0009演劇毒舌「シンデレラと」ツッコミ王子」後編
「というわけで寄生虫の坩堝――舞踏会にでるはめになる王子様! 次回【怪盗シンデレラVSつっこみ王子~交わる拳は何を語る~】待て次回!」
「普通にそんな展開は多分ねーからな! 舞踏会の古臭い勘違いネタを使っても誰も笑わねーからな!」
舞台の袖で吉田さんの天の声にツッコむ俺。
それと同時に照明は消え体育館暗闇に包まれ、数秒たつとと舞台中央に移動した俺にスポットライトがあたる。
「チッ! バレたか! そうですよ怪盗との戦いは嘘ですよ! 嘘!」
「なんで逆切れしてんだよ!」
「だってここアドリブですよ! 勢いで何とかしろといったの貴方じゃないですか!」
「そういうメタい発言は控えるように」
「そんなわけで怪盗設定は嘘八百なのでシンデレラは何も盗みません! おっと王子のハートは別ですがね!」
「なんだそれ! 伏線の使い方紙くずよりひでえ!」
「えーだって怪盗設定のお話台本に書いてませんし」
「だからメタい発言は控えろ! ただでさえ世界観ぶち壊してるだから!」
「えーーーーーーと、驚いたぐらいでいいですかね! これで尺は稼げました! シンデレラは短い内容ですかね! こういう時に稼がないと!」
「なんてぶっちゃけすぎる天の声だ!」
「そんなわけで怪盗なんて嘘ついてテヘペロ! ついに交わる運命! 毒舌シンデレラとつっこみ王子初めての対面! シンデレラの吐く毒は王子の心をとらえることができるのか!」
「待て次回! って何言わせんだ!」
「一方舞踏会の開催されている王城、エントランスに到着したシンデレラはその美しさから会場の男性の注目の的ですが」
「私と一曲踊っていただけませんか麗しの君」
スポットライトがあたり、貴族役の演者が片膝をつきダンスへ誘う。
「ゲロだめよ! 貴方みたいなゴミ袋顔には使用済みティッシュがお似合いね!」
酷い事を言うわれても動じず顔に出さない所はクラスで仏の銭盛と言われるだけがあるものだ。
「では、私と!」
「駄目ね! 見かけばかり気にしている自称イケメンは永遠に重要はないわ! 外見で無理なら中身ぐらいイケメンになりなさい!」
凄い顔をする高橋、ナルシストにはきつい言葉だ。
ちなみに高橋はイケメンを自称しているが全然そうではない。
性格同じだ。
「毒舌の性で誰もダンスに誘えません。そこへ王子様が登場します」
「王子さまよ!」
「え! どこどこ!」
「カッコいい!」
「絶対私がハートを射止めるんだから!」
「沸き立つ女性たち一番最初に声をかけたのは、シンデレラの義理の姉フナムシお姉さまでした」
「王子殿下、私と一曲踊りませんか?」
「悪いけどそいう気分じゃないんだ」
「では私とはどうですか?」
「次はポリキャッ次女お姉さまが続きます」
「だから沿い言う気分じゃ……? 向うがやけに騒がしいな」
「王子様は二人の制止を払いのけ騒ぎの中心へ」
「この気持ちの悪い豚が!」
「ぶひー! もっとください!」
「よく鳴く豚ね! ほらもっと鳴きなさい!」
「お前ら何してんだだよ!」
「何ってこの豚がきつい言葉で罵って欲しいというから、ご希望にこたえているだけよ!」
四つん這いで興奮しているこいつの名前は伏せるが、根っからのM男で完全にこれはこいつからしたらご褒美だ。
一人だけ仮面をつけているがこんな性癖、人には見せられないからな。
「普通にやめて! ここはそういうお店じゃないから!」
「じゃあ何で楽しめってのよ!」
「普通にダンスに決まってんだろ!」
「ああマハラジャの」
「バブル時代! それバブル時代だから!」
「ジュリアナ東京の方ね!」
「どっちにせよ! 古いわ!」
「ディスコのボディコンダンスでもパラパラでもないなら、じゃあなんの踊りよ!」
「レパートリー古いし少なすぎだろ! というか俺一応王子よ! 何その態度新鮮すぎだろ!」
「仕方ないわね! 糞虫王子!」
