駄目だ
その言葉に豊穣の目に涙が沸きでる。
「お前の言わんとしている事はわかる。でもそれだけじゃだめだ」
我ながら卑怯な言葉だ。
豊穣の気持ちが本気なのは当然知っている。
だが俺は豊穣の本心を心ではなく表の豊穣の声で聴きたい。
今の豊穣の表の言葉は完全に要点に欠けた支離滅裂なものだ。
これでは告白とは言えない。
そんな言葉で豊穣と今関係を持ったとしてもそれは取り方によっては、豊穣の好意を受け入れたのではなく、欲望に負けて関係を持ったとなりかねない。
大事な存在だから大事な女性だからこれを受け入れるわけにはいかないのだ。
「すまん、豊穣お前の言葉は言葉足らずだ。これじゃあ欲望に負けてお前を受け入れたとなりかねない。だからダメだ。お前の本心をちゃんと口に出した時改めて答えを出すから……それだけお前が大事な存在なんだ」
「そう……布団に入りなさい糞虫寝るわよ」
『……そうだね大好きな人と結ばれるなら想いを告げてだね……がんばるよ! いつか聞いてな私の本当の想い』
豊穣悲しみと嬉しさを半々にした。
ような空気を纏い俺の上から降りて布団に入る。
俺は豊穣に続いて布団に入った。
この状態で別々の布団だと豊穣を完全に遠ざけた形になるだろう。
となれば進むべき道は一つ、布団に入ると豊穣が。
「糞虫! 腕を貸しなさい」
「はらよ」
すると豊穣は俺の腕に抱き付いて体を密着させる。
柔らかい女性特有の体の感触が気持ちいい。
一見すると全く自己主張していない豊穣の薄い胸も、ここまで密着するとここにいるよと自己主張を開始。
豊穣はさらに体全体を俺の腕に押し付ける。
鼻孔をくすぐる豊穣の体から発する芳香。
シャンプーとボディソープの香りだろうが、とろけるような甘い香りがする。
「豊穣もう少し力を抜いてくれ」
「ゲロ駄目よ!」
『駄目! あんな奴に私が奪われない様に、自分のものだって私に浅井君の匂いをつけてほしいの』
なるほどやけに今日は積極的だと思ったが全道の一件で思う事があったという事か。
さらに力を籠める豊穣しかし男の俺からすれば弱い物でさらに体を密着させる。
「もう少し離れてくれドキドキして眠れないから」と遠巻きに言ったつもりだったが逆効果だったな。
まぁ仕方ない無心に徹すれば寝れるか。
「じゃ電気消すぞ」
「ゲロ!」
『一杯すりすりして浅井君の臭い付けておくから! これで私は浅井君の物だね! なんてね! うふふふ』




