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全てが終わってしまう前に-2

4-2

「ここではなんだな」


 久尊寺博士が言った。確かにこの家のこの場所で何回もやるわけには行かない。


「裏の雑木林にしよう」


 渉が提案する。


 久尊寺博士が部屋を出て、次に渉が部屋を出た。


 真歌はまだ事の成り行きについて行けてなかった。

 ただこの二人は立ち尽くす真歌を置いて外へ行こうとする。真歌は歩き出す渉の横顔を見た。その横顔は険しく、何かが入り込む余地すらないように見えた。


「なんで…………なんでなの?何でそんな事を?………何の為に?」


 その問いに渉は言った。


「強くなりたいから」


 それは単純なことだったが、真歌には真の意味では分からないことだった。


 真歌は何も言うことが出来なかった。



 未来は廊下を歩いている久尊寺博士と渉を見た。未来は言葉では表せなかったが、その二人の様子が気になった。それに一呼吸遅れて追いかける真歌の焦りの浮かんだ表情。


 未来も慌てて追いかけた。


「ねぇ真歌」


「何かあったの………?」


「久尊寺くんたちどうしたの?」


「未来」


 真歌が見せるやはり余裕のない顔。良くない予感が加速するようにじわりと未来の胸中に広がる。

 未来は真歌がうろたえている間に真歌を追い抜き、渉達を追いかけた。


 しかしもっとも嫌な予感を決定づけたのは次の出来事だった。


「渉」


 久尊寺博士は振り返らない。渉だけが振り返る。立ち尽くす未来の視線の先で渉は微笑みを見せた。その微笑みは神威に似ていた。冬の空の光のような微笑み。渉はそれだけで、何も言ってくれなかった。

 そして彼らは行ってしまった。未来が次のドアを開けてもそこには2人の姿はなかった。未来は2人を追いかけることを諦めなかった。怖かったから。渉が本当にこのままどこかへ行ってしまうんじゃないかと。屋敷から出て未来は渉達を探しに行く。


 ────────────────────


「さて、渉くん。どこいらがいいかな」


「俺が決めていいのか?」


「ああ。まずは術師にとって1番馴染む場所でなければ精霊も力を貸してくれん」


 渉は歩き続けて、どこがいいかを探した。

 歩いていると墓地に遭遇した。この島の唯一の墓地。


「渉くん。お参りに付き合ってくれないか」


 いつになく、そんな非科学的なことを言う久尊寺博士。この墓は渉の先祖の墓であると同時にこの島で死んでいった人達が眠っている。


 線香にマッチで火をつける久尊寺博士。


「ありがとう渉くん」


 久尊寺博士は先祖何を話したのだろうか。


「ここがいい」


 渉が決めたのは自分の畑が見える裏の崖の上だった。高さはどれぐらいあるのか分からない。20mぐらいだろうか。後ろの森がざわめく。


「確認しておこう」


 渉が振り向いて言った。久尊寺博士は渉を正面から受け止めた。


「俺があんたが使える時空を操る力を習得するための手始めとして、ここから飛び降りて、俺が地の精霊術を使って地面を柔らかくし、生き延びる」


「時空を改編することって、どこまでできるんだ?何でもできるようになるのか?」


 渉がさらに聞く。


「何でもできる訳ではない。と先に降伏しておこう。ただ、何でもできる。に限りなく近づくことが出来る。君が心の底から望みさえすれば」


「強く、強く、果てしのないほど強く願わなければ時空改変は、行えない。」


「そして、そんな簡単に使えるべきではないのだ。なぜなら我々は世界を壊してしまえる力を前にして正気を保つことは難しいから」


 体格のいい、久尊寺博士はきっぱりと言った。なぜ年柄年中研究をしているのにもかかわらず、こうも姿勢がいいのか渉は気になった。


「時空改変の力を使った後は多大な集中力と膨大な疲労感を伴う。そして人間として大事なもの、周囲との共感能力を失う。あまりに大きすぎる力は周囲に溶け込むことも難しくさせる。」


「それでもやるんだな…?」


 久尊寺博士が今まで見せたことのない、余裕のない顔で渉を見た。その時なんとなく久尊寺博士には俺にその力を習得して欲しくないように見えた。


「やる。そんな力が欲しい」


 渉は言った。力を求める少年。何時になっても、どの時代になっても、少年は力を求める。


「やめにしてはくれないか?何もそんなに焦らなくてもいい。少しずつ強くなっていけばいいではないか。なにもこ……」


 久尊寺博士がこう続けるのを聞いて、渉は崖から飛び降りた。恐怖はもちろんあった。だが、それを超える衝動が渉の中で沸き起こった。それが恐怖を勝ったおかげで渉は1歩を踏み出すことができた。1度飛び降りに失敗した後にもう1度飛び降りるのだ。簡単なことではない。だから、行ける時に渉は行った。


 地面は特に見なかった。飛び降りてから考えることにした。限界まで1秒、1瞬が刻まれてゆく。

 岩肌が手を伸ばせば触れる距離にある。脳内は正に恐慌状態だった。恐慌状態のままに崖っぷちまで来て、さらに恐慌状態の値が跳ね上がった感じだ。数瞬が永遠にも感じる。目を瞑りたいという本能と目を開けなければと渉が自分に刻んだ不文律が激しくせめぎ合っていた。


 地面はあっという間に目前へと迫る。俺は力を発現した。どうやれば力が現れるかも分からないまま。そう考えたら次の瞬間視界が真っ暗になった。

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