0001俺の日常
まとめたのはちょっとだけスマホでも見やすくなっています。
おっと親切機能はまとめだけやで。
幼なじみと言えば皆はなにを想像するだろうか?
仲のいい幼なじみと言えば、恋愛ゲームや小説においては重要なポジションを任せられる物で。
女性ならメインヒロインポジション。
メインヒロインの幼なじみならゲームよろしく楽し気なイベントは多い。
同じ通学路でたわいない話に花を咲かせ仲を深めつつ咲き誇る笑顔の花を特等席で鑑賞して。
家庭科の時間で偶然一緒になった彼女の旨い手料理を味わい彼女の家庭的一面を知る。
夏休みには夏祭に誘い浴衣姿の彼女と共に夜空に咲く花火を見る。
彼女が「綺麗……」と呟けえば「君の方が綺麗だよ」というきざたっらしい言葉を飲み込み、夜帳に花火の光に照らされた彼女の綺麗な横顔を見つめる。
結局、海には誘えなくて妄想で彼女の水着姿を妄想する。
気晴らしにいったプールで彼女にあって想像より可愛らしい水着の彼女とプールを楽しみ。
彼女の水着が流される王道展開。
競技大会では彼女にいいところを見せようと奮闘結果的には勝てなかったけど。
彼女が頑張りを評価してしてくれて。
秋は手が空いた時間に二人で文化祭を回る。
冬になってもイベントは尽きない。
スキーに初もうでにおせち料理。
スキーでは共にぎこちない滑りを笑いあい。
初もうでの神様のお願いは当然「ずっと一緒にいられますように」
正月は彼女お手製のおせち料理を味わい。
今年もいい年になると期待の念を抱く。
とまぁ妄想を垂れ流してみたわけだが。
実は俺にはこのシュチレーションに限りなく近い存在がいる。
そいつがまーなんというか可愛いし綺麗だけどね。
なんかこう一般的に外見のイメージとかけ離れた言葉を吐く奴で。
なんと幼なじみ女子女の子だ。
大事な事なので二度言いました。
ヒュー勝ち組! 勝ち組! と意味深なポーズでも取って言えたらいいけど。
欠点がねぇ。
それがとてつもなくデカくて……。
これは勝っているのか?
そんなことを考えつつ制服の袖を通す。
考え事をしても着替え程度なら大した時間はかからない。
部屋の時計の目を移し。
そろそろ時間か噂の幼なじみの登場だ。
「糞虫! 起きなさい! 最悪の朝よ!」
俺の幼なじみは毒舌だった。
あいからずの辛辣な言葉に目の前が暗くなりそうだ。
と普通なら言いたいがこの程度軽いジャブだ。
こんなの慣れっこさ。
彼女は俺の幼なじみ。
豊穣灯外見は豊穣の名のとうり貧相な胸以外はとても恵まれている。
無論太ってはいない。
サラサラの黒髪のセミロング。
見惚れてしまうような麗美な目鼻立ちと大きな双眸。
容姿は学園の毒舌女神と言われるほどに整っている。
その異名の通り超絶に毒舌である。
むしろ毒しか吐かない。
もうかれこれ10年近い間柄だが毒以外口から吐いている姿を見たことがない。
しかも恐ろしい事にまぎれもない事実である。
それぐらい息をするように毒を吐く。
何故か気づくと俺のそばにいる奴で、もしかしたら懐いているのかもしれない。
しかし、毒しか吐かないので真意はわからない。
当然友人は少ない。きっとたぶん俺だけである。
「糞虫どうしたの? 蠅が殺虫剤をかけられたような顔をして」
「糞虫から離れろ! どんな命がかかった顔だよ!」
考え事をしていた俺をキョトンとした顔で見ていた豊穣は肩を竦めつつ毒を吐く。
長年の経験で生み出した豊穣対策が炸裂する当然豊穣はノーダメージだ。
「あいかわらず、良くしゃべる糞虫ね。ほら、ぶひぶひ鳴きなさい」
「それは豚だ!」
糞虫の次は豚か豊穣、今日は絶好調だな。
「丁度いいわね。貴方という豚を豚小屋に連行しようとしなきゃいけないし」
「いい加減! 学校を豚小屋呼ばわりするのを止めろ! 他の奴らに失礼だろ!」
「何をいってるの? 学校なんて勉学を強制する施設! 餌を食べて糞をすることを強制する豚小屋と同じよ!」
「ちゃうわ! なんて例えだ! それに仮にも女の子が糞とかいうな! いい加減ふざけるのはやめて学校行くぞ!」
