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俺の毒舌幼なじみの心の声が甘々の件について  作者: 師失人 
その二~最高のキスしよう~
16/144

0015クリスマスパーティ

音一つ空気の振動さえない静寂で穏やかな、光景が眼前に広がる。

 建物も天も大地も植物すらない白い光景。

 それはとても優しく気分がいい。

 

 気持ちのいい微睡にいくつもの声が聞こえる気がする。

 屏風のやかましい声。

 木下のたどたどしくも粗暴な熱のこもった声。

 そして豊穣の毒に隠された優しくとろけてしまうような甘い声。


 それが何という言葉なのか分からないけど、それだけは俺は理解した。

 これは彼女たちの心。

 想いの言の葉。

 それが分かっていても。


 思考はぼやけて、現実戻りたい自分と、子心地の良い微睡に浸っていたい自分がゆれ動い天秤のように、お互いを争うように傾け合う。

 聞こえているはずの彼女たちの声は俺をすり抜ける様に、耳まで届かない。


 それでもそのすり抜けた言葉を追いかけ、自分の魂の腕で捕まえ抱きしめた。

 聞こえないはずなのに、抱きしめたその言葉は、けして手放してはいけないとだけは理解できた――。

 抱きしめた言葉は光となって胸にすぅと吸い込まれる――。


 「――――っ」


 何かが聞こえた。

 何も聞こえない無音の世界に初めて何かが響いた。

 勇者の剣――。

 世界はボケとツッコミで成り立っている――。


 彼のパートナーに慣れればどんな時も笑いの絶えない事が容易く予想できた――。

 なんだ何を言っているんだ?

 聞こえる言葉は、含まれた意味こそは伝えてくるが、断片的な言葉の羅列は、ぼんやりとした思考では処理が出来ず。


 俺を混乱させる。

 その最中はっきりとした声が聞こえる。

 

「屏風風花ちゃんをもっと大切にしなさい!」


 屏風――そうかこれは屏風の――。

 そう気づくとさらに声が聞こえた。


 「隣で白無垢を着るのは俺が予約しているのだから――。

 文句があるなら目を覚ませ! 俺は待っているから――。

 いつまでも待っているから――」


 木下――そうだ俺には。

 ぼんやりした頭の中の霞はますます薄まっていく。

 またさらに声が聞こえる。


 「私はずっと前から貴方がいないと生きていけない――。

 私の居場所は貴方の隣――。

 私の全てを受け入れてくれるのは世界で貴方たった一人――。

 ずっとそうだったそれはきっと一生変わらない――。


 それは例え貴方が私以外の誰かを好きになっても――。

 私が貴方のために身を引いても――。

 だから早く目を覚まして私が一番大切な大好きな人――」


 豊穣――そうだ。

 俺はまだ豊穣の本心を引き出していない。

 屏風のつまらないギャグにもツッコんでいいたいし。

 木下のたどたどしい可愛さと男前の心の声だってまだまだ聞きたい。


 戻らないと――こんなに俺を好きでいてくれる最高の女の子たちの元へ。

 いつしか頭ははっきりとしてきて、手放しかけていた意識に残滓をかき集める様に、がむしゃらに泳ぐように腕動かした

 体は少しづつ浮き上がった。

 俺は目指した先の見えない意識の水面を、無限に続く白い世界にまばゆい黄金の光が見える。

 俺はそれを必死に目指した。


 それは黄金の光を纏う綺麗な手首だった。

 待ってくれているのか豊穣――。

 俺は一目見てそれを理解しそっと彼女の手を握った。

 握った手は包み込まれるように暖かい。


 屏風――。

 木下――。

 豊穣――。

 今行くから待っててくれ。

 俺の眼に映っていた白の光景はそこで終わった。

 

