にそっくりな声で聞こえてくるんだけど。

 

 「全く、糞虫君は欲張りね。コオロギで手を打つわ!」


 「一部の人がGと混同しているからやめろ!」


 『やっぱり浅井君は、面白いな。こんな私に普通に接してくれるし』


 こりゃどうしたら正解なんだ?

 裏? 豊穣の声が甘々すぎる……。

 原因は分からんが、とりあえず平常運転を決め込むとした。

 これがなんだかわからん以上それが一番だろう。


 「……豊穣分かったから、部屋から出て行ってくれ着替えるから」


 「分かったわ糞虫、五秒で着替えなさい」


 『あわわ、浅井君の着替え見たい――ゴクリ』

 

 まじでどうなんってんのこれ?

 

俺が制服に着替え終わり一階に降りると、そこには豊穣、木下、屏風の姿があった。

 花さんは見当たいが、屏風の話だと用事を思い出し昨日のうちに帰ったらしい。

 だが、今の俺はそれどころではなかった。

 毒舌の後に聞こえるやけに甘い言葉。


 その甘い言葉は豊穣の口が動いていないに聞こえてくる。

 よって豊穣が言っているはずがないのだが。

 聞こえてくる声は聴きなれた豊穣の声そのものであり、困惑は募る。

 豊穣の姿は特に変わりはない。

 とすると、俺が問題なのだろうか。

 しかし。思い当たる節がない

 悶々として気持ちを抱えボケ倒す豊穣とつまらないネタを連発する屏風のいつのもようにツッコミをいれて、四人で軽い朝食をすませ、家を出た。


 「そういやお前ら制服は洗濯したのか?」


 「当たり前じゃない! 三人とも昨日のうちに洗濯して乾燥機で乾燥してから、アイロンがけ済みよ!」


 「ならいいんだが」


 「なん……で……そん……な……こと……聞く……んで……すか?」


 「いやなに、家に女の子を泊めて汚れた制服で登校させるのはちょっと思うところがってな」


 「殊勝(しゅしょう)な心がけね。糞虫の癖に」


 『さすが浅井君ね。そんなことまで心配してくれるなんてだから大好き』


 おいおい、どんどん甘くなっているんだが俺に砂糖を吐かせる気か。

 豊穣にそっくりな声。

 

 『あれ? 浅井君がツッコミ入れてくれない……怒ちゃったかな』


 そんなこと豊穣にそっくりな声で言われたら。

 

 「豊穣! お前は殊勝な心を学んで来い!」


 『ふふ、良かった違ったみたい』


 「何を言っているの? 私ほど殊勝な心と、その体現者、中二魔道機械戦士プリティプリベルであるたけしに通じている者はいないわ!」

 

 「あいつのどこに殊勝な心がるんだよ!」


 「それは、テレビアニメ中二魔道機械戦士プリティプリベル第一期13話『殊勝なツナギ』を見ればわかるわ!」


 「余計わからねーよ! 内容を言え内容を!」


 「内容はたけしが掘り当てた埋蔵ツナギが日本の財政破綻を救う話よ! ツナギが繋いだ縁が巡り巡って大きな物として戻ってくるファン必見の話よ!」


 「なんだよ埋蔵ツナギって!」


 「埋蔵ツナギは埋蔵ツナギよ! 埋蔵金のツナギバージョンね!」


 「その世界観大丈夫なのか! わざわざツナギを埋めるんだよ!」


 「それ一人のツナギ愛好家(ツナラー)がアメリカ製の特注ツナギを、戦火に巻き込まれなように埋めたのがたけしが掘り当てた埋蔵ツナギ。時は戦時中アメリカ製の物品を持っていると非国民扱いされた、悲しい時代の出来事よ!」


 「余計わからなくなったじゃねーか! ツナラーはどこから出てきた!」


 「ツナラーはツナギラブの略よ。今はツナラーの国際団体があるんだから、たかしと青いツナギのいい男のおかげね!」


 「結局あの人につなげるんのかよ! 聞いて損したわ!」


 「まぁこれはテレビシリーズを見ないと分からないわね」


 くっ何故か気になっている俺がいるのが妙に悔しい。


 「ああ、あの話ね。ツナギ一着500億ドルで売れて日本経済が持ち直したって話でしょ」


 「よく知ってるじゃない! 雌ブタ二号!」


 「オイ待て! なんでそんな破格の値がツナギなんぞについているんだ!」

 

 1ドル100円と考えて5兆円だぞ、5兆、あのツナギが値段が高騰ってレベルじゃねーぞ!


