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全てが終わってしまう前に-1

4-1


「渉っ!!あーそーぼっ!!」


 そこにいたのは我が家の暴虐武人でトラブル愛好家の女の子と、その双璧を誇る男だった。その男は快刀乱麻の狂気の科学者。


 げんなりする俺。


 彼と彼女は最大級の笑顔でこちらを見ている。


 頭脳明晰。成績優秀。眉目秀麗。そんなお2人。それにこの性格。悪夢か?

 雑誌の表紙を飾れそうなアルカイックスマイルで俺を見る久尊寺義光と上妻真歌。なんだかすごく楽しそうだ。嫌な予感しかしない。


 俺は今すぐこの大窓から飛び降りて逃げようかと思った。というか実際にそうした。


 俺の返事を待っている2人を傍目に俺は淡々と大窓を解き放つ。

 そしてふわ、と窓の淵から飛び降りた。ここは三階である。とっさに駆け寄り掴もうとした2人の腕を渉の服がひらりとすり抜けてしまう。


「(さすがの反射神経だな)」


 それを視界の端に捉え、俺は地面目がけて真っ逆さまに落ちる。真歌が何も無いところから蔦を組成し、渉へと伸ばす。これはやはり精霊術だ。土と水の精霊術を織り交ぜた天才にできる芸当。しかしポケットに手を突っ込んだまま、口元に薄い笑みを浮かべる渉はその、まさしく命綱を掴まなかった。


「馬鹿!何やってんの渉!」


 今にも噛み付きそうな顔で真歌が叫ぶ。


 脇に立つ久尊寺博士は目をすっと細めた。そして腕を驚くべき速度で動かしたかと思うと、渉の周りの時間が急にスローになった。これも精霊術で、渉の周りの時間を一時的に遅らせているのだった。


 右腕に不可視の強烈なオーラが集まっているのが解った。恐ろしいほど強いオーラだった。半年前には分からなかったほどの力の差だった。あの時間を経て渉にはその力が解ったが、その差はやはり歴然たるものだった。そして恐らくまだまだ余力があることを。


 渉はあることを行おうとした。それは地術操作だった。土を瞬間的に柔らかくし、そこに落ちれば重さはだいぶ軽減される。そう。遅くなっているのは時間で、もともとの速度の数値が変わったわけではない。渉の周りの流れる時間が変わっているだけなのだ。


「ナイス!久兄ィ!」


 真歌が急いで蔦を何本も組成し、渉をそれに絡ませて落ちるのを阻止しようとした。


 だが、


「待ちたまえ。真歌くん」


 久尊寺博士がそれを静止した。組成前の段階で真歌がやろうとしていることは精霊術の動きで解っていた。


「ッ!?!!?なんで!!??」


 真歌が叫ぶ。


「何故なら・・・・・彼が・・・・」


 久尊寺にしては珍しく言い淀む。その間に真歌はイライラと地団駄を踏む。


「彼が、上妻渉だからだ」


 きっぱりと渉の目を見て久尊寺義光は言った。


「待った私が馬鹿だったわ!!!」


 何を訳の分からないことを。と真歌は思い蔦を組成しようとする。


「(間に合わない──────)」


 真歌の心が絶望で彩られた時、


 渉の体が黄金色に光った。


 こんな時なのに渉は渉の頭の中に巣食う何者かが渉にこういうのを感じた。


「(できんの─────?お前ごときが────?)」


 渉は笑った。


「(上等だ。お前。俺の。上妻渉の力を見とけよ。お前が吠えずらかく姿を見て後で嘲笑ってやる────)」


 そして力が発現した。だが、地面は柔らかくならずに激突した。そして意識が薄れた。



 ───────────


 気づくと渉は自室にいた。そして目の前には真歌と久尊寺が。

 真歌は笑っていた。何かがおかしかった。


「渉っこんないい天気だから遊ぶわよっ!!」


 上機嫌な真歌。まるで『何もなかったかのように』


「え・・・・・・」


 渉は答えずに久尊寺を見た。


 いきなり、久尊寺博士は渉を殴った。真歌が驚く。俺はそれ以上に驚いた。


「全く、君もしょうがない男だ」


 久尊寺は渉にやや疲れたような眼差しを向けた。科学者が数学や科学の入り込む余地のない膨大で複雑な人の業を前にした時に見せる目だった。その時に渉は悟った。この人は今起きたことが解っていると。


「何が・・・」


「渉くん。尾てい骨骨折。右腕複雑骨折。両足の半月板損傷。これが何か分かるかね?」


 渉が聞こうとしたことを話終える前に久尊寺が言葉を紡いだ。


 当然、渉には何のことかわからない。


「君が前の時空で負った怪我だ。」


「当たりは大混乱さ。あぁ。酷いものだった。・・・・この様子については後で言う。今はちょっと気分が悪い。」


 顔色悪そうにふらふらと窓に近づくと、久尊寺は窓から吐いた。その吐瀉物に下にいた春秋が悲鳴を上げた。


「うわあああああああ!!」


 その様子で一堂は少しだけ空気が柔らかくなった。



「・・・・・で、説明しなさいよね。何があったのか。」


 不可解かつ不機嫌な顔で真歌は腕を組んで仁王立ちをした。渉と久尊寺は顔を見合わせ、これは話すまで解放してくれなさそうだと悟った。


 それから俺が話始めた。

 やはり、いきなり飛び降りたところで真歌にこっぴどく怒られた。


「それで・・・・分からないのは・・俺は多分失敗して、地面にぶつかったのか・・・?いや、ぶつかったはずなんだけど」


「ああ、君は確かに硬い地面にぶつかり、人体はありえない方向に曲がり、大惨事となった。未来は気絶するわ、春日井は必死に君の体に呼びかける。咲夜は固まり、そして私はアリーシャに殺されかけた」


「本当に・・・・・・大惨事だった」


 渉は絶句する。


「こればかりは聞かれるだろうから先に答えておく。私がやったのは時空の部分的な改変だ。」


「(事象の・・・・・・改変?)」


「世界を・・・・・起こった出来事を改編したと言うの・・・?久兄は。」


 真歌が隣でやはり驚愕の面持ちで見ている。


「(そんなことができるのか・・・・)」


 渉は目を奪われ目の前の科学者の男を見た。白衣のこの男の中にある力。


「それ・・・・・俺にもできるようにる?」


 そう言うことを渉は止めることが出来なかった。


「あんたまだ殴られたらないの!?」


 恐ろしい剣幕で真歌がこっちを見る。至近距離でそんな顔をされたと言うのに渉はほとんど表情を変えずに、


「みたいだ」


 と言った。その目は目の前の真歌を見ずに、その時空改編の力だけを見ていた。


 そしたらホントにグーパンチが渉の顔に飛んできた。

 吹っ飛ばされて、鼻血が出た。だがそんなもの気にもせずに上半身を肘で起こしながら久尊寺を見た。


「どうなんだ?久尊寺博士」


 久尊寺は1度目を瞑り、そして目を開き言った。


「できる」


「俺は何をすればその力が手に入るんだ」


「さっきやろうとしたことを成功させることだ。つまり」


 久尊寺は逆光の中窓の前に立った。


「もう一度、この窓から飛び降りたまえ」


 真歌はぴしっとまるで音が聞こえてきそうなほどにその体と表情が固まった。


 渉は──────


「上等」


 鼻血を拭った。



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