「悪化してんじゃねーか!」
「仕方ないから貴方と踊ってあげようじゃない!」
「なにこの急な進行! 誘う要素一切ないじゃん!」
「うるさいわね! 糞虫! いいから手を貸しなさい!」
無理やり俺の手を取る豊穣。
「あっ……」
豊穣が甘い声を漏らした。
『あ……浅井君と向かい合って……大好きな浅井君と……これは演技で……でもでも……浅井君と……』
テンパる豊穣の心の声に俺は。
「まぁ落ち着けって、ダンスでもして和もうぜ」
「ゲロ! いい案じゃない糞虫の王子!」
俺の手を離し声を上げる豊穣。
「それ糞虫の中の選ばれたエリートに聞こえるからやめて!」
「仕方ないわね! 銀蠅で手をうつわ!」
「成長しちゃってるよ! いい加減、糞虫から離れろ!」
「しかたないわね! ゲロシャブ三郎でいいわね!」
「お前どういう思考回路してんだ! なんだゲロシャブ三郎って!」
「ゲロシャブ三郎をしらないの?」
「知らねーよ! 誰だそれ!」
「私のおじさんの昔の芸名よ!」
「知ってるわけねーだろ! そしてそいつを俺につけるな!」
「ちなみに今の芸名はゲロ空HIBARIよ!」
「今は亡き往年大物歌手を汚すな! 苦情来るぞ!」
「当たり前じゃない! おじさん元には、ありとあらゆる悪意のこもったプレゼントが来るんだから!」
「じゃあやめろよ! 何考えたんだ!」
「何って男の子のことよ! 芸人だけに!」
「普通におじさん馬鹿にしてんじゃねーか!」
「馬鹿になんかしてないわ! 彼氏と外国で結婚式を挙げたんだからおじさんは本物のよ!」
「なんでおじさんがそっち系の本物って論点なってんだ! 話を戻せ!」
「こうして二人は結ばれ、仲良く暮らしましたとさめでたしめでたし!」
「戻したついでに終わらせるな! ダンスだろダンス!」
「そうだったわね! さあ来なさい!」
拳を構える豊穣。
「なんでファイテングポーズをとってんだ!」
「えっ? 私たちの関係ってこれでしょ?」
「違うわ! なんで王子とシンデレラが拳語り合うんだよ!」
「よく言うじゃない! 恋人同士は拳で語り合うって!」
「そんな血みどろな恋人がいるか!」
「ちがったわね! 恋人同士は瞳のレザービームで、機体が完全破壊されるまで撃ち合うだったわね!」
「なんで恋人同士改造手術受けてロボット持ってんだよ!」
「当然ご都合主義よ!」
「そんな一発ネタに使うだけのご都合主義があるか!」
「ご都合主義は世界のテンプレなのよ! だから一発ネタだけに、世界の法則だってねじ曲がっていいじゃない!」
「どういう願望だ! そんな世界あったら世の中終わりだろ!」
「とまあ冗談はこれくらいにしてレッツダンスよ糞虫!」
「強引な進行ってもんじゃねーぞ!」
「いいから手を貸しなさい糞虫」
『やっと落ち着いてきた。これなら踊れそう』
ちょっと豊穣さん。
今までのくだりに何んで落ち着くんですかね?
それよりどうするんだ。
俺、練習なんかしてないからダンスなんて踊れねーぞ。
台本にもするなと書いてあったし、当然豊穣も同じだろう。
どうするんだこれ?
「さあ踊るわよ糞虫!」
『レッツダンス浅井君♪』
「いや俺たちダンスの練習してねーじゃん。無理だろ」
「無理を通して道理を蹴っ飛ばすのよ!」
「なんで○レンラガンなんだよ!」
『大丈夫! 私の溢れる浅井君へのラブパワーがあればへっちゃらよ!』
こいつ舞い上がって、無茶苦茶な事考えてやがる。
「私に続きなさい糞虫!」
俺の右手を強引に取りほんのり頬を染める豊穣。
「ちょっと待てってお前……」
『えへへへ、今日の為にしっかり練習したんだ。しっかりリードしてあげないと』
練習したのか、これ心配だな。
絶対失敗する気がするんだけど……。
悩むこと数秒。
カーンカーン
十二時の鐘が鳴った。
いわゆる時間切れってやつだ。
有名なシンデレラの退場劇であるが……
「さあ踊るわよ!」
豊穣は諦める様子は欠片もない。
っておい!