俺はいつもこんな感じだ。
だって真面目に言っても豊穣が聞かないんだもん。
ツッコミでギャグぽくしないとかなり悲惨だ。
どうせ俺が豊穣の相手をしないといけない。
だったらとツッコんでみたそれが中々気分がいい。
ツッコむ様になってから豊穣との付き合いが気楽になったぐらいだ。
これがなかったら女性に対して男としてあるまじき拳を振っていたかもしれない。
それぐらい毒を吐き続けられるのはつらいものだ。
小さい頃は苦ではなかったが、年を重ね知識と知恵がついてくると、苦しさは増した。
今は落ち着いているが一時期胃が痛くなった。
中学生時代初期である。
そして対策を編み出して今に至る。
普通なら絶交モノだが、何故か俺は豊穣を見捨てられなかった。
何故だかはわからない。
それを聞くと世の男どもは相手が美人だから下心が、美人の幼なじみという貴重な存在だからだ。
と思うだろう。
いや俺は中身重視の男たとえ相手が女神でも…………………………………………サーセン嘘です。それが少しありました。
毒しか吐かなくても美人は貴重ですやっぱり。
そんなこんなで、豊穣の作った軽い朝食を済ませて家を出て学校へ向かう俺たち。
何故と言われても仕方ないのだが、豊穣は俺の家の合いカギを持っている。
何で渡してしまったかは忘れてしまったが、それ以来なにかにつけて訪ねてくるようになった。
だが、常に一緒では俺の精神が持たないので学校に行く時と、何か用事がない時は来るなと言ってある。
今更取り返すのは無理。
そのことを言うとやたら不機嫌になるからだ。
なんだかわからんが、不機嫌になるので諦めた。
全くなんなんだか。
豊穣の謎は尽きない。
黙ってれば抜群の美少女なんだけどな。
家を出て数メートル隣を歩く豊穣をちらり。
「糞豚君、色欲を交えたいやらしい目でみないでくれないからしら」
「ひでぇ! ついに合わせやがった!」
こういうことには勘がいいのか?
それとも偶然か。
「何を言ってるの? 糞虫君のいやらしい視線は事実じゃない」
「ちゃうわ! 黙っていれば可愛い奴なんだけど思って……って何いわせんだ!」
「セイッ!」
「ゴボゥ!?」
喉に衝撃が走る。
何で!?
「何しやがる!」
「喉に蠅がたかっていたのよ! それを潰そうと手刀を打ち込んだんじゃない!」
「もう少し優しくやってくれませんかね!?」
喉を抑えつつ言葉を吐き異変に気付き豊穣の顔を覗き込む。
豊穣の頬は紅がさしていた。
「どうした豊穣、熱でもあるのか? 顔が赤いぞ」
「セイ!!」
「ボッホ!?」
先ほどと同じ衝撃なんで!?
「また蠅がたかっていたわよ!」
「だからもう少しソフトにやってくれませんかね!?」
「セイッ!!!」
「ヒッグ!?」
またも同じ衝撃。だからなんでだ!?
「ごめんなさい。手が滑って」
「お前いつか訴えられるぞ! ってもう顔が赤くないな。体調でも悪いのか?」
喉に鈍痛を感じながら豊穣の変化に気づく。
先ほどは頬に紅がさし視線が熱かった気がするが今は感じない。
一体なんなんだ。
豊穣の謎は尽きない。
「それにしても残念だわ。ついに蠅をつぶせなかったわ」
「いや潰さなくて正解だろ! 汚ねえだろ!」
「糞虫君。同族だからって同情は駄目よ。彼らは害虫よ」
「俺を害虫扱いするのやめてくれませんかね!」
「あらそうなの? じゃあゴミ虫君」
「対して変わってねーだろ!」
「じゃあ屁こき虫君」
「やっぱり対して変わらないじゃねーか」
「じゃあ股間のツインボールが黄金虫君」
「子供以下か! 平常サイズだ!」
あかんわ。
この人本格的にあかん。
コミュニケーションはばっちりなのにこいつ毒しか吐かねぇ。
こんな事考えるのは飽きてはいるがマジでどうにかならんのか。
「浅井! 今日も夫婦漫才か!」
声がする方を振り向くと、クラスメイトの青井がいた。
青井はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら。
「相変わらずお美しいですね。豊穣さん」
「気安く話しかけないでくれる。えぐるわよ」
何を?
