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下人が笑う-4

5-5

 その夜、深夜。


「(今日は・・・・・誕生日か。)」


 15歳の誕生日。


 誕生日おめでとう。誰でもいい。誰か一人でもそう言ってくれたら。そう言ってくれたらもう充分だ。

 そんな時家族の顔が頭よぎるのだった。どうしても思い浮かべてしまう。呪縛のように。血の呪い。あんな仕打ちしかされなかったのに。心の中では渉に優しくしてくれた親の気まぐれの瞬間が強く留まれていた。

 親が気まぐれに渉にやさしくしただけだったが、幼い渉はそのことをほとんど忘れなかった。


 実際の親は渉のことなど忘れて、娘2人と息子1人で楽しく幸せを絵に書いたような暮らしをしていた。その家庭では息子の渉など初めから存在していないことになっていた。


「(・・・・・早く死にたかった。死んで何もかも分からなくなりたかった。もう何も感じたくはなかった。)」


  「(なんど最悪の気分、真っ暗な、そうどこまでも沈んでいくような・・・何のことも考えられなくなり、動くこともできなくなるくらいの絶望に全てを壊されながら!それもたった1回じゃない!何度も!何度も!!何度も!!)」



 Am1:14


 渉の誕生日真っ暗な遺体安置所のような場所でどこにも行けない魂がいた。

  渉は底なし沼に落ちていくような感覚だった。繰り返される苦しみ。無為に毎日が流れていく。人生の喜びも知らず、渇望も知らず、何にも知らず、何にも分からず、毎日が過ぎて行く。


「(こんな自分に誰が興味を持つというのだろう。こんな自分を誰が好きになるのだろう。自分は誰かに好きになってもらいたいのか?自分はまた、反対に誰かを好きになりたいのだろうか。分からない。気持ちがぼーっとしている。何故考えることによってさらに苦しまなければならないのか。考えることは苦しい。闘うことも。こんな自分の考えの裏付けや理由なんかを語っても何になるんだろう。何を生むんだろう。何にもならない。自分の心の井戸をいくら掘ったってそこには何もないのだ。・・・・・・ああ・・・ああ・・・・。ぼーっとしている。苦しみと苦しみのインターバル。自由への、光へのチケットはどこで買えるのだろう。何をすれば手に入れられるのだろう。)」


 Am1:44


「(・・・もう疲れたんだ。生きていたくない。もう無理だ。もう無理。もう限界だ。辛かった。辛い人生だった。辛くて辛くてしょうがない人生の最期はとても辛い気持ちだ。もう何もしたくない。何もかも中途半端だった。それを欲しいと望みながら心のどこかでは望んでいなかったのかもしれない。本当に望んで、望んで望んで望んで、一生懸命やって、それが手に入らないことの辛さを分かっていたからかもしれない。そんな辛さを味わうくらいなら最初から手を伸ばさなければいい。そうすれば傷つくことも真の絶望を味わうこともない。)」


 Am2;22


「( 疲れた。もう生きていたくない。辛いことしか起こらない。進んだ道はたったひとりになってしまった。辛い。辛いような激情はもはや起こらない。ただただ虚無感が広がっている。苦しい。今日始めてもう生きていたくない。ではなく、死にたいと思った。死ぬことを希求した。ここはどこなんだ?俺は何をしているんだ?疲れた。許してくれ。)」


 Am2:35


「( 毎日毎日もううんざりだ。誰か。誰かいないか。あー・・・もう疲れた。)」


 Am2:39


「( 分かるんだ。もっと・・・もっと生きていたいって思いたい。そう思えるほど毎日を幸せで満たしたい。満たされ、満たす。そんな日々になればいい。もっと生きていたい。そう強烈に思えるような出来事を。手に入れたくて手に入れたくて仕方ないものを手に入れたい。ああ・・・・誰よりも幸せになりたい。日本で一番幸せになりたい。中国を含めても一番幸せになりたい。韓国も。インドも。北朝鮮のどの人民より、アメリカの国に住んでいる誰よりも、誰よりも幸せになりたい。幸せで幸せで幸せで仕方なくなりたい。生きているっていうほとばしりが全身から出ているみたいに。かつて囚人だったら誰でもそう思うさ。まぁ今現在進行系で囚人なのだが・・・ああ、生きていてごめんなさい。生きていてすみません。ごめんなさいごめんなさい許してください____メンヘラみたいだね。異国の城に観光に行きたい。自分だけのものにしたい。ははは。ふふふ。あはは。あー・・・手に入れたら・・・・君は死んじゃうんじゃない?まさか・・・・手に入れて死んだやつはいない。)」


