0017運命の男性を探して
「金緑それでね、あの芸人が――」
教室についた俺たちは雑談に花を咲かせた。
屏風がテレビの芸人の話題。
それに負けじと無茶苦茶なネタをぶち込む豊穣。
木下は毎度のごとく傍観し控えな言葉を放つ。
しかし、内心は以下のとうりだ。
『ふふふ、お笑い洗脳作戦! これで金緑のハートと相方ゲットね!』
『ぶう、屏風ちゃんばかりでずるい! 私も構って浅井君!』
『すげーな! ものほんのすけこしじゃねーかよ金緑!』
全くこいつらは欲というものを自重しねぇ。
自重しないだけなら可愛いもんだが、それぞれが自由過ぎる……。
よくわからない切り口の屏風に、嫉妬しているからと暴言を連発する豊穣。
内心、心から楽しんでまくし立てる木下。
皆黙ってれば可愛いんだが、残念な奴らだ。
唯一まともにみえる木下でさえ内心はこのとうり……。
まじでまともな奴がいねぇ。
そんなこいつらを好ましく思っている俺の同族であるのわかっているが。
ラノベやアニメではこう何と言うか、もう少しキャラの薄いヒロインが登場するもんじゃないですかね?
まぁ最近のアニメやラノベのヒロインはキャラが濃いから、ラブコメの神様は俺に時代のニーズににあったヒロインを俺の周りに集めたのか?
とまたもや適当に出ちあげた神様に恨み言を言うそぶりをしてみたが、当然答えは返ってこない。
仕事か、仕事が忙しいのか。
と白々しい妄言を吐いたところでこいつらが普通になるわけもなく。
つ-か、そもそも多分ラブコメの神様はいない。
俺の幼なじみに毒しか吐かない可愛い女の子を配置した憎っくき相手である。
だれがその存在を肯定してやるか。
もし豊穣の心が甘々じゃなければ悲惨としかいようがない。
全く持って鬼畜設定である。
そして次に現れた木下の心は男前である。
表のたどたどしい喋りはどこへやら。
表の木下とそれぐらいスムーズに喋れればもっと楽しく話しやすいんだがな。
たどたどしい木下は可愛いけど。
そして、屏風……。
独特のノリとつまらないギャグ。
ギャグは受けていないので割愛してきたが、いい加減屏風にギャグを言わせないと文句を言われそうだ。
誰に? というメタい発言こそ割愛すべきか。
こいつも黙っていれば可愛い顔しているんだけどな。
「まあ、いいかみんな可愛いいし」
思わず本音が出た。
結局のところ可愛い女の子に弱いのは男の抗う事の難しい性ってやつだ。
相手が可愛いと少しぐらいのあらを気にしないモノさ。
「金緑誰が可愛いのよ!」
『ふふふ、ついにスーパー美少女屏風風花ちゃんの魅力気づいたのね!』
「糞虫ついに銀蠅になったのね!」
『そうかな、ありがとう浅井君。嬉しい』
「あ……あり……がとう……ござ……い……ま……す」
『ずるいぞお前普通に嬉しいじゃねーか!』
三者三様の言葉を聞きふと時計が目に留まり屏風に言った。
「まぁきにするな。屏風そろそろ自分のクラスにもどれ。時間的に先生が来る頃合いだぞ」
「あら、ほんとね次は昼休みにくるね金緑!」
そう言って笑顔を見せると駆け出していった。
すると教室入り口で花さんと鉢合わせしてぺこりと頭を下げて自分の教室へ向かう。
花さんがゆっくりと教壇に向かう中思った。
あいつも俺と同じクラスならな。
来年も豊穣と一緒のクラスの気がするが木下と屏風はわからん。
できれば4月の新学期には4人揃って同じクラスだといいのだが……。
考えるの一旦やめだ。
ホームルームが始まる感じだな。
教壇に立った花さんは。
「は~い。突然ですが美人教師満開花ちゃんから重要なお知らせがあります!」
「突然だけど。新たにこのクラスに加わる仲間を紹介します。じゃあ入ってきて」
そして教室に入ってきた。
人物を見たクラスメイトにどよめきが起こった。
その人物はどうどうと教壇の横にたち。
「ワタシノ ナマエハ クジョウインヒビキデス ミナサンヨロシク オネガイシマス」
聞き覚えのある合成音を発しながら九条院さんは、軽く会釈をして背筋をピンと伸ばした。
「皆ツッコミたい気持ちはわかるけど。彼女はある特殊な病気でこのヘルメットで頭を覆わないと、日常生活が送れないのさ!
そこの所の気持ちを汲んであげてね! ちなみにこう漢字を書くよ! 皆仲良くしてあげてね!」
そうして花さんは黒板にでかでかと九条院響と書く。
すると青井が元気よく挙手。
「麗しの満開先生! 九条院さんのヘルメットの下は美人なのでしょうか?」
さすが青井だブレねーな。
辺りを少し見まわすと何人かの男子生徒小さく頷いている。
「う~ん。僕も素顔はみていないからな……でも僕の予想だきっと美人だね! あふれでる気品が彼女には漂っているからね!」
青井は「おお」と声をあげる。
すると俺の脳内にあっけなく九条院さんにふられる青井のイメージが見えた。
青井ガッツきすぎる男は嫌われるぞ。
声を上げたのは。
「野暮な事なのは分かっていますが、九条院さんの病気ってなんなんですか?」
俺の隣の席のメガネ美人の吉田さんはクラスの誰もが思う言葉を代弁する。
「あまりに特殊だから言えないよ! 本人が話したい思える相手が現れるまでね! 皆できるだけ聞かないでね!
