ロリッ娘とその友達がついてきてた
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しかし、どうしたことだろう。猫じゃらしがおはじきになって、おはじきがバスケットいっぱいのクッキーになった。
クッキーをサクサクと食べる。一枚だけ。程よい甘さの実においしいクッキーだ。うまぁい。
でもあんまり食べると喉が乾くし、一気に食べちゃうのは勿体無いしな。
橋を後にして道を行く渉。
渉が歩いていると分かれ道まで来た。こっちの道はあんまり来たことが無かったなぁ。さて、右と左どちらに行こう。左だ。
渉はどんどん山奥に進んでいった。うっそうとした様相を呈してくる。道無き道とまでは行かないが左右がもはや木と草で覆われていて、空を仰ぐとほとんどが葉で覆われていた。こういうところでは精霊の力が強く働く。
さわさわと揺れる葉のさざめきや、鳥達の声が心地いい。木や、鳥達がのどかに過ごしていることから危険なことはなさそうだ。
森を進む。この探検気分は悪くない。鼻腔を樹木の臭いが刺激する。
うん。悪くない。
がさがさと時に道無き道無きを行く。心地いい汗が頬ににじむ。
がさっ。その時渉の耳に木々が揺れるような音がした。瞬間的に体が固まる。大型動物か?この森には正直何が住んでいるのか分からないところがある。
明らかにこれは大型動物の音だ。と渉は直感した。そして、体が文字通り硬直した。全くもって動かず、目と五感のみを総動員してその音のした方向を見ていた。逃げようとか頭では考えられない。そういった思考は頭から吹っ飛んでいた。
薄暗い茂みの闇が濃くなったような気がした。
そこから・・・・・・・大型の牙をもった恐ろしい獣は出て来なかった。
代わりに出てきたのは渉も良く知る少女だった。
その少女は鏡音咲夜だ。ともすればきょとんとした様子で渉の目の前現れた蓬色の髪の少女。
「さ、咲夜?」
何でこんなところに?という疑問。
「ついてきちゃったのか?」
こくんと頷く咲夜。
「渉を見かけたから・・・・その・・・」
「咲夜は悪くないぞー!」
これは咲夜の友達の小さなドラゴン。パープルスコットランド種。
「怖かったよ~~!!」
小ドラゴンのシュラが渉に突進してくる。いてて、刺が痛いって。額のところにある刺が顔にあたって痛い。他の部位はほとんど羽毛なのだが。
咲夜も渉に抱きつく。心細かったのだろう。渉は顔に小ドラゴンと腰に咲夜に抱きつかれて、困った顔で立っていた。
「・・・・・で、これからどうしようか。家に戻ろうか。」
「はい。帰りましょう。」
鳥の声にシュラがびっくりした。おおげさな驚きようだ。
「ぎええええええええ。」
「鳥にびっくりするドラゴンって。」
渉が笑う。
「僕は都会育ちなんだー。」
ははは。と笑う俺。シュラの肉球や、顔をぐりぐり、ぐにぐにしてやる。
「まっ。任せなさーい。この渉君が咲夜お姫様を安全なところまでエスコートしますよ。」
手を広げて紳士を振る舞う俺。いや、振る舞いだけでなく上妻渉は紳士なのだ。うん。
「僕は僕はー?」
勢い良く言うのはシュラだ。
「なんだか春秋みたいです。渉。」
ジト目で言う咲夜。
げっ。まじか。長く春秋と居すぎたのは俺の方だったか。
「そんなに春秋っぽかった・・・・?」
「はい。」
ガーン。ミイラ取りがミイラに?いやちょっと違うか。
「ごほん。気を取り直してしゅっぱーつ。」
指を帰り道の方に指さして見る俺。
「おー!」
シュラはノリがいいねぇ。お兄さん助かるぜ。
十分後。
「ま・・・・迷った・・・」
悲愴な顔で立ちつくす俺。
「ワホー!!」
アの発音がワになってしまうんだよね。シュラは。などと顎をぐりぐり押し付けられながら解説する俺。
「本当に分からなくなってしまったんですか?」
不安そうに聞く咲夜。
「はい。遭難です。」
「そんなぁ。」
「ワホー!!何とかしろー!」
「ああ。もちろん手は打ってあるとも。」
そう言って渉はニヤリと笑い、バスケットを持った手を掲げた。
「中身がクッキーだ。古典童話に習ってね。クッキーの欠片をばらまいておいたのさ。」
「わぁ!流石渉です!えーっと、ヘンゼルとグレーテルですね!」
「そうそう!咲夜は物知りだなぁ。」
そう言って俺は咲夜の頭を撫でた。いつもなら子供扱いしないでください!って言っちゃうので俺は少し寂しいところだけど緊急時だけに何も言わない。
「・・・・・でも、それってお話の中じゃ鳥に食べられちゃうんですよね・・・」
三人、いや二人と、一匹は振り返った。
丁度大型の鳥がクッキーの欠片をついばんでいた。くけけと怪鳥のような鳴き声を鳴らして飛び立つまで俺と咲夜とシュラは黙って見ていた。
「「渉のワホー!!」」
二人がハモって渉にいう。しかもその後ぽかぽか叩くわ、蹴たぐられるわ。
「ちょっ肉体言語禁止!」
もうどうするんですか!という咲夜の声が森に上がる。
他に方法が思いつかない。ので、山道をこれだと思った方向に進む。大丈夫か、これ。実は結構やばいんじゃねえの。俺一人がどこでのたれ死のうと構いやしないのだけれど。いや、でも皆が悲しんでくれるか。皆の事を考えた。後ろの咲夜の存在が俺に強く、なんとかしなければと思わさせた。手をしっかりと握ることにする。はぐれたら大変だ。
まったく、ほんとにふざけている場合じゃなくなってきた。やれやれ自然の力というのはやはりとんでもないものなんだな。