森で遭難。ロリッ娘とその友達を家まで返さなきゃ
2-3
三十分か一時間か経った。俺と咲夜は二人で森を進んだ。咲夜はゴシックロリータファッション?で、肌の露出は肩から脚までほとんどないので草木で肌を切ったり、虫に刺されることは無かった。渉は肌の露出がある服を着ていたが、森は結構歩き慣れていたので肌が傷ついたりすることや、すりむいたりすることは無かった。
時折、咲夜が足をすべらせたりした。
「大丈夫か?咲夜。」
「う、うん・・・・」
咲夜の手を取り、立ち上がらせる。
なんとか麓まで、降りようとするが、人の道にはいっこうにつかない。
なんとかしなくちゃ。太陽の光は渉達にはあまり届かない。俺は太陽を浴びていないと不安になるたちなんだ。咲夜の手を握る。小さい手だ。まだ十歳だもんな。俺がなんとかしなくちゃ。
その時不意に空が曇るような不穏な空気を渉は感じ取った。気のせいじゃない。鳥たちが互いに警告しあっている。木々も渉に気をつけるように言う。
「ねー。渉。なんか鳥達が危険が近づいてくるって言ってるよ。」
不安そうにシュラが言う。シュラは鳥の話し声を聞けた。
ざわ、木が不自然な揺れ方をした。地面を何かが這いずるような音がする。
何だ・・・・?
咲夜とシュラは怯えて渉の後ろに隠れた。
何かが来る・・・・・
ひょこ、と木の葉を身にまぶしたような頭が突き出した。木の葉が二つ色が茶色になっており、そこが目のように見える。ある種の擬態生物のような。さわさわと揺れる葉をたなびかせながら、こちらを注視してくる。大きさは渉の膝上ほど。
「何だ・・・・・」
俺は肩の力を抜く。
「あ、あれ何なんですか?」
「あれはキーマって呼んでる。森に住む魔物の一種さ。まぁそんなに害はないよ。」
「そ、そうなんですか・・・」
「こ、こんにちわー。」
おお、相変わらず好奇心の固まりだな。シュラは。
ふよふよと浮いてキーマに近づくシュラ。
森の精霊から一つランクが落ちたような物が魔物なのだ。長く生きた魔物が精霊化することもある。
「でも気をつけろよ。シュラ。キーマは臆病な生き物だからな。」
「へー。」
にこにこと面白そうにシュラはちょっかいをキーマに出している。聞いてないなこの小ドラゴン。
「咲夜もおいでよー。こいつ面白いぞー。」
何かキーマに関することを忘れているような。なんだっけ・・・・・・・
がさがさ。茂みの中からキーマが二体三体と出てきた。
がさがさっがさっ!葉の大重奏。
四体五体六体七体八体九体・・・・
キーマが蠢いていた。
「そうだ・・・・・キーマは基本群れで移動するんだ・・・・」
でのまだ違和感がある。なんだろう。
「そ、それは早く言って欲しかった!」
キーマの集団が一斉に動き出し、俺達の方に向かって来る。
「きゃあっ。」
「わああっ。」
「情けない声を上げるなってシュラ。仮にもドラゴンだろ。」
目の前の来たキーマは蹴って押しかえす。ひっくり返ったキーマは、渉達の脇をすり抜けて行ったキーマ達を慌てて追いかけて行った。ムチのような2本の木のつるが渉達をぺしぺしと叩いた。
ドドドッド。とキーマ達はまたどこかへ行った。
「あっはっはっは。」
俺は取り合えす笑っとく。
「あはははははは。」
シュラも笑う。
「あはははははは。」
咲夜もとりあえず笑ってくれた。まっ我ながら短絡的だなぁと自己嫌悪する。子供の気持ちなんて分からないよ俺は。だから、まじ、俺一人でなんとかしなければいけない状況にはあんまり追い込まないで欲しいんだが。誰かここに他に頼れるやつがいたらなぁ。春日井でも久尊寺でも、黒繭でも、アリーシャでも。でもここには俺とシュラと咲夜しかいない。
やってやるさ。俺だって男なんだ。
額の汗を拭う。
「シュラ。上に飛んで見てきてくれないか。道が何か見えるかどうか。」
今さら思いついた。
「そっか。その手があったんですね。」
「えぇー。でも鳥が怖いし。」
咲夜と俺は顔を見合わせる。俺が下を見て、咲夜が俺を見上げていた。
その後、
「大丈夫だって!何かあればすぐに教えてやるし、鳥がいたら、石を投げて追い払ってやるから。」
「シュラならできますよ!」
「俺」「私」「「達シュラのかっこいいところが見たい」」「なぁ!」「です!」
「・・・・・・・・」
「し、しょうがないなー。」
まんざらでもない。というか褒め倒しされてプルプルニヤニヤと実に嬉しそうなシュラ。
「行くぞー!!鳥がなんぼのもんだーい!!」
ごぉっと真っ直ぐに飛翔するシュラ。
木々を飛び出し、天辺を超えたシュラ。
「あっ家が見えたよ!」
森がずっと続いているがずいぶん先に確かに渉達の家が見えた。
その時、シュラよりも1回り体の大きな鳥が襲いかかってきた。
「わぁーっ!」
「「シュラ!!」」
俺と咲夜は同時に叫んだ。
「ええい!」
俺は石を振りかぶり、思いっきり投げた。やはりというかトーシロの投石が目標に当たるわけがなかった。だが勢いよく放たれた石はその怪鳥に多少の動揺を与えることには成功したらしく、シュラから距離をとった。その隙をついて半狂乱でシュラが俺達の元へと戻ってくることができた。
俺はホッと息をついた。
「落ち着いて!シュラ!」
咲夜が手元に帰って来たシュラを落ち着かせようとしているがシュラは混乱していて、動転していた。
ようやく落ち着いたシュラ。
それから俺達は家の方向へと向かった。
何にも言わないがやはり疲れたし、不安だし、喉も乾いたんじゃないだろうか。咲夜は。くそっ。誰か助けてくれ!