「いつもどおりですね。豊穣さん」
青井は薄ら笑いを浮かべたまま先にいってしまった。
青井は見えなくなるまで女子に挨拶をして回る。
多分あいさつした女子の大半は青井と初対面だ。
無駄にかっこつけたがっているがいつも決まってない残念な奴だ。
「元気なカメムシ君ね。よほどメスに臭いをつけたいのかしら」
豊穣は道端のゴミでも見るような目で青井を見つめる。
青井の性格を考えれば臭いづけという考えは余り間違っていないかもしれないな。
「ところで豊穣いい加減毒を吐くのを止めないと。友人一人もできないぞ」
「私の熱い高魂に他の人間が耐えられないということね」
「なんで中二病っぽくなるんだよ!」
「中二病じゃないわ。テレビアニメ『中二魔道機械戦士プリティプリベル』のセリフよ!」
「何だその魔法やら機械やら魔法少女をぶち込んで、露骨に人気を得ようむんむんの作品は!」
「何をいってるの? この作品に魔法も機械も魔法少女も登場しないわよ」
「はぁ!?」
なんだそれ、じゃあどんな内容なんだよ。
「主人公の中二病男子が、中二魔道機械戦士プリティプリベルと名乗り殺人事件を解決する推理物よ」
「なんだそりゃ、中二魔道機械戦士プリティプリベルなんて完全にいらねえ要素じゃなーか!」
「何を言ってるの! 作中の中二病言語を詰め込んだ解説は視聴者の理解力を高めてくれるのよ! 事件より解決シーンのトリック説明の方が難解なアニメよ!」
「トリック解説で高い理解力が必要な時点で、推理物としてくそアニメじゃなーか!」
「何を言っているの人気があるアニメよ! 特に中二学生に絶大な人気があるのよ!」
「まじでおわってんなアニメ業界!」
「はぁ、分かったわかったふざけるのは終わりにしよう。もうすぐ学校に着くからおとなしくしてくれ」
一息ついて鼻息を荒げる豊穣をなだめ。
歩いて学校へ向かう。
話に夢中になって気づかなかったが学校はすぐこの先だ。
下駄箱に靴を入れ俺たちの教室へ向かう。
俺たちが通っているのは学区内の県立高校。
特に特色もなければ有名な部活さえない。
そんな普通の高校。
俺と豊穣はなぜが小中高校と全て同じ学校同じクラス。
恋愛ゲームならフラグむんむんである。
しかし、相手は豊穣そんな美味しい展開になるわけもない。
豊穣の評判は当然ながらあまり良くなく近寄る者さえ少ない。
そりゃ初対面で「雌ブタ」とか「ブタみたいに醜い男ね」と言われれば誰だって近寄らない。
学校内が荒れていないことに感謝したいものだ。
こんなのでも幼なじみだし、幼なじみがいじめや嫌がらせをうけて気分がいい人間はいない。
「浅……井……君」
席につくと声を掛けられた。
隣の席からだ豊穣はまだ俺の隣にいた。
「何かしら雌ブタ一号」
「お前じゃないから……でなんだ木下」
その言葉に木下はうつむき加減で顔を染める。
ちなみに恋とかじゃないと思う。
こいつ木下魚は極度の恥かしがりやでまともに人と話ができないのだ。
それは髪型にも表れていていつも前髪で目を隠しているのは、少しでも遮蔽することで気分を落ち着かせているそうだ。
身長は俺と頭二つ分ほど小さい低身長。
その一番の特徴は小さな体に不釣り合いの大きな胸部。
栗毛ショートカットも相まって可愛らしいらしい印象を受ける奴だ。
「あの……その」
「もしかして、この前貸した映画のDVDか?」
「そ……うで……す」
「糞虫野郎、やけに雌ブタ一号と仲がいいわね。もう〇ってるの?」
「お前! ひどいな! 俺と木下はそんな関係じゃねえ!」
「こういう雌ブタほど内に凄い性欲の獣を飼っているのよ!」
「酷い偏見ってもんじゃーねぇぞ!」