 「作中の説明だと、たかしが掘り当てたツナギは誰の手に触れられず暗所に置かれて50年たつと繊維がレアメタル並に貴重なものに変わるんだって。ツナギの販売元が潰れて製造法が分からなくて値段が高騰してるとかなんとか」


 「それ……し……て……ます……劇中……810着……のツナギ……を……掘り……あて……たとか」


 「正直すげぇ! 普通に国キャッシュ買えるじゃん! そしてやっぱりあの人のこと意識してるじゃなねーか!」


 『ふふ、やっぱり浅井君と話は楽しい!』


 俺のいつもと変わらない日常は徐々に浸食され始めていた。



 ◇

 「糞虫今日もゲロ気分が悪い登校時間ね」


 『浅井君、今日も気分がいい日ね。浅井君がいるおかげかな……』


 「糞虫、どこ見てるのよ。もしかして排泄物を探しているの? さすが糞虫ね」


 『浅井君私を見てよ。お願いだから』


 「貴方あの雌ブタのパイオツガン見してでしょう。全く発情期の糞虫は求愛ダンスでも踊る気」


 『やっぱり、浅井君は胸が大きい子が好きなのかな……なんで私には立派な胸がないんだろ……』


 「今日も糞虫と一緒に勉学なんて最悪ね」


 『今日も浅井君と一緒に勉強できて嬉しいな。うへへ』


 「今日の貴方の餌、凄くまずそうね。ザッ糞虫の餌って感じかしら」


 『むうう、なんで浅井君、美味しそうなお弁当用意できるの、冷蔵庫余り物を詰めただけなのに美味しそうだよ。いつか私の手作りのお弁当食べて欲しいな』


 「今日の午後の授業もゲロ退屈ね。糞虫退屈しのぎに芸を披露しなさい」


 『今日の午後の授業は退屈だけど。浅井君がいれば私はそれでけで嬉しくて楽しいな』


 「やっと、授業が全て終わったわね。さあ糞虫行くわよ」


 『今日はどこに行こうかな、どこに行っても浅井君がいれば私は楽しいけど』


 「貴方から供物ゲロ頂きね。趣味が悪い汚物(ぬいぐるみ)だけど、供物をささげる心意気に免じてもらってやるわよ」


 『ありがとう、浅井君この可愛いぬいぐるみ大切にするね』


 「それにしてもゲームセンター久しぶりに来たけどゲロくだらないわね。糞虫と同じね」


 『これが二人きりだったらデートなんだけどな。木下さんと屏風さんと遊ぶのも楽しいけど。やっぱり一度でいいから好きな人と二人きりできたいな。いつか勇気を出して浅井君を誘えればいいけど……』


 「あらそう今日は食事を用意しなくていいのね糞虫。貴方もみたいな性欲の権化に食事の提供を控えろということね」


 『今日こそ、浅井君の胃袋を完全に掴めると思ったのに残念、夕食は大好きな浅井君と一緒に食べたかったんだけど、仕方ないか』


 「また、最悪の朝で会いましょう糞虫」


 『浅井君、また明日気持ちのいい朝で会おうね』


 とりあえずこれが、中二魔道機械戦士プリティプリベルの話題以降の豊穣のセリフと豊穣にそっくりな声の抜粋だ。

 なんといか。

 なんといえばいいか。

 階段を駆け上がり自室に飛び込みベットにダイブ。


 うわ~~~~~~~ん!?

 なにこれ! なにこれ! ほんとなにこれ!

 こっぱずかしいセリフが俺を困惑させるってもんじゃねーぞ!

 普通にするのがつらいわ!

 いくら俺でも危なかったわ!


 下手に聞くにはリスクが大きすぎるし!

 まじで俺を心の糖尿病にする気か!

 精神的に甘いわ! 甘すぎるわ!

 精神をハチミツ漬けにされた気分だよ!

 今にもドロッとした砂糖を吐きそうだよ!