 ◇

 白い世界が消え去り、眼前は闇。

 この闇は幾度となく体験したなじみ深い存在が作り出したモノだ。

 ゆっくりと闇の蓋を開けると開いた目から光が差し込んでくる。

 ゆっくりと視線を移した。


 豊穣が椅子に座りながら寝ている。

 俺の手を握って――。

 もどってきたのか俺は。

 すでに過去となった白い光景は段々と薄まっていく。


 でも、聞いた言葉だけは耳に焼き付いていた。

 豊穣に礼を言ったら屏風と木下にも礼を言わないとな。

 包み込むように俺の左手を握った豊穣の手を少し力をいれて握り返す。

 すると力をいれすぎたのか豊穣の瞼がピクリと動き。

 豊穣が目を覚ました。


 「糞虫!!! 起きるのがゲロ遅い!!」


 『心配したんだから!』


 いつもと変わらない豊穣の様子に、思わず口元が緩む。

 

 「悪い……悪い……悪いんだが口につけているこれ外してくれ……」


 「糞虫それ大丈夫なの?」


 「これだとお前と話しにくいからな……」


 豊穣は俺につけられた呼吸を補助する人工呼吸器を外す。

 外の空気は人工呼吸器の最適な物とは違い僅かに息苦しさを感じる。

 それもこれで言葉は自由に話せるというものだ。


 「他の皆は?」


 「雌ブタ一号と二号は今は外してるわ、今日糞虫を見舞いに来るとは吐き捨てていたわね。花さんは仕事よ」


 『木下さんと屏風ちゃんは、今日来るはずだよ』


 「俺を刺したあいつは?」


 「あの後警察に捕まったわ、糞虫に殺されかけて精神的におかしくなっているそうよ。この様子なら報復は無そうね」


 『お巡りさんの話だと、浅井君の話をすると怯えだすらしいから、大丈夫だろだって』


 「そうか……」


 そのまま視線を天井に移した。

 よく生きていたな俺は。

 動かしたことで鈍痛の走る腹部の痛みを噛み締める。


 「そうだったわ糞虫――」


 「なんだ豊穣――」


 「チュ」


 不意に豊穣の唇が俺の唇の押し当られた。

 豊穣の唇の柔らかい感触と熱い何かを感じた。


 「お前泣いてるのか?」


 唇を離した豊穣の目じりから双の滴が流れ落ちていた。

 

 「何を言ってるのよ糞虫――」


 『だってだって――』


 「これはただの――」


 『浅井君がしんじゃうかもって――』


 「さっきさした目薬の液が染みるだけよ――」


 『嬉しくて涙が――』


 「糞虫がどなろうと別に……別に……」


 『良かった……良かったよ……浅井君が生きてて……』


 豊穣の目からはとめどなく涙が溢れでる。

 それでも、豊穣はそれぬぐわず真っ直ぐ俺に視線を向ける。


 「金緑、さっきのキスは私を守ってくれたご褒美よ」


 「豊穣今俺の名前を……」


 豊穣と知り合って初めて言われた自身の名前に驚きと嬉しさを覚えた。

 しかも毒がないそれがさらに歓喜をもたらした。


 「何を言っているの? つに耳がおかしくなったのね! まだまだ病院暮らしの必要があるようね!」


 『えへへ、初めて浅井君の名前を言えた。いつか伝えるんだ私が、浅井君を大好きってことを』


 ガタ!

 その音に俺たちの視線が病室の入り口に。

 そこには。


 「屏風、木下……何やってんだ?」


 そこには扉を開けて倒れ込む二人に姿が、何やってんだマジで。


 「いやー入ろうとしたら木下さんに止められて、様子を見てたのよ。そうしたら豊穣が普通の事を言ったもんだから驚いて体重掛けたら木下さんを巻き込んで……」


 「すい……ま……せん……止め……たの……ですが」


 「全く豊穣は本音を出さなすぎなのよ! でも可愛いとこあるじゃない! でも金緑は渡さないわよ!」


 「わ……私……も……です」


 『俺を忘れるなよ!』


 「う……五月蠅いわよ」


頬を染めた豊穣の背中を屏風が叩く。

 豊穣の本音がきけてご満悦のようだ。

 それをぎこちない動きで振り払い俺に向き直る。


 「そういえば浅……糞虫」


 「言いかけたならちゃんと呼べ全く!」


 「デートの件だけど――」


 「みなまでいうな。後でするってことだろ?」


 「違うわ」


 どういうことだ?

