0021新たな人物
「でっ糞虫! メット野郎は一体どんな性癖を暴露したのかしら!」
「言い方が酷いってレベルじゃねーよ!」
教室に戻ると飛んできた豊穣の毒に久しぶりにめまいがしそうだ。
本心は違うと分かっているが、いつもの事だがもう少し優しさが表面のにじみ出ないものか。
『九条院さんまさか浅井君に告白したのかな……』
「私……も……気に……なり……ま……す」
『どうせ告白だろ! 定番だし!』
「そうよそうよ。金緑のツッコミと体は私のものなんだから!」
「お前らこの流れだと、九条院さんが俺に性癖暴露したみたいに聞こえるからやめろ!」
「じゃあ……九条院……さん……と……何を……して……いた……の……です……か?」
『冗談はさておき質問タイムだ! 何をしていたか正直にだぞ!』
「俺のよくわからん。九条院さんが頭のヘルメットを外そうとするところで、花さんが偶然とうりかかってそのまま九条院さんは去っていたな」
「本当にそれだけかしら! 校舎裏で〇ったんじゃないの?」
「何もしてねーよ! お前俺を何だと思ってやがる! 俺は発情期の獣か!」
『ならいいけど。やっぱり私の初めては浅井君と……うふふふ』
そんな事を飛ばしてくる豊穣だが表情は一切変わっていない。
全くこいつは、少しは表情にだせば絵になるぐらい綺麗な顔をしてるってのに。
木下と屏風も可愛さなら負けてはいないが、豊穣の整った顔の麗美さにはかなわないと俺は思う。
次に声を出したのは屏風だ。
「つまり九条院さん素顔を金緑に見せようとしたって事?」
「多分な」
「病気……の……ため……ヘルメット……を……つけて……いる……と……満開……先生……は……言って……いま……した……が?」
「なんでも二人きりの時はセーフらしい」
「でっメット野郎の素顔はどうだったの糞虫!」
「見てないからわからん。つーか外してないって言ってるだろ!」
「ゲロゲロ!」
『ならいいけど』
「九条院……さん……は……なん……で……浅井君……に……素顔……を……見せ……ようと……したの……です……か?」
「わからん。運命の相手とかいう人探しでも手伝ってくれるように、腹をわって話そうとしたんじゃね」
「浅井……君……」
「金緑……」
「糞虫……」
「なんだお前らその顔は……」
落胆したような三人の表情に、思わず体を引いた。
「さすが……に……それ……は……ない……と……思い……ま……す」
「ゲロセンス無しね! 糞虫!」
「さすがにそれはないわよ。秘密を打ち明ける相手を利用するなんて最低だし」
「じゃあなんなんだよ!」
「それ……は……当然」
『あいつのいう運命の相手と関係ありだろ』
「なんでまた。俺と九条院さん出会って2日じゃんないだろそれ」
「甘いわね。金緑! 好きなるのはいつも時間がかかるわけじゃないのよ!」
「いやそこまで九条院さんに好かれる行動したっけ俺……」
「ゲロさすが糞虫ね!」
『ちょっと鈍い所も好き浅井君』
「かなり……好印象……を……受け……る……対応……を……して……いた……と……思い……ま……す」
『あそこまで怪しい女に対して、お前の対応は紳士過ぎたからな』
「そういうものか?」
「そうよ! 普通あそこまで怪しい女がいたら誰だって警戒するわよ!」
「そうか? 悪い人間じゃないなら見かけなんてどうでもいいだろ、そりゃできれば見かけがいい事に越したことはないが」
「ゲロさすが糞虫! 悪食ね!」
『そんな誰にでも優しい浅井君も好きだけど、できれば私だけに優しくしてほしいな』
「女ってのはよくわからん。俺は普通にしているだけなのだが」
「「「……」」」
『天然たらしだなこいつ』
『たらし過ぎだよ浅井君』
『さすが金緑安定の女たらし』
「お前らな……いいから下校するぞ!」
「そういやさ、この前盗聴器見つけた時業者呼ぶとか言ってたけど。いつ来るんだ木下?」
強引に下校を切り出した俺だが、ふときりなり木下に質問する。
「今日……くる……と……の……事……です」
「今日? 昨日呼んだのにやけに迅速だなおい」
「そう……いう……業者……なの……で」
「糞虫の監視は今日までのようね!」
『えーーーーーっ早すぎるよ!』
「豊穣なぜ胸を張る……全く」
何故か胸を張る豊穣にやれやれといった感じだ。
慣れてはいるけど。
「木下さんどんな業者なの?」
「少し……変わって……いま……すが……腕……は……確か……です」
「まさかと思うが変態とエンカウントは勘弁だぞ」
「一応……変態……では……ない……と……思い……ま……す」
「一応ってなんだよ! スゲー心配になるぞ!」
「大丈夫……です……腕……は……確か……で……迅速に……仕事……を……すます……ので」
「まぁぐだぐだ言っても仕方ないか。木下の折角の紹介だ。会うだけあってみるか、どこで打ち合わせするんだ?」
「今日……の……7時……浅井君……家……です……私……も……同行……し……ます」
「同行しないとやばい奴なのか?」
「彼女……は……極度……の……人見知り……です……ので……知人……が……いない……と……会話が……」
「なんでそんな奴が業者として通用すんだよ!」
「腕……は……本物……なの……で」
「でっ木下さんその人美人なの?」
「分かり……ませ……ん……顔……を……常……に……髪……で……隠して……いる……の……で」
「屏風なんでまた別に関係ないだろ」
「何を言ってるのよ! 新ヒロイン登場かもしれないのよ! ライバルはこれ以上はいらないのよ! ただでさえ金緑には変な女の子に好かれるスキルがあるのに!」
うんうんと頷く三人。
お前らそれでいいのか?