「いや帰れよ! そういう展開だろ!」
豊穣はノリノリでダンスへ誘う。
「今こそ無理を通して道理を蹴っ飛ばすのよ!」
「いやダメだろ! 劇的に蹴っ飛ばしていい道理じゃねーよ!」
「うるさいわよ! 踊るったら踊るのよ!」
『ええええ。せっかくだから踊りたい!』
ぐいぐい来る豊穣、こいつ本気だ。
すると助け舟意外なと所から。
「そこまでだ! シンデレラ!」
魔法使い――木下の登場である。
「シンデレラ時間切れだ! 帰るわよ!」
「いやよ!」
即答する豊穣。
「仕方ないやっちまえ! 精霊ども! シンデレラを強制退場だ!」
「「「キーーー!」」」
だからんなんで、精霊が〇ョッカーの戦闘員なんだ。
「ちょ……待ってダンスが……」
戦闘員もとい精霊に連れられ豊穣はフェードアウト。
ちなみにガラスの靴は落としていない。
しかし、これは台本どうり圧巻の木下クォリティである。
そして一端照明が消えた。
最初から分かってはいたが滅茶苦茶すぎる。
そんな誰もが感じる感想を噛み締め次の場面へ。
「魔法使いの介入により、ハチャメチャのままに舞踏会は終わりを迎え、二日がたちます。その時王子様は物思いにつけっていました。その相手はもちろん」
「はぁ……」
溜息を吐く俺は視線をテーブルの真っ赤な林檎に移す。
「どうかなされました。王子殿下?」
「なんでもない……」
「王子殿下さきの舞踏会の麗しの君のことですうな?」
「やはり、爺には隠し事はできないか……」
「しかし王子殿下あのような無礼方を何故気にかけているのでしょうか?」
「わからんのだ。あの時こんなに会話のやり取りが楽しいと思ったことがなくてな」
「確かに王子殿下ともなれば、無礼な態度をとるものなど普通は皆無ですからな」
「だからこそ父上をとめ彼女を免罪にしたのだ。この国では王族の侮辱罪は極刑だからな」
「なるほど、考えてみれば王子殿下にぴったりの相手かもしれませんな。あの舞踏会で王子殿下のツッコミの切れは感服いたしました」
「だからもう一度会えない事かと」
「しかしながら、どこの誰とも分かりませんからな」
「だがこの国の人間であろう? どうにかならんか爺」
「……国中にお触れを出だしましょう」
「だが、どうやって? 手がかりは何もないぞ。せめて靴一つでも落としていれば別だろうが……」
「大丈夫です。その爺めにいい考えがあります。これを使うのです」
そういって老執事役の吉田がテーブルの真っ赤な林檎をとった。
「こうしてツッコミの王子とボケの毒舌シンデレラは運命に導かれます。お互いを引きあい求めあうボケとツッコミとして」
「後日国中の女の子が一同集められました。しかし、その中にはシンデレラの姿はありません。それもそのはず意地悪な姉たちは、シンデレラには今日の事は秘密にしたのです」
「王子殿下、全ての国中の乙女達がこの場に集まったとのことです」
「ではいくか、爺こんな方法で大丈夫なのか?」
「おそらくは大丈夫かと、麗しの君は王子殿下のお気に召す対応をするかと思われます」
演者の女子生徒たちが待つ場面は移行する。
それに合わせて俺たちも移動すると言っても実際は舞台装置を置き換えただけで大した移動はしていないが。
用意された舞台上のステージの上に椅子とテーブルが一つづ置かれテーブルの上には真っ赤な林檎が一つ。
俺が椅子に座ると老執事役の吉田が言葉を放つ。
「お集りの淑女諸君、これより王子殿下選考オーディションを始めます。我こそは思う方は挙手をお願いします」
「まず私が行くわ!」
真っ先に挙したのはフナムシお姉さまもとい相沢さんだ。
演技なのだろ自信に満ち溢れた顔をしている。
うか
「そちらのかた、どうぞステージへおあがりください」
「何をしたらいいのでしょうか? 王子殿下」
代わりに老執事役の吉田が答える。
「では、この林檎を使ってボケてください。それが王子殿下のお眼鏡に叶えばめでたく王子殿下の妃候補になることができます、でわよいボケをお願いします」
ざわざわと動揺の演技を見せる演者達。
「やってやろうじゃない!」
声を張り上げた相沢さんは林檎を取りそれを頭にのせて。
「たんこぶ!」
…………目も当てられな世紀の駄々滑りである。
ここのセリフだけだけは演者のアドリブだがこれは、仕方ないのでツッコミを入れる。
「普通にツッコまなかったら、大惨だからね! 大惨事だからね! 重要な事なので二回言いました!」
「たんこぶができちゃった♪」
今度は可愛らしくノリノリで同じボケを繰り出す。
おいおいマジか。