「だ……大丈夫……で……す……豊穣……さん……の冗談……わか……ってい……ま……す」
「雌ブタ一号から了承を得たわね!」
「お前調子乗りすぎだ! それでいいのか木下?」
「大丈夫……で……す……豊穣……さん……は……ひどい……ことを……いう……けど……ひどい人……で……ないの……で」
良くわからないが、酷い事を言うという事はすでに酷い人のカテゴリに入っている気がするが。
まぁ、豊穣の言葉に怖気付かない貴重な人間だし、そこは触れないでおくか。
豊穣に雌ブタ一号という最悪のあだ名で呼ばれているのに、凄い心の広い奴だ正直に思う。
「面白……か……った……です」
DVDを差し出す木下。
DVDの題名は『変態大戦争』パッケージには、顔に褌を被り珍妙なポーズをとる男優の姿。
女子に普通に渡す物ではないかもしれないが、これが面白いんだな。
内容は世界中の変態を撲滅しようとする宇宙人と、変態である主人公が仲間の変態と共に立ち向かうという内容だ。
ハリウットばりのCG効果で描かれる、褌と荒縄を自在に操る変態妙技には驚かされた。
原作漫画のファンとしても満足な内容だった。
「そうか、そりゃよかったまた面白いのあったら貸すよ」
「ゲロ最悪なチョイスね。褌を顔にかぶって変身する。常軌を逸したただの変態映画じゃない」
「お前が好きな、中二魔道機械戦士プリティプリベルよりましだ!」
「ゲロ言うじゃない! じゃあその汚物作品を見てやろうじゃない!」
「分かった。汚すなよ」
木下からDVDを受け取り豊穣へ渡す。
代わりに鞄をまさぐり豊穣が差し出してきたのは。
「ちなみにこれはなんだよ?」
「中二魔道機械戦士プリティプリベルに決まってるじゃない!」
持ち歩いてるのかよ……。
そしてあの話マジだったのか。
完全に豊穣の作り話だと思っていたが、豊穣の差し出した青いツナギに見える、主人公らしき男のプリントされたDVDを見て、ある事に気づく。
「これって劇場版って書いてあるけど……」
「当たり前じゃない! 劇場版第二作目よ!」
「二作目ってどんだけ今のアニメ業界病んでんだよ!」
「これは主人公たけしが、中二魔道機械戦士プリティプリベルと名乗るまでのストーリー。言うなれば中二魔道機械戦士プリティプリベルゼロね」
「これは見て大丈夫なアニメなのか?」ふと疑問が口から出る。
「当たり前よ! 糞虫!」
「この……作品……知って……ます……世紀……の駄作……の……最高傑作……と……言わ……れてい……ます」
「あら、よく知ってるわね雌ブタ一号」
「豊穣黙っとけ、木下それは褒め言葉なのか?」否定と肯定がごっちゃごっちゃだけど。
「評価は……両極端……ハマ……る……人は……とことん……ハマ……る……そうで……す」
これが? ひと昔前、ネットで騒がれたツナギの男みたいな奴が主人公なのに?
「いいから見なさい命令よ! 糞虫!」
「お前はなんでキレてんだよ……分かった分かったから」
何故かキレ気味の豊穣をなだめ、恐る恐るDVDを受け取る。
こいつは内容が予測できん。
そもそも、中二魔道機械戦士プリティプリベルと言われて、何を想像すれば正解なのかさっぱりわからん。
「ちなみに、主人公たけしは元自動車修理工よ。それがパッケージの姿ね!」
「絶対あの人の影響受けてるじゃねーか!」
「何言ってるのよ! たけしは少年よ! ベンチに座るいい男じゃないわ!」
「やっぱり影響受けてんじゃねーか!」
「何を言ってるのかしら……青いツナギなんて珍しくないじゃない!」
「まぁ……そうなのかもしれないが」
納得しかけたが。
「たけしの男子便所での変身シーンは必見よ!」
「納得しかけた俺が馬鹿だったよ!」
何これ、このDVD〇モが出てくるのか?