 甘い言葉につい調子乗ってゲーセンのクレーンゲームでぬいぐるみ取って、豊穣にあげちまったよ!


 なにこれ! まじなんなの?

 ベットの上を恥ずかしさのあまりゴロゴロ転がり埃を立てる俺。

 しかし、冷静に考えても安易に聞いて大惨事は避けたい。

 これが豊穣の本心だと言う線は薄いが、下手な事を言って豊穣を怒らせれも俺に跳ね返ってくるだけだ。


 よって直接聞くことは避けたい。

 となるとどうする。

 こういう時はやっぱり口が堅い奴だよな。

 そして真っ先に思い浮かんだ人物が一人。

 俺は転がるのを止めスマホをとって、電話をかける事にした。



「突然すまん今大丈夫か?」


 俺が真っ先に相談したのはすばり木下だ。

 恥ずかしがりやであまり話さないし、秘密にしている仕事があるならばらすことはないだろうという安直な考えでだ。

 当然木下の人間性も加味している。


 「大丈夫……です……ど……う……かし……ま……した?」

 

 「実はな豊穣の事なんだが……」


 「豊穣……さ……んに……なに……か……ありま……した……か」


 「そうじゃなくて俺が問題なんだが……何か豊穣の心の声っぽい物が聞こえるんだよ」


 「浅井……君……今か……ら……会え……ます……か?」


 ◇

 木下の指定した場所は駅前の大手のコンビニエンスストアの前。

 約束の時刻10分前に到着した俺は木下を待っていた。

 

 「ちょっと早かったかな……」


 初デートで早く待ち合わせ場所に来た男のような気分。

 俺の服装は上下ジャージなので気分だけだが。


 「遅く……な……りま……し……た」


 「いや俺もさっき来たところだ。ってなんで、木下そんなに粧し(めかし)込んでんだ?」


 「これ……は……仕事場……の……人達……が……進め……て……断れ……ずに……ううううう」


 うつむいてしまう木下。

 木下の格好はフリルのついた白のワンピースに赤のスカート髪型のばっちりきまっており、前髪はきれいに整えられ綺麗な双眸がばっちり見える。

 スゲー可愛い立派な美少女だ。

 普通に仕事場の人に勘違いされてるなこれ。


 「やっぱ……り……変……です……よ……ね」


 「いや、めちゃくちゃ可愛いよ。スゲー似合ってる」


 正直に伝える俺に対して木下の顔は真っ赤に染まった。


 「あうううううううう」


 「悪い、言わないほうがよかったか……」


 「大丈夫……です……お話……聞か……せ……てく……ださ……い」


 「大丈夫なのか? 顔真っ赤だけど」


 「大丈夫……で……す……お話……お願い……しま……す」


 「そうか実はな――」


 俺は包み隠さずこれまでの事を木下に打ち明けた。

 木下はそれを黙って聞いていた。

 その木下が粧し込んだ姿が妙に色っぽくてどきどきしながら全て言い終わる。


 「分か……り……まし……た……それ……は……豊穣……さ……ん……の心……の声……だ……とも……いま……す」


 「そうなのか?」


 「なら……実験……し……ます……目……を……閉じ……て片膝……を……ついて……くだ……さい」


 その言葉に従い片膝をついた。

 実験と言われても何をするのはわからないが、何かが証明されるなら、安い物だ。

 それでも何をしているのか、好奇心に勝てず薄目を開けてしまう。


 そこのあったのは木下の顔、キスでもするかのような距離感だ。

 すると、木下は俺の頭を掴み。

 頭を引き勢いをつけてって、何する気だよ!