「すげーメンタルだな! 可愛くノリノリに改めて言えば面白くなるわけなーからな! 爺次!」
「お姉さの次私よ!」
そう声を上げたのはポリキャップ次女お姉さまもとい横田さんだ何故かこちらも自信満々だ。
横田さんは林檎を左目に当てて。
「目が赤くなちゃった!」
さきほどと同じ空気が流れる。
これツッコまないとダメだろ。
「自信満々でよくこれができたな! あんたらの心臓オリハルコンで出てきてるんじゃねーか!?」
「そ……そんな私の渾身のギャグが……家族は大爆笑だったのに……」
「お前のリアル家族どんだけ笑いの沸点低いだよ! まさに笑いの絶えない家庭かよ! 幸せ家族乙! 爺次!」
「こうして妃選考ネタ見せは続きました」
「それから、妃選考オーディションという名の一発芸ネタ見せ会は続きます。しかし、一向に王子様のお眼鏡にかなう女性は現れません」
「爺これで全員なのか、先ほどで最後だったが彼女がいないのだが……」
「おかしいですな。先の舞踏会は自国民以外には伝えていないはずですが……この中に来ていない者を知る者はいないか?」
老執事役の吉田の張り上げた言葉にざわめき始める演技をする女子たち。
「毒舌シンデレラじゃない。いないのあいつだけだし」
「確かにでもあの子いつも汚い格好してるわよね。それとアレだからこの場に呼べると思う?」
「確かに」
「静粛に、この場にいない者がいるのだな? その――」
「私はここよ!」
豊穣がさっそうと登場する何故かカボチャの馬車で。
まるわかりじゃねーか!
ここら辺は少し台本と違うな。
そろそろ終わりだから気を引きしめねーと。
舞台袖に木下がいるし、最初に言っていたイベントやらでもする気なのかもしれない。
カボチャの馬車からおりた豊穣は。
「フナムシお姉さまポリキャプ次女お姉さま酷いですわよ! こんなネタ見せお笑い会に誘わないんなんて!」
「シンデレラそう見えるのは確かだけど、そういう会じゃないから!」
「そうよ私たちが考えた渾身のギャグが全く通用しないのよ! 実家では大爆笑なネタだったのに!」
マジであれで笑いを取れると……こりゃぁ……あえてスルーだ。
「いいから私の番ね! ポリムシお姉さま!」
「二人のあだ名まとめやがった! 一体何の虫よ!」
吠える相沢さんを無視してステージに上がり。
「さて覚悟する事ね! 私の渾身のギャグを食らいなさい! っでお題わ?」
「こちちらの林檎でボケてください。試験はそれだけです」
「わかったわ!」
豊穣は林檎を片手で取って。
「林檎!」
豊穣にこの場全てが集まり、場に張り詰めた静寂が訪れる。
「以上よ!」
てっえぇえええええええええええええええええええ!?
「ちょっと待て何ださっきのボケ!」
何故か良い仕事をやり遂げたように、したり顔の豊穣にツッコむ。
「何って林檎が林檎だったという意表を突いボケじゃない!」
「意表つきすぎだわ! つまらないとか面白いとかと別次元じゃねーか!」
「何ってこの劇糞虫のツッコミが重要でしょ! だからやりやすいボケを選んだんじゃない!」
「発言がメタいわ! 何だその俺に対する信頼感! この場をなんだと思ってるんだ!」
「何言ってるの。これクラス総出のお笑いライブでしょ?」
「どこかで聞いたような事を言うな! 一応これシンデレラの演劇だからな!」
「〇っふんだ!」
「なんで、しむたけんなんだよ!」
「えっ……ムジテレビの馬鹿大名様だとそろそろ、変な武将さんがでてくる頃合いでしょ?」
「明らかにこれと違いうからな! 局とか放送枠とか全部丸ごと一切間関係ねーからな!」
「チッ! 変な武将さん出てこないのね!」
「なんで、分かりきったことで舌打ち半ギレなんだよ!」
「奇跡が起これば可能もしれないじゃない!」
「貴重な奇跡をどんだけ無駄したいんだお前!」
「王子殿下、王子殿下」
老執事役の吉田が俺を揺らす。
「何だ爺?」
「どうやら麗しの君が現れたようですな」
自分と豊穣に視線を順々させる演技をして一旦心を落ち着ける。
さてこれで終わりか。
少しマジになってて忘れるところだったぜ。
と最後のセリフを言う為口を開きかけた時だった。
「その告白待った!」
[私も参戦するわ!」
「そうですか、可愛らしい魔法使いさんでわ、ステージにどうぞ」
ここは完全に俺の台本書いていない場面だ。
本来ならここで王子役の俺がシンデレラに告白終わりのはずだが、木下はどうするつもりなのか皆目見当がつかない。
ここまでほぼ台本どうり――木下の掌の上であったのだ。
この俺の困惑も計算済みなのかもしれないと思えてしまう。
一体木下は何を考えているんだ?