本人にはきつい病気なんだから、無理にヘルメットを外させよとしちゃだめだよ?」
「もちろん君たちがそんなことしないと信じているけどね」そう言って花さんは教室を見渡すように視線を飛ばし俺の方を見つめてから言葉を放った。
「じゃあ席は窓際の金緑君の隣で! 吉田さん悪いけど、君一番後ろでいいかい? よく黒板が見えないなら誰かと席交換するけど?」
「大丈夫です。これ伊達メガネなので」
「ならいいや! このクラス一の包容力のある金緑君なら安心だもんね! だから頼むよ金緑君!」
吉田さんはそそくさと荷物をまとめ後ろん席へ代わりに九条院さんが歩み寄る。
その歩みは洗練されたもので思わず花びらが舞う桜の木の下のイメージを重ねてしまう。
明らかに普通の女子とは違う異色なオーラが見て取れる。
上流階級という言葉が頭に浮かんだ。
だがありえないだろう。
それだけの地位があればもっといい学校に通えるし、うちの学校は特色もなければ、偏差値低いわけでも高いわけでもないありふれた学校だ。
そんな学校に何があるってんだ。
近寄ってくる九条院さんはあいかわらず花びらの舞う桜の木の下でも歩くように優雅に、歩みを進めている。
それを感じ取ったのか、
あの青井でさえいつもの薄ら笑いが消え真剣な面持ちで九条院さんを見つめている。
男性の視線は九条院さんに釘付けで集まる視線の熱さえ感じとれるほどだ。
「マタオアイデキテ ヨカッタデス コレカラ ヨロシク オネガイシマス アサイサン」
九条院さんは深々と頭を下げた。
◇
「九条院さんは前はどこの学校にいたの?」
「シリツキタムラコウコウ デス」
「あの有名進学校の? それが何でうちの学校に特に何もないと思うけど……」
「ジツハ サガシテイル ダンセイガ オリマシテ……」
「生き別れの恋人でも探してるの九条院さんは?」
「ソノダンセイノ カオハ シラナイウノデス コノキンペニ イルラシイ コトダケデ」
「その探してる男の人って九条院さんの運命の相手だったりするの?」
「ソウデスネ ソノダンセイハ ワタシガ フツウニ セイカツスルウエデ トテモダイジナヒトデス ウンメイト イエバソウカモシレマセン」
「ふーん。見つかればいいね。その相手候補はいるの?」
「デキレバ アサイサンノ ヨウナ ヤサシイ カタガイイデスネ」
「確か浅井君は優しいけど。今からあの四人の中に割り込むのは難しいと思うよ」
と言う事らしい。
盗み聞きする気が合ったわけではないが、なんせすぐ近くいるのだ。
聞く気がなくても聞こえてくるのはしょうがないだろう。
花さんはホームルームを早々と切り上げ、今は一限目が始まるまで自由時間。
花さんなりに気を利かせらしい。
俺の席は、九条院さんに質問をしたいといいう女子たちに明け渡してしまったので、俺の後ろの席の木下の席に豊穣と共に避難していた。
「皆さん……物怖じ……し……ない……です……ね」
「そりゃそうだろ。年中毒を吐いているこいつをはぶるだけ、いじめとかしない懐が深い連中だからな」
そういって豊穣を指さす。
「違いわ糞虫! 私のオーラに圧倒されていうだけよ!」
『わかってるよ。でも私がいじめられない一番の理由はいつも浅井君が守ってくれてるからだよ。ありがとう大好き』
「オーラってお前な……それは周りが怖気づいて触れてないだけだからな! たまには普通に毒抜きでしゃべれ!」
今更だが心の声を聴きながらツッコむってのはむず痒い。
豊穣の心の声は甘々だからこっぱずかしさも加わってさらに痒さはますばかり。
しかし、豊穣たちは俺の変わらぬツッコミを求めているわけで。
「さて話は変わるけど。糞虫! そこのメット野郎の事はどう思っているのかしら?」
「私……も……聞き……たい……で……す」
「切り替え急! って九条院さんのことか? 別に今のところどうこう思う仲じゃないだろ。今日知り合ったばかりだし」
「ならいいだけど。糞虫!」
『思わぬライバル登場かと思ったけど大丈夫みたいよかった』
「なら……いい……の……です……が」
『つまんねーライバル登場かと思ったんだがちぇ』
全くこいつらせっかちだな。
「男ってのは意外と保守的だからな見てみろよ。九条院さんの周りは女子だけで男がいないだろ? ありゃ多分様子を見てるんだよ」
「糞虫! は話しかけないの?」
「今のところ無理に話しかける理由はないし、無理に話しかけて自分に気があると勘違いさせるのは悪いからな」
「浅井君……に……は……私たち……が……います……か……らね……」