「期待してもガチホモ感は薄いわ! 腐れ腐女子には見せられないわね!」
「誰が、期待するか!」
ガチホモ感が薄いと言われても、普通に見たくなくなってきたんだが……。
俺ノーマルだし男同士はちょっと。
それを感じ取ったのか木下が口を開く。
「多分……大丈夫……で……す……仕事……場の……アシスタント……の……腐女子……さん……が興奮……しな……いと……言って……ました」
「木下が言うなら大丈夫か」
「糞虫野郎、雌ブタ一号と大した信頼関係ね!」
「そりゃ木下だからな」
「あぅううう」
木下がうつむいてしまった。
俺が何か悪い事でもいったのだろうか。
それより木下の言うアシスタントのいる仕事ってなんだ初耳なんだけど。
「浅井金緑いちゃつくのはそこまでにしなさい!」
凛とした声が教室に響いた。
「私という者がありながらいちゃつくとはいい度胸ね」
聞きようによっては怒気のこもったように聞こえる言葉。
それに俺は呆れ加減で答える。
「お前か、で今日はどんな設定なんだ」
「キヒヒ、ヤンデレ気味のお嬢様キャラよ! シュチレーションは想い人が他の女と会話を目撃してよ!」
「はい、はい、分かった。巣に戻れ」
シッシと手を払う。
「あれあれ、君のパートナーの屏風風花ちゃんにそんなこと言っていいのかな金緑君」
「だれがパートナーだ! 大体お前はこのクラスの人間じゃないだろ!」
「えー私のボケに付き合ってくれるの金緑だけなんだもん。だめ?」
上目遣いで俺を見つめる屏風。
全くこいつも残念な奴で。
髪だって手入れが行き届いてサラサラで艶やかな白髪で、顔だって可愛らしい部類だ。
胸だって少しはあるって言うのに。
つまらないボケを偏愛し、やらずにおえないという変わった奴だ。
少し前にいつもの癖でツッコミをいれてしまい何故か懐かれてしまった。
「駄目なもんは駄目だ! 俺的に豊穣の相手だけで精一杯だ!」
「またまた~金緑君のツッコミ戦闘力はその程度じゃないわ!」
「なんでお前が判定するんだ! ツッコミ戦闘力てなんだよ!」
「やれやれ、雌ブタ二号程度に何てこずってるのよ」
肩を竦める豊穣。
「出たな宿敵! ってか雌ブタ二号じゃないし」
露骨に豊穣を警戒する屏風。
「どうしたのかしら、蛙がハチミツをかけられたような顔して」
「どんな顔よ! 死ぬほど甘いの!」
お、ツッコミか。
「どうしたのかしら、使い古しの学生鞄の香りで野垂れ死ぬ寸前のノミみたな顔して」
「意味わかんない!」
それいったらお終いだろ。
「どうしたのかしら、自分のドッペルゲンガーをみて、思いのほか自分が不細工だと気づいた男みたいな顔して」
「…………金緑っ~~!」
やっぱり無理か。
半泣き状態で俺に助けを求める屏風。
つか最後のやつどんな顔だよ。
「だからお前には豊穣の相手は無理だっつーの」
「やっと真打登場ね。さすがツッコミ糞野郎君」
「お前ぶれねーな!」
「どうしたのかしら、ドッペルゲンガーをみて、思いのほか自分が不細工だと気づいた男みたいな顔して」
再びの豊穣の同じボケ。
こいつ俺を試しているのか。
「自称イケメンでホストになった男の真実に気づいた時の顔か!」
思いのほかすんなり出た。
俺も成長しているようだ。
しかし、何の役に立つというのか。
「さすが金緑ツッコミ力あるね! 私と組んで夫婦漫才しよーよ!」
俺の意思を無視して勝手な未来を提示し、俺の腕に腕を絡ませる屏風。
それを振り払おうとするがしつこく腕を絡ませてくる。
「雌ブタ二号! 糞虫を離しなさい! 嫌がってるじゃない!」
「あんたなんて万年毒舌で金緑に迷惑かけてるじゃない!」
「どうやら、肉体言語の使用が求められそうね!」
「まーまて、豊穣の相手は今は大した苦労じゃない。屏風、お前とコンビを組むのは無しだ。お笑いがやりたいなら勝手にやってくれ」
今にも取っ組み合いになりそうな二人をなだめる。
何故か豊穣も機嫌が悪くなってるし。
この一連の会話で豊穣を怒らせる要素があったか?