森を先ほどの家が見えた方向に進む。バスケットの中に入っていた紐を渉は地面に垂らした。それを引きずりながら歩く。
「渉。何をしているんですか・・・?」
咲夜が不思議そうに聞く。
「ああ。こうしていれば、木や障害物に邪魔されても、真っ直ぐに進むことができるんだよ。」
「そうなんですか。・・・・渉は結構いろんなことを知ってるんですね。」
「山ボーイかー?」
「新しい言葉をつくるな。」
冷静に突っ込んでやる。
時折振り返って、糸が真っ直ぐかどうか確認する。糸が真っ直ぐなら俺達は真っ直ぐに進んでいるということだ。森の中ではただ真っ直ぐ進むことすら難しい。
岩の淵を歩いて、ひたすらに先ほどシュラが見た家の方向に進む。
「まっいざとなったらアリーシャや誰かがなんとかしてくれるさ。」
こくん。咲夜が頷く。
「でもそれでも時間かかりそうだよね。」
と、シュラ。俺も咲夜も、シュラもこの島の俺達の家族の力を全く疑っていない。そうさ。俺にできないことをいくつも簡単にやってのける人がこの島には住んでいるんだ。それにそんな人達が皆俺の味方なんだぜ。ふっ。何の心配もないぜ。ダウントリム直後の原子力潜水艦よりも信頼できる。
「あんまり皆に心配をかけたくないです・・・」
咲夜が沈んだ面持ちで呟く。咲夜は反省ができる、自分の悪いところを認められる子なんだ。
「だな。」
まっ。お姫様には笑っていて欲しいから、早く笑顔を取り戻すために家に帰らなくちゃな。
また、木の葉を見に包んだものが現れた。茅葺きのようなシルエット。それを遠目から見て渉は止まった。
「キーマですか?でも一匹しかいませんね。」
「群れで行動するんじゃないのー?」
二人の質問に俺は答えられなかった。汗が頬を伝い、顎から滴り落ちただけだった。
咲夜の無垢な顔が渉の方を不思議そうに見上げたが、渉はあの異形のものから目を離さなかった。
なんてこった・・・・・木や鳥達が警戒していたのはこれだったのか。
「あれはだめだ。」
声をかなり落とし、向こうに俺達を気づかれないようにする俺のただならぬ様子に黙っている咲夜とシュラ。それでも次の俺の言葉には驚く。
「迂回する。それも大きく。」
ゆらゆらと葉を揺らすあれ。あれはまるで生命を持たない物が生を真似するように、演出するように、揺れている。キーマに酷似しているが全くの別物。
足早に、それでも最新の注意を払ってこの場から去る。蒼白な俺の顔面を見てきて、咲夜もシュラもとりあえず俺に倣う。いい子達だ。
キョーキョーという鳥の鳴き声が遠くの方で聞こえる。ここは人の天下の森ではない事を咲夜とシュラにはっきりと教えるかのように。だから咲夜とシュラはいつものお互いに以上にくっついてあたりに注意した。やっぱりこのペアはいい。ひょっとすると俺よりある場面ではずっと強いかもしれない。でも一人より二人なように二人よりも三人だな。
「あれはなんだったんですか?キーマですよね??」
十分離れたところで、声を落として渉に問いかける咲夜。
「あれはキーマじゃない。キーマは木の葉をかぶった魔物でそのその下には血が流れる肉体をもっているけど、あれは違う。似ているけれど、全く違うんだ。キーマは何のために葉っぱを身にまとっていると思う?」
咲夜とシュラは考えた。
「擬態です。葉っぱの振りをして天敵から身を隠すんです。虫とかでもたくさん擬態をする虫がいます。」
「そう。グリフィンドールに十点。キーマは擬態しているんだ。もっと強い魔物や動物、精霊から身を守るためにね。」
俺の知っているやつにも超一流の擬態の使い手がいる。『人間の』だ。そいつの姿が脳裏に浮かび、俺は自然と微笑を浮かべた。『他人の認識をずらす』ことができるあいつ・・・・・
・・・でもあいつはここにいない。俺は解説を続けた。
「だが、あれは違うんだ。時に洗濯物に、時にビニール袋の形を取り込む。あれは肉体を持たないから肉体を欲しがっているんだ。・・・しかし、まさかこの森にいるなんて。」
「・・・・あれは何なんですか?」
「・・・・・・・分からない。」
誰にも。漆原にも、久尊寺にも、そしてアリーシャにさえも。
あんなにすごい人達にも分からないから、俺は怖いんだ。
俺がそう答えたっきり咲夜もシュラも口を聞かなかった。まるでその話をすれば突然それは影を呼び寄せ、実際に現れてしまうとでもいうように。
やつは追いついてこないだろうか。何にせよ近づきたくはない。ああしていると本当にキーマそっくりで気づかなければ危なかった。
さて、俺も疲れてきた。しかし、もうちょっと頑張るよ。うん・・・・・
もうちょっとだけ。
「もうちょっとだけ、頑張ってくれ。」
「はい。」
「うん。」
咲夜とシュラが返事をする。