 「木下ちょっ待って!」


 「ゴツン」


 盛大に頭が衝突した。


 「痛ってー何すんだよ!」


 『男なんだからそれぐらい我慢しろ金緑!』


 「いきなり我慢しろってなんだよ!」


 「大丈夫……で……す……か」


 『全く、今時の若い男は細かい事をぐちぐちと、少しは男気をみせろよ!』


 「いきなり男気をみせろとかなんなんだよ! 今日やけに男らしけど!」


 「浅井……君……私の口……を……見て……く……ださ……い」

 

 『これで流石のお前でも俺の言いたい事わかるだろ?』


 「っ!?」


 木下の唇は動いている様子はなかった。


 「これ……が……心……の中……の……私……です」


 『そういうわけだ。これから改めてよろしくな金緑』


 「意味が分からないから説明してくれるか……木下」


 「これ……は……浅井……君……の頭……に……私の……頭……を……ぶつ……けた……結果……起こ……った……事で……す」


 『お前の頭は人の頭にぶつけるとこんな事になるらしいな!』


 「つまり、この俺っ子が木下の心の声だと言う事か?」


 「そ……う……です」


 『そのとうりだぜ!』


 どうなってんだ。

 豊穣の心の声もさることながら、木下の心の声もすごい事に、おとなしいこの風貌に対して中身はこれか。

 中々のギャップだ。

 

 「がっ……かり……し……まし……た?」


 「いや、ちょっと驚いただけだ。個性的でいいんじゃないか?」


 「そ……うで……す……か」


 『さすが金緑、懐がでかいぜ!』


 「でっこれはどうやったら聞こえなくなるんだ?」


 「さぁ?」



「えっ!?」

 

 マジで。


 「は……い」


 『マジだぜ!』


 裏木下の清々しいほどの断言。

 ノープランでやる事じゃねーぞ。


 「木下ならなんでした?」


 もう手遅れだと重々承知だが木下の肩に手を置き諭すように言う。


 「仕事……の……参考……にな……るか……な……と」


 『こんな面白い展開、参加しないなんて無しだろ!』

 

 面白いか面白くないかは別として。

 こいつ心の底から楽しんでやがる。

 これで仕事の参考ってマジでこいつどんな仕事してんだ?


 「木下お前なんの仕事してんの? 答えたくないなら別にいいんだが……」


 「漫画……家で……す」


 『ウッドフィッシュっていうんだぜ!』


 「まさかの展開かよ!」


 ◇

 「でっウッドフィッシュ先生はこんな事をしたと……」


 「そ……う……で……す」


 『そうだぜ!』


 木下兼ウッドフィッシュ先生は本当に楽し気(主に心の声)だ。

 本当にわかっていりのだろうか。

 確かに貴重と言えば貴重な体験ではあるが。

 かなりのリスクがある。

 その疑問が自然と口から出た。


 「先生……分かってるんですか? クラスメイトの男に心の声筒抜け、かなりの羞恥プレイですよ?」


 「大丈夫……です……どうやら……心……の声は……思考……して……いる……だけ……状態は……浅井君……には……伝え……ない……よう……です……し」


 『そういうわけだ! 安心しろ金緑!』


 「といっても先生……敬語はめんどくせーな、木下は俺に知られて困ることがないのか?」


 一様、社会的地位のある人物に失礼ないように敬語を使ってみたが、やめた。

 だって木下の目キラキラ輝いてんだもん。

 先生というより、おもちゃを見つけて目を輝かせる子供に近い目だ。

 本当に木下はこの状況を楽しんでいるのだろう。


 「浅井君……は……信頼……して……ま……す……知ら……れて……困る事……ほと……ん……どない……です」


 『それだけ俺が信頼してることだぞ! 光栄に思えよ!』


 「しかしなあ、解決策も現状ないのに躊躇とかはないのかよ……」


 「全て……は……ネタ……作り……の……た……めで……す」


 『愚問だぜ金緑! こんな面白い出来事プロなら誰だって飛び込んでいくぜ!』


 いや、プロの漫画家が全員こんなに軽率ってのはないだろうが一理あるかもしれない。

 これだけ非常識な経験をすれば、リアリティのある作品が書けるだろうよ。

 しかし、普通の人間は駄目だろう。

 木下のような、変な欲がない人間なら心の声を曝しても問題ないだろうが。

 