そういって顔真っ赤にしてうつむいてしまう木下。
言って恥ずかしいのだろう。
俺もそれに当てられて顔が少し熱くなった。
「それにしてもゴキブリ達も厳禁ね。相手の顔が見えないだけで。ここまで話しかけないなんて」
『九条院さんちょっとかわいそうだな』
「クラスの男をゴキブリ扱いはやめるように! それでも九条院さんに話しかける奴が運命の相手候補てことなんだろ。どうやら九条院さんにとって大事な相手らしいし」
「それ……浅井君……も……含ま……す……よ?」
木下がまだ少し赤い顔を上げてそういった。
「あっ! 確かに……大丈夫だって、九条院さんの顔も知らない運命の相手が俺つーミラクルはそうそう起こらないって」
「そう……で……すか……ね?」
『すでにハーレムを形成している奴に言われてもな』
「糞虫! たかる相手を間違えると許さないわよ!」
『浅井君私だけ見ててよ。他の女の子じゃなじゃなくて』
「その言い方だけはやめろ! それお前にも返ってくるから!」
そこでチャイムが鳴った。
皆そそくさと自分の席に帰っていく。
豊穣はまだ何か言いたげだが、ととぼと俺の前の席へ。
俺たちのクラスでは、席順は男女を交互に配置している。
つまり俺の周りの席は窓際と斜めを除けばすべて女子。
女子の場合は男子に囲まれている状態だ。
色恋沙汰が大好物の花さんらしい英断である。
そのおかげか何人かがカップルになってらしい。
そして入ってきた社会の担当の初老の男性教師は九条院さんを見て一瞬動きを止めたが、すぐに平静を装った。
そりゃまぁそうだけどね。
隣の九条院さんをちらり、気にしている様子は皆無。
俺の視線に気づいたのか九条院さんがこちらを向いた。
「スイマセン アサイサン オネガイガルノデスガ」
「何? 九条院さん」
「ジツハ キョウカショヲ マエノガッコウノト マチガエテ モッテキテシマイマシテ……」
「分かったよ。俺のを見せてあげるから机くっつけてよ」
「アリガトウゴザイマス アサイサン」
そんなこと授業ごとに繰り返してみたが。 はっきり言って九条院さんは文武両道秀才だった。
英語の発音は海外留学経験ある教師が舌を巻き。
数学では大学レベルの問題をスラスラ解き。
体育をでマラソンをすればクラスの女子に大差をつけて圧勝。
社会をすれば古代から現代の歴史の出来事を丸暗記。
教師たちは九条院さんのアレな見かけと対象的な実力に皆目を丸くしていた。
はっきいって俺が九条院さんに教科書を見せる意味を疑ってしまうが、メット越しから伝わる熱意は感じ取れたんで口には出さなかった。
そして昼休み。
俺たちはいつもの如く。
机をくっつけて弁当の包みを広げるところだった。
「アサイサン ホウジョウサン キノシタサン ゴイッショシテ ヨロシウイデスカ?」
と九条院さんが話しかけてきた。
その手には上品な風呂敷に包まれた大きな弁当らしきものが。
しかしいつ用意したんだ?
朝もってなかったよな。
「俺はいいけど。九条院さんいつのまにそんなデカい物用意したの?」
「ジイガ サキホド トドケテクレマシタ タベキレナイノデ ミナサンモ ヨカッタラドウゾ」
爺? 聞きなれない単語に俺は弁当のタコウィンナーを取り掛けた箸を止めた。
一方の九条院さんは慣れた手つきで風呂敷包みをあけた。
出てきた弁当箱は漆ぬりのおせち料理をいれるような黒い三段の重箱だった。
そいうものにうとい俺でも一目でわかる高級感漂う重箱を開ける。
「ドウゾミナサン オスキナモノヲドウゾ」
「スゲーなおい」
「げろブルジョアね!」
『すごーい! テレビでしか見たことない物が一杯ある!』
「おい……し……そう……です」
『こりゃすげぇ! この弁当一つで5万は軽く飛ぶな』
弁当の中身は大きな伊勢海老に始まりフカヒレ、ファグラ、キャビア、ツバメの巣、松沢うしのステーキ和洋瀬中贅というものを凝縮したような弁当だった。
「本当にいいの? 九条院さん凄い高そうだけど……」
「ダイジュブデス ワタシハ タベナレテイルノデ」
「マジもののブルジョアね! 糞虫雌ブタ一号! メット野郎と昼食を楽しもうじゃない!」
「お前な! 貰う立場なんだから口を慎め!」
「ダイジョウブデス ホウジョウサンハ ホンシンデ イッテイルワケデハ ナイトイワカルノデ」
『酷いこと言ってごめんね。九条院さんありがとう』
豊穣謝るなら表のお前でしろ。
心でしたって俺にしかわからないぞ。
まあいいか九条院さんのお言葉に甘えていただくか。
「浅井金緑の彼女! 美少女JK屏風風花ちゃん到着!」