変な女の子のカテゴリにいれられているが……まあ仕方ないか。
こいつらが少し変わっているのは百も承知だ。
「でっお前らも同行するとか言い出すんだろ?」
「ゲロよ!」
『もちろん!』
「当たり前じゃない!」
「木下どうなんだ。人見知り人間にこの人数で出迎えるのは無理があるだろやっぱり……」
「三人……まで……なら……私……が……ついて……いれば……多分……大丈夫……です」
「そうかならいいんだが、お前の友好関係凄いなマジで」
「もっと……濃い……人……紹介……しま……しょう……か?」
普通にU子だけでお腹いっぱいだというのに、U子と件の業者のさらに上がいるのか。
普通に胸やけしそうだ。
「普通にやめとく、お前らそれまでどこで時間潰す?」
それから俺たちは、駅前のスイーツ店で新作スイーツを食べたいという屏風の提案に乗って新作の濃厚チーズケーキを食べて、そのあと普通に帰宅した。
豊穣の家ではなく俺の家に。
盗聴されているのに何で帰るんだよ! 誰とも分からないツッコミもあるかもしれんが、どうせ今日で駆除されるのだ。
2時間程度盗聴されたからといって困る事は特にない。
俺はやり〇んじゃないからな。
俺たちの関係は今のところただれたところなどない健全な関係だ。
普通の男ならいざしらず、女性に紳士であると定評のある浅井金緑さんですだからな。
ハレーム状態でもでもノーボディタッチですよ。
などと誰とも知らない誰かに説明をしても虚しいだけだなこれ。
なんだかんだ言って三人とも大事な存在だしな大切にするのは当然として、これからくる問題の業者が問題だ。
木下のことだ予想を裏切らない有能な人間なのだろう。
ただ、きっと滅茶苦茶キャラが濃いだろうけど……。
そんなこんなで気付けばもう夜7時5分前、三人で中魔道騎士プリティプリベルを見ていたらあっという間だった。
ちなみに劇場版だ。
内容はなぜかラーメン屋に弟子入りする話だった。
唐突にラーメン屋に弟子入りして、苛烈な新人いびりに中二病対応で耐え。
卒業試験で豚骨ラーメンを作り厳つい店長が「デスティニー!」と叫びエンディングあいからず訳が分からん。
本編30分でエンディング1時間以上って一体何の冗談かと思ったが、インド映画ばりのツナギ姿のたけしとバックのツナギダンサーの激しいダンスの見ごたえと、豪勢に何十曲もかかる有名な歌手達の歌が聞きごたえがあった。
……完全に前半いらねーだろ。
後半は金をかけたのがよくわかった。
前半と違いきらっきらしてたからな。
完全に力を入れる所を間違えてやがる。
普通にミュージックビデオじゃねーかよ。
予想外の出来の良さに文句が言えないのが無性に悔しい。
なんでこれ「劇場版中二魔道騎士プリティプリベル~地獄のらめーん修行~」なんて題名なんだ?