 豊穣の性格なら後でするとごねると思ったのだが。


 「デートはもういいわ、傷を負った虫を連れ回す趣味はないわ」


 『ちょっと残念だけど、まず体を労わって療養して浅井君』


 「全く! 今の金緑に無理をさせたくないならそれを言いなさいよ!」


 「そう……です……豊穣……さ……ん」


 『屏風め少しばかりは、豊穣の言動の裏を読めるようになったか結構結構』


 「何かありがとな皆愛してるぜ」


 思わず口元を押さえる。

 当然如く漏れ出た言葉は3人に届く。


 「全く3人に愛の告白とは中々の金緑ね」


 なんだそりゃ。

 どいう意味それ。


 「で……で……わ……行動……で返し……ます」


 『目を覚ました祝いだもらっとけ!』


 目を閉じて唇を尖らせる木下。


 「あっずるい私もキスするんだから!」


 木下と同じく屏風も目を瞑り唇を尖らせる。

 この流れ的に豊穣へ視線を飛ばすと、豊穣がもじもじし始めて目をつぶって唇を尖らせ木下と屏風の真ん中に。

 いやこれ振りじゃないぞ豊穣さん。

 迫る3つの唇――選べというのか?


 ふと3人の唇の感触が蘇り唇に指をはわせる。

 女の子の唇って軟らかいからな。

 そう思いだすと、その光景が脳裏に走り背骨に恍惚の痺れが入る。


 すでに3人の顔は瑞々しい肌のハリが確認できるほどだ。

 どうする俺。

 そう考えても競うように3人は唇を押し付けようとする。


 距離はもうしすでに拳一つ半といったとこだ。

 頭にてをややり照れながら考えた。

 こりゃ一体何をしたら正解なんだ?

 思考は巡っても圧倒的経験不足による俺の凡庸の頭では答えは出ない。


 もて期が早すぎたとでもいうのか。

 ラブコメの神様ヒントをください……。

 と適当にでっち上げた神に助けをもとめた所で何か変わるわけでもない思ったが。

 しかし、不信人もの祈りが届いたか助け舟が。


 「ちょっと、待った! 僕の目の前で不純異性交遊は見逃せないぞ!」


 「花さん」


 「やっほ! 起きたんだねあと呼吸器? だっけはずして大丈夫なの?」


 手をひらひらとゆらしいつもとかわらぬ笑顔を見せる。


 「ちょっと満開先生いい所で!」


 「ごめんごめん! でも我慢は大切だよ? 傷が治ればもっと面白いことができるから我慢! 我慢! 屏風ちゃん!」


 「どんなことができるんですか?」


 「お勧めは胡坐をかいた金緑君の太ももにに座る人間椅子プレイかな」


 「私……して……み……たい……で……す」


 『中々のいいセンスだぜ先生、確かにやってみたいぜ、いいよな!』


 前髪に隠れた眼から視線を感じる。

 了解を求められてもかなりこっぱずかしので却下だ。

 首を小さく左右に振る。


 「というわけだから、それより灯ちゃん。そろそろ学校に登校しなさい! ごまかすの大変なんだよ!」


 「ゲロ分かりました。糞虫も目覚めたことだしね」


 「むーう。金緑君状況が分からないかな? 仕方ないじゃあ教えてあげよう。灯ちゃんは金緑君が倒れた一週間前から、ずっと泊まり込みで金緑君を待ってたんだぞ! 愛だね! 愛!」


