0024運命の相手
「トイウ ワケナノデス」
「それは災難でございましたね」
すでに恒例となった車内での爺への報告。
これまでの経緯を語り終えた響に爺と呼ばれた老紳士は静かに答えた。
「デモ ジイ テダシ ハムヨウデス」
「失礼ながら理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ジイ コレハ ワタシノ コンゴノ ウンメイニ カカワル コトデス ソノヨウナ ダイジナコトハ ジブンノテデ オコナイタイノデス」
「了解したしました。今度こそ響お嬢様の求める殿方であることを祈ります」
「ダト イイノデスガ……」
「お嬢様が例の病にかかりお顔をお隠しになってはや8年、候補となった殿方は2ケタを超えましたが、未だに目的の人物が見つからない現状と効率を考えるのであれば、
そのような事をお止めしするのがわたくしめの務めですが、何やら浅井少年は響様にとって特別な存在になりつつあるのでしょう。
響様が浅井少年について語るとき嬉々とした感情を感じます」
「ソウナノデス デアッテ マダ 2カ ダトイウノニ コンナニ ココロヒカレル ダンセイハ ハジメテデス」
「確かにお気持ちは察します。今まであそこまで響お嬢様に気さくな態度を一貫する殿方は、今まで誰一人としておりませんでしたからな」
「カリニ ギャクノタチバナラ キット ソノヨウナコト ハデキマセン……」
「確かに浅井少年が人格者であることは疑う余地はありません。仮に彼が響お嬢様の運命の相手でなくとも、今後友人としておくにはぴったりな人材でしょう」
「ソウデスネ アサイサンガ ワタシノ ウンメイノアイテデ ナクトモ ゴユウジントシテ スエナガク オツキアイタイデス」
「しかし、お嬢様浅井少年が目的に人物であったとして障害となる豊穣灯、木下魚、屏風風花の3名はいかがいたしうましょう?」
「ナンドモイイマスガ カノジョタチニハ テダシムヨウデス ウンメイノアイテデ アッタトキハ ソウキュウニ アサイサンガ ワタシノ モノニナッテモラウ ダケデス」
「了解いたしました」
「デワ ソノトキノ タメノ シリョウアツメデス ウッドフィッシュセンセイ ノ マンガガ オイテアル ショテンヘ ヨッテクダサイ」
「では発進します」
◇
それから一週間、土日を除いて九条院さんは俺に素顔を見せようとするが、学校の屋上でやれば、見知らぬ先客が隠れて観察していて中断。
校舎裏で再チャレンジするも、またもや花さん。
体育館の裏に行ってみれば不良に絡まれかけ、九条院さんの関係者らしき黒服の男たちが助けには入ったり。
空き教室でやろうとすれば、先客の見知らぬ男女がキスをして抱き合っていたり。
物置状態の空き教室に入ろうとすると、男の野太い喘ぎ声が、しかも二人分……当然俺っちは聞かなかったことにした。
そんなわけで九条院さんの試みはすべて失敗。
下手したら呪われていると揶揄されかねない状態だ。
俺は誰の邪魔も入らない休日に聞こうか?