タイトル詐欺ってレベルじゃねーぞ。
ネットで評価を見れば究極のタイトル詐欺と省されていた。
さすがプリティプリベル俺の予想のはるか上を行ってやがる。
「すげーなこれ……」
思わず本音が出た。
「凄かっ……た……です」
「ゲロ! いつみても名作ね!」
「確かに凄い豪勢で見ごたえがあったわ。これは買わないと」
「ピンポーン」
呼び鈴が鳴った。
もう少し余韻に浸りたい気分だが、目先の盗聴器の問題を片付けないとな。
「きたみたいだな、木下同行頼む」
「分か……り……まし……た」
そんなわけで、玄関に向かいドアスコープを覗いたが。
「うわっ!?」
「どうか……しま……し……た?」
「玄関に幽霊が……」
「その……人……が……業者……です」
「あれが? 井戸から這い出てきそうなビジュアルなんだが……」
俺がドアスコープでみた人物は長い長髪で顔を完全に隠し、服装は白のロングコートと同色のスカート、そして何故か頭に白い帽子をかぶっていた。
どこぞの井戸から這い出る女の幽霊と、都市伝説の長身の「ぽ」が口癖の女の霊を足して二つに割った感じだ。
みかけ業者には見えない。
幽霊とか妖怪と言われたほうが納得するビジュアルだ。
「木下……完全に変質者の域を超えているだが……」
そう木下に眼差しを向けた。
「大丈夫……です……彼女……は……極度……の……人見知り……です……が……有能……です……ので……怪しい……のは……見かけ……だけ……です……ああ……見えて……私達……と……同世代……です」
「そうなのか? まぁ中二病というのもあるし、その一種だと思えば……木下お前の知人まじでどーなってんだ?」
「もっと……濃い……人……一杯……いま……す……よ」
「できれば遠慮するぜ。業者さんですね。入ってください」
ガチャリとドアノブを回し幽霊にしか見えないその人物を迎え入れえる。
その人物は低身長の木下と同じぐらいの背丈で、胸はほんのり盛り上がり、
顔を完全隠す黒髪の長髪はサラサラで手入れが行き届ていて、着ている服は白地にシミ一つない綺麗な物だった。
どうやら姿はあれだが見かけに気がまわるところから見て、精神的に余裕がある人のようだ。
その女の人は家に入る前に軽く俺に頭を下げた。
礼儀正しいなこの人。
人は見かけによらんとはこのことだ。
そのまま彼女をリビングに通した。
「こちら……が……何でも屋……の……クッキー……さん……で……す」
そう言われて床に正座した彼女――クッキーさんは俺たちにぺこりと頭を下げ黒髪の滝を作る。
さて一体どんな濃い奴なんだ。
そんな期待と不安入り混じる俺に対しクッキーさんは、木下の耳にごにょごにょと話し始めた。
「初め……まして……浅井……さん……木下さ……ん……から……話は……伺って……おり……ます……クッキー……と……申し……ます……以後……おみしり……おきを……だそう……です」
「よろしくクッキーさん」
「ちょっと金緑!」
そういって屏風が俺を無理やり引き寄せ耳打ち。
「なに普通に対応してるのよ。ホラー映画に登場しそうなビジュアルじゃない!」
「大丈夫だって礼儀正しいし、洋服のにはシミ一つなくて、髪はサラサラ精神的に病んでいる人特有の自分に気が回らない様子もない。それに木下の紹介だ。有能だろきっと」
「あんたねえ……確かに彼女顔を隠しいる事を除けば身だしなみには気を使っているようだけど……」
「だろ? 疑うにしてももう少し様子見ようぜ」
「確かにそうね」
屏風が納得した矢先豊穣がぶち込んできた。
「ゲロ! どうしてあなたは顔を隠しているの? ホラー映画を見ている気分になるのだけど!」
「豊穣おまっそんなストレートに聞くな! クッキーさんの都合も考えろ!」
「なれて……いる……ので……気……に……しない……で……くださ……い……だそう……です」
「ごめんね。クッキーさん」
「クッキー……さん……は……視線……恐怖症……なの……で……顔を……隠して……いる……と……聞いて……いま……す」
木下がそう言いにくことをフォロー。
「なるほど。じゃあそれには触れない方向で」
「木下……さん……の……おっしゃ……る……とうり……不思議……な……方……ですね……だそう……です」
「ゲロ! そうよなんたって糞虫だからね!」
『なんたって私の大好きな優しい浅井君だもん!』
「あたりまえよ! 金緑だもの!」
「やはり……素敵……な……方……の……よう……です……ね……さて……仕事……の……話……を……しま……しょう……だそう……です」
「ああそうだね。簡単に言えばこの家から盗聴器の類を全て撤去してもらえる」
「了解……しま……した……そして……報酬……の……方……ですが……えっ!?」
「どうした木下?」
クッキーさんの言葉を代弁してきた木下が、突然素っ頓狂な声を上げた。
クッキーさんどんな報酬が望みなんだ。
「はい……はい……分かり……まし……た……そう……伝えて……みま……す……クッキー……さん……は……浅井君……と……デート……が……して……みたい……そう……で……す」