 「まぁ木下がいいならいいんだが、俺はこれらかどうしたらいいとも思う?」


 「そ……れ……は……」


 『そんなもん決まってんだろ!』


 一息置いて。


 『逆に聞くが豊穣をお前はどうしたい?』


 「どうしたいって、今のところどうするとも考えてないが……」


 『かーダメダメだな金緑。ここは漫画的に告白の一択だろ!』


 「ちょっと木下さん! 話が飛躍すぎてないですかね!」


 「あ……あの……」


 『お前、豊穣が嫌いなのか?』


 その言葉に一瞬ドキッとした。

 豊穣は俺にとって何なんだろうか。

 腐れ縁の幼なじみだけじゃなかったのか。

 思考はぐるぐる回る。

 豊穣の事は嫌いではないが……


 「と……り……あえ……ず……保留……しま……しょ……う」


 『とりあえず豊穣の事は保留だ! ちょっと頼みたいことがある』


 「どんな頼みだよ。変なのだったら断るからな」


 「私……と…………デート……して……もらえ……ませ……ん……か?」


 『俺とデートしろ金緑!』

 

 「デート……別に構わねえが何でいきなり」


 「えっ……と……その」


 『さすがに想像でデートネタを書くのに難儀してきてな、実体験が欲しいんだ!』


 あ、なるほどプロの漫画家はフィクションに現実感を持たせることを、重視するというからな。

 それで、リアルに俺とデートか……確かにこの状態なら意思疎通はとても簡単だもんな。


 「それ……で……豊穣……さん……に……も……同行……して……ほし……い……の……です」


 「なんでまた豊穣と」


 「えっ……と……そ……の」


 『そりゃ決まってんだろ! 想いをよせる相手と他の女がいちゃこらしてりゃ、豊穣が焼きもちを焼くだろ! デートついでに恋する乙女の観察で一石二鳥つー寸法だ』


 「お前結構最悪だぞ!」


 『なにってんだ! 作品の為なら情けなんてどうでいいんだよ! 全ては作品の為だ!』


 「お前の心の声ぶれねーな! むしろ清々しわ!」


 「そ……うな……の……で……えっ……と」


 『つーわけで、後で豊穣の心の声のレポートよろしく! ちゃんと謝礼も出すぜ!』


 「別にかまわんが、一つ頼みがある。これからも相談乗ってくれるか?」


 「いい……で……す」


 『俺たちはもう、心で繋がった特別な関係なんだ遠慮すんな!』


 「それ素でいうなよ! 絶対勘違いされるから!」


 ◇

 

 木下を駅まで送り届け。

 家に帰ってみればもう9時超えていた。

 そういえば食事をとり忘れていた俺は、冷蔵庫の余り物を取り出し、レンジで温める。

 そのわずかの間にこれらかの予定を思い返す。


 デートは今週の日曜日。

 場所は駅二つ行った所の遊園地「Dランド」

 日本一レールの長いジョットコスターが有名な遊園地だ。

 それ以外にも質の高いアトラクションに溢れていると評判の遊園地。

 ザッデートと言うべき定番のデート先だ。


 木下はともかく、豊穣と一緒というのは先が思いやられる。

 いくら、心の声(なのか?)が聞こえるようになったとはいえ、リアルの豊穣はただの毒を吐いているだけだ。

 これ、俺の喉大丈夫か?


 普段からつっこみ倒しているせいか。

 たまに喉がガラガラになるのだが……。

 とりあえず食べるか。

 黙々とした食事を終え二階の自室でくつろいでると。


 コツン! コツン!


 窓から何かをぶつける音が聞こえた。

 ベランダを見ると丸めた紙らしきものが見えた。

 これを投げて来たらしい。

 俺は窓を開けた。


 「なんだ豊穣」


 「ただ、糞虫が息絶えないかの確認よ! 警察に遺体を処理させるのは、隣の家の人間として気分が悪いからね!」


 その言葉にため息をつくその時だった。


 『何か悩んでいるみたいだったけど、浅井君大丈夫かな……』


 本当にこれが豊穣の心の声なのか?

 普段の豊穣の行動と発言が頭をよぎり、思わず黙ってしまった。

 普段、毒しか浴びていないせいか、俺には甘い言葉の耐性がはないらしい。


 「全く、糞虫は虫らしくメンタルが小さいわね。何かあるなら言いなさい! いいわね!」


 『悩みがあるなら私に相談して欲しいな……お幼なじみなんだし……』

 

 …………とりあえずそれは置いておこう。

 豊穣の心の声らしき声はとても甘い。

 今は吐く毒とイーブンと言う事で。

 調度いいので用件を切り出す。


 「豊穣今週の日曜日、遊園地行かないか?」

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