ほんとに豊穣はよくわからん。
「分かったは今はね。ところで話は変わるけど金緑ってなんでこんな変わった名前なの? てか金緑ってなに?」
「金緑ってのはカナブンの甲殻みたいに光の加減で金に見える緑の事だ。親父が金銭的価値はなくても、金緑色のように人を惹きつける男になるようにとつけたらしい」
「ふ~ん。よし金緑の名前の由来をゲット! これで金緑の彼女への道へ一歩近づいたわね!」
「誰が付き合うか!」
「浅井……君……の……名前……初……めて……知り……ました」
「あれ木下に教えなかったけ」
「ゲロ気分悪いわね。私だけが保持する秘匿情報を簡単に暴露して」
「なんで俺の名前の由来が秘匿情報なんだよ!」
「豊穣……さん……は……悔し――」
「それ以上そのことに触れるとその無駄にデカいパイオツをもぐわよ!」
豊穣は木下の口を押え脅しをかける。
木下の発言に気を害したのか?
全く豊穣の行動と言動に予測がつきづらい。
「あれ? これって中二魔道機械戦士プリティプリベルと変態大戦争じゃない」
「しってるのか?」
「もちろん話題作だったから劇場で二つとも見たわ」
「で、見た感想は?」
「変態大戦争は面白かったけどラストがモザイクフル○○だったのが最悪。プリティプリベルは安定のひどさね。あまりにひど過ぎて目が離せなかったわ。いろんな意味でやらかしすぎね」
「それ……分……かりま……す……でも……面白か……った……です」
「中二魔道機械戦士プリティプリベルの真の良さがわからないとは、さすが雌ブタ二号ね」
「いきなりガイヤが俺を求めてるって言って、仕事をやめて、中二魔道機械戦士プリティプリベルを名乗るとか意味不明すぎるのよ!」
「それがいいんじゃない! 謎が謎を呼ぶ中二病煽りのトリック解説果ての事件解決。その後に主人公たけしは何を言っていたんだ? と推理するから面白いんじゃない!」
「確かに考えちゃったわよ! 意味が分からないのに何故か最後まで目が離せなくて、たけしが何を言っていたか知りたくてパンフレットも買ったわよ!」
「だからあなたは雌ブタ二号なのよ! 餌をちらつかせるとすぐ食いつく。パンフレットと円盤特典の中二病言語辞典は最後の手段よ!」
「そんな事知らないわよ!」
何か俺が思っていた内容より期待が持てそうだ。
字幕がついていればいいが。
「糞虫言っておくけど。これは字幕なしバージョンよ!」
「タイムリーで湧き上がってきた期待を削ぐな!」
「まぁ金緑も見れば私の気持ちが分かると思う」
「ラストの我が推理に一片の悔いなし! は凄いわよ。ここまで視聴者を置き去りにする、推理アニメは他にはないわ!」
「普通なら怒るとこだが、逆に気になって怒れねーじゃなーか!」
「面白……そ……うです……仕事……の参考……に……できる……かも」
「あらじゃあ、雌ブタ一号にも貸してあげるわ! こっちは字幕付きよ!」
「なんで二つ持ってんだよ! つーか貸すならそっちを貸せ!」
「うるさい糞虫君ね。これは特典が別だから一緒に買ったの! どこぞのブルジョアみたいに布教用保存用は揃えられないわよ! 結構高いんだから!」
「ちなみに一ついくらだよ」
「一つたったの一万円よ。糞虫に渡した物の特典が、主人公たけしが劇中、身に着けていたカピカピになったツナギを再現した青いツナギ! 雌ブタ一号に渡した物の特典は、たかしが好きな栗の花の香りの香水よ!」