と提案したが、何故か断られた。
何でも制服でやるほうがいいらしい。
なんだかわからんがそこは譲れないそうだ。
まあ女の子は男にわからない妙なこだわりがあるからな、と納得する事にした。
結局九条院さんが何を考えているかさっぱりだ。
何やら深い事情がある的なニュアンスなので深くは聞かないが、
素顔を見せる理由ぐらい教えてくれてもいい気がするんだがな。
と視界に入ってきた九条院さんを見つめる。
少し考え事をしていたせいで所々抜けてはいるが、いつもと変わらぬ面々と学校への通学路。
それの九条院さんが加わるのかと思ったが
。
「ドウヤッタラ アサイサン ガ――カ カクニンデキウノ デショウ――」
何やら言いながら九条院さんは、俺たちを無視して道を直進していた。
「メット野郎は今日はパーティ加入しないようね!」
「みたいだな」
「大丈夫……で……しょう……か? この……先……交差点……ですが……」
「一応金緑が声かけてみたら?」
「そうだな、おーい九条院さん!」
しかし、九条院さんはそのまま直進していく。
もうすぐ車が多く走る交差点だ。
「ちょっと行ってくる!」
「ちょ……糞虫!」
豊穣が何か言っているようだが、本当に危険かもしれないのだ。
急いで九条院さんに駆け寄ったが。
「やばい!」
九条院さんはそのまま直進してしまう。
すでに交差点に進入している。
左側からは車が見えていた。
しかし、まだ九条院さんは気付いていないようだ。
距離的に行けるか。
今俺と九条院さんとの距離は数歩踏み出せば接するほど。
このままの勢いで行くしかない。
駆け寄った勢いのまま九条院さんにぶつかるように抱き付いて押し出した。
「大丈夫九条院さん?」
間一髪九条院さんを隣の車線に押し出した。
後から大きな音が聞こえてこない所から考えて、さきほど九条院さんと衝突しかけた車は何かに衝突はしていないのだろう。
軽く辺りを見回す。
周りの車が止まっているとりあえず安全は
確保されているようだ。
それなら次に気にするのは九条院さんの安否だだから声をかけたが。
その姿に思わず動きが止まった
。
今腕の中にあるその人物に。
サラサラの金髪のロングヘヤー。
光に全く当たらない生活を送っていたような透き通るような白い肌。
それに対象的な口紅を塗ったうな真っ赤な唇。
閉じられた瞼はそれ時点で綺麗な瞳が収まっているとわかる。
目鼻立ちは人形のように整って豊穣に匹敵するレベルに整っていた。
この美人さんが九条院さんなのか?
驚きと物珍しさに暫く見つめていたがゆっくりとその瞼が開き我に返った。
「九条院さん?」
声を恐る恐るかけた。
「浅井さん、おはようございます」
能天気な声で彼女はそういった。
その声は実に綺麗で聴き心地がいい。
「ほんとに九条院さんなの?」
「そうですけど、どうかしまし……ん? あれあっれ!?」
九条院さんはいつもの頭のヘルメットの形を撫でる様に、動かす。
暫くして動きが止まってヘルメットがない事を理解した様だ。
「もしかして、外れてます? 頭のヘルメットは……」
「外れてるけど」
「だって聞こえないです」
「何の話?」
聞こえない? 普通に会話が成立しているようだけど。
「やっぱり浅井さんだったんですね!」
抱き付いてくる九条院さん。
なんだかよくわからないが助けた事に感謝しているのだろう。
「それより大丈夫なの? ヘルメット無しで」
「大丈夫です! 浅井さんがいれば!」
「ふーん。ならいいいけど」
何かかみ合ってない気がする。
何故か知らないけど九条院さんやけに嬉しそうだ。
まあとりあえず、立ち上がって体についた埃をはらい。
九条院さんに手を差し出す。
「立てる? 九条院さん」
「大丈夫です。浅井さんのおかげで膝を少し擦りむいただけなので」
九条院さんのいうとうり膝に少しの切り傷あった。
そこで制服のポケットから絆創膏を取り出した。
九条院さんに差し出す。
3人がけがをした時にためにいつも用意しているのだ。
「ありがとうございます」
そういって九条院さんは絆創膏を張った。
これで安心だ。
できれば無傷であればよかったが、この程度で済めば御の字だろう。
少々俺の紳士の部分が異論を唱えてくるが無視を決め込む。
「響お嬢様~~~~~~!」
驚いてその声の方向を向くと、黒のスーツ姿の白いひげを蓄えた。
男の人が砂煙を立てんばかりの勢いで近づいてきた。
「爺!」
「響お嬢様ここは私が納めます。早急にスペアのメットを装着してください」
爺と呼ばれた老紳士といった風貌の男の人は小脇に抱えたヘルメットを九条院さんに差し出し被るように促すが、九条院さんはそれを手で制し。
「爺それよりお話があります。浅井さんすいませんが、おさきに学校へ行ってください。私は爺に話があるので」
「そう、じゃあ遠慮なく先にいくね」
そうしえ豊穣たちと合流し学校へ向かった。
九条院さん何かを話しているのだろうか。そしてあんな美人なのに何であんなものを今まで被っていたのだろうか。
まあいいか俺に関係はないだろ。
「爺ついに見つけました。浅井さんが運命の相手です」
学校へ向かう途中、さっき別れた九条院さんの声が聞こえた気がしたが気のせいだな。




