魔王とは
西暦3000年。
世界のどこかにいる魔王を倒し、真の勇者を目指す人々。
俺もその勇者になろうとしている一人である。
しかし魔王は誰一人見たことがないと言う。
「あ、俺の名前はレジェンド。一応勇者目指して旅に出てます」
「あんた、誰に説明してるのよ?」
俺の自己紹介にパートナーのモコが反応した。
「あ、こいつはモコで、一応魔法少女・・・いや、魔女だゴフッ!」
「誰が魔女だってぇ!?」
俺が紹介する前に腹に一発鉄拳が入った。
「それにしても魔王を探してもう五年、未だに姿を見た奴がいないってのもおかしな話だよな?魔王なんて実際いないんじゃないか?」
「それ言っちゃうと私達のこの五年すべてを否定することになるわよ?」
俺の質問に痛いところをつくモコ。
「仮に魔王がいなかったら森や山や草原にいる魔族も存在しないはず。だから魔王は絶対にいるとみんな信じて旅をしている・・・か」
そう勝手に解釈して世の中に発表した奴のせいで魔王を倒そうって考えをする奴がゴミのように増えたんだったな。
まったく無名の科学者が、
「私の研究によりますと、この世界にいる魔族は魔王によって生み出されている。魔王を殺せば魔族も消える!」
なんて発表してはや五年・・・。
世界の人々はそれを真に受け勇者を目指す人、勇者の手助けをする店が大量に増えた。
俺はそろそろだろうと思い、モコに自分の気持ちを話すことにした。
「この五年間、旅をしてきて思ったことがある」
「何よ?」
俺の話にモコは「?」を頭に浮かべていた。
「まずはモコの腰回りがお太くゴハッ!」
「誰が腰が太いって!?」
モコの回し蹴りが俺の肋を砕いた。
「じょ、ジョーダンですごめんなさい」
俺は肋を抑えながらよろよろと立ち上がり、
「で?思ったことっていうのは?」
再び俺に問い詰めるモコ。俺はいつものジョーク顔じゃなく真剣な顔になり、
「この五年間、世界を色々回ってきたけど魔族の方から俺達に襲いかかってきたことがあったか?」
「・・・・・そういえば!ここ三年くらい魔族と戦ってないわね」
三秒ほど考えてモコは俺の言葉に同意した。
「俺も旅を始めて最初の二年は、魔族は倒すもの。って考えていたから俺達から攻めていたけど、ここ三年くらい俺達は魔族と戦っていない」
まぁ三年間、俺はそれが知りたくて魔族に出会ってもわざと逃げていたんだ。
「ちょっと待って。って言う事は魔王は存在しないってこと? え? え?」
モコは頭がパンクしそうな勢いだった。
「落ち着け。科学者の発表が本当だとしたら魔王が存在しないと魔族も存在しない」
「それはわかるけど・・・・あぁもう! どうなってんのよ!?」
モコは頭を手でグシャグシャして唸っていた。
「多分、俺が思うに魔王は邪悪な存在じゃない」
「はぁ? だって魔王よ!? 魔族の王よ? それが私達に被害を加えないとでも思ってるの!?」
「元に魔族は俺らを攻撃してこない! これが何よりの証拠だ!」
俺とモコはしばらく口論になった。そして、
「わかった。あなたの五年間はそんな無駄なことのために使ってきたのね? そんな考えの人と旅なんてごめんだわ。魔王を庇う勇者様なんて初めて聞いたわ。私は今後一人で行動するわ。あなたとはここでお別れします」
「そうか」
思った通りの結果になった。
俺は五年前、この旅が始まった時からこの結果が見えていた。
この世界の人々にとって魔王は悪、それを倒す勇者が正義。
考えは変わらない。
モコも同じだった。
「さようなら。五年間ありがとう」
モコはそう言って俺の前から去っていった。