王子様のキス
海さんの視線を辿ると豊穣が立ち尽くしてた。
まだ耳から入った言葉を理解できてないようだが、次にみるみるうちに顔が赤くなってしまった。
「この子ね! ずっと前から金緑君のお嫁さんになるっていって頑張てったのよ! 今では家事は完ぺきでいつでもお嫁にやれるようになってるから! 嫁の貰い時よ!」
「母さん灯が凄い事になってるからあまり煽らない方が」
完熟トマトみたいになった豊穣をみて陸さんは海さんをなだめる。
「確かにそうね! まぁおぜん立てはしっかりしたから後はちゃんと灯を愛してね金緑君!」
「もちろんです。まだだれを選ぶかは決めていませんけど。豊穣との付き合いはずっと続けていくので」
「それならいいのよ! 協定が行使されるその日の為に灯と仲を深めてね!」
協定ってなんなんだろう?
聞いても答えてくれそうにないし、何やらアイツらにとって重要事っぽいな。
聞くのは野暮ってもんか。
「灯! 灯ったら! 完全に心ここに有らずってやつね。実の両親の目の前でコクらせようとしたのはまずかったわね……この子にはまだ早いか」
「そうだよ母さん」
「まあいいわ! 時間はまだあるしだから金緑君この子を放しちゃダメよ! 昨日コクって来た変な奴に灯を取られないようにね!」
「さすがにそれはないです。誰が見ても痛い勘違い野郎ですから」
「それならいいのよ! そんなわけで灯とキッスよ!」
「なんで!?」
「何に言ってるのよ! お姫様を目覚めさせるのは王子様の熱いキッスって決まってるじゃない! 灯を現実に連れ戻すのよ!」
なんという無茶ぶりだ。
親公認の仲だとはいえ両親の前で口づけを交わすのは流石に難易度が高い。
物理的な物は減らないが、俺の心の何かががりがり削られてしまいそうだ。
陸さんは呆れた顔で海さんを見た後俺に視線を向ける。
海さんはにやけ顔で心底楽しそうだ。
とりあえず心が読めるかやってみたが読めなかった。
二人の心が読めない理由は分からんが効果があるのはアイツらだけなのかもしれない。
話を戻そう……と戻すほど長く脱線はしていないが気分の問題ってやつだ。
そんなこんなで二人は俺の出方をそれぞれの表情で窺っていた。
さてどうするかこの羞恥プレイ受けるか否か。
とりあえず豊穣の肩を持ち優しく揺らして「戻ってこい」と言ってみるが効果は対して無し。
頬をぺちぺち軽くたたくと豊穣と目があった。
『キスしてくれるのかな?』
そう心で言って向ける視線は、明らかに期待を孕んでいる。
さてどうしたものかこれしないと駄目な流れだよな完全に……仕方ないしてやるか。
俺は豊穣にキスをした。