 「私もそうしたかったんだけどね……」


 『豊穣にあんな顔で言われたら、ひくしかないじゃない……』


 「実……は……豊穣……さん……に……むぐ」


 豊穣が木下の口を塞ぐ。

 しかし、心の声にはそれは効果はない。


 『豊穣が一人で看病したいてごねてな。これがデートの代わりでいいって愛されてるな~お前!』


 「ありがとうな。豊穣」


 「な……なんのことかしら浅……糞虫」


 『あわわ、もしかして気付いてるの』


 さっきから思っていたけど。

 動揺すると少しだけ本心が出てくるようになったらしい。

 そう考えればこの傷にも大きな意味があったという物だ。


 「はい、はい、看護婦さんにも言われただろうけど。灯ちゃんあれから一度もお風呂にはいってないんだよね。


 体は定期的にふきんで拭いて、頭は水のいらないシャンプーで洗っていたみたいだけど。そろそろお風呂でさっぱりしたいでしょ?」


 「分かりました」


 『そうだね。浅井君成分たっぷり補給したしもう大丈夫だしね。少し残念だけど』



「後、金緑君に会いたいって人を連れて来たよ。入って大丈夫ですよ」


 そう花さんは病室の扉に視線を送る。

 すると勢いよく扉が開かれ。


 「すいませんでしたっ!」

  

 スーツ姿の男が飛び込む様に見事なジャンピング土下座を決めた。

 

 「貴方は確かリトル一号さんでしったけ」


 「そうですっ! あのアホの相方リトル一号ですっ! このたびはうちの相方が大変ご迷惑をおかけしましたっ!」


 頭を文字道理擦りつけるように言葉を放つリトル一号


 「別に貴方が悪いわけじゃ――」


 「実はあいつに貴方の動画見せたの私なんですっ!」


 「動画?」


 思わぬ言葉に素っ頓狂な声を上げる。


 「そ……れ……多分……これ……で……す」



 そう言って木下が動画サイトが映るスマホを差し出す。

 そこには。


 「なんだこりゃ?」


 俺たちの演劇が複数投稿されていた。

 しかも、最初に投稿された動画は視聴者数10万を超えている。

 いやいやあり得ないだろ!


 「知らなかったの金緑。あの劇一部でかなり好評だったのよ? 腐女子ネット会でも評判上々だったんだから」


 「屏風……後でその怪しげなあつまりについては聞くとして、あれがか? 俺と豊穣セリフ全部アドリブだぞ」



 「何をいってるさ! 二人ともアドリブは思えぬほどのキレキレだったじゃないか! 見ごたえあったよ!」


 花さんは笑みを浮かべ親指を立てグーサインをしてくる。


 「はんまかっ!? ほんまに全部アドリブやったのかっ!?」


 「そうですけど……」


 いきなり標準語から関西弁に変わった。

 声質から驚きが伝わってくる。


 「おっと、すまん。驚いて素が、確かにこれならあいつが嫌いそうだな……あの動画を見せてからあいつと音信不通になってこのありさまで……本当にすいませんでしたっ!」」


 「確かに一歩間違えが金緑死んでいたしね。憧れる芸人間違えたわ……」


 「彼女さんオ言葉に言い返す言葉ありませんっ! 私にできることならなんでもしますっ! 何かできる事はありませんかっ!」


 「いや貴方は別に悪いってわけじゃ……」


 「それでも罪の一端は私にもあるんですっ! あいつが数年前からおかしいと気づいていながら、忙しさにかまけてあいつの心の闇がここまで育つのを放置していたのは事実ですっ!」


 「じゃぁ……」


 その言葉に場の視線が集まり、体が緊張で火照ったのか僅かに傷口が痛んだ。

 これは実際の所は彼のけじめに近いのだろう。

 ならばそれにそった要求をしてあげればいい。

 少し考えた俺はそれを口に出した。


 「屏風のやつのお笑いのネタの指導を誰かに頼めませんか?」


 「ほんと! 金緑! 愛してる!」


 屏風が顔を綻ばせ。俺に抱き付く普通に傷口が痛む。

 少し後悔をするが落とし所としてはいい提案だと自画自賛をする。


 「いいけど、君はいいかい? ツッコみとして磨けばプロに通用するかもしれないのに……」


 「俺はツッコミの腕をあげたくて上げたわけじゃないですからね」


 「どんな理由があればんさんみたいな若さで、あんなツッコミができるようになるん?」


 「普通に幼なじみと生活するためですよ。

こいつ問題が多い奴なので」


 そう言って豊穣を指さす。


 「ゲロこれで解決ね! 次にあいつに合ったらねじ切ってやるわ!」


 何を?