「販売している連中何考えてんだよ! 超絶に使えねーもんじゃねーか!」
「確かにそれは認めるわ。でも、これはコレクトアイテムなのよ! 実用性を求めていないのよ!」
「だからって限度があるだろ!」
「何を言ってるの糞虫! これがこの作品の魅力よ! ちなみに劇場第一作の特典は赤ら顔のおっさんのビニール人形よ!」
「上級者向けってレベルのモノじゃねーだろ! 誰だよそのおっさん!」
「誰って赤ら顔のおっさんは赤ら顔のおっさんよ! 主人公たけしが劇中第一作で一人で一夜を過ごした男子便所を、ドアップでとうり過ぎた赤ら顔のおっさんよ! 中二魔道機械戦士プリティプリベル最大級の謎の一つね!」
「結局だれかわからねーのかよ!」
「そうよ! だから私たちファンは彼の再登場を信じて待っているのよ!」
「ちくしょ~~~~~~! 私が入り込むスペースがないじゃない! うわわ~~~~ん!!」
突然叫び声を張りあげた屏風はマジ泣きで教室を飛び出していく。
何で俺の周りの女は一癖ある奴らばかりなんだよ。
「屏風……さん……はお……笑い……好き……ですから……二人の……やり取……りが凄く……てショック……を受け……たん……だと……思いま……す」
「そうなのか?」
「やはり私の高魂は強大すぎて雌ブタ二号には耐えられなかったようね」
「またそれか! ちっとは反省しろ!」
「中二魔道機械戦士プリティプリベルは言ったわ。一時の反省は自分を曲げた証であり、本当の反省は自分を曲げず向く方向を変える事であると」
「良い事言ってように見えても実際は反省しねーってことじゃねーか!」
「何を言ってるの、自身の行動のベクトルを変えて自分のままで、周りに合わせようといういい言葉じゃない!」
「世界を舐めすぎだ!反省しない奴は見捨てられるぞ!」
「大丈夫よ! 私にぞっこんラブの糞虫がいるんだから!」
「ぞっこんラブは否定するが、お前な……」
ここで普通は突き放すだろうが、そんなことができるならとっくにやっている。
こいつには俺以外頼れる奴もいないし、豊穣の親御さんにも頼まれているし。
仕方ないよな。
「豊穣……さ……ん私……も……いま……す」
「雌ブタ一号も入れ忘れていていたわね!」
「お前な……木下いいんだぞ。俺が我慢すればいいだけなんだから」
「大丈夫……です……仕事の……参考……にな……って……ます……し」
「そうはいってもな――」
「みんな席に着きなさい。超絶美女教師花ちゃんのホームルームが始まるわよ!」
教室に声が響き視線が自然と教室の入り口に流れた。
「は~い、みんなのアイドル満開花ちゃんが喋りますよ!」
この人は俺たちの担任満開花先生だ。
秘密と言っているが、年齢は20代前半。
歳相応の大人の色気、豊満なバスト、腰まで伸びた黒の長髪がトレードマーク。
実は俺たち二人と幼い頃よりの顔見知りである。
昔からもてる人でそれは教師になっても変わらない。
花さんは文字道理咲き誇る花の様に異性を惹きつける。
それぐらい綺麗な人だ。
「金緑君! 僕がいくら綺麗だって見とれちゃダメだよ!」
「満開先生そういう冗談はやめてください!」
「えぇ~結構。僕、本気だったのに~~」
花さんは体をくねくね揺らし何かをアピールしている。
これが大人の色気なのか?
