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九十三話 兵部の兵士達

 悪政強いる政府に反感を抱き、謀反を起こした兵士達はかなりの数がいたらしい。

 傳志貴でん・しきが、どこか他人事のように事情を語る。


「最初は後宮に送り込まれた汪紘宇を引き抜こうという話になっていたんだ」


 正義感の強い男なので引き受けてくれるだろうと、満場一致だったらしい。


「と、いうのも、汪尚書は、こちら側・・・・の人間だったんだ」


 紘宇の兄永訣は、皇帝亡きあとも以前と変わらぬ政治を行っていたようだ。

 そして、悪事に手を染める役人を、静かに非難していたらしい。

 さらに、反旗を翻そうとしていた兵部の者達と役人の緩衝材役になるなど、裏でさまざまな活動をしていたようだ。


「汪尚書は、絶対に謀反などするな、時を待てと言っていたのだ。だが、血気盛んな兵部の者達を押さえつけることもできず――」


 謀反するならば、先導役は汪紘宇に。兵部の者達はそう望んでいたが、永訣は頑なに頷かなかったという。


「汪紘宇がいるのは、皇帝の母となるならばこの人しかいないと言われている星貴妃のいる牡丹宮だ。手を貸させるわけにはいかないと」


 そんな状況で、兵士達はくすぶりを押えることができず、謀反が行われることになった。

 運悪く、志貴は謀反の先導役を押し付けられてしまう。


「で、結果はこのザマさ。謀反は大失敗だった」


 兵士の数は十分だった。作戦も練っていた。

 兵士の大半は戦争に行き、警備も手薄だった。

 それなのに失敗したのは、裏切り者がいたからだ。


「正義に怒り、喪失からと、さまざまな感情を持つ者が一致団結していた。志は一つだと思っていた。しかし――金の力には勝てなかったらしい」


 兵士達は困窮していた。そんな中、狡猾こうかつな役人が金をちらつかせて情報を抜き取ったのだ。


 兵士達は女子どもを盾に寝込みを襲われ、あっさりと囚われてしまった。

 謀反は大失敗となる。

 兵士達は都から離れた、川沿いの倉庫に収容されている。食事は一日一回。味のない粥と干した野菜のみである。

 兵士の数は十分ではないのか警備は手薄だったが、逃げようと思う者はいなかった。

 また、一人でも裏切ったら、何もかも無駄になる。

 そんな考えを、誰もが抱え込んでいた。


「捕えられた兵士は、絶望の淵に立たされていた」


 そんな状況であったが、金を使って面会にやってきた男からある情報がもたらされた。


「役人と単独で戦う、狸の面を被った謎の剣士がいると」


 それは、珊瑚扮する狸仮面の剣士であった。

 民に乱暴を働く役人をこらしめ、次々と平和をもたらすその姿は、理想的な英雄像だったのだ。


「彼の存在に――俺達は、勇気づけられた。もしかしたらもう一度、奮起できるのではないかと、前向な考えができるようになっていったのだ」


 知らぬ間に、狸仮面の剣士は囚われた兵士の希望にもなっていた。


「兵士の誰もが、狸仮面の剣士は汪紘宇に違いないと言っていた」


 それを確認し、接触を図るために、志貴は首切り役人を買って出たのだ。


「手を組んだ奴が、効率至上主義で助かった」


 志貴と組んだ役人は悪い奴だったが、殺しだけはしなかった。


「誰かが誰かを殺せば、負の連鎖が連なって行く。そのしっぺ返しは最終的に自分に返ってくる。だから、殺しはしない。そう、奴は言っていた」


 ずる賢い役人であるが彼の在り方には、志貴も一目置いていたらしい。


 そんな役人と共に志貴は税金の徴収を行った結果――狸仮面の剣士と出会った。


「剣を持つ手が震えたよ。目の前に、話に聞いていた狸仮面の剣士がいたから」


 孤独の英雄と出会い、志貴は歓喜の中にいたようだ。

 それに、背格好や佇まいが紘宇そのものだったので、本人で間違いないと確信していたらしい。


「見た目は完全に汪紘宇だったが、戦ってみても王紘宇だった。間違いないと思っていたが――」


 狸仮面の剣士は、汪紘宇ではなかった。彼の弟子である、珊瑚だったのだ。


「そういえばここは、牡丹宮を守る閹官の宿舎だと言っていたな。汪紘宇を知っているか?」


 その問いには、星貴妃が答える。


「あの人は、今は戦場だよ」

「戦場、だと? あの最低最悪の戦場に、汪紘宇を送ったというのか?」

「ああ」

「馬鹿だ! なんてことを……!」


 新しくなった国に、紘宇は絶対に必要な人材であると、志貴は訴える。


「そう言われてもねえ。あの御方を戦場へと送ったのは、汪永訣様だしねえ」

「はあ!? 汪尚書が、汪紘宇を戦場に、送ったと?」

「そうさ」


 志貴は口をあんぐりと開けたまま、塞がらないようだった。


「信じられない……あの、汪尚書が、愚かなことをするなど……」

「でも、あの汪尚書は戦争で勝つ気で送ったみたいだよ」

「それで、汪紘宇を英雄にして、汪家が新たな皇帝一家になると?」

「いいや、そんなことは考えていない」

「だったら、どうするつもりなんだ?」

「最初に決まった後宮の仕組みをそのまま有効にして、星家の貴妃様が子を産んで天下を取らせると。汪尚書は表舞台に立つ気はないらしい」

「そ、そんなことが……上手くいくわけ……」

「まあ、そうさね。でも、やるんだ・・・・


 星貴妃は手足を縛られた状態で胡坐を組んでいる、志貴の胸倉を掴んで言った。


「あんたは、囚われた兵士達のいる場所へ案内しな」


 志貴は目を丸くしながらも、コクンと頷いた。


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