 と言いかけると答えが遅れてやってきた。


 『こんど浅井君のピンチが来たら、私が相手の体をつねってねじ切ってやるんだから!』


 その光景を想像してみたがちょっとかわいい絵柄だった。

 悪漢につねるっていたずら小僧をいましめるお姉さん状態である。

 普通に俺が助け舟を出すことは分かりきっているので、できればやめてほしい所だ。


 「わかった約束は守る。彼女さん連絡さきだけ教えてくれ。信用のおける大御所さんに頼んでみる」


 「これで私の夢に一歩近づいたわ! 後は金緑を落としてツッコミ要員の確保だけね!」


 『むふふ、それで二人は結婚してラブラブルートね!』


 全くすぐに調子に乗りやがる。

 そこが屏風のいい所なのかもな。

 屏風はリトル一号と連絡先を交換しているが直接会う時は、俺も同行しよう。


 向うだってその気がなくも可愛いJK女子と二人で会っていたら、フライボーされてしまうかもしれないし、相手がその気なら屏風を守ってやらないと。

 なんだかんだで俺は屏風をほおっておけなんだような。


 豊穣という問題児を長年見捨てることができないという所からみて、俺の性分らしい。


 ◇

 それからは警察が来て簡単な事情聴取で受け答えをして、暫く療養。

 あっという間の二か月である。

 そして退院日季節は12月25日クリスマス。

 何故かあいつらはこの日迎えに来てくれなかった。

 ドライだなおい。

 父さん母さんも見舞いに来ないし、メールで豊穣ちゃんのラブパワーで復活しろ! などと無責任な事を送ってくる始末。


 息子の一大事に全く……俺の両親は良い意味でも悪い意味でも放任主義が過ぎる。

 前日に渡された着替えの中の厚手のコートを身にまとい、外の冷気が肺にはいり季節のい移り変わりを実感しつつ、はぁと白い吐息を放つ。


 「帰るか……」


 そうしてとぼとぼ歩き始めた。

 病院と家は割と近くバスで乗り継いで30分ほどしかかからない。

 スマホへ確認しつつバスに乗り次に停車場でバスを乗り換え自宅近くのバス亭へ。


 なんかやけに前の方にすわている制服姿の女子学生達が、俺をチラチラ見ている気がする。

 そんな居心地の悪さを感じつつバスを降りた。


 降りるときに動画がどうこ言っていたので例の動画を見た人たちなのかもしれない。

 そんなことを思いつつバスを降りた。

 やっぱり寒いな。

 病院とバス内は空調効いていたけど。


 外は曇天で空気は冷えていて今にも雪でも降りそうだ。

 現在時刻は午後4時、誰もいないだろな……。

 自宅の玄関を開きながらそう思った。

 

 パン! パン!


 破裂音と共に内包物が飛び散った。


 「退院おめでとう金緑!」


 「糞虫! 怪我をゲロ打ち取ったようね!」

 