「でっどうすればいいだ?」
ステージに上げった木下は呆気にとられて固まっている豊穣の脇に陣取る。
それ遅れる事数秒我帰った豊穣が声を張り上げた。
「私のギャグに挑むなんていい度胸じゃない! 雌ブタ一号に私渾身のギャグが超えられるかしら!」
俺をちらりと見た豊穣と一瞬目があった。
『ちぇ、もうちょとで劇の中だけだけど私の夢が叶ったのに、現実同じで中々片思いは叶わないな……』
まじでそれの想いを普段の自分に還元してくれないですかね? 豊穣さん。
「でわ、魔法使いさんこれでボケてください」
林檎を差し出しす老執事役の吉田に対し魔法使い木下は。
「いいや、恋の魔法って言ったらこれだろ! 王子ちょっとこっちまで」
ちょいちょいと手招きする木下に近づく。
目の前に行くと木下は正面から首に手を回した。
こんなシチュエーション身に覚えがあるな。
そのまま背伸びをして顔を近づける木下。
完全に前と同じパターンか。
「きの――魔法使いこれって――」
言いかけた言葉を木下は心の声で遮った。
『今回は本気だ。お前の唇の初めてもらうぜ』
そのまま木下は自身の唇を一気に俺の唇に重ね合わせた。
唇に柔らかい感触が伝わり、木下の呼気が解けるほどに熱くて甘い。
女の子の吐息ってこんなに熱くて甘いものなのだろうか。
『舌をいれるのは、お前が俺を選んでくれるまでお預けだ』
唇を離した木下は心の声をさらに続ける。
『ほら、あいつに揺さぶりをかけてやったぞ。もうこれで終わりだ、ちゃんと決めろよ!』
木下の言葉で我に返り豊穣を見た。
豊穣はぴくりとも動かず俺たちを見つめていた。
次に双眸から光る物が溢れ出した――涙だ。
「シンデレラ大丈夫か?」
「だ……だいじょびゅにちうがいないじゃない」
涙声でセリフはぐちゃぐちゃだ。
そうとう来たらしいな。
『そんなひどいよ……浅井君の唇の初めて私がもらいたかったのに……』
さて、どうしたものかこの状況を治めつつ。
豊穣をないがしろにしない方法は少ない。
木下そうとう難易度が上がってるぞ。
何かスイスイラストまで進んだが、ラスボスだけやたら強いゲームをプレイしている気分だ。
はぁ、嘆いても仕方ないか。
泣きじゃくり小さく震える豊穣を優しく抱きしめた。
「なによ! ぐじょむしはなしなさう」
涙でろれつの回らない豊穣に、そのまま言葉をやさしくぶつける。
「こんな気持ちは初めてでこれが好きか確信はもてないけどあえて言います。シンデレラ、貴方が好きです」
豊穣の震えがとまった。
「その本心をださないテレ隠しのやり取りが好きです」
仄かに回した手に伝わる体温が熱くなるのを感じた。
「貴方の毒舌はツッコがいがあって楽しくて好きです」
豊穣は顔上げた。
涙は止まっているが涙の残り香が、照明にてらされ小さな星屑のように光り輝き、豊穣の麗美な顔に最高の化粧を添える。
「貴方が好きですシンデレラ、私と結婚してください」
なんか普通に豊穣に告白している気になって来てすごい恥ずかしいのだが。
これは演技だわかってるよな豊穣?
豊穣は顔を真っ赤にして俺を見つめている。
うん、勘違いしてるねこれ。
目をつぶり唇を尖らせる豊穣。
どうするか迷うが。
吉田さんの天の声が決断するその前に幕を引いた。
「こうして毒舌シンデレラは王子様と結ばれ、ちゃっかり魔法使いは第二婦人の席に収まり、三人いつまでもいちゃこら仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」