「先生! 俺は見惚れてました!」
元気よく挙手をする青井こいつは筋金入りだな。
ブレの無さは豊穣に近いモノを感じる。
「青井君、女性ならかったぱしに声をかけるチャラいの男は多くの女性に嫌われるよ。僕の君に対する好感度大幅ダウン」
「それは手厳しい!」
そしてこの半音上がった声。
こいつ絶対喜んでやがる。
「さて、冗談と生徒いじりはやめにして、本題に入ります」
一息置いて話し始める。
これは真面目モードだな。
「来る10月の文化祭ですが、僕の独断と偏見で出し物を決めました。文句がある人は挙手お願いします」
誰も挙手しない。
当然か、花さんはとても人望のある。
それは生徒同僚の教師関係はない。
花さんでなければ、自分を可愛いと断言するぶりっこ教師など女子生徒共通の軽蔑の格好の的だろう。
気遣いと優しい言葉は必須だよね。
毎日毒舌を浴びているせいで、たまに欲しくなるだよな。
青井みたいなタイプには冷たいけど。
「では発表します。のクラスの出し物は劇をです。題名は――『毒舌シンデレラとツッコミ王子』」
自然と俺たち二人に視線が集まる。
この流れ断れないだろ……
「このクラスきっての夫婦漫才の達人、豊穣さんと浅井君が主役です。異論がある人」
「確かに二人の掛け合いは、面白いからないいんじゃないか」
「でも収拾つくの?」
「確かに見てる私たちも楽しめるだろうけど、二人の漫才って落ちないよね」
「心配は無用です。脚本は現在活躍中の少女漫画家ウッドフィッシュさんに、一任することが決まっています」
「満開先生。ウッドフィッシュ先生とお知り合いなんですか?」
女子が質問する。
「まあ、そうなるわね。ウッドフィッシュ先生は学生だから、案外貴方の近くにいるかもしれないわよ!」
ウッドフィッシュ先生か、少女漫画を基本的にあまり読まない俺でも知っている名前だ。
アニメにも映画にもなった人気作の原作者。
そのウッドフィッシュ先生が偶然にも花さんの知り合いで、それがクラスの出し物程度の事に協力するってか。
にわかには信じがたいが……
俺は挙手をした。
「真偽は別として、断れる流れではないと分かっていますが、プロの脚本に求められる演技なんて多分俺たち出来ませんよ」
「それは大丈夫よ。基本、君たちはラスト以外アドリブだから」
はぃ? 主役がラスト以外アドリブ? そりゃどういう。
「僕が言った言った通り、アドリブで豊穣さんにはボケ倒してもらいます。つまりこの劇に成功は浅井金緑君のツッコミの腕にかかっています。それまでにしっかりツッコミの腕を磨いておいてね!」
なんじゃそりゃ。
かなりの無茶ぶりじゃねーか。
「さて後は、配役ですがこれはウッドフィッシュ先生の意向により既に決まっています。異論は認めません。これは脚本を提供してもらう条件ですので」
「先生でもそんな状態で、劇が成立するんですか?」青井が真剣な声で質問する、そりゃそうだ。
「それも心配ありません。浅井君と豊穣さん以外の配役はメインである二人の登場までの繋ぎです。個々の演技力は期待していません」
ざわつき始めた。
そりゃそうだろうかなり無茶苦茶だ。
メインを俺たちであると言い切っている時点で、破綻していると言えるようなものだ。
大体、豊穣にこんな機会を与えたら、どんな事を言いだすかわからない。
「ついに私の活躍の場が来たのね! 私の高魂が燃えるわ!」
「なんでやる気なんだよ!」
「よく言うじゃない! 旅の恥はかき捨て、マイオは弁天堂って」
「言わねーよ! 旅をしていなくてもいつもふざけ倒してるじゃねーか! ってかマイオはどこから出てきた!」
「何を言ってんの! マイオは何度もしょーこりもなく攫われる、ルーチ姫を助けるたびに何度も旅に出てるじゃない!」
「それゲームだから! 現実と混同すんな!」
「やれやれ糞虫君は。ゲームは友達っていう程、学生とゲームは親しい
これ何言っても絶対断れないやつだわ。
教室に響く鳴り止まない拍手の中、俺は仕方なく花さんの意見を受け入れる事にした。
10月まであと三カ月気が重いぜ……
仲じゃない!」
「それ完全にダメ人間のセリフだからな! ――はっ!?」
いつものノリからふと我に返る。向けられている視線が熱い。
「パチパチパチ」
気づけばクラスメイトが手を叩いていた。
「皆、異論はないわね! 素晴らしい夫婦漫才を見せてくれた二人に再び拍手!」