 『退院おめでとう浅井君!』


 「退院……おめ……で……とう……ご……ざい……ま……す……浅井君」


 『やっと帰ってきやがったな! おい!』


 三人はクラッカーを持って俺を歓迎する。

 その顔をみて涙が出そうになる。

 今日迎えにこないもんだから嫌われたのではと、少しばかり思っていたその反動かも知れない。


 「お前ら学校はどうした?」


 まず、浮かんだ疑問はそれだった。

 時間的に授業が終わって即刻学校から俺の家に向かってもぎりぎり間に合う時間帯だからだ。


 「そんな物はねぇ?」


 「ゲロゲロねぇ?」


 「そう……です……よね?」


 「「「休んだに決まってるじゃない」」」


 と言う感じハモったらいいが、実際は口調と言葉遣いが別物すぎて全然はハモってない。

 要約するとこれを3人とも言いたいのだ。


 「感謝してよね。先生に頼み込むの大変だったんだから……」


 『金緑のためだから頑張ったのよ』


 まぁ普通は許さんわな。


 「私……と……豊穣……さん……は……すん……なり……で……す」


 『さすが満開先生っ感じですんなりだぜ!』


 「雌ブタ一号の言うとうりよ! 花さんは話が分かるわね!」


 『木下さんの言うとり花さん分かってくれたよ』


 確かに花さんならオッケーするわな。

 まぁ屏風だけクラスが違うから仕方ない。


 「そうそれで準備は出来てるわよ!」


 「準備ってなんだよ屏風?」


 「何ってクリスマスパーティよ! パーティ! 今までその準備をしてたんだから!」


 そう言って屏風は俺の手を引いてリビングへ。

 そこには白い苺のホールケーキとありゃターキーか? 初めて見たぜ。

 そのわきにはフライドチキンと唐揚げがやまになっている。



 分かってるじゃないか。

 俺の大好物ばかりだ。


 「どう……です……鳥……尽くし……にし……て……みま……した……が」


 『高級地鶏づくしだぜ! 旨いのは当然決まってるぜ!』


 「いやスゲー嬉しい。旨そうだ」


 「なら……いい……の……です……が」


 「そして味付けは私がしたわ糞虫! 浅……糞虫のエサの好みは一番私が知っているからね!」


 『ふふふこれは自信作だよ! これで浅井君を落とすんだから! そしてうへへへ』

 

 「そんなわけよ! さあクリスマスパーティの始まりよ!」


 そう屏風が言うと木下が控えめな声を上げた。


 「雪……降って……き……まし……た」


 その言葉に外を見ると雪が降り始め大地を薄く白に染めようとしていた。

 ホワイトクリスマスか、神様も気の利いた退院祝いをくれるじゃないか。


 「ゲロ虫と雌ブタと共にホワイトクリスマスね!」


 『神様ありがとう! お友達と大好きな浅井君とクリスマス会するの夢だったんだ! それに雪をプラスしてくれるなんて最高だよ神様!』

 


「そんなわけよ! さあ食べましょ! 金緑!」


 「そう……で……す……ね」


 『そうだな,準備で忙しくて腹がペコぺコだぜ!』


 「ゲロ雌ブタ二号の言うとうりね!」


 『屏風ちゃんの言うとうりだよ! 早く食べよう浅井君』


 「病院で出る食事が薄味で味気なくてな、こういうガツンとした料理が食いたかったんだよな」


 「ゲロ良かったじゃない糞虫! 味付けは虫好みにしてあるわよ!」


 何だよ虫好みって。

 相も変らぬ豊穣の表の声に弱めのツッコミを入れる。

 

 『ふふふふ、ベストタイミングこれは大好きな浅井君の好みに合わせた自信作だよ!』

 

 その豊穣の心の声に思わずごくりと喉がなった。

 豊穣の料理はめちゃくちゃ旨いからな。

 それを味気ない薄味の病院食になれた舌で味わう事を想像することは、強烈に食欲を刺激するスパイスだ。


 「じゃあ食うか」


 ライドチキンを手に取った。

 木下がコーラをコップに注いで俺の前に置いた。

 さすが木下わかってるな。

 しかも、コーラは無糖じゃない普通のコーラだ。

 最近よく目にする無糖コーラ嫌いの俺に対する気遣いだろう。


 まじで良い嫁さんになるな木下は。

 そして屏風と豊穣は俺を見つめている。

 よほど俺の反応が気になるらしい。

 フライドチキンを取る手に期待感を乗せて一口齧り取る。

 咀嚼。

 咀嚼。

 咀嚼。

 ごくん。


 「旨い!」


 期待を裏切ならない旨さだった。

 この味は大手フライドチキン店のチキ超える香ばしさと鼻をくすぐる香辛料。


 そして何より絶妙な噛み応えに、あふれ出るジューシーな肉汁。

 スゲー旨い!

 大手のフライドチキンより断然こっちの方旨い!


 「ゲロ言ったじゃない! 糞虫の虫舌は研究済みよ!」


 『うふふふ、喜んでくれてる! 良かった!』


 「金緑! このフライドチキンの香辛料は私が調合したのよ! 凄いでしょ!」


 「ああスゲーなこれ、凄い食欲を掻き立てられる味と香りだぜ。屏風見直したぜ!」


 「そうでしょ! そうでしょ! 崇めて貴方のツッコミの腕を私に貢ぎなさい!」


 意味が分からんことをいいだす屏風だったが木下が。


 「でも……屏風……さん……は……こ……れ……揚げて……ない……です……屏風……さん……に……任せる……と……火事……に……なり……そう……な……ので」


 『屏風の奴、揚げ物全然だめでな、全部俺たち二人でしたんだぜ』


 「仕方ないじゃない! 私は火加減全然わからないだから!」


 じゃあ香辛料だけ調合できても意味ないじゃん。

 さすが屏風芸志望だけあって落ちをつけてきたか。

 とわざとやっていなら中々のモノだが、完全に天然だろう。


 「あれ! 僕をおいてもう始めてるの?」


 聞きなれた声に視線が移動する。

 そこには花さんがいた。

 しかも、ミニスカサンタコスで。


 「花さん凄い格好ですね……」


 「そう? でも僕に似合うでしょ!」


 くるんと体を回転させる。

 肩には大きな袋を持ていて中々の完成度のコスプレだ。


 「今日の金緑君退院の今日のために同僚の教師たちと教頭と校長に根回して、今日は早めに帰らせてもらったんだからね♪」


 嬉しそうな花さんは袋に手を突っ込み何かを取り出した。


 「はい! クリスマスプレゼント!」


 そう言って差し出したのは、アイマスクだった。

 花さん意図が分からんよ。


 「いいからつけてつけて」


 そういって俺の目にアイマスクをつけ待っているように耳元で囁き椅子に座らされた。

 暫く待っていると。


 「もういいよ!」


 「もうですか? 花さん――」


 アイマスクを外し目に映ったのは。


 「どう……です……か……浅井……君」


 『どうだ! 俺のコスプレは! 少し恥ずかしけどな!』


 「くっ糞虫の前でこんな格好」


 『少し恥ずかしけど……似合ってるかな浅井君?』


 「金緑! どう似合うかしら!」


 三人とも花さんと同じ恰好をしていた。

 恥かしうがる木下大きな胸と白い足に映えるサンタコスは俺の男の部分をくすぐり、


 豊穣のスレンダーな体と美麗な顔に映える赤と白のサンタコスは、神秘的な印象を受ける。

本当に女サンタがいたらこんな感じなのかもしれない。


 最後の屏風だが一人だけノリノリでポーズまで取っている。

 それがなければ普通に可愛んだがな……残念な奴だ。


 「どう? 僕からの思い出のプレゼントは、サンタ姿の女の子に囲まれるクリスマスなんて、滅多に体験できないでしょ!」


 それは正直嬉しい。

 少し目のやり場に困るけど。


 「さて、皆プレゼントを出しなさい私が一応確認するから!」


 

 そう言って俺を除く三人を集めた。

 そして。


 「ブッブー! 全員アウト!」


 「君たち気持ちはわかるけど。ちょっとがっつきすぎだよ? 若いんだからもう少しこの関係を楽しもうよ!」


 なんだ?

 こいつら何を俺にプレゼントする気だったんだ?

 そっと花さんに近寄り手元を見た。

 花さんは隠そうとしていないから見ても大丈夫らしい。


 「リボンと荒縄と紙?」

 

 素っ頓狂声を上げた。

 なんだこれ? 白い紙とリボンはプレゼントを包むんだよな?

 うん? 紙には何か書いてあるな……柄か? リボンはやたら長い1メートル以上の長さがありそうだ。


 でも、荒縄ってなんだよこれも1メートル以上あるし。

 わけがわからん。

 

 「全く君たちは考える事は同じだね!」


 同じこれが?

 全く接点が分からないんだが……。


 「全く金緑君察しが悪いんだからほらここ」


 そう言って、紙の上部を指さす。

 そこには。

 

 「婚姻届……ってええええええええええええええええええええ!?」


 予想外過ぎるストレートな好意の塊に思わず目を白黒させてしまう。

 じゃあ残り二つはまさか……


 「ふふふ、金緑君も察したようだね! リボンと荒縄はこの子たちの誰かがまく物さ!


 いわゆる自分をプレゼントってやつだね!

 どこぞの18禁ゲームのようだね! おっと僕も一様攻略対象だから忘れないでね!」


 「お前らな……いろいろと段階すっ飛ばし過ぎだぞ……全員却下だ!」


 「えっーーーー! 今日の為に亀甲縛り練習したのに~~~!」


 『そんな折角のきわどい勝負下着デ来たのに』


 荒縄は屏風かとなると。


 「そんな……ひ……どい……です」


 『なんだお前、俺の全裸リボンみたくねーのかよ! 男だろお前は!』


 正直みてーよ。

 だが今じゃないだろ。

 リボンは木下か。 

 となると。


 「チッ! 合法的に糞虫を観察飼育する計画が台無しね!」


 『ちょっとせっかち過ぎたかな、最初は恋人か……頑張って恋人にならないと』


 豊穣が婚姻届全く嬉しくないと言えばうそになるがいろいろすとっばしすぎだろ。


 「お前らな最近積極的だと思ってたが、今日は輪にかけて積極的じゃねーかよ! どうしたんだよ!」


 「全く金緑君たら察しが悪いぞ! 考えてみよう、君がいない3人の生活の事を、愛というのは失ってさらに燃え上がる愛もあるのさ!」


 「これてさすがの金緑でもわかったでしょ? 金緑がいない私たちがどれだグダグダだったと思っているの?」


 確かに俺がいないとどれだけこいつらがグダグダだったのか、想像がつかない。

 ボケ倒す豊穣と天然の屏風、ツッコまないで鑑賞ベースの木下。

 こりゃ酷い改めてこいつらには俺というツッコミ役が必要不可欠だな思った。


 「でっ俺が恋しくなって自分のモノにしよとしたと?」


 「仕方ないじゃない! 私のハートのボケには金緑のツッコミじゃないと満足しないの! だから私のモノになりなさいよ!」


 『いいからささと私を選びなさい!』


 「私……も……です」


 『屏風ずるいぞ! 俺のモノになれ! 後悔はさせねーぜ!』


 「何を言っているのよ! 糞虫を飼育するのは私よ!」


 『駄目! 浅井君は私のモノなんだから!』


 全くこいつらは、こつんと三人の頭を軽く小突くた。



 「まあ、おちつけお前らの事は皆好きだが、結婚とかお前らのモノになれとかといわれても、今の俺にはその好きな感情がそれにあたいするかわかん。その気持ちが固まったら答えを出してそういう関係になるのじゃダメか?」


 我ながら、意気地がない答えだが勢いでこの誰かと関係を結ぶの嫌だった。

 俺を好きでいてくれている彼女たちだからこそ大切にしたいのだ。


 「ゲロ意気地なしの虫ね! 虫だから仕方ないわ!」


 『それならいいよ! 最後に誰かを選んでくれれば……』


 「それ……で……いい……です」


 『仕方ねーな! でもお前のそういう所が好きだぜ! なんだかんだで俺たちの関係が壊れない配慮だろ?』


 それもあるがお前らが大切な存在だからな。


 「まあ、このままの関係も好きだからいいわよ! でも最後に金緑のハートを取るのは私だからね!」


 『それもありね! まだ時間はたっぷりあるし』


 「さすが金緑君ね! 18禁ルートは避けたようね! 純愛ルートは僕も賛成だよ!  君たちはまだ学生なんだし、僕は君たちに清い交際を指導する立場だからね! さあ料理を食べよう! 折角の料理が冷めちゃうぞ!」


 そうしてクリスマスイブの夜はふけていくのだった。


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