 Am3:57


「 (世界を滅ぼすことが出来る力が君に眠っているって言ったらどうする?嘘じゃないよ。本当だ。本当にある。でも君の中に眠っている。今すぐできるかどうかは君次第。君が望めば望んだことを実現できるのさ。君の心と、頭の中だけだけどね。何?そんなんじゃ意味が無い?思ったことは実現のための第一歩なんだ。考えなきゃ何も生まれない。考えることこそが人類の最大の武器かもしれないね。ああ、手に入れたいと考えている時だけが生きていられる?何をどうしたらいいんだ?ああ手に入れたい。勝ちたい。勝ちたいんだ。理不尽に。苦しみに。寂しさに。心に穴が空きっぱなしなのさ。手に入れたい。手に入れて手に入れて手に入れて手に入れて手に入れて手に入れて手に入れてそして死ぬ。いや、死さえも超越する。俺は死んだらその魂は誰かの人間の胎内に宿るのだ。強くてニューゲームってやつさ。あ_勝ちたい。自由になりたい。)」


 Am4:03


「( ああ、誰か助けてくれアリーシャ。助けてくれ。ちくしょう。こんなのってなんだよ。クソ。クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ。ああ糞糞糞。ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう。)」


「(耐えられない。いっそ殺せ。ああ・・・・)」


  「(ああ・・・・疲れた。もう生きていたくない。欲しい。欲しいんだ。手にいれたい。手に入れて、手に入れて手に入れ尽くしたい。)」


「(ここから出たい。)」


「(ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。ここから出たい。)」


「(死にたくない。死にたくない。。もう嫌だ。もう嫌だ。もう嫌だ。もう嫌だ。ここから出る。もう疲れた。イライラする。力が欲しい。力が欲しい。力がっ。力がっ!欲しい!寄越せよ!ちくしょう!)」


「(呪ってやる。)」


「(呪われろ。呪われろ。呪われろ。呪われろ!呪われろ!!呪われろ!!何もかも呪われてしまえ!!神も人も!何もかも!呪われてしまえ!!)」


 深夜の病院の中でどこにも行けない魂が悲鳴を上げている。



 誕生日の翌日。朝になった。


 病院は明るくなったが、まぶたを閉じたまま一指も自分の自由に動かすことのできないこの少年の心中には曙の光はまったくさしこまなかった。


 しかし、渉は澄んだ気持ちで頭の中で文をしたためた。



「( こんな世界にもうこれ以上いたくはない。これは私の遺書です。私は人生の戦いに敗北しました。

 私はこの戦いの連続にほとほと疲れました。もう生きていたくないのです。誰かに分かって欲しかった。それで、私は何がしたかったんでしょうか。誰にもわかりません。私にすら分からないのです。他の人が理解できるというのがおかしな話でしょう。それなのに、誰かに分かって欲しいなんて。つまり私はほぼ叶うことがない希望を抱いてしまったということになります。絶対達成できない願いを抱いてしまったことがいけなかったのでしょう。

 あんなことがなければ普通にそこそこ幸せになれたかも知れません。


  この病院と僕を取り巻く状況が例外中例外だっただけで世の中のシステムも、そこに生きる人もそんなに酷いものではないのでしょう。ただ僕には降り注がなかっただけのことです。テレビで誰かが言ってたが、確率論の問題なのでしょう。たまたま運の悪いくじを引いただけの話なのです。家のことだってそうです。どこの家にも抱える問題が運悪く、悪い形として、花を咲かせてしまっただけのことなのでしょう。それは爆弾とも言えますね。爆発する危険性はあるものの、いつ爆発するか分かりません。一生不発で終わるかもしれません。誰のせいでもありません。ただ、爆発してしまっただけ。 それだけのことだったんですよ。

 これで解放されます。ようやく終わるんです。終わるという喜びで僕の心はいっぱいです。嘘ではありません。


 それではここに筆を置きます。浦部渉)」


 太陽も登りきり病室では心電図の音しかしない。


「(こんなことをしても自殺すらできないんだけどね!あははははははははっははああはっはははああはははっはははあああ!!